世界的にインバウンドが急速に回復するなか、西日本へのさらなる誘客を目指して、2024年5月17日に「西のゴールデンルートアライアンス」設立総会が開催されました。
西のゴールデンルートアライアンスとは、関西、山陰、瀬戸内、四国、九州の自治体や民間事業者などの組織で構成される連合体。訪日旅行の定番である東京-大阪間の観光周遊ルート「ゴールデンルート」に対抗する形で、西日本にも多くの外国人観光客を呼び込むべく「西のゴールデンルート」の確立を目指します。
本記事では、アライアンス設立総会の後半で行われたトークセッションの内容についてお届けします。
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欧米豪の訪日客の8割が東京-大阪に集中。西日本でも需要を取り込むには
トークセッションのパートでは、株式会社BEYOND 代表取締役の道越万由子氏をモデレーターとし、下記の方々が登壇しました。
- 福岡市⻑ ⾼島宗⼀郎氏(西のゴールデンルートアライアンス 会長)
- ⾼松市⻑ ⼤⻄秀⼈氏(副会長)
- 下関市⻑ 前⽥晋太郎氏(幹事)
- 武雄市⻑ ⼩松政氏(幹事)
- ⻑崎市⻑ 鈴⽊史朗氏(同 幹事)
- JTB相談役 兼 山陰インバウンド機構 会長 ⽥川博⼰氏(名誉顧問)
- せとうち観光推進機構 会⻑ 真鍋精志氏(顧問)
- 四国ツーリズム創造機構 代表理事 半井真司氏(顧問)
- 関⻄観光本部 代表理事 東井芳隆氏(顧問の関⻄観光本部 理事⻑ 松本正義氏代理)
- 九州観光機構 専務理事 里浦徹氏(顧問の九州観光機構 会⻑ 唐池恒⼆氏代理)
冒頭ではまず、西のゴールデンルートアライアンス 会長を務める福岡市長の高島氏より、西日本のインバウンドの現状について共有がありました。西日本にはアジアからの外国人観光客が多い一方で、昨年1年間で欧米豪から日本に訪れた観光客の79.4%が東京-大阪のゴールデンルートに集中し、西日本へ足を延ばしているのは全体の5.8%に留まると説明。この現状を打破し、もっと幅広い国からの観光客を西日本全体に呼び込むためには、それぞれの自治体が個別で取り組むだけでなく、西日本が一体となって推進することが重要であると参加者へ呼びかけました。
モデレーターを務めた道越氏も、高島氏のコメントをふまえ、欧米豪からの観光客の特徴について言及。韓国や台湾などの近隣国に限らず、欧米豪を含めて訪日外国人観光客はコロナ前より1.5〜1.8倍も増加していることや、なかでも欧米豪からの観光客は滞在日数が長く、東アジアからの訪日観光客と比較して旅行単価も高い傾向があることなどを背景に、西日本でも欧米豪からの観光客の需要を取り込むことの重要性を改めて発信しました。
その後、主に3つのテーマに沿って登壇者が意見を交わしました。
- 各自治体におけるインバウンドの現状と西のゴールデンルートがもつ意味
- 西のゴールデンルートの取り組みにおいて事業者(参加者)に対して期待すること
- エリアを越えた西のゴールデンルートの意義
トークテーマ1:各自治体におけるインバウンドの現状と西のゴールデンルートがもつ意味
一つ目のトークテーマは「各自治体におけるインバウンドの現状と西のゴールデンルートがもつ意味」について。マイクを握ったのは、高松市長の大西氏と長崎市長の鈴木氏です。それぞれの自治体での状況や取り組みについて話しました。
まず高松市では、「2010年の瀬戸内国際芸術祭の開催からインバウンドが増えている状況」と大西氏。コロナ禍では若干の落ち込みが見られたものの、その後は「120万人の来場者のうち4分の1近くが外国観光客で、アジア圏のみならず欧米豪の方も非常に多い」と話しました。また、観光客増加に伴う、瀬戸内国際芸術祭の開催に対する地元の反応の変化についてもコメント。当初地元では「観光客がわざわざ離島に来るはずがない」と冷ややかな声も多かったものの、東京や海外からの観光客が集まるにつれ地元での注目度も高まり、芸術祭を楽しむ地元の人も増えていると述べました。
鈴木氏は長崎市のインバウンドの現状について、被爆地として世界的な認知度が高い一方で観光客の訪問にはあまり結びついていないと分析。実際、欧米豪からの訪問は広島と比べて30分の1程度となっています。この課題をふまえ、「平和」をキーワードに広島と観光面での連携を強化中とのこと。「ピースツーリズム」というキーワードも挙げ、「広島では九州から流入するアジアの観光客を、長崎では広島から流入する欧米豪の観光客を増やすことにつながるような、Win-Winの関係づくりを目指している」と話しました。
トークテーマ2:西のゴールデンルートの取り組みにおいて事業者(参加者)に対して期待すること
二つ目のトークテーマ「西のゴールデンルートの取り組みにおいて事業者(参加者)に対して期待すること」では、下関市長の前田氏と武雄市長の小松氏が意見を述べました。
前田氏は、下関が誇る食材のフグや、ニューヨーク・タイムズ紙「2024年に行くべき52ヵ所」の第3位に山口市が選ばれたことを例として、「西日本がすでに持つ素晴らしい素材をどう海外に届けていくかが重要だと考えている」とコメント。自治体が自分たちのコンテンツを磨き上げ、そしてその魅力をチームで発信していくような連携を期待したいと話しました。
そんな山口県では、2026年にJRグループ6社と地元行政が協働して地域の新たな観光の魅力を発信し誘客する大型観光キャンペーン「デスティネーションキャンペーン」の開催も決定しています。前田氏は、この機会に県内の魅力を見つめ直し、西のゴールデンルートアライアンスの連携に活かしたいと意気込みました。
同テーマに対して小松氏は、自身のイタリア・プーリア州での感動体験に触れました。プーリア州は、土地に根ざした農業の街。しかし、それだけでは十分な収益が得られないため、昔の牛小屋を改修してホテルにする、地元の人との交流を観光コンテンツの一つとするなど、土地を守るための観光業にも取り組んでおり、その一貫した哲学に魅了されたと話しました。そして「プーリア州に通ずる魅力が西日本にもあふれている」と小松氏。「たとえばオランダにちなんだ歴史や文化が根付く武雄市なら、それらを基軸に一つのストーリーを描くことによって、欧米豪のお客様に楽しんでもらえる方法を考えたい」と話しました。
小松氏が事業者(参加者)に期待することとして挙げたのは、“自治体にはない視点”。地域を超えて西日本全体の観光地やコンテンツを一つのストーリーで紡いでいくにあたって、自治体では思いつかないようなダイナミックな発想を求めていると伝えました。
トークテーマ3:エリアを超えた西のゴールデンルートの意義
続いて、「エリアを越えた西のゴールデンルートの意義」をトークテーマとして意見交換がなされました。
JTB相談役(元JTB会長)兼 山陰インバウンド機構 会長であり、西のゴールデンルートアライアンスの名誉顧問を務める田川氏はまず、海外からの直行便のない山陰エリアの状況について説明。山陰だけで誘客する難しさを共有するとともに、東京・関西・九州などからさらなる外国人観光客を集めるうえで、西日本全体でPRすることは非常に効果的だろうと述べました。その中で、観光客に広域周遊ルートの旅を提案すべく山陰インバウンド機構が手がけた、デジタル周遊パスや訪⽇外国⼈向けの観光アプリについても紹介しました。
また田川氏は、西のゴールデンルートの確立にあたっては、ドイツの「ロマンチック街道」を参考にしたプロモーションを提案。観光ルートとして今では高い人気を誇るロマンチック街道は、ロンドン・パリ・ローマなどヨーロッパ旅の定番ルートになかなか入り込めないドイツ旅行を売るために考案され、観光コンテンツとして育て上げられたものだとし、「西のゴールデンルートも同じようなやり方で育てていけるのでは」と話しました。
ほか、関西観光本部 代表理事の東井氏、せとうち観光推進機構 会長の真鍋氏、四国ツーリズム創造機構 代表理事の半井氏、九州観光機構 専務理事の里浦氏も同じく、地域単独で誘客する難しさについてコメント。たとえば関西では、外国人観光客の8〜9割が京都市・大阪市に集中していること、東京や箱根などに比べて関西の滞在は短いため消費額も少ないこと、欧米豪からの観光客がまだまだ多くないことなどの課題が生じていると東井氏。それぞれの立場から、外国人観光客の西日本周遊を活性化させるために取り組んでいきたいことについて発信しました。
なかでも東井氏が着眼したのは、欧米豪からの観光客の導線。姫路城を訪れる外国人観光客の多くが羽田から国内線で広島へ飛んでからの流入だということで、大型機の発着が可能な滑走路を持つ羽田や成田、関空へどう直行便を増やしていくか、そしてどう西日本まで来てもらうかが重要だとしました。
真鍋氏は、瀬戸内での広域周遊を促すため「せとうちDMO」の強みを活かしたいとコメント。特に金融機関とともにインフラ投資ができる点は大きな特徴で、VIPの受け入れに向けて誘致した「ヒルトン広島」、瀬戸内のクルーズ船「ガンツウ」などに続き、瀬戸内エリアでの投資を積極的に行いたいと話しました。加えて、他エリアとの連携によって、欧米豪の方々が各地域でどんな動きをしているのか情報を収集・発信することで瀬戸内への観光客の流入を促す手助けがしたいともコメントしました。
半井氏は、近年の観光業界のトレンドにもなっている「サステナブル」や「アドベンチャートラベル」について言及。国際認証機関グリーン・デスティネーションズが選ぶ「世界の持続可能な観光地2023 TOP100選」に徳島県三好市、香川県の丸亀市、愛媛県の大洲市が選ばれたことや、1000年以上にわたって受け継がれる四国遍路の文化を紹介するとともに、「サステナブル」や「アドベンチャートラベル」をキーワードに他のエリアと協力し、西のゴールデンルートの活性化を目指したいと話しました。
この話を受け、里浦氏もアドベンチャートラベルに関する九州での取り組みを紹介。クルーズトレイン「ななつ星in九州」や国際サイクルロードレース「ツール・ド・九州」を例としつつ、「トレンドをふまえ、豊かな自然と長い歴史を活かした旅行商品の造成を進めている」としました。トークセッション内で話題になったしまなみ海道のサイクルツーリズムや四国遍路などとの連携への意欲も見せました。
今後、西日本の地域同士をどんなストーリーでつないで観光コンテンツ化していくのか
トークセッションの最後には、「西のゴールデンルート」を軸に、アライアンスへの想い、それぞれの地域の魅力、今後実現したいことなどについて登壇者たちがコメントしました。
様々な意見が発信される中、特に多くの登壇者が関心を寄せたのは「西日本の地域と地域をどんなストーリーでつないで観光コンテンツ化するか」。東井氏は「西日本には良いコンテンツが多すぎる」としてテーマを絞ることの重要性を唱え、前田氏も「外国人観光客にとってのストーリーのわかりやすさが大事では」とコメント。今後意識したいポイントについて積極的に意見交換しました。加えてトーク内では、日本初の国立公園に指定された瀬戸内海国立公園、霧島錦江湾国立公園、雲仙天草国立公園を西日本の観光テーマの一つにする(大西氏)、西日本エリアの世界遺産巡りを観光商品化する(鈴木氏)といった具体的なアイデアも。小松氏は、西日本という広域の取り組みだからこそ、一見結びつかない地域をダイナミックに結ぶことで大きな効果を生み出せるのではないかと期待を込めました。
一方、議論が盛り上がる中で違う角度からコメントしたのは田川氏。多数の観光プロモーションに携わった自身の経験をふまえ、内部の話し合いだけで終わってしまう危険性について示唆。たとえば海外の旅行会社と組んで西のゴールデンルートを売り込むなど、「実質的な取り組みにしないといけない」と述べました。
最後に、アライアンスの会長を務める高島氏は、「西日本の気持ちが一つになったことを確認できた」と参加者への感謝を表現しました。そして、アライアンスへ改めて呼びかけるように「今後は頭の中で考えるだけでなく、それらを提案する、具体的な形にするなど、積極的に実行していきましょう」と総会を結びました。
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