一般の人が自家用車を使って有償で人を運ぶ「ライドシェア」。法整備や運行管理の方法など検討すべき課題も多い中、導入に向けた議論が活発化しています。政府与党内からも前向きな意見が出始めており、解禁に向けて具体的な議論が進められる見通しです。
そこで本記事では、ライドシェアのメリットとデメリットを踏まえ、導入に向けた議論の内容について解説します。
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ライドシェア解禁に向けた与党内の議論が活発化
ライドシェアは、車に乗りたいユーザーとドライバーとが「相乗り」することや、そのマッチングサービスを指す用語です。
海外では「Uber」や「Grab」などのライドシェアサービスが交通インフラの一つとして定着しつつある国もあります。しかし日本では、安全面の課題や法整備の遅れ、既存のタクシー産業への影響など様々な理由から、本格的な制度解禁には至っていません。
そうしたなか、2023年8月7日、菅義偉前首相が仙台で開催された観光系シンポジウムで「(ライドシェア導入に関して)結論を先送りすべきではない。早急な対応が必要だ」と発言。これを受け小泉進次郎元環境相も、9月1日の札幌市での講演で「タクシーだけで交通の不便さを解消することはできない」と導入の必要性を訴えました。
さらに規制改革を担当する河野太郎デジタル大臣は、9月22日の定例会見のなかでライドシェアについて言及。観光地や過疎地域でタクシーが不足してる現状を踏まえ、ライドシェア導入に向けて積極的に議論を進めていく方針を示しました。
一方、斉藤鉄夫国土交通大臣は「安全の確保の観点から問題がある」と慎重姿勢を崩さず、引き続き議論の必要性を強調。導入に向けては与党内でも意見が別れる状況となっています。
解禁論が活発化している背景:観光・インバウンド業界における導入のメリットは?
ライドシェアに関する議論が活発化した背景には、深刻なタクシー不足があります。業界団体である「日本ハイヤー・タクシー協会」が発表した統計によると、2022年の全国のタクシードライバー数はおよそ23万人。2018年の約29万人と比べると、4年間で約2割も減少しています。
その理由は、ドライバーの高齢化とコロナ禍による離職です。厚生労働省の統計では、タクシードライバーの平均年齢は2021年時点で60.7歳。もともと高齢化と担い手不足が深刻だった状況で、コロナ禍による離職者が急増。インバウンドを含めた観光需要の回復に供給が追いつかず、慢性的にタクシーが足りない現状が続いています。さらに京都などの観光地では、交通機関の混雑などが市民生活や周辺環境に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」の問題が顕在化。交通機関の混雑を緩和するために、タクシー不足解消は喫緊の課題になっています。
また、観光地だけでなく過疎地域でもタクシー不足は大きな問題です。人口減少により、バスや鉄道などの公共交通が十分に整備されていない場所では、タクシーが移動の代替手段として使われることもあります。そうした地域でタクシー事業者が不足することは、住民にとっては死活問題です。
ライドシェアは、観光地や過疎地域における交通課題を解決する手段として期待されています。
<参照>
ライドシェアの課題は安全確保と法整備
ライドシェアの導入にあたっては、安全面のリスクがあるのも事実です。
現行の法制度では、ライドシェアは、乗車するユーザーと運転者との間で直接運送契約を結び、サービスの運営会社は運送責任を負いません。さらに、運営会社とドライバーには雇用関係がなく、業務上必要な運転者の健康管理や安全管理についても運営会社は責任を負う必要がありません。
タクシー事業者であれば道路運送法や労働法は当然に遵守されます。運送責任も雇用責任も負わない運営会社の下で、安全管理をどのように行うのかについて懸念が生じています。
海外ではライドシェアサービスを利用中に重犯罪に巻き込まれるケースも多数報告されています。Uberの運営会社であるウーバーテクノロジーズが発表した安全報告書によると、2018年には計3045件の性的暴行の被害が報告されたとのこと。こうした犯罪をどのように防ぐべきか、対応が急がれています。
そもそも日本では、営業許可を受けた事業者以外が自家用車を使って有償で客を運送する行為、いわゆる「白タク」を法律で禁止しています。ライドシェアの解禁を具体的に進めるためには、既存の法律を改正し、運転者と乗客、双方の安全を守るためのルール作りが必要とされています。
海外でのライドシェア運用方法
日本では慎重論も根強いライドシェアですが、世界的な市場規模は年々拡大傾向にあります。2020年に764.8億ドル(約9兆円)だったライドシェアの市場規模は、2028年には2,427.3億ドル(約30兆円)に達すると予測されています。サービスの普及に合わせて各国で法律の整備なども順次進められています。
・アメリカ
ライドシェアの運営会社をタクシー会社とは異なるTNC(Transportation Network Company)と位置付け、州や都市ごとに具体的な規制内容を規定しています。例えばカリフォルニア州では、運営会社には、保険加入、運転者の身元調査、車両の検査などが義務づけられています。ドライバーは、カリフォルニア州の運転免許の保有、1年以上の運転経験、保険加入等が条件になっています。さらに、ライドシェアサービスでの性犯罪が相次いだことを受け、2023年1月に運転手の身元確認を強化する連邦法が制定されました。
・中国
「オンライン予約タクシー経営サービス管理暫定弁法」が2016年に施行。運営会社の経営は営業区域の地方政府による許可制となり、電話やアプリなどオンライン予約のみ営業が可能です。運営会社には運送責任があり、車両とドライバーが適切な資格を有していること、適切な保険に加入していることを確認する義務があります。ドライバーには3年以上の運転歴、事故や犯歴がないことの証明、車両へのドライブレコーダーやGPSの搭載が義務化されています。
・シンガポール
Grabの運営会社が本社を置くシンガポールでは、ライドシェアはPHC(Private Hire Car)に位置づけられています。路上で乗客を拾う流し営業や、タクシー乗り場での客待ちは禁止。予約による営業のみ許可されています。運転者は、PHCドライバーとしてのライセンス取得が必須。ライセンス取得には運転歴が 2 年以上あること、殺人や誘拐等の重大な犯罪歴がないこと、研修に参加し学科試験に合格することが義務付けられています。
・EU
欧州各国では、既存のタクシー事業者からの反発が強く、Uberをはじめとするライドシェアサービスを禁止する動きが多くありました。さらにインターネット上のプラットフォームを介して単発で仕事を受注する「ギグワーカー」の権利保護を目的とした法案の整備も進められています。しかしEU全体で足並みが揃っているわけではなく、各国で引き続き議論が進められています。
<参照>
Fortune Business Insights「ライドシェアリング市場規模、シェア、成長、予測【2028年】」
日本国内の議論の行方
各国内でも対応が分かれるライドシェアサービス。日本国内でも引き続き積極的な議論を行い、課題や懸念点を払拭していくことが必要です。
また、国の政策を待たず、自治体が民間企業と連携して独自でライドシェアの取り組みを進めている事例もいくつかあります。
例えば神奈川県の黒岩祐治知事は9月17日に出演したテレビ番組の中で「神奈川版ライドシェア」の案を発表。県内のタクシー事業者と連携し、安全管理の方法も検討しながら県を上げてライドシェアサービスの提供に向けて動いていく意向を示しました。
今後の国内の議論においては、政府、自治体、民間企業それぞれが協力し、最適な方法を検討していく必要があるでしょう。
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