近年、訪日旅行手段の多様化と地域活性化を目指す取り組みの一つとして「クルーズ船の誘致促進支援」が行われており、特に海外からの富裕層の誘客促進策として期待されています。
日本政府は2025年までに「訪日クルーズ旅客250万人」「外国クルーズ船の寄港回数2,000回」といった目標を設定。コロナ禍からの回復とより一層のクルーズ客の呼び込みを目指しています。
本記事では、日本におけるクルーズ観光の現状や課題、今後の展望について深掘りし、地域経済への影響や新たな観光資源としての可能性を探ります。
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世界のクルーズ船の利用状況
クルーズの運航は、コロナ禍の影響で2020年3月以降世界的に停止されていましたが、2023年3月から本格的に再開。需要は一時大きく落ち込んだものの、再開後は寄港回数や乗船客数は年々回復傾向にあります。
クルーズ観光は他の旅行形態よりも回復が早く、2023年の世界全体の旅客数は2019年比107%と、コロナ禍前水準を超えました。2027年には、世界のクルーズ旅客数は4,000万人近くに達すると予想されています。
2023年の訪日クルーズ旅客数、ピーク時の14%にとどまる
日本では2024年3月に閣議決定した観光立国推進基本計画の中で、クルーズ船に関する以下の目標を掲げ、観光客誘致を進めています。- 2025年までに、訪日クルーズ旅客250万人
- 2025年までに、外国クルーズ船の寄港回数2,000回超
- 2025年までに、クルーズ船の寄港港湾数100港
では、日本のクルーズ寄港の状況はどのようになっているのでしょうか。
2023年にクルーズ船で入国した外国人旅客数(訪日外国人クルーズ旅客数)は35.6万人で、ピークだった2017年の14%にとどまっています。
訪日外国人クルーズ旅客数の回復が世界と比べて遅れている背景には、中国からのクルーズ船がほとんど戻っていない点が挙げられます。
2017年当時、日本を訪れるクルーズ船の起点国・地域は、1位が中国(789本)、2位が台湾(154本)、3位が香港(27本)でした。中国発のクルーズ客数は217.3万人となっていましたが、2023年は2017年比の約6%にとどまっており、中国からのクルーズ客の回復が大きな課題です。
一方で日本への寄港回数は1,854回で、2018年のピーク時と比べて約63%まで回復。寄港数のうち外国船は1,264回、日本船は590回でした。
2025年以降は郵船クルーズや商船三井クルーズなどがクルーズ船の新規購入や新造船を予定していて、日本船社による投資が続きます。船舶数の増加が見込まれ、旅行者数や消費額の拡大につながることが期待されています。
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人気の寄港地、コロナ後は太平洋・瀬戸内海方面が伸長
コロナ前よりも日本各地を訪れるクルーズ船は増加傾向にあり、クルーズ船が停泊した国内の港の数(寄港港湾数)は92港でした。2019年比で約1.4倍となっており、寄港地のバリエーションが増えていることがわかります。
コロナ前は、九州や沖縄、南西諸島方面がクルーズ船寄港地の半数以上を占めていました。しかしピーク時の2017年頃から日本海や太平洋、瀬戸内海方面が増加傾向に。2023年は、九州・沖縄・南西諸島方面の回復は大きく遅れているものの、太平洋や瀬戸内海方面はコロナ前を上回る寄港数となっています。
クルーズ船が停泊した92港のうち29の港湾等が、外国クルーズ船が初寄港でした。北海道や瀬戸内海方面で初寄港となった港が多く、日本の地方部への人気の拡大がうかがえます。
1人当たりの消費額は約4.6万円
観光庁が発表したインバウンド消費動向調査(2024年4-6月期)によると、訪日クルーズ客の1人当たりの消費額は4万5,871円でした。訪日外国人の一般客の平均である23万9,028円と比べるとかなりの差があります。
クルーズ船では現地での宿泊費がかからず、飲食も船内でする場合も多いため、1人当たりの消費単価が一般客よりも大きくないというのが現状です。
購買意欲の高さが特徴
一方で、消費額のほとんどを「買物代」が占めており、購買意欲が高い傾向にあることも特徴です。2024年4-6月期の訪日クルーズ客による旅行消費額は153億円と推計されており、そのうち「買物代」が146億円で、95%を占めました。
クルーズライン国際協会(CLIA)が発表した2024年版クルーズ業界現状報告書によると、世界のクルーズ旅行者の平均年齢は46歳で、中高年層が多いといいます。比較的お金に余裕のある世代が多いと推測され、今後の消費額拡大に向けては大きなポテンシャルがあるといえます。
地域への還元が課題
現時点の消費単価が低い一方で、購買意欲の高い層が多く利用するクルーズ船。寄港地の観光資源の掘り起こしや地域と連動したツアーを開催するなど、クルーズ船利用客の消費意欲をいかに地域に還元するかが課題です。
クルーズ船を利用する富裕層に対し、観光地としてのユニークポイントをうまく訴求していく必要があります。
クルーズ振興に向けて
今後、ますます需要が高まると予想されるクルーズ船観光。政府や各自治体もクルーズ船による誘客とそれに伴う地域振興を目指して、取り組みを進めています。
事例1:クルーズdeツナグ・プロジェクト
「クルーズdeツナグ・プロジェクト」は、全国クルーズ活性化会議が主導する全国規模の取り組みです。クルーズ観光を通じた地域活性化、日本人クルーズ旅客の増加、そしてクルーズ文化の醸成を目指しています。
クルーズのさらなる発展を目指すためには、クルーズ船側と港湾側が相互に理解を深め、関係者間での連携を強化することが不可欠です。そこで、クルーズ船と全国145の港湾管理者や自治体が協力し、「クルーズで旅客と寄港地の人々、港と港、日本と世界をつなぐ」というコンセプトのもとさまざまな活動が展開されます。
プロジェクトの第1弾として、全国各地でシンポジウムやイベントが開催され、一般の人々にクルーズの魅力や寄港地への経済的効果、港湾の役割についてわかりやすく紹介する取り組みが進められています。
事例2:瀬戸内海クルーズ推進会議
瀬戸内海クルーズ推進会議は、瀬戸内海のクルーズ振興と地域活性化を目的として設立されました。地方自治体、民間団体、国の機関などが参加する「全体会議」と、近畿・中国・四国・九州の地域別の「エリア会議」から成り立っています。
主な取り組み内容は、クルーズ船社の要望に基づいた魅力的なクルーズプランの提案や、瀬戸内海の観光コンテンツの紹介とPR活動です。また、瀬戸内海全域の港が連携し、エリア全体でクルーズを誘致することでブランド力を高めることに成功しています。
このほかにも、国や自治体ではクルーズ船の大型化に伴い港の改修を進めるなど、クルーズ船が寄港しやすい環境作りも強化しています。
クルーズ観光の拡大で地方誘客促進へ
コロナ禍が明け、順調に需要が回復しているクルーズ船需要。最近では、日本を発着するクルーズ船が大型化する傾向が見られ、岸壁やクルーズターミナルといった受け入れ施設の対応が今後さらに重要になると予想されます。
さらに、これまで人気の寄港地であった横浜や九州に加え、北海道や瀬戸内海、日本海沿岸にも寄港地が拡大。地方への観光客誘致の足がかりとしても期待されており、観光客数や消費額の向上を目指し、官民が一体となった取り組みが進められています。
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- 国土交通省:クルーズ船を取り巻く状況
- 国土交通省:クルーズdeツナグ・プロジェクト
- J Stage:佐々木 友子 ほか「我が国に寄港したクルーズ船と訪日クルーズ旅客の動向分析 ならびに経済効果の試算」『沿岸域学会誌』、2019年
- 観光庁:訪日外国人消費動向調査 / インバウンド消費動向調査
- CRUISE LINES INTERNATIONAL ASSOCIATION:2024 State of the Cruise Industry Report
- 国土交通省 港湾局:国際クルーズ運航に向けた現状について
- 瀬戸内海クルーズ推進会議:瀬戸内海クルーズ推進会議の取り組みについて
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