岐阜県高山市が、コロナ後の国際観光の再開に向けて新たな挑戦をしていることをご存知でしょうか。
高山市は、コロナのまん延以前の2019年には年間62万人もの訪日旅行者が宿泊していた人気の観光地です。
そしてこの62万人の中には、多様な食習慣を持つ旅行者が含まれていました。ベジタリアンやヴィーガンをはじめとして、宗教(イスラム教、ユダヤ教等)や文化により食事などに配慮が必要となる方がそれにあたります。
高山市ではこうした多様な宗教・食習慣に対して、地元企業が中心となり行政がサポートする形で対応力の強化を図っています。
その取り組みについて、飛騨高山フードバリアフリー協議会会長の清水さん・事務局長の五十嵐さんと高山市海外戦略課の山腰さんにインタビューしました。
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早くからインバウンド誘致に取り組んできた高山市
日本では、2015年に訪日中国人旅行者が一度に大量の商品を購入していかれる様子を「爆買い」と表現した言葉が流行語対象を受賞するなど、訪日外国人の消費動向が注目されるようになりました。
この「爆買い」が話題となる遥か前、高山市では1986年に国際観光都市宣言を行い海外からの誘客に向けた活動が始まりました。
2003年には官民一体となって外国人旅行者の誘致を図ることを目的として「飛騨高山国際誘客協議会」を設立、2011年には高山役所内に海外戦略の専門部署である海外戦略室が設置されました。このように早くから官民が連携したインバウンド観光推進に向けた体制が作られ、誘客に取り組まれてきました。
高山市を訪れる外国人旅行者が増える中、世界人口の1/4を占めるイスラム教徒の方を温かく迎え入れ、高山市の観光を盛り上げることを目的とした「飛騨高山ムスリムフレンドリープロジェクト」(※1)が2014年に発足しました。このプロジェクトは、清水弥生堂と舩坂酒造店などの地元を盛り上げようと意気込む民間企業の存在が原動力となりました。
両社は高山市に訪日ムスリム(イスラム教徒)の旅行者が増えつつある現状にいち早く着目し、自ら名古屋のモスク(イスラム教徒の礼拝堂)へ足を運びムスリムの方の話に耳を傾けました。また、ムスリムの受け入れ対策について一歩進んでいた長野県白馬村の調査を行いました。
(※1)世界に約18億人存在するムスリム(イスラム教徒)の方の誘致促進事業。ムスリム旅行者の日本に対する不満の多くを占める「食事」と「礼拝スペース」の問題解消を目的として運営
「ムスリムフレンドリー」から「フードバリアフリー」へ発展。食の魅力を広く届けるために
訪日ムスリム旅行者をお迎えするにあたり、地元飲食店に対してムスリム対応の重要性の啓発やムスリム対応可能なパンフレットの作成など、受入環境の整備に取り組まれてきました。
しかし、ムスリム以外の例えばユダヤ教、ヴィーガン等の多様な宗教、文化、習慣、体質をもつ旅行者等の対応が必ずしも十分ではないことに課題がありました。
そこで2021年に「飛騨高山ムスリムフレンドリープロジェクト」を発展的に解消し、これまで高山市が取り組んできたバリアフリーの取り組み(※2)を食の分野においても推し進めることを目指した「飛騨高山フードバリアフリー協議会」の設立に至りました。
訪日旅行者のなかでも、特にユダヤ系民族の受入については2019年に12,000人ものイスラエル人が高山に宿泊されていた実績があり、杉原千畝氏に縁のある岐阜県八百津町、福井県敦賀市等の地域やその周辺自治体により構成された「杉原千畝ルート推進協議会」においても自治体が連携しユダヤ系民族の誘客について積極的に取り組んできました。
関連記事:イスラエルから岐阜へ大勢の観光客が...なぜ?「命のビザ」で数千のユダヤ人を救った、杉原千畝ゆかりの地を辿る
さらに「飛騨高山フードバリアフリー協議会」の事務局長に就任した五十嵐さんは、元農水省職員としてイスラエル大使館への出向経験もあり、イスラエルの文化やコーシャに精通していることもありました。
こうしたことから、協議会の活動として地域の事業者のコーシャ(※3)対応にも精力的に取り組まれています。
同協議会では高山を訪れるユダヤ系民族の方に安心して地域の食材を使った食事を楽しんでいただきたいという思いから、野菜や調味料といった地元産の食品におけるコーシャ認証の取得推進を進めています。
現在、協議会会員が生産する地酒、野菜、山椒などがコーシャ認証取得済みまたは取得予定であり、活動の成果が上がりつつあります。ゆくゆくは海外でも安心して購入できるような仕組みを整えていきたいという構想が進んでいます。
(※2)1996年より「住みよいまちは行きよいまち」を基本コンセプトに、安全・安心・快適なバリアフリーのまちづくりを推進している
(※3)コーシャ:ユダヤ教徒が食べてもよいとされる「清浄な食品」のこと
インバウンドのみならず、海外現地の需要も獲得へ
フードバリアフリー協議会の活動は、訪日外国人を待つだけでなく、海外の現地需要を獲得しに行く活動も行っています。
東南アジアで日本産品の販売を行う日系企業が高山市を訪れた際、名物である「豆板(まめいた)」というお菓子に興味を持たれたことから、2021年12月よりマレーシアで試験的に「豆板」の販売が開始されており、さらに海外販売の手法や販売ルートの確立を図っていこうとしています。
豆板については、マレーシアでの本格的な販売に向け、ハラール認証を取得してほしいという要望が現地から出ているということです。
今後は「フードバリアフリー」と言う考え方を日本にもっと進めていきたいと、飛騨高山フードバリアフリー協議会会長の清水さんは語ります。
訪日外国人の方だけでなく、在日外国人や、日本人にとってもより暮らしやすい都市である「フードバリアフリー都市」として日本をけん引していく存在になりたいという想いを掲げる民間企業と、それをサポートする高山市の行政が一体になった取り組みは、今後も注目すべきでしょう。
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