熊本へ進出の「TSMC」とは?経済効果やインバウンドへの影響は

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半導体ファウンドリで世界トップシェアを誇る「TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company:台湾積体電路製造)」が、熊本県に新工場を建設しています。

新型コロナウイルスの流行も影響し、世界的な半導体不足に陥っている状況において、圧倒的な成長を続けるTSMC。本記事では、TSMCが熊本に進出した背景や、もたらされる経済効果、今後のインバウンドへの影響などをまとめます。

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世界を牽引する半導体ファウンドリ「TSMC」とは

TSMCは、1987年に台湾で創業した半導体メーカーです。最先端技術を用いた製造力と供給力を武器に、他社が設計した半導体を製造するファウンドリとして、世界の半導体受託生産の半分以上を占めています。

500社を超える取引があり、世界シェアトップを獲得。時価総額はおよそ63兆円で、これは日本企業の時価総額トップであるトヨタ自動車の2倍以上です。

TSMCは現在、日本で初めての半導体工場を熊本県菊陽町に作っており、運営するのはTSMCの子会社である「JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)」です。

2022年4月に着工し、その敷地面積は20ヘクタール以上に及ぶといわれています。現在、半導体関連企業が集まる工業団地にて工事が進められ、2023年内に工場の完成を予定しています。2024年12月までには操業を開始し、スマートフォンや自動車向けの高度な「ロジック半導体」を生産することを目標としているようです。

台湾有事を見据え「シリコンアイランド」熊本へ進出

アメリカと中国の対立が深まる昨今、台湾で有事が起きた際、世界の半導体業界を牽引するTSMCの生産に影響が出ると、その余波は計り知れません。 そこでTSMCでは、このリスクを低減するために半導体生産を台湾以外への分散を計画しており、これが日本への進出につながりました。

TSMCが日本の中でも熊本を選んだ理由は、いくつか挙げられます。まずは、熊本に半導体産業が集中している点です。日本の半導体分野は、製造装置や材料に強みがあります。「シリコンアイランド」と呼ばれる九州には、約1,000社の半導体関連企業が存在し、特に熊本県内にはその数が集中しています。

また、政府の補助金も影響しています。工場の投資額は約1兆円ですが、日本政府はその半分にあたる最大4,760億円を補助するとしています。政府は経済安全保障の観点から、TSMCを誘致することで、不足が続く半導体を安定的に確保したいと考えています。

さらに、半導体を作る工程で必要となる豊富な地下水や、高速道路や空港が近いという交通アクセスの良さも、熊本が選出された要因でしょう。

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4.3兆円に上る経済効果

地元の金融機関である「九州フィナンシャルグループ」の2022年9月の発表では、TSMCの熊本進出による経済波及効果は、2031年までの10年間で約4兆2,900億円に上ると算出されました。

これはTSMCの工場投資額に加えて、関連企業の進出や新たな工業団地の開発、住宅整備、就業者や消費の増加なども含まれています。

熊本市によると、2021年11月のTSMC進出の発表以降、半導体関連の企業立地の件数は増え続け、令和3年度は22件と過去最多を記録しました。 現在も問い合わせが多数寄せられているそうです。

工業地の地価上昇率は全国一に

TSMC関連だけでも約1,000戸の住宅が必要であり、関連企業の進出も相次いでいるため、その数はさらに増えると見込まれています。 熊本市は、北区の市営団地の跡地を、半導体関連企業向けの共同住宅の用地として民間会社へ売却する動きも始めています。

この住宅需要の高まりによって、TSMCの工場が建設されている菊陽町では、地価が大きく上昇しています。2022年9月、熊本県が公表した地価調査の結果では、菊陽町の「工業地」の上昇率が前年比で31.6%と、全国で最も高くなりました。また、2023年3月公表の地価公示では、菊陽町の「商業地」の上昇率が21.7%、「住宅地」が9.7%と、こちらも県内で最も高くなりました。

近隣の菊池市や大津町でも変動率が大きく上昇している状況であり、経済波及効果は顕著に表れてきています。

雇用機会の拡大と人材育成の推進

熊本県は、2032年度までの10年間で、半導体関連産業の生産額を2.3倍の1兆9,315億円に、雇用者数を1.2倍の2万5,490人に増やすビジョンを掲げています。

その中でTSMCは、熊本県内で約1,700人を雇用する計画です。また、新たに進出や増設をする関連企業も多く、雇用効果は約7,500人に上ると見込まれています。

熊本で働く人にとっては、職場が増え、給与水準が高まる効果が期待されるでしょう。その一方で、地元企業からは、TSMCの影響で優秀な人材の獲得競争が激しくなったり、人材が流失したりすることを懸念する声もあがっています。

そこで、産官学が連携して人材を育成しようという動きが進んでおり、熊本大学では2024年度に、半導体やデータサイエンスなどが学べる学部や学科を新たに創設し、人材の育成を推進する予定です。

交通渋滞問題の解決に向けて新たなインターチェンジ設置も

現在、熊本の工業団地の周辺では、朝と夕方の通勤時間帯に渋滞が激しく、深刻な問題となっています。今後TSMCに続いて企業進出が相次いだ場合、交通事情はさらに悪化することが懸念されています。

2023年6月、菊陽町と同町に隣接する合志市は、熊本県知事に周辺の交通渋滞問題の解消に向けた要望書を提出しました。交通アクセス網の整備へ社会資本整備総合交付金の重点配分などを、国に求めていくように要望しています。

県は工場付近の道路の車線を増やし、「中九州横断道路」に新たなインターチェンジ(IC)の設置を目指す方針を示しました。さらに、新たなICと新工場一帯を結ぶ道路の新設も検討するなど、対策に乗り出しています。

VFRをターゲットとしたインバウンド戦略も活性化

TSMCの進出をきっかけに、熊本と台湾では相互の国際交流が活発になってきました。2023年1月には、熊本県内の自治体や経済団体のトップらでつくられる訪問団が台湾を訪れ、交流を図りました。

2023年3月には、熊本空港で新たなターミナルビルがオープンしたことをきっかけに、台北と結ぶチャーター便の運航も始まりました。2023年9月には、台湾の航空会社「スターラックス」が、新たに台北と熊本を結ぶ路線を週3便で開設する予定です。

これらに関連する消費を取り込むため、台湾からの訪日客への情報発信や多言語対応の取り組みも広がってきています。

TSMCの熊本進出によって、台湾から駐在員とその家族が日本にやって来ます。海外から国内に旅行にきた外国人のうち、国内に滞在している知人や親族の訪問を目的に来た人たちをVFR(Visiting friends and relatives)と呼びますが、TSMCによって、このようなVFRをターゲットとした消費もさらに見込めそうです。

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TSMC第2工場の進出予定は

経済産業省によると、2020年の世界の半導体の市場規模は約50兆円でした。しかし、今後需要はさらに拡大し、10年後の2030年には倍増して約100兆円になると見込まれます。

TSMCは各国の誘致に応える形で、日本以外にも海外での工場建設を始めています。現在は、2024年と2026年の操業開始を目指し、アメリカ西部のアリゾナ州に2つの半導体工場の建設を進めており、全体の投資額は400億ドル、日本円で5兆5,000億円規模に上ります。

2023年1月、TSMCの2022年12月期決算の記者会見にて、魏哲家・最高経営責任者は、日本で2つ目の工場建設を検討していることを明らかにしました。さらに2023年6月、株主総会後の記者会見にて、劉徳音会長は第2工場も熊本県に建設したいという意向を明らかにしました。土地は取得中であり、計画も日本政府と協議中だということです。

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<参照>

熊本県:R4くまもとの地価

熊本県:くまもと半導体産業推進ビジョン

経済産業省:半導体戦略(概略)

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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