インバウンドのデータ分析に使える「FFデータ」を活用してみよう!

完全無料 口コミアカデミー 「インバウンドの教科書」出ました! 国別・都道府県別データ・トレンドをカバー 見てみる

はじめまして。株式会社デイアライブの川口と申します。観光DXの支援やインバウンド領域のデジタルマーケティングのサポートに日々取り組んでいる中で、学んだことや気づいたことを隔月で寄稿していきます。

今回はインバウンドのデータ分析に使える「FFデータ」の活用についてご紹介します。

文/川口政樹(株式会社デイアライブ

インバウンドの最新情報をお届け!訪日ラボのメールマガジンに登録する(無料)

インバウンドに関するデータをうまく活用する

先月末に、観光庁の補正予算が公表されましたね。

地方誘客促進によるインバウンド拡大」に80億円の予算が充てられており、「インバウンドの地域偏在を解消し、全国津々浦々に観光による経済効果を波及する」ことを、国としてもしっかり取り組んでいくぞ、という思いが伝わってきます。

▲出典:観光庁「令和6年度第1次補正予算」

逆に言えば、地域におけるインバウンド誘客は、まだまだ道半ばという現状がある、ということなんですよね。

観光庁宿泊旅行統計データで、外国人延べ宿泊者数の上位9都道府県と残り38県の比率をみたところ、上位の9都道府県が8割以上を占めており、見事に「パレートの法則(上位2割が合計の8割を占める)」が当てはまる結果となっています。

宿泊旅行統計
▲観光庁「宿泊旅行統計調査」より(株)デイアライブ作成

この地域偏在を解消するため、国としては手厚い補助事業で地域を支援しているわけですが、地域側においても、自分たちで「インバウンドを誘客するために、何をどうやって取り組んでいくか」を考えていく必要があります。

まずは現状の把握からということで、データを収集して分析しましょう、というのがセオリーではありますが、インバウンドのデータというのは、独自で集めようとすると結構お金がかかったりするんですよね。なので、国や都道府県が収集・公表しているデータについて、どんな種類があるのかを知って、うまく活用することが求められます。

今回は、そういったデータの一つでありながら、あまり知られていない「FFデータ」をご紹介していきます。

FFデータとは

FFデータは「Flow of Foreigners-Data:訪日外国人流動データ」の略称で、訪日外国人の日本国内での移動について分析するためのデータです(ちなみに、「エフエフデータ」と読みます)。

このデータは、以下の3つの統計情報を組み合わせて作成されています。

  • 観光庁:訪日外国人消費動向調査
  • 航空局:国際航空旅客動態調査
  • 法務省:出入国管理統計月報

1つ目の「観光庁訪日外国人消費動向調査」は、今年度から「インバウンド消費動向調査」と名称が変わり、個票データも提供されるようになったことから、活用されている方も多いと思います。

関連記事:インバウンド消費動向調査の「個票データ」9月末に提供開始、どう活用する? “仕掛け人”である観光庁 河田氏に聞く

2つ目の「航空局:国際航空旅客動態調査」は、国土交通省所管ということもあり、チェックされている方は少ないと思いますが、空港ごとに「性別・年齢・職業・旅行目的・旅行形態・滞在日数・年収・国内訪問地」などがデータで示されており、これだけでも十分に活用できるものになっています。

▲出典:航空局「国際航空旅客動態調査」

ちなみにこの調査は、空港で出国者にアンケートをとってるんですが、観光庁の「インバウンド消費動向調査」も同じような手法で調査をしています。もちろん調査目的が違うので、それぞれの目的に合わせた調査となっているのですが、アンケート項目は似たようなものもあるので、若干、縦割り行政の側面を感じる部分もありますね。

3つ目の「法務省:出入国管理統計月報」は、JNTOが毎月公表している「訪日外客数」の元データです。この調査結果についても、「国際航空旅客動態調査」と同様に元データを見られている方は少ないと思いますが、「港(空港・港湾)」ごとの「国籍・在留資格」の実数がピポットテーブルで提供されているので、自分の地域の空港に、意外な国の人が来ていることが分かったりして面白いです。

▲出典:法務省(出入国在留管理庁)「出入国管理統計」

FFデータは、これら3つの調査を組み合わせることで、各都道府県訪問者の国籍や旅行目的、周遊ルートや移動の際の利用交通機関等について分析することができるようになっています。

さまざまな分析ができる有用なデータなんですが、公表に時間がかかるのが難点。2022年のデータが2024年6月に公表されたところなので、現時点ではコロナ前の2019年データを活用することになります。

FFデータを利用するための準備

次に、FFデータを利用するための手順について説明していきます。

まず国土交通省の「FF-Data(訪日外国人流動データ)」のページにアクセスし、

  • FF-Data(訪日外国人流動データ)の概要と利用例
  • FF-Data(訪日外国人流動データ)利用の手引き

をダウンロードし、目を通しておきます。

「概要と利用例」に26の分析例が示されているので、これを見て、実際にどのような分析ができるかを理解しましょう。

(分析例の一部)

  • 特定の都道府県の流動分析
  • 国籍別都道府県年間入込客数ランキング
  • 首都圏-中国(広島・岡山)間旅行者の経由地を含む流動分析
  • 都道府県別旅行目的別シェア
  • 国籍別入込客数(北海道の例)
  • 入国空港からの訪問地に関する分析例
  • 国籍別の訪問地に関する分析例
  • 特定地域の入込客数と地域間流動量(九州の例)
  • 東京からの流動分析の推移(北陸の例)

データ分析の基となるExcelデータは、「集計データファイル」のページからダウンロードできます。

FFデータの活用事例

それでは、実際にFFデータを使って分析をしてみましょう。

FFデータのExcelデータはちょっと分かりにくいので、「概要と利用例」の分析例と同じような分析をするにはどのようにデータを見ればよいのか、を解説していきます。細かく説明しないと分かりづらいので、マニュアルっぽくなってしまいますが、ご容赦ください。

まず、分析例3の「特定の都道府県の流動分析(富山県の例2)」の数字を出すためには、どのようにExcelから数字を抽出すればよいかを見ていきましょう。

国土交通省「FF-Data(訪日外国人流動データ) の概要と利用例」
▲出典:国土交通省「FF-Data(訪日外国人流動データ) の概要と利用例」

この分析では、富山県から近隣県に移動した訪日外国人数と、近隣県から富山県に来た訪日外国人数に加え、近隣県移動した訪日外国人の国籍割合が示されています。この分析をするためには、国籍別のデータを抽出したいので、「集計データファイル」にある「都道府県流動表」の、2019年の国籍別OD表である「2019 Nationality OD」データを開きます。

Excelデータを開いてみると、「利用の手引き」のP.7~8に説明があるとおり、「国内訪問地間」、「入国空海港から最初の国内訪問地」、「最後の国内訪問地から出国空海港」という3つのエリアから構成されていることが分かります。

国土交通省「FF-Data(訪日外国人流動データ)利用の手引き」
▲出典:国土交通省「FF-Data(訪日外国人流動データ)利用の手引き」

富山県から長野県に移動した訪日外国人数を抽出するには、「全国籍全機関」シートにおいて、まず「国内訪問地間」のデータを確認します。出発地が富山県なので、30行目の富山県のデータのうち、目的地が長野県となるAB列がクロスする「AB30」セルの数字「54.393」(単位:千人)が「国内訪問地間」における「富山 → 長野」の訪日外国人の人数となります。

次に、「入国空海港から最初の国内訪問地」のデータを確認します。

「富山空港」から日本に入国して長野県に移動した人数は、同じシートの78行目の入国空海港が富山空港のデータのうち、目的地が長野県となるAB列がクロスする「AB78」セルの数字「0.644」となり、これが「入国空海港から最初の国内訪問地」における「富山 → 長野」の訪日外国人の人数となります。国内訪問地間の「54.393」と、入国空海港から最初の国内訪問地「0.644」を合計した「55.037=55,037人」が、富山県から長野県に移動した訪日外国人数、ということです。

これを国籍別で見ていくには、国籍別のシートにおいて、同様に「AB30」セルと「AB78」セルを足していくことで、数字を出すことができます。

逆に、長野県から富山県に移動した訪日外国人数を抽出するには、「国内訪問地間」のデータと「最後の国内訪問地から出国空海港」のデータを足していくことになります。「国内訪問地間」の「長野 → 富山」の人数は、出発地が長野県なので、34行目の長野県のデータのうち、目的地が富山県となるX列がクロスする「X34」セルの数字「49.853」となります。そして、最後の国内訪問地(長野県)から富山空港で出国した人数は、出発地が長野県である34行目と、出国空海港が富山空港であるBT列がクロスする「BT34」セルの数字「1.213」となります。この2つの数字を合計した「51.066=51,066人」が、長野県から富山県に移動した訪日外国人数、ということですね。

こちらも国籍別で見ていくには、国籍別のシートにおいて、同様に「X34」セルと「BT34」セルを足していけばOKです。なお、分析例3にある円グラフの国籍別割合の数字は、「富山 → 長野」「長野 → 富山」の数字を合計した国籍割合となっています。

それでは次に、「公表用データベース」のデータを使った分析例として、分析例6の「特定の都道府県の流動分析(奈良県の例1)」を見ていきましょう。

FF-Data(訪日外国人流動データ) の概要と利用例
▲出典:国土交通省「FF-Data(訪日外国人流動データ) の概要と利用例」

この分析では、奈良県における訪日外国人の国籍別人数と年代別割合、国籍別・性別の人数が分かります。使うデータは、「集計データファイル」にある「公表用データベース」2019年の「2019 Basic DB」です。

このExcelの「国籍別・性別・年代別・全機関」シートには、出国空海港ごとの、国籍・性別・年代・旅行目的・出発地・目的地のデータが並んでいます。こういうかたちでデータが並んでいるときは、BIツールであるTableauやGoogle Looker Studioを使う方が圧倒的に便利ではありますが、Excelで数字を出すやり方をご紹介していきます。

まず、奈良県が目的地となっているデータを見るため、Q列にフィルターをかけて「奈良」を抽出します。次に、例えば韓国の年代別の人数を出すためには、そこから「国籍」データのE列で韓国に絞り込み、さらに「年代」のI列を年代別でソートして、表示されたデータのX列「年間の訪日外国人流動量」を合計する、という作業になり、他の国のデータも同様に地道な作業を繰り返していくと、分析例⑥の円グラフと人数を出すことができます。

同様に、韓国の性別ごとの数字を出すには、目的地を奈良に、国籍を韓国にしたうえで、G列の性別を「男性」「女性」のそれぞれでソートして、表示されたデータのX列「年間の訪日外国人流動量」を合計すればOKですね。

こうやって実際にFFデータのExcelを触ってみると、「入国した空港ごとの国籍別訪問者データも出せるので、どの空港でプロモーションすれば有効かが分かりそうだな」とか、「宿泊旅行統計の国籍別延べ宿泊者数と比較することで、国籍ごとの宿泊率を推計できるから、宿泊を訴求すべきターゲット国が絞り込めそうだな」など、データ分析をベースとした施策のアイデアが色々と浮かんできます。そのためにも、行政機関が公表しているデータにどんなものがあるかをしっかりと理解して、実際にデータを触ってみることをオススメします。

データ活用時の注意点

最後に、データを活用する際の注意点をいくつかご紹介します。

FFデータに限らず、アンケート調査がベースとなっているものについて知っておくべきことは、当たり前ですがデータの信頼度には限度がある、ということ。特に、細かくデータを絞り込んでいくと、該当するデータの母数が少なくなっちゃうので、誤差が大きくなってしまいます。ある程度の誤差が発生するのはやむを得ないので、そういうものだと割り切ったうえで活用していきましょう。

また、データがあると、それを分析することで有用な示唆を得たいと思ってしまいますが、それだとデータ分析をすることが「目的」となってしまいます。そうではなく、なんらかの「意思決定」をするためにエビデンスとなるデータを分析するわけなので、データ分析は「手段」である、ということを忘れないようにしましょう。

冒頭にも書いたとおり、自分たちで「インバウンドを誘客するために、何をどうやって取り組んでいくか」を考えていくうえで、「現状がこうなっているのは、こういったことが理由ではないか?それを乗り越えるために、こんなことに取り組むべきではないか?」といった仮説を設定し、その仮説を検証する(目的)ために、どんなデータを分析(手段)すればいいんだっけ?という流れでデータを活用することが大切です。

もちろん、上記にも書いたとおり、データを分析していく過程で施策のアイデアを思いつくこともあるので、問題意識を持ちながら、主体的にデータに向き合うという姿勢こそが、データ分析をするうえで最も重要なことなんじゃないかな、と思います。

著者プロフィール:株式会社デイアライブ 川口政樹


1996年三重県庁に入庁後、農林、土木、福祉、教育などの行政分野での勤務を経て、2015年から観光行政に携わる。三重県観光連盟出向中に、事務局次長として公式サイトやSNSを全国1位に育てあげるとともに、サイトを活用したマネタイズの仕組みを構築し、DMOの収益構造を大きく改善。出向後は、県庁にて観光DXの推進や観光振興基本計画の策定を担当。2024年から株式会社デイアライブにて、セミナー講師、観光DX・デジタルマーケティングの支援、観光人材育成などを行っている。観光庁「令和6年度 地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣事業」登録専門家。https://dayalive.jp/

インバウンド対策にお困りですか?
「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!

訪日ラボに相談してみる

【インバウンド情報まとめ 2024年11月後編】中国、タイの2025年祝日発表 ほか

訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月発行しています。

この記事では、主に11月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。

※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。

口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。

詳しくはこちらをご覧ください。

中国、タイの2025年祝日発表 ほか:インバウンド情報まとめ【2024年11月後編】

今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」

スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。

「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!

→ 【無料】「インバウンドの教科書」を見てみる

完全無料 口コミアカデミー 「インバウンドの教科書」出ました! 国別・都道府県別データ・トレンドをカバー 見てみる

関連インバウンド記事

     

    役にたったら
    いいね!してください

      この記事の筆者

      川口政樹

      川口政樹

      1996年三重県庁に入庁後、農林、土木、福祉、教育などの行政分野での勤務を経て、2015年から観光行政に携わる。三重県観光連盟出向中に、事務局次長として公式サイトやSNSを全国1位に育てあげるとともに、サイトを活用したマネタイズの仕組みを構築し、DMOの収益構造を大きく改善。出向後は、県庁にて観光DXの推進や観光振興基本計画の策定を担当。2024年から株式会社デイアライブにて、セミナー講師、観光DX・デジタルマーケティングの支援、観光人材育成などを行っている。観光庁「令和6年度 地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣事業」登録専門家。

      プロモーションのご相談や店舗の集客力アップに