観光庁が実施している「インバウンド消費動向調査」の個票データ(※個々の回答を記録したデータ)の提供が、2024年9月からスタートします。個票データの提供先を「利用申請を行った者は誰でも可能」と変更するとともに、提供プロセスを簡素化したことにより、企業や自治体が柔軟にデータを活用し、訪日観光の活性化や事業拡大に向けた取り組みを強化できるようになります。
9月末のデータ提供開始(予定)に先立ち、デジタルマーケティング支援を行うVpon JAPAN株式会社と株式会社デイアライブが合同で、9月5日にセミナーを開催。「【個票データの公開でどう変わる?】訪日マーケティングリサーチの現状と今後の展望」と題し、観光庁観光戦略課の課長である河田敦弥氏を招いて調査の概要やデータ活用の注意点などを解説しました。
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インバウンド消費動向調査の概要
セミナーではまず、観光庁の河田敦弥氏から、「インバウンド消費動向調査」の概要や「個票データ」の詳細な解説が行われました。
インバウンド消費動向調査は従来の「訪日外国人消費動向調査」の名称と公表方法が変更されたもので、2024年4-6月期から適用されています。
従来の訪日外国人消費動向調査では、集計データに基づく統計が主な目的でした。一方でインバウンド消費動向調査では、これまでと同様の調査を実施しつつ、個別の外国人旅行者の消費行動データをより広く提供できるように。自治体や民間企業が、訪日外国人旅行者の消費行動をより詳細に把握・分析できるようにすることが目的なのだそうです。
従来の消費動向調査では、観光庁が「観光庁の視点」で統計を行ってきました。今回から調査のRAWデータ(個票データ)を個別に提供することで、企業や自治体が各々の目的と視点(切り口)でデータを活用し、観光促進策が強化されることが期待されています。
9月末から提供が開始される「個票データ」とは?
先述の通り、2024年4-6月期の調査以降、外国人旅行者の個々の消費動向データ(個票データ)が提供されます(一部個人情報に該当する部分を除く)。
データ提供にあたっては、申請や提供手続きが大幅に簡素化され、これまでのように統計法上の要件を満たすプロセスは不要となります。個票データの提供は調査の締日からおよそ3か月後に開始され、たとえば2024年4-6月期分は2024年9月末を予定しています。
また、インバウンド消費動向調査の開始後も、従来の統計データや集計結果は観光庁のページにて引き続き同じ形式で公表されます。
ただし、今回発表された個票データの簡素化された提供方法は、2024年4-6月期以降のデータが適用対象となります。2024年1-3月期までのデータは、従来通りの申請が必要です。
インバウンド消費動向調査の3つの調査
インバウンド消費動向調査は四半期ごとに下記の3つの調査を実施しています。
- 全国調査
- 地域調査
- クルーズ調査
全国調査とは、国籍・地域ごとの旅行者の詳細な消費データの収集を目的とするものです。成田空港や羽田空港、関西国際空港のほか、博多港や関門港など全国17か所の空海港で調査を実施。日本を出国する外国人(乗員や滞期間1年以上を除く)に対し、主な来訪目的や来訪回数、滞在中の支出などについて聞き取りを行います。
地域調査とは、都道府県ごとの外国人旅行者の消費データの収集を目的とするものです。全国25か所の空海港で調査を実施。訪問地(都道府県)ごとの支出を費目別で尋ねるほか、主な来訪目的や利用した交通手段、買い物場所、決済方法、その他意識調査などを行います。
クルーズ調査とは、クルーズ客の消費データの収集を目的とするものです。博多港、長崎港、那覇港、平良港、石垣港で調査を実施し、クルーズ船の料金や寄港地ごとの費目別支出を調査します。
聞き取りは、外国語会話が可能な調査員がタブレット端末または紙調査票を用いて行っています。
個票データの公開スケジュール
個票データは四半期ごとに3つの調査それぞれがRAWデータで提供され、各調査ごとに「CSV形式」「SAV形式」「変数リスト」のファイルが公開されます。
個票データの公開スケジュールはおおむね締日より3か月後以降から開始予定。2024年4-6月期は2024年9月末、2024年7-9月期は2024年12月末、2024年10-12月期は2025年3月末の予定です。
インバウンド消費動向調査の利用方法と注意点
個票データは、観光庁HPにある専用フォームからリクエストを送ります。契約書に同意した後、必要事項を記入して送信。観光庁が記入内容を確認後、大容量ファイル転送システムにてデータが転送されます。
データを活用した資料等を外部へ公開する際には観光庁のクレジットを明記する必要がありますが、社内で活用する場合には不要です。
調査を利活用する上で注意したい「誤差」について
今回のセミナーで観光庁 河田氏が何よりも強調したのは、調査の特性によって発生しうる「誤差」について。インバウンド消費動向調査では四半期ごとの目標サンプル数を設定し、全国調査では7,830票、地域調査では24,620票と大規模な調査を行っていますが、調査の性質上、全体で3〜20%程度の誤差が発生するとしています。
こうした誤差をできるだけ少なくすべく、各調査で標準誤差率の目標も設定。全国調査では国籍・地域ごとに標準誤差率3%~10%程度、地域調査では都道府県毎に標準誤差率5%~20%を目標としています。
できるだけ誤差を減らす工夫がなされてはいますが、それでも調査の性質上、ゼロにすることはできません。データを活用する際には、誤差が発生しうる点についても考慮しておく必要があるでしょう。
【実践編】観光データの活用事例:仮説の立て方と検証の仕方
セミナーの後半では、「観光データは仮説をもって元データを見よう!」というテーマで、自治体や企業のデジタルマーケティング支援を行う株式会社デイアライブの川口政樹氏が登壇。三重県庁・三重県観光連盟で観光行政に携わり、実際に旧・訪日外国人消費動向調査の「個票データ」を閲覧した経験をもとに、データの活用方法や分析の際の注意点を紹介しました。
国全体のデータ「定住人口1人分の消費額=インバウンド8人分」は本当か?
地方の定住人口が減少する中で、インバウンドの地方誘客による経済効果に注目が集まっています。観光庁が公開している2019年の「関係交流人口創出の経済効果」では、定住人口1人当たりの年間消費額を旅行者の消費額に換算。定住人口1人分の消費額は、外国人旅行者8人分、国内旅行者(宿泊) 23人分、国内旅行者(日帰り)75人分にあたると試算しています。
この数値に対して川口氏は、「国全体でみるとそうなるが、地域でも同じことが言えるのか?」と疑問を提示。特に欧米豪の旅行者は宿泊数が多いので、「1泊当たりに換算すると、そこまで高くないのでは」と仮説を提示しました。
つまり、特に外国人旅行者の宿泊日数が伸びない地域では、「インバウンドの方が消費額が多い」という通説が成り立たない可能性があるわけです。この場合、国内旅行者も含めての戦略設計や、外国人旅行者の宿泊日数を伸ばす戦略も考える必要が出てくるといえます。
では、実際にデータを見てみましょう。2019年の1人1回当たりの旅行支出は外国人が15万8,531円で、国内旅行者は5万5,054円(宿泊)です。外国人旅行者の平均宿泊日数は8.8泊で、1人1回当たりの旅行支出を日数で割ると、1人1泊当たりの消費額は1万8,014円になります。
一方で、国内旅行者の平均宿泊数は2.26泊(帰省等も含む)で、1人1泊当たりの消費額は2万4,360円になります。
定住人口1人当たりの年間消費額(130万円)を1人1泊当たりの消費額で割ると、外国人旅行者は72泊分、国内旅行者は53泊分。外国人旅行者と国内旅行者が逆転しており、川口氏の仮説が立証されたことになります。
※編集部注:なお、上記は2019年のデータです。インバウンドの消費単価は現時点の最新データ(2024年4-6月期)によると23万8,722円で、平均泊数8.5泊で割ると2万8,085円。インバウンド1泊当たりの消費単価はコロナ禍前の1万8,014円から大きく上昇し、国内宿泊旅行者と同水準となっていることがわかっています。
このことからも、常に最新のデータを参照して検証することが重要であるといえそうです。
仮説を持ってデータを検証しよう
川口氏は「国全体の観光データが、そのまま地域に当てはまるわけではありません」と解説。「本当はこうなのではないか」といった自分なりの仮説を立てて、元データを活用する必要があるとしています。
一方で、インバウンド消費動向調査の個票データもぜひ活用してもらいたいとしたうえで、「地域レベルで活用する場合、サンプル数が少なくなってしまうので、数値の取り扱いには注意が必要」と述べました。これに対し観光庁の河田氏は、地域ごとにできるだけ偏りが出ないよう工夫しているものの、どうしても差が出てしまう部分はあるため、サンプル数についてもしっかりと確認しながら活用することを推奨しています。
今回から提供が開始される外国人観光客の個票データは、活用する側の“使い方”が重要です。自社や地域の目的に合わせてデータをうまく活用することで、地方のインバウンド誘客の戦略や施策をさらに高度なものに進化させることが期待されます。
※本記事で紹介したセミナーは、2024年10月8日に第2回(再配信+追加の質疑応答)を実施するとのことです。ご興味のある方は以下のページをご確認ください。
→ 元自治体観光担当者の体験談から学ぶデジタルマーケティングセミナーVol.2 〜仕掛け人に”直接”学ぶ!訪日マーケティングリサーチの現状と今後の展望〜
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