海外で日本食が一般に知られるようになるにつれ、日本酒も「SAKE」という呼び名で海外でも人気を博すようになりました。その一方で、海外を訪れた際に現地のスーパーマーケットで販売されている日本酒の値段をみて、あまりに高額であることに驚いたことがある人も多いのではないでしょうか。
高級なものからリーズナブルな価格帯まであるワインなどと比べて、なぜ日本酒は専ら高価格帯で販売されているのでしょうか。
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海外での日本酒人気はコロナ禍でも根強い
新型コロナウイルスの感染拡大により世界中が経済不況に苦しむ中、日本酒の海外販売は好調さを維持しています。
農林水産省食料産業局が発表した「2021年の農林水産物・食品 輸出額(1月)品目別」によると、2021年1月の日本酒の輸出額は22億6,500万円で、前年同月比の63.5%増であったと報告されています。
海外での販売価格は最大で日本出荷額の13.5倍に
日本酒が海外へ多く輸出されるようになった結果、今では海外のスーパーマーケットで日本酒を目にすることも珍しいことではなくなりました。しかし、日本人が海外で販売されている日本酒の価格を見ると、その高さに驚くかもしれません。
なぜなら、日本酒を海外に輸出して販売する時、日本での販売価格に関税率や輸入手数料比率そして卸・小売費用比率を加えたものが、現地での小売価格となるためです。
農林水産省が2016年2月に発表したデータによると、日本酒の日本での価格と海外での現地小売価格とを比較した場合、最大で13.5倍の価格(※インド)で販売されていることがわかります。
関税よりも現地での卸・小売費用が内訳の多くを占める
インドが飛び抜けて高値で販売されているのは、インドは自国の産業保護のために関税を高く設定しているためであり、日本酒にも150%の関税がかけられています。しかしこうした傾向は他の国ではむしろ少数派であり、高値の内訳の多くを占めているのは卸・小売にかかる費用であることが多いようです。
日本の価格の約4倍で販売されている米国の事例を見てみましょう。米国は日本酒に対する関税・通関手数料による影響は少ないものの、卸売・小売費用は小売価格の約51%を占めており、(※日本は約23%)小売業者の市場支配力が強いことが価格高騰の主要因となっています。
韓国の場合、現地の百貨店では日本国内出荷価格の約5倍の値段で販売されており、小売価格のうち卸売・小売費用の占める割合は約31%です。次いで、付加価値税・酒税の占める割合が大きいとされています。
また、韓国では消費の中心は日本式レストランであり、レストランのマージンは百貨店のさらに4〜6倍ということです。上記の事例から、日本酒の高値の要因は関税や酒税よりも現地の卸・小売費用に占める割合が大きいことがわかります。

こうした日本酒の内外価格差は、海外おける日本酒の競争力を妨げる要因になる可能性があります。
そのため日本政府もEPA(経済連携協定)などを各国と締結した経済貿易協定などを活用し、日本酒の関税を下げるように各国政府に働きかけています 。
日本酒の原材料費はワインよりも高い
もう一つ日本酒の海外価格が高くなる理由があります。それは、日本酒の原材料のコストがそもそも高額であるためです。
例えば、フランスの月刊ワイン雑誌“Revue du Vin de France”が2009年2月に発表した情報によると、仏モエ・シャンドン社の高級ワイン、ドン・ペリニョンの場合、ぶどう畑1ヘクタール当たり8,800本のワインを生産でき、1本当たりのコストは2.3ユーロ(約297円)とされています。
※当然、ここからさらに醸造や瓶詰め、熟成、管理費、販売経費、人件費、マーケティング費用などがかかるため実際の原価はもっと高額になります。
対して、日本酒の原料となる米の価格はどうでしょうか。
日本酒に最も適した米と言われる、山田錦の一番等級の高いものでは玄米一俵(60kg)で3万円以上するものもあります。つまり飯米のコシヒカリの最高級品よりも高いことになります。そこからさらに酒米の精米歩合まで搗精(とうせい、玄米をついて磨き、精白すること)するため、原材料費はそれに応じて高くなります。
独立行政法人酒類総合研究所のWEBサイトによると、1升瓶(1,800ml)の清酒を造るには0.77kgの白米が必要ということです。精米歩合50%以下の大吟醸酒をつくる場合は1.54kgの玄米が必要となります。
つまり、1kgあたり500円の山田錦の玄米を使用する場合、一本あたりに必要な玄米の価格は770円となります。
このように、米を使用する日本酒とぶどうからつくられるワインとでは、原材料費レベルでみた場合のコストは大きく異なるようです。
富裕層向けのブランディングも影響
こうした日本酒の海外販売価格の高さは、日本酒が持つ「ブランド」も強く影響しています。
日本の酒造業界の関係者は次のように話します。「一本100万円以上するような、関税や原材料以上に値段を度外視した日本酒も確かに売られてはいます。それはある意味富裕層にとって「俺は100万円の日本酒をあけることができる」というステータスと同義なのです。
例えば、一本1万円のワインと一本100万円のワインの間で、味が99万円分変わる、ということはありません。
しかし、日本でもステータスの証として100万円のワインを開けたがる富裕層というのは存在します。そうしたことを見ると、100万円の日本酒を売る企業が現れるのも理解できることではあります。」
実際に世界では100万円のワインが販売されているにも関わらず、ワインの人気が低下する様子はありません。同様に「1本100万円の日本酒が売られていても、日本酒の世界的な人気が極端に落ちることはないだろう」とのことでした。
「高くても買われる日本酒」を目指して
日本が世界に誇る「国酒」日本酒は、海外でも認知が広まり、市場へ広く流通されるようになりました。
日本でも訪日外国人に日本酒の魅力を紹介するイベントが多く開催されています。2019年には訪日外国人観光客向けの日本酒試飲体験プロモーションが実施され、ラグビーワールドカップ開催のために来日した外国人観光客に対し、日本酒の試飲体験やSNSを使用したデジタルプロモーションが実施されました。
また、近年日本酒の輸入が急増している中国で、第2回アジア国際美酒コンテスト (SAKE CHINA 2019)を開催され、1,200人の中国人消費者が108本の日本酒を審査し、中国人の嗜好に最も合った酒を選ぶイベントが開催されました。
日本酒は原材料費や流通過程の事情から、安価な金額で世界に流通させることは難しいでしょう。しかし低価格化を目指すのではなく、値段が高くても選ばれるような価値の訴求が今後も求められるといえるでしょう。
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<参考>
農林水産省:平成27年度輸出戦略実行事業コメ・コメ加工品部会(日本酒分科会)における調査報告書【C.輸出される日本酒の価格構造調査】
農林水産省:日本酒をめぐる状況
農林水産省:農林水産物・食品の輸出促進について
独立行政法人 酒類総合研究所:清酒
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