インバウンド市場が拡大するなかで、適切なインバウンド対策を実施するために訪日外国人観光客の意向を把握することが求められています。
そこで本記事では、(株)日本政策投資銀行と(公財)日本交通公社が発表した「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2024年度版」を引用し、訪日客の訪問意向や消費について考察します。
同調査は2012年から継続的に実施されているもので、今回は世界的なインバウンド観光再開後の外国人旅行者の意向変化などを把握するため、2024年7月8日~18日に実施されています。調査対象は、アジアと欧米豪に属する12か国・地域に居住する、20歳〜79歳の男女かつ、海外旅行経験者7,796人です。
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次の海外旅行先として日本が1位に
「次に観光旅行したい国・地域」として、日本は全体のうち55%となり、1位でした。
アジア市場ではトップを独走
特に、近隣国であるアジア居住者の回答をみると、高い水準でトップを維持しており、2024年度には64%の人が次に観光旅行したい国として日本を挙げています。2位の韓国と比較すると30%近い差があります。
なかでも同調査では、特に訪日リピーターが多い台湾や香港では2019年度以降、継続して70%を超える人々が次の海外旅行先候補として日本を挙げています。
また、韓国・シンガポールでは、2位、3位の国・地域への旅行意向が低下している一方、日本への旅行意向は2022年以降、上昇し続けています。
「再び訪れたい国」でもトップに
欧米豪においても、日本は次の旅行先として高い人気があります。欧米豪の回答者のうち、38%の人が次の旅行先として日本を候補に挙げています。前回調査と比較すると日本の選択率は3ポイント上昇し、1位となりました。
さらに、日本は再訪意向率の高い旅行先としても、アジアでは68%、欧米豪では44%とそれぞれ最も高い結果となりました。
訪日旅行では個別旅行で自然や風景を楽しむ
コロナ後、日本への旅行時に、パッケージプランなどを選ばずに航空券と宿泊施設を個別に手配をする人が増えています。同調査でも新型コロナ収束後の旅行手配方法ではアジアで「航空券と宿泊施設を個別に手配」の割合が増加しており、2022年10月以降の訪日旅行者においてアジアは36%、欧米豪では31%が個別手配を選択しています。
※5%水準で有意
そして、訪日旅行で体験したいこと / したことは、アジアでも欧米豪でも「自然や風景の見物」が1位となりました。2位以降について、体験したいことは「桜の観賞」「伝統的日本料理」と続き、体験したことは「伝統的な日本料理」「有名な史跡や歴史的な建造物の見物」と続いています。
実際に訪日旅行で体験したことには、アジアと欧米豪で異なる傾向が見られます。
具体的には、アジアでは、レジャーや食、買い物関連の体験、欧米豪では歴史・文化関連の体験が人気です。ただし、自然関連の体験は「自然や風景の見物」を除き、アジアと欧米豪による実施率の差はあまりありません。
これらのアクティビティを楽しむにあたっての情報収集の仕方は、初訪日者と訪日リピーターとで差があります。
特に初訪日者は、旅行会社のホームページを参考にしている場合が多い一方で、訪日リピーターは初訪日者に比べて動画サイトを参考にしている場合が多いようです。
課題は地方への訪問率の低さ
同調査によると、訪日旅行意向者のうち「日本の地方にある(首都圏・都市部から離れた)観光地」ヘの訪問を意向している人は、イギリスを除き、90%超えと高水準な結果となりました。
一方で、東京・大阪・北海道・沖縄などの代表的な観光地以外への訪問経験を持つ人は10%以下です。高い訪問意向率を、実際の訪問率へとつなげるための取り組みが必要です。
訪問率を上げるための取り組みとしては、認知向上が有効と考えられます。日本の観光地の認知率と観光地の認知者における訪問意向率は0.96と強い相関があり、認知率が高まるほど訪問意向率が高まる傾向にあるためです。
また同調査によると、地方観光地への訪問は、初訪日者より訪日リピーターの方が割合が多い傾向となりました。「日本の地方にある(首都圏・都市部から離れた)観光地を2015年以降に旅行したことがある」と回答した人を初訪日者と訪日リピーターで比較すると、初訪日者は全体の72%、訪日リピーターは90%となっています。
現状では、訪日旅行で体験したことのうち「地方部」での実施割合が最も高いのは「雪景色鑑賞」「アクティビティを楽しむこと」「自然や風景の見物」など、自然資源を活用した活動が主だとわかりました。一方で、これらの「地方部」での実施割合が高い活動は全体の2割程度であり、地方部の地域資源には活用の余地があると分析されています。
今回の調査結果を踏まえると、初訪日者向けにもより気軽に地方観光地への訪問を促すような活動や、地方部でできる体験の種類を増やすことが必要だといえそうです。
円安が訪日旅行意向に与える影響
訪日旅行経験者のうち、「訪日旅行の決定に円安が影響した」と回答した人は36%でした。国・地域別に見ると、香港(46%)、台湾(42%)、韓国(41%)とアジアで割合が高くなっています。
なお、円安実感者のうち約9割が、訪日旅行時の消費行動に変化があったと回答しています。具体的には「数量を多く購入した」(44%)、次いで「高価な食事をした」(38%)、「宿泊施設をグレードアップした」(27%)と、訪日旅行時に積極的に追加消費を行っていることがわかります。
日本の観光地の維持・存続への意識と行動
同調査では、訪日旅行でのトラブルや面倒を見聞きした経験として、32%が「観光地・観光施設の混雑」と回答しています。これは2019年の調査結果と大きく変わりません。
一方で、観光資源・施設の混雑緩和や保護のため金銭を負担することについては、63%が賛成しています。2019年よりも約20ポイント増加しており、観光地の維持・存続への意識が高まっていることがうかがえます。
観光資源の保護に関連して、海外旅行先でのサステナブルな取り組みについても調査されています。「今後実践したい」(意識)サステナブルな取り組みと「実施した」(行動)サステナブルな取り組みを尋ねると、多くの項目で意識が行動を上回っており乖離がありました。
特に「地域の事業者が販売する商品、サービスを適正価格で購入する」「混雑を回避するため、比較的空いている時間帯に訪問する」「地域の祭りや行事等に参加する」など、地域社会に関連する項目で意識と行動の乖離が大きく見られます。
一方、「資源保護のための協力金等を支払う」「伝統工芸品等の模造品を購入しない」 「宿泊施設におけるアメニティグッズを辞退する」 「宿泊施設におけるリネン類の交換を辞退する」においては、行動が意識を上回る結果となりました。
大阪・関西万博の訪問意向は72%
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の認知率は、訪日意向者全体の51%でした。2023年度の調査と比較して約20ポイント上昇しています。
また、訪日意向者全体の72%が大阪・関西万博に行ってみたいと回答しています。
能登半島地震による訪日旅行への影響は50%以下
2024年1月の能登半島地震による訪日旅行への影響について、訪日経験者の57%、訪日未経験の訪日意向者の46%が「影響はない」と回答しています。
また、アジアと欧米豪の訪日経験者を比較すると、アジアの方が「影響がない」と回答した割合が高くなりました。国・地域別に見ると、訪日リピーターの多い香港では65%、台湾では61%が「影響はない」と回答しています。
訪日経験がある人や、日本に近い地域の居住者など、日本を知っている人の方が「影響がない」と考える割合が高い傾向が見られました。
同調査の結果から、アジア・欧米豪ともに訪日意向が高いことがわかりました。また、コロナの収束や円安なども影響し、訪日旅行における消費行動の活発化も見られます。
高い訪日意向を、実際の訪日者増加につなげるため、各観光地のさらなる認知度向上などが求められます。
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