インバウンド客からも人気の高いスノーリゾートが、大きな転換期を迎えています。気候変動の影響により、スキー場では今までのような環境で営業することが難しく、営業期間の短縮などを余儀なくされています。このような状況を受け、国内外のスキー場では冬以外のシーズンのコンテンツを充実させ、通年で集客が可能な「通年型リゾート」へと転換する動きが強まっています。
本記事では、気候変動をはじめとしたスノーリゾートが抱える課題と、通年型リゾートとしての取り組み事例3選を紹介します。
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スノーリゾートが抱える課題
気候変動による積雪量の減少やスキーシーズンが短くなったことにより、スキー場を中心としたスノーリゾートは、集客難や経営存続の危機など厳しい局面に立たされています。
まずは日本国内のスキー市場の現状と世界の気候変動の状況を解説します。
課題1. 日本のウインタースポーツ人口、ピークの15.5%まで減少
日本のウインタースポーツ人口はレジャーが多様化したことを背景に、最盛期と比較して大幅に減少しています。公益財団法人日本生産性本部が発表した「レジャー白書」によると、ピークだった1998年の約1,800万人に対して2021年には約280万人と、約15.5%まで減少しました。
その一方で、好調なのがスノーリゾートを訪れるインバウンド客数です。日本が誇る高い雪質のスキー場を体験するため、アジアや欧米豪から多くの訪日外国人観光客が訪れています。観光庁の「スノーツーリズムのインバウンド誘致と地域の活性化」によれば、2014年から右肩上がりで増え続け、ピークとなった2018年には88万人まで増加。多くの訪日外国人がスノーリゾートを訪れていることがわかります。
日本政府観光局(JNTO)が2024年10月に発表した訪日外客統計によると、2024年の1月から9月までの訪日外国人客数は約2,688万人でした。このペースでいけば、過去最高を記録した2019年を上回り、2024年年間で3,500万人が訪れる見込みです。今後もインバウンド市場の拡大が見込まれるなかで、ウインタースポーツに訪れる訪日客のニーズを捉えることで、日本のウインタースポーツ人口の減少に代わる需要を伸ばすことができるかもしれません。
ここでデータを見ると、訪日外国人はスキー場でのウインタースポーツ体験だけを求めているのではないようです。国土交通省が発表した資料によると、訪日外国人が「訪問するスキーリゾートを決定する際の要素」として、1位の「雪質(83.3%)」に続いて、2位が「異文化体験(52.8%)」、3位が「宿泊施設(49.4%)」でした。そのほかにも「景色(26.3%)」や「食事(15.5%)」がランクインするなど、雪以外の側面も見ながらスキーリゾートを決定している様子がうかがえます。スキー場周辺での宿泊や温泉、日本食、ショッピング、歴史、文化、ナイトライフなども合わせて体験したいと考えている人が多いといえそうです。
このように、インバウンド誘致を加速させるためには、ほかに地域の持つ観光資源と組み合わせたスノーリゾートを形成することが求められます。
課題2. 地球温暖化によって雪の安定供給に黄色信号
日本の雪質が訪日外国人から一定の人気を得る一方、世界的に雪の安定供給のリスクが高まっている事実も忘れてはいけません。
「Nature Climate Change」が2023年に発表した研究レポートによると、ヨーロッパ28か国にある2,234か所のスノーリゾートについて、人工雪を使用しない場合、地球温暖化で気温が2度上昇すると53%のスノーリゾートで雪の安定供給のリスクが高まるとされています。4℃上昇すると98%に達するなど、地球温暖化によるスノーリゾートへの影響は甚大といえそうです。
気候変動によってスキーシーズンが短くなっていることで、スキー場の営業期間は短縮を余儀なくされ、これまでどおりの運営が難しくなることが確実視されています。また、これ以上温暖化が進むと人工雪に頼らざるを得ず、日本のパウダースノー(通称:JAPOW)を求めて訪れるインバウンド客が減少する可能性もあります。
「雪」という観光資源への依存から脱却し、「通年型リゾート」へ転換する戦略
このような状況で注目を集めているのが、冬だけでなく、グリーンシーズンにも集客する取り組み。雪がない春夏秋の期間のアクティビティや施設を充実させ、「通年型リゾート」に転換させるものです。
たとえば観光庁は、こうしたグリーンシーズンのインバウンド誘致策として「アドベンチャーツーリズム」の実施を挙げています。
アドベンチャーツーリズムとは、「アクティビティ」「自然」「文化体験」のうち2つ以上の要素によって構成される旅行です。欧米を中心に人気を集めており、観光庁の発表によると、その市場規模は欧米を中心に約62兆円とされており、アドベンチャーツーリズムを楽しむ観光客の消費額は、通常の観光客の消費額の約2倍といわれます。
関連記事:アドベンチャーツーリズムとは?概要から成功事例まで徹底解説
自然に囲まれた立地であることが多いスノーリゾートの特性を活かし、場内の自然を活用したアクティビティと、地域の歴史や文化体験を組み合わせたアドベンチャーツーリズムを行うことで、グリーンシーズンへの集客が見込めます。
スノーシーズンはウインタースポーツ、グリーンシーズンはアドベンチャーツーリズムをはじめとした自然を体験する観光を提供することで、「雪への依存」から脱却し、通年型リゾートへ転換することが期待できるのです。
通年型リゾートの取り組み事例3選
国内外のスノーリゾートにおいて、工夫した施設づくりやアクティビティの提供により、積雪量に左右される状況の脱却を試み、すでに一定の成功をおさめている事例があります。
ここでは長野県白馬エリアや富良野スキー場、さらに海外の事例としてウィスラー(カナダ)の取り組み事例を紹介します。
1. 長野県白馬エリア
スキー場が点在し、冬の観光地としてのイメージが強い長野県・白馬エリアですが、「世界水準のオールシーズンマウンテンリゾート」として、近年では冬以外のシーズンの観光客も増加しています。
その理由のひとつが、山という立地を活かしたさまざまなコンテンツです。たとえば白馬の絶景を眼下に眺める「白馬ジャイアントスウィング」や、リフトに乗って景色を眺めながら朝食を楽しめる「Breakfast in the sky」など。また、長野県でもっとも高い透明度を誇る青木湖では、その透明度を間近で感じられるよう透明な素材で作られたクリアカヤックやクリアサップも提供されています。
HAKUBAVALLEY TOURISMの「令和5年度活動状況報告書」によると、このような取り組みが功を奏し、訪日外国人客数が大幅に増加。グリーンシーズンにおける注力国からの2023年の訪日外国人客数は、コロナ前の2019年と比較して約62%も増えています。
関連記事:【白馬が描く、通年型リゾートの未来図】インバウンド誘客みすえた今後の戦略は
2. 富良野スキー場
極上のパウダースノーが楽しめると、海外のスキー客からも人気のある富良野スキー場。ホテル併設型のスノーリゾートで、リゾート内には、有名ドラマゆかりの飲食店や、森林を活用したショッピングエリアなど、通年営業の施設が多数あります。
また、グリーンシーズンには自然の立地を活かしたアドベンチャーや施設を目的に訪れる観光客も増えています。一例として、森の中でツリートレッキングを楽しめる「ツリーアドベンチャー富良野」や、約5分間の体験飛行ができる「熱気球体験フライト」、前富良野岳の雄大な景色を望みながらプレーできる「富良野ゴルフコース」など。
通年営業の施設やアクティビティを充実させたり、シーズンに応じたスポーツやアクティビティを提供したりすることで、年間を通した集客に成功しています。
3. ウィスラー(カナダ)
ウィスラーはカナダにあるスノーリゾートで、高級ホテルや飲食店、パブ、美術館、映画館など、施設が充実した長期滞在型の高原型リゾートとして世界から観光客が訪れます。
特徴は大自然を活かしたグリーンシーズンのコンテンツが豊富な点です。マウンテンバイクやハイキング、湖畔でのキャンプ、釣りなどのアウトドアコンテンツが充実していて、登山客、キャンパー、リゾート宿泊者など幅広い需要の観光客の集客に成功しています。
その結果、夏場の観光客数が冬場の観光客数を超える、「スノーリゾートの通年型リゾート化」に成功した例といえます。
スノーリゾートは通年型リゾートへの転換がカギ
気候変動がスノーリゾートに与える影響は深刻であり、今まさに大きな転換点にさしかかっているといわれています。積雪量に左右されず、通年を通して集客できる通年型リゾート化に取り組むことが急務の状況といえます。
一方でこの取り組みは、これまで閑散期であった春夏秋の集客力を高めるチャンスでもあります。
地域の自然・食・文化などの観光資源を活かし、雪だけに頼らない持続可能なスノーリゾートへの取り組みが望まれます。
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<参照>
- 国土交通省:スノーリゾートエリアにおける インバウンド拡大に向けて
- 観光庁:アドベンチャーツーリズムの推進
- 西武プリンスホテルズ&リゾーツ:ホームページ
- 札幌市:スノーリゾート推進に係る基礎調査報告書
- 国土交通省:訪日外国人旅行者周遊促進事業 北陸信越運輸局管内のスノーリゾート地域における通年リゾート地化推進にかかる調査報告書
- HAKUBAVALLEY TOURISM:令和5年度活動状況報告書
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