インバウンド需要が拡大し、航空路線の増便や新規就航が進むなか、外国人から旅行手段のひとつとして選ばれているのがクルーズ船を使った旅行です。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により国際クルーズの運航は停止していましたが、2023年3月から本格的に運航が再開されました。政府は2025年の目標として、コロナ前ピーク水準である「訪日クルーズ客数250万人」を掲げ、外国人旅行客の受け入れ促進につながる環境整備の取り組みを本格的に進めています。
今回は、クルーズ船で訪日外国人を受け入れるにあたって必要なことや、先進的な取り組みをしているクルーズ事業者の事例を3つ紹介します。
クルーズ運航本格再開、寄港回数はピークの6割まで回復
新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年3月以降、運航が停止していた国際クルーズですが、2023年3月から本格的に運航が再開されています。国土交通省の発表によると、2023年の日本へのクルーズ船の寄港回数は、前年比約2.5倍の1,854回となり、コロナ前ピーク水準(2018年)の63%まで回復しました。
一方、クルーズ船で入国した訪日外国人旅客数は、未だ回復途上にあります。コロナ禍の2021年と2022年における訪日クルーズ旅客数はともにゼロでしたが、2023年は35.6万人となりました。コロナ前にピークを迎えた2017年には252.9万人に達していて、それと比較すると14%の水準にとどまっています。
関連記事:2023年の訪日クルーズ客数は35万人、ピーク時の14%まで回復
クルーズ船での訪日外国人受け入れにおいて、必要なことは?
インバウンド需要が回復するなかで、訪日外国人のクルーズ船利用を促進し、満足度を向上させるために受け入れ環境整備の重要性が増しています。
国土交通省が行った調査によると、訪日外国人からクルーズ船へ以下の要望が挙がっていることが明らかになっています。
- 外国語等による情報提供
- 乗船手続きの利便性向上・簡素化に向けた取り組み
- 通信環境の整備
日本には世界中から観光客が訪れている一方、日本語以外の言語による案内や記載が少ない傾向にあり、不便に感じる訪日外国人が少なくありません。そこで重視されているのが多言語対応です。具体的な対策方法としては、船内の音声案内や案内誘導版、Webサイトの多言語化などが挙げられます。
また、乗船手続きの利便性を向上する取り組みとして、事前予約や事前支払いができる仕組み、QRコードによる入退室管理、他の交通手段との乗り継ぎのサポートも訪日外国人の受け入れ環境整備においては重要といえます。
Wi-Fi環境の整備も、訪日外国人の受け入れにおいては欠かせない施策のひとつといわれています。海外ではキャッシュレス決済が支払い手段として普及している国も多く、訪日客のそうしたニーズに応えるためにもWi-Fi環境の整備は不可欠だといえるでしょう。
そのほか、「企画乗船券、旅行商品、船内エンターテインメント等への対応」「自転車利用者への対応」なども訪日外国人から一定数のニーズがあるようです。
クルーズ船の訪日外国人受け入れにおける先進的な事例3選
外国人観光客が安心して旅行を楽しめるよう、地域のクルーズ船事業者でさまざまな取り組みが行われています。ここでは、訪日外国人の利便性を高めている3社の事例を紹介します。1. 名門大洋フェリー
北九州と大阪をつなぐ便を運航している名門大洋フェリーは、船内環境の快適さと利便性を高める取り組みを行っています。
同便は就航時間が長く、時間の有効活用が可能な点から、最近では周遊型の訪日外国人旅行者の誘致に努めています。具体的な取り組みとして、トイレ・シャワー付きの個室を20室増やし、より快適な個室空間を実現しています。
また、2015年7月に乗船手続きの簡素化に向けてQRコードによる乗船改札を導入し、事前にWeb予約をすることで当日の港窓口での手続きが不要になる取り組みを実施。コロナ禍に認知が拡大した“非接触手続き”の推進にも効果を発揮しました。
船内は通信環境が不安定で、食事券の購入時にクレジットカード決済や電子決済に難があることから、通信が安定している港窓口にて乗車券と食事券をセットにした商品を販売するなどの工夫も行っています。
<参照>
2. 国際両備フェリー
国際両備フェリーは高松港・新岡山港から小豆島をつなぐフェリーを運航していて、なかでも高松航路の券売機では、訪日外国人旅行者の利便性を高めることを目的に32種類の決済手段に対応しています。具体的には、現金とクレジットカード、電子マネー、交通系IC、QRコード決済などあらゆる決済手段が利用可能です。QRコード決済はWeChat PayやUnionPay(銀聯)など、中国で普及するサービスも含めた豊富なラインナップで利便性を高めています。
岡山空港と岡山駅を結ぶリムジンバス、同駅と新岡山港を結ぶ路線バスが交通系ICカードでの決済に対応しているため、飛行機や新幹線を降りてから小豆島まで、キャッシュレスで移動することが可能です。
<参照>
関連記事:インバウンド対策に必要なクレジット・QRコード決済への対応とは
3. 岡山京橋クルーズ
岡山京橋クルーズでは、岡山の中心部である京橋と瀬戸内海を結ぶクルーズ船を運航しています。瀬戸内海の魅力や島々の文化、美しい自然を外国語対応したガイドやパンフレットを用いて紹介することで利便性を高めているほか、ポケトークを活用するなどして外国人観光客とのコミュニケーションを円滑にするよう努めています。
さらに岡山や瀬戸内海における物資の運搬の歴史や文化を多くの訪日外国人に理解してもらうことを目的に、ホームページの多言語化を行い、世界各地の方々が理解できる案内を心掛けています。
<参照>
訪日外国人のさらなるクルーズ船利用に向けて
全国の事業者で本格的に進められている、訪日外国人受け入れに向けた環境整備。訪日客のクルーズ旅行の満足度を高めることで、リピート利用や口コミによる拡散など、さらなるインバウンドの取り込みが期待できます。また、海上における通信環境の改善に向けて、低軌道衛星を活用した通信手段が注目されています。船内での高速なインターネット通信が可能になることで、多言語音声翻訳システムの活用や緊急時の連絡手段の確保など、観光客の満足度向上につながるでしょう。
政府は受け入れ環境の整備を進める事業者に向けた補助金給付などの支援も行っており、今後各事業者の間でフェリー船の環境整備に向けた取り組みが活発化しそうです。
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<参照>
国土交通省:訪日クルーズ旅客数及びクルーズ船の寄港回数(2023 年速報値)
国土交通省:訪日外国人旅行者の受入環境整備 ベストプラクティス集
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