日本の「ハラール」市場の可能性と、今やるべき対応とは。その最先端を走る「麺屋帆のる」運営会社のCEO・CMOに聞いた

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今年2024年の訪日外国人数は、コロナ禍前の2019年を超え、過去最高に達すると予想されています。そんな中、インバウンド対応の重要なテーマの一つとして注目されているのが「ハラール」。イスラム教の教えにおいて「許されているもの」を意味する言葉で、たとえば食においては野菜や果物、魚介類、牛乳、卵、イスラム法に則った処理がなされた牛肉や鶏肉などが含まれます。

しかし、たくさんのムスリムが日本を訪れる一方で、日本国内のハラール対応は世界的に見ても遅れている状況です。

そこで今回は、ハラールラーメン店「麺屋帆のる」を運営する、日本の飲食店におけるハラール対応の先駆者とも言えるアセットフロンティア株式会社 CEO 島居里至氏とCMO 酒匂俊和氏に取材。島居氏は、一般社団法人ハラル・ジャパン協会の副理事長も務めています。「麺屋帆のる」での取り組みを伺うとともに、日本でハラール対応を進めていく重要性や、今後対応を進める事業者へのアドバイスなども伺いました。

アセットフロンティア株式会社 CMO 酒匂氏、CEO 島居氏
▲(左から)アセットフロンティア株式会社 CMO 酒匂氏、CEO 島居氏:訪日ラボ撮影

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「日本の食事が楽しめない…」ムスリムの悩みを聞き、すぐさまハラール対応の店を始めた

ーー(訪日ラボ編集部)弊社が調査している「インバウンドに人気の飲食店ランキング」渋谷編にて、御社の「麺屋 帆のる恵比寿店」が30位以内にランクインしています。インバウンドから人気を集めるようになった背景を知りたく、今回取材を依頼させていただく運びとなりました。

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島居氏:ありがとうございます。

ーー多くの飲食店がひしめく渋谷エリアでランキングに入るというのは、なかなか難しいことなんじゃないかと思っております。

島居氏:そうですよね。最近ですと京都でも新しくお店をオープンしたので、それも入っているといいのですが…(笑)

※後日、京都市・四条河原町周辺エリアのランキングを調査したところ、こちらも20位以内に「帆のるぷれみあ京都祇園店」がランクインしました。ムスリムインバウンドから「帆のる」ブランドが高い支持を得ていることがわかります。

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ーーでは、早速いろいろと伺っていきたいと思います。御社はハラール対応にかなり早くから取り組んでいると伺っていますが、具体的にどのような事業を展開しているのでしょうか?

島居氏:食の領域で大きく2つの事業を展開しています。一つは、ハラールラーメンを提供する「麺屋帆のる」を中心としたハラール対応レストランの運営です。「麺屋帆のる」は2016年に大阪で開業して以来、恵比寿、浅草、大塚、新宿、京都、名古屋、大阪、ジャカルタ、大学学食などに展開しています。

そしてもう一つの事業は、ハラール対応食品の卸業です。海外の店舗へ日本のハラール対応食品を輸出するとともに、国内店舗への卸も行っています。

アセットフロンティア株式会社 CEO 島居氏、CMO 酒匂氏
▲(左から)アセットフロンティア株式会社 CEO 島居氏、CMO 酒匂氏:訪日ラボ撮影

ーー「麺屋帆のる」のハラールラーメンは、どのような方々に選ばれているのでしょうか?

島居氏:現在は月間約2万人に来店いただいており、そのほとんどが外国人です。中でも大阪や京都などインバウンドで人気のエリアの店舗では99.9%が外国人で、訪日観光客も多数。イスラム教の教えで食に制約があるものの、ラーメンなどの日本食を楽しみたいという方々は多いんです。

ーーなるほど。私も実際に食べてみましたが、日本人向けのラーメンと同じように美味しくいただくことができました。

「麺屋帆のる」のハラールラーメン
▲「麺屋帆のる」のハラールラーメン:訪日ラボ撮影

ーーそもそもどのようなきっかけで、こうしたハラールフードの事業を始めたのですか?

島居氏:2015年の末、神戸のモスクを訪れた際、理事をされていたアルジェリア人の方と出会ったのがきっかけです。ムスリムたちが日本での食事に困っているという話を聞きました。「日本の人は安くて美味しいラーメンを食べているけれど、僕らは食べられないんだ」と。せっかく日本にいるのに、とてももったいないと思いました。そして、当時からいろいろな飲食店をやっていた私に「ハラール対応の飲食店をやってくれないか」とも言ってくれて。そこで、話を聞いてから4〜5ヶ月後、翌年4月に「麺屋帆のる」をオープンしたんです。

ーーそんな短い期間で実現するとは驚きです。オープンして、すぐ反響があったのでしょうか。

島居氏:いえ、「麺屋帆のる」のオープン当初は全然ダメでした。私自身やったことがありませんでしたし、当時は国内を見渡しても、ハラール対応の飲食店は一般的ではありませんでした。

SNSでの情報発信やサービスの見直しなど、自分たちの手で地道にやってきた結果、今があると思っています。

「アルコールの提供は一切しない」ムスリム目線での運営を徹底

ーーSNSでの情報発信やサービスの見直しなどを地道にやってきたとのことですが、具体的に何を実施したのでしょうか。

島居氏:サービス面で例を挙げるとすれば、アルコールの提供をやめました。元々は、ラーメンや餃子にビールはつきもの、置かないと怒られるくらいのものだと思っていました(笑)。ですが、アルバイトで採用予定だったムスリムの学生さんから「ビールを販売しているなら、ここでは働けない」と連絡をもらったことがあって。

その子と働きたいと強く感じていたこともありますし、一人でもそういった感情を持つお客様がいる可能性があるならと、一切のアルコール提供をやめることにしたんです。

「麺屋帆のる」のメニュー。アルコールは一切提供していない
▲「麺屋帆のる」のメニュー。アルコールは一切提供していない:訪日ラボ撮影

ーー飲食店としては思い切った決断だと思います。ムスリムに信頼されるお店づくりを徹底されているんですね。集客の面では、どのようなことに取り組んできたのでしょうか。

酒匂氏:最近は、InstagramなどのSNSをメインに取り組んでいます。ムスリムが多い東南アジアでは若者が多いこともあり、SNSが日本以上に活発です。SNSでお店を知ってくれたインフルエンサーが来店してくれて、フォロワーへの認知が広がったりしています。フォロワー数が5,000万人以上いる方が来店されたこともあるんですよ。

ーー海外のインフルエンサーはフォロワーの規模もすごいですね。やはり、SNSは集客に欠かせないツールの一つなんですね。

酒匂氏:そうですね。今後はより臨場感を味わってもらえるような情報発信ができるように、画像だけでなく動画での発信にも力を入れていきたいと考えています。

一方で、今の集客に繋がっているのがSNSだけだとは思っていません。「医食住を通して国際社会に貢献する」をブランドパーパスに掲げ、これに沿ってこれまで地道に取り組んできたあらゆることが、「麺屋帆のる」のブランド力や集客力にも結びついています。

島居氏:たとえば、帆のるには立地の関係で大使館の方がよく来られるのですが、その交流から広がってブルネイの皇太子妃が来日の際に帆のるへ来店されたりとか。さらにはインドネシアの太子公邸の晩餐会で帆のるのラーメンを提供させていただいたり、ガルーダインドネシア航空と提携したり…。ハラールラーメンの提供を通して、さまざまなコミュニティと日本とを結ぶような貢献ができているんじゃないかと思っています。

ハラールのマーケットは拡大中。その需要を日本が取り込むうえで、重要なことは

ーー島居さんは、一般社団法人ハラル・ジャパン協会の副理事長も務めていらっしゃいます。日本のハラール対応の現状について教えていただけますか?

島居氏:年間3,000万人の外国人が日本に訪れようとしていますが、供給が全く追いついていない状況です。10年前に想定していたより、ハラール対応に取り組んでいる事業者は非常に少ないですね。

実は、東京オリンピックが決まった2015年頃は、「世界中から日本に人がやってくる」ということでハラールを含む食の対応への関心が高まっていました。しかし、その後新型コロナウイルス感染症が拡大。訪日需要が低迷したことで、ハラール対応を進めていた多くの企業や飲食店が取り組みをやめてしまって今に至ります。

アセットフロンティア株式会社 CEO 島居氏
▲アセットフロンティア株式会社 CEO 島居氏:訪日ラボ撮影

ーー数年間の苦しいコロナ禍がやっと明けたところですが、今もハラール対応はなかなか広がっていかない印象があります。やはりそう簡単に導入とはいかないものなのでしょうか。

島居氏:まず、ハラール対応を進めるための先行投資が必要ですよね。ハラール対応の食材は原価が高くなる傾向もありますし、現場のオペレーションも変わります。簡単にできることではありません。中長期的な視点が不可欠な取り組みですし、今後コロナ禍のように訪日外国人が減少するようなできごとも、ないとは言えませんから、ハラール対応に対して後ろ向きの経営判断になってしまうのは当然とも言えます。

ーーその一方で、ハラール対応の需要は今後伸びていくと思いますが、いかがでしょうか。

島居氏:現在の出生率を踏まえると、世界人口におけるムスリムの割合は今後高くなっていくでしょうから、マーケットは拡大の一途を辿るでしょう。実際、コロナ禍の数年間もハラール対応を継続してきた企業や店舗は今、急速に成長しています。少子化が続く日本国内の需要は今後減少すると考えられますから、日本の飲食事業においてハラールなどの需要を取り込むことは、ますます重要になると予想しています。

加えて、ムスリムに対して日本が提供できる価値は非常に大きいとも思っています。日本食は世界でも人気で、ムスリムも皆食べたいと思っているはずです。その証拠に、ハラール対応の食材の輸出は非常に伸びています。

ーー日本の飲食業界全体でハラール対応を推進していくにあたって、どのようなことがポイントになると考えますか?

島居氏:「自分だけ儲かるビジネス」という考え方では、難しいと思います。いろいろな事業者や地域が参入して、裾野が広がっていくのが大事です。「日本では食が楽しめない」という印象のままでは、ムスリムの旅行需要を取り込めなくなってしまいます。

飲食業界のハラール対応の推進は、世界からの評価を高めることに繋がるので、地域が一体となって進めていけたらいいですね。現状、ハラール対応推進に予算を確保できている地域はほんの一握りですから、民間から声をあげることで、多くの自治体と事業者とがもっと協力できるようになればいいなと思っています。

ーーでは、いち事業者がその後を追って対応したいと考えた時、第一に何をすべきでしょうか?

島居氏:まずは正しい情報収集を得ることからでしょう。ハラール対応が進んでいない日本には情報が十分にある状況ではありませんし、ネット上のものは何が正しい情報か判断が難しいと思うので、実際にハラール対応に取り組んでいる方々の話を聞くと良いと思います。

ハラール対応の飲食店を集めた「ハラルビル」など、新たな挑戦を継続

ーー最後に、今後の御社の展望について教えてください。

島居氏:繰り返しになりますが、ハラール対応は一朝一夕でできることではありません。飲食事業者は儲かることでないとなかなか一歩を踏み出せないですが、今はハラール対応によってビジネスがうまくいくイメージが持てない状況だと思うんです。なので私たちが「麺屋帆のる」を通じて成功することによって、全国の事業者に背中を見せていけたらと考えています。

ーー業界に先駆けて、新たな道を作っていくということですね。具体的にはどんな事業や取り組みなどを考えているのでしょうか?

島居氏:「麺屋帆のる」に関しては今後浅草などへも出店予定で、年度内には月5万人を受け入れるラーメン店への成長を見据えています。

また、2024年4月8日には日本で初めて、ハラール対応の様々な日本食が楽しめるハラルビル「帆のるぐらんで京都」をオープンしました。牛カツ、すき焼き、天ぷら、西京焼き、刺身、お寿司、どら焼きなど、外国人が思い浮かべるような日本食を多岐にわたって楽しめるビルです。日本では「ラーメン屋」「寿司屋」などの専門店が人気ですが、実は訪日外国人においては真逆で「いろんな日本食を楽しみたい」というニーズがあり、その需要にハラール料理で応えたいと考えたんです。

ハラルビル「帆のるぐらんで京都」:アセットフロンティア株式会社
▲ハラルビル「帆のるぐらんで京都」:アセットフロンティア株式会社 プレスリリースより

ーー確かに、ハラール対応のお店が少ない今、限られた時間でお店をはしごするのはなかなか難しいかもしれませんから、一つの建物で一気に楽しめる場所があるのは魅力的ですね。

島居氏:ええ。このハラルビルが軌道に乗れば、ゆくゆくは大阪などでも展開できたらと思っています。大阪ならたこ焼き、串カツなど、ご当地グルメも楽しめたら喜んでもらえそうですよね。

酒匂氏:ハラールの方々に日本の食をもっと楽しんでもらうという観点では、現在アプリのリリースも進めています。来店をきっかけに生まれたお客様との繋がりをもっと濃いものとし、そしてそこから輪が広がっていくような場をアプリとして設け、そこでの情報発信や商品販売などに取り組んでいけたらと構想を練っているところです。

島居氏:あとは、「食」だけでなく「旅」というもっと広い部分でハラールに関わる事業を展開していきたいですね。たとえばハラールを含む学生たちの修学旅行について、食はもちろん、お祈りをする場所やタイミングなども込みで旅行全体の工程を設計することができるんじゃないかと考えたりもしています。「ハラール」をテーマに、食を含めてエンターテイメント全般へ事業を広げていきたいというのが私たちの大きなビジョンです。

【アセットフロンティア 会社概要】

  • 名称:アセットフロンティア株式会社
  • 代表:代表取締役CEO 島居里至
  • 事業内容:ハラル和食専門輸出事業、飲食店の経営、食品製造、EC事業
  • URL:https://assetfrontier.net/


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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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