「聖地巡礼」は地域から仕掛けられるのか?アニメのロケ地になった時、地域に求められる動きとは【じゃらん観光振興セミナー vol.5】

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じゃらんリサーチセンターは6月13日、「観光振興セミナー2024 オープン・ラボ Online」を開催しました。全国の先進事例やじゃらんリサーチセンター(JRC)独自の調査・研究を、研究員自らが解説するセミナーイベントです。

訪日ラボでは、各講演の中から特にインバウンド観光に関連する講演を取り上げ、解説してきました。最終回となる第五弾は、じゃらんリサーチセンター研究員 五十嵐 大悟氏による「アニメ等の“聖地巡礼”は地域から仕掛けられるのか?地域活性・観光ビジネスへの活用」の内容をお届けします。

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コンテンツツーリズムは「どうやって作られているのかがよく分かっていない」

コンテンツツーリズムとは、アニメ・映画・小説などのコンテンツの舞台となった場所やゆかりの地などを訪れる観光、いわゆる「聖地巡礼」のことを指します。

しかしコンテンツツーリズムの既存研究は、「消費者側の理論を組み立てやすい」「質的研究を軽視しがちで製作会社の意見をあまり聴取していない」といった問題点があると言われており、つまりそれは「どうやって作られているのかがよく分かっていない」という問題であると五十嵐氏は指摘しています。

五十嵐氏の報告では、前提としてアニメの旅行者の特徴を整理しつつ、「地域はアニメのロケを誘致できるのか?」「ロケ地になった場合どうすべきか?」「ロケ地誘致が難しい場合、代替案はあるのか?」といった疑問点に、定量定性の調査結果を踏まえて答えるものとなっています。


アニメ旅行者の特徴

アニメ旅行者の特徴に関する定量的な調査の内容について報告がありましたが、本調査はインバウンドではなく日本在住者を対象としたものであるため、ここでは簡単な解説にとどめます。

週1回以上日本のテレビアニメを視聴する人の割合は、女性よりは男性の方が視聴割合が高く年収は600万円以上の視聴割合が低いものの、どの属性でも一定の視聴割合があることがわかっています。

また、「聖地巡礼」経験率をみると、「コンテンツツーリズム」に対する熱量が高いのは若年男性(学生等)となっています。

とはいえ旅行動機に特殊な要素はそこまでなく、「自分で聖地を見つけたい」「他のファンと交流したい」などは少数派で、単に聖地を訪れる旅行が好まれているようです。

疑問点1. 地域はアニメのロケを誘致できるのか:結論「難しい」

ここからは、五十嵐氏がアニメツーリズム協会などアニメ関連団体や、コンテンツの舞台となった地域の関係者にヒアリング調査した内容から、疑問点を解消していきます。

1つ目は「地域はアニメのロケを誘致できるのか?」という疑問ですが、五十嵐氏は「極めて難しい」と結論づけています。

実写もアニメも基本的に原作の設定が尊重され、原作がない場合もる企画段階で決定されることが多い、かつ選定理由もよく分からないことなどから、地域がロケ誘致に関わるのは難しいのだといいます。つまり、つまりは(作品を作りたくなるような)そもそもの地域の魅力が必要だということです。

そんな中でもできることとしては、

  • 業界の横のつながりがあるので、適切なフィルムコミッションの対応や、他作品で良い情景が描かれていると、別の作品の舞台選定につながることがある
  • アニメビジネスは「著作権ビジネス」であることを理解して、商業利用には権利料が発生することを地域側があらかじめ理解していると、円滑な対応ができるためトラブルが起きにくい(トラブルを避けることで次につながりやすい)
  • 地域事業者が自らコンテンツを作成してテレビアニメ化したケースがあり、このような事業者(経営者やクリエイター)を地域が育てることができれば、聖地化される

の3つを挙げています。

疑問点2. アニメのロケ地になった場合どうすればよいのか?

2つ目の疑問は「アニメのロケ地になった場合どうすればよいのか」。結論として公的PRも効果的であるが、地域は何よりも、まっとうな民間事業者や市民活動を支援することが肝要だと五十嵐氏は述べています。

先進地の担当者は、「地域や作品ごとの特性が大きく違うため成功事例を追わず失敗事例に学ぶことが重要で、ヒットするかが分からない前提を製作陣と共有したうえで関係を築き、継続的な展開ができるかを考えた方がよい」などとコメントしており、アニメの舞台になったら「成功する」と勝手に過大な期待をせずに、作品を適切に評価して取り扱うことが重要だということがわかります。

共通して言われることとしては、「行政が全てをやるのではなく、事業者や観光業界に対して情報を迅速かつ的確にインプットし、しっかりとサポートすることが重要」「行政は地域住民や事業者が自走できるようにサポートする」といった、「行政主体ではなく民間主体」の取り組みであることを意識することだということです。

ヒアリングに基づいた「やった方がよいこと」としては以下を挙げています。

  • 地域住民へ作品の舞台になったことの周知
  • 対外的なPR
  • 地域事業者の活動・行政による支援
  • 来訪者が喜ぶ「お土産」を(現地企業が)提供する
  • (現地の事業者で継続的にできる範囲で、できるだけ民間主体で)「ファンのたまり場」の提供や「イベント」を開催する
  • (上記に対しては行政は過大な支出はしなくてよい)

疑問点3. それでもなんとか地域からできることはないのか?

それでも何かやりたいという地域に対して五十嵐氏は、「地道にビジネスや観光・産業振興策を実施することが結局のところ近道」としつつ、「地域のファンたるアニメ的な動画制作者である『ご当地VTuber』は一つの方法かもしれない」としています。

「VTuber」とは、もともとは「バーチャルYouTuber」の略語で、アニメ風のアバターを用いてインターネット上で配信を行う人のことを指します。

その中でも「ご当地VTuber」という地域密着型の配信者が全国に200名程度おり、30人程度は地域情報を「毎月」発信する更新頻度が高い配信者だといいます。

地方自治体公認のご当地VTuberは2024年1月現在で14人。「その地域を愛して自ら発信している地域のファンでありクリエイター」の立場として、タイアップなどの取り組みが注目されているそうです。


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以上、「アニメ等の“聖地巡礼”は地域から仕掛けられるのか?地域活性・観光ビジネスへの活用」セミナーの内容をまとめました。

聖地巡礼は地域にとって"棚からぼたもち"的な偶然の産物であるイメージが強く、戦略的に誘致することはできるのか、気になっていた方もいるのではないかと思います。五十嵐氏の研究でもその結論は変わらず、結局は地域として魅力的な場所であり続けることが重要なのだとわかりました。

一方で、五十嵐氏からは「ご当地VTuber」の紹介がありました。VTuberに限らず、地域を愛して自ら情報発信する人は企業・個人問わずいるため、ブランドマネジメントには気をつけつつ、連携していくのも一つの方法なのではないかと考えられます。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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