2021年6月15日、令和3年版(2021年)観光白書が発表されました。訪日ラボでは、全10回にわたりこの観光白書を基に説明していきます。
第2回となる今回は、「第II部 新型コロナウイルス感染症を踏まえた観光の新たな展開 第2節 新型コロナウイルス感染症による影響と対策」について紹介します。
政府はコロナ禍において、苦境に立たされている観光事業者に様々な支援を行いました。
具体的には、事業者に対する実質無利子無担保融資や、従業員の雇用維持のための雇用調整助成金の給付、Go Toトラベル事業の実施などが挙げられます。
本記事では、具体的な政府の取り組みについて見ることにより、関連業界が今なお利用できる支援について理解し、また今後の補助金獲得へのイメージをつけることを狙いとしています。
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コロナ禍での観光関連業界における影響:雇用者数が19年比12%減少
《注目ポイント》
- コロナ禍の影響、「宿泊・飲食サービス」での落ち込みひどく、宿泊予約7割減少と回答の事業者増加
- 雇用者数は2020年時点で2019年比12%減少
新型コロナウイルス感染拡大以降、2021年7月に日本銀行が発表した『全国企業短期経済観測調査(短観)』業況判断DIによると「宿泊・飲食サービス」の落ち込みが顕著となっています。

また国土交通省が2021年7月に発表した「新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について」によると、2020年12月28日にGo Toトラベル事業が停止されて以降、2021年1月から、宿泊の減少状況について「70%以上」との回答の割合が約25%~過半数近くを占めています。
特に、直近の6月においては83%もの事業者で予約の減少率が70%を超えています。また2021年の4月からは「影響なし」の割合がゼロとなっています。

旅行業の予約人員を見ても、海外旅行、訪日旅行は2020年から、すべて前年同月比マイナス水準となっています。
国内旅行も、Go Toトラベル事業が軌道に乗った2020年11月以外は、前年同月比マイナスとなっています。

また総務省「労働力調査」による雇用の状況を見ても、「全体の雇用者数」「正規雇用者数」「非正規雇用者数」のいずれも、約10%減少しています。

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政府による各種支援:支援金は8割以上ですでに「給付済み」
《注目ポイント》
- 各種支援の活用状況、宿泊施設と旅行業で8割超え
- 「資金繰り支援」や「緊急事態宣言の再発令に伴う中堅・中小事業者に対する支援」など各種支援が充実
- 観光庁関連予算には「Go To トラベル事業」と「地域観光事業支援」が計上
日本政府は、約900万人の雇用を抱える観光関連事業者の事業継続や雇用維持のため支援を行っています。
売上の減少にともない厳しい資金繰りを迫られた事業者に対し、実質無利子・無担保融資(当初3年間実質無利子・最長5年間元本据置)などの支援や、一時支援金の支給等の実施のほか、従業員の雇用を維持する事業者に対しては、雇用調整助成金による休業手当等の助成等が実施されました。
資金繰り支援と雇用調整助成金は、国土交通省の「新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について」によると、宿泊業や旅行業の両方で、8割以上の割合で給付済みとなっており、支援が充実していることが分かります。

支援策の具体例:「資金繰り支援」「雇用支援」など各種充実
国土交通省の「旅行業における支援メニュー」によると、以下のような支援が一覧で出てきます。中小企業に対する支援が目立ちますが、大企業向けの支援も同時に用意されています。
また、2021年度の観光庁予算では、コロナ禍を踏まえて感染防止対策を万全とした「新たな旅のスタイル」促進事業や「DX推進による観光サービスの変革と観光需要の創出」などが計上されており、支援策にもこれらの意向が反映された形となっています。
その他にも、目的に応じ独自の補助金が観光庁から公募されています。関連記事ではその一部を紹介しています。
各種支援の活用状況でも確認したように、全体として支給率も高いため、これらの支援を活用することで資金繰りにあえぐ企業の一助となると考えられます。
国土交通省の支援一覧
支援の種類 | 支援内容 | 支援名 | 支援金額 |
資金繰り支援 | 中小企業・小規模事業者に対する政府系金融機関等による融資・資本増強 |
・無担保融資等 4種 など計8種 |
支援によりまちまちだが、最大7.2億円 |
中小企業・小規模事業者に対する民間金融機関による融資等 |
・セーフティネット保証(4号・5号) |
支援によりまちまちだが、最大2.8億円(セーフティネット保証(4号・5号)) |
|
中堅企業・大企業に対する政府系金融機関による融資・資本増強 |
DBJ及び商工中金による資金繰り支援(危機対応融資・資本性劣後ローン) |
通常金利(中堅企業は当初3年間1.0%の利下げ)で運転資金(15年以内)・設備資金(20年以内)を融資 |
|
緊急事態宣言の再発令に伴う中堅・中小事業者に対する支援 |
緊急事態宣言の再発令に伴う中小事業者に対する支援(一時金) |
法人は60万円以内、個人事業者等は30万円以内 |
|
雇用関連 |
・雇用調整助成金の特例 (非正規も対象)
|
支援によりまちまちだが、対象労働者1人1日当たり15,000円など(雇用調整助成金の特例 ) |
|
公租公課等 |
・納税の猶予の特例
|
課税猶予、還付など | |
生産性の向上 |
支援によりまちまちだが、最大1,000万円まで | ||
事業の再構築等 |
・中小企業経営強化税制の拡充 |
||
観光庁関係予算 |
・Go To トラベル事業
|
・国の支援額は、1人1泊あたり2万円が上限(Go To トラベル事業) |
地域観光支援事業とは、ステージⅡ相当以下と判断した都道府県が同一県内で行う旅行の割引事業を財政的に支援する取り組みのことで、支援内容など制度設計はすべて都道府県において決定されます。
また、2021年度の観光庁予算では、コロナ禍を踏まえて感染防止対策を万全とした「新たな旅のスタイル」促進事業や「DX推進による観光サービスの変革と観光需要の創出」などが計上されており、支援策にもこれらの意向が反映された形となっています。
その他にも、目的に応じ独自の補助金が観光庁から公募されています。関連記事ではその一部を紹介しています。
全体として支給率も高いため、これらの支援を活用することで資金繰りにあえぐ企業の一助となると考えられます。
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Go Toトラベル事業の状況
《注目ポイント》
- Go To トラベルの利用人泊数は少なくとも約8,781万人泊、支援額は少なくとも約5,399億円
- 一人泊当たり旅行代金は約13,282円、利用価格分布は5,000円以上10,000円未満が全体の約半数を占める
- 旅行日数は1泊が約8割
- 年代別で利用率には違いが見られず
観光白書によると、Go Toトラベル事業においては「安心で安全な新しい旅のスタイル」の普及・定着が図られ、感染拡大防止にあたっての参加条件の遵守のほか、感染拡大予防ガイドラインの実施の徹底、新しい旅のエチケットの利用者への周知、平日への旅行需要の分散化策が実施されました。
Go Toトラベル事業の開が2020年7月22日だったため、翌8月から利用者が急増し、10月に東京都が事業の対象になったことで、9月から10月にかけて利用者が増加しました。
その後、事業の普及によって10月から11月に利用者が増加したものの、12月に事業の停止が発表されたことで、11月から12月にかけては利用者が大幅に減少しました。

またGo Toトラベル事業における旅行日数は1泊が8割を占めており、利用価格分布においては、5,000円以上10,000円未満が全体の約半数を占めるなど、短期滞在による少ない消費に留まっていることが分かります。

なお観光庁「旅行・観光消費動向調査」によると、年代別でのGo Toトラベル事業の利用有無については、割合に関して大きな違いは見受けられません。
また利用率がどの世代でも過半数を超えていることから、感染症の懸念があったのにもかかわらずすべての年代において国内旅行意欲が高いことが読み取れます。

なお、関連記事では訪日ラボが過去に実施したGo To トラベル事業に関する独自の意識調査の結果や、東京2020大会でも注目されている「トラベルバブル」方式について、国内で鳥取と島根で「Go To トラベル」として実施した事例を紹介しています。
利用率が高いGo To トラベル事業ですが、一人当たりの宿泊日数や消費単価が低く、事業が再開した際にこれらをどのように伸ばしていくのかが今後の課題となりそうです。
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Go to トラベル事業や政府各種支援の内容を踏まえて
政府による各種支援はかなり充実しており、実際に多くの企業が支援を受けていることが分かります。
またGo Toトラベル事業に関しては、幅広い世代から利用され、それに応じて日本人の延べ宿泊者数を増やしていたことからも、効果的であったことが分かります。
一方で宿泊数が一泊に留まってしまうなど、短期利用が目立ったことや、事業自体も停止状態にある点は課題といえるでしょう。
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<参照>
観光庁:「令和2年度観光の状況」及び「令和3年度観光施策」(観光白書)について
観光庁:旅行・観光消費動向調査
国土交通省:新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について(令和3年7月)
国土交通省:旅行業における支援メニュー(概要)
日本銀行:全国企業短期経済観測調査(短観)(2021年6月調査全容)
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