大手旅行サイトのBooking.com(ブッキングドットコム)は2024年12月、「2025年の旅行トレンド」を発表。AIを活用した個別化された旅行体験や多世代での思い出作り、長寿を目指すリトリート旅など、9つの新しいトレンドを予測しました。
また、発表会ではインバウンド需要の高まりを地域の価値向上につなげる方法についてもパネルディスカッションを開催。地域経済の活性化や観光を通じた地方創生の重要性が指摘されました。
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Booking.com「2025年の旅行トレンド」を発表
2025年の「旅行トレンド予測」に関する調査は、今後12~24か月間以内に出張またはレジャー・観光目的で旅行に出かける予定のある成人を対象にBooking.comが実施。33の国・地域の計27,713名の回答者が対象となりました。
今回、Booking.comが発表した「2025年の旅行トレンド」は次の9つです。
■2025年の旅行トレンド一覧
- 宇宙を体感する“ナイトツーリズム”
- 長寿を得る没入型リトリート旅
- 個の欲求を満たすAI活用の旅
- 多世代で紡ぐ、心に刻む旅
- 男性‘同志’、ウェルネスと自己啓発の旅
- シニアの枠を超えてスリル満点な冒険への旅
- 見えない細部のニーズをテクノロジーで形にする旅
- ヴィンテージを楽しむ旅
- 空港を旅程の一部として楽しむ旅
発表会では、このうち「2. 長寿を得る没入型リトリート旅」「3. 個の欲求を満たすAI活用の旅」「4. 多世代で紡ぐ、心に刻む旅」「5. 男性‘同志’、ウェルネスと自己啓発の旅」「6. シニアの枠を超えてスリル満点な冒険への旅」について、詳細な説明が行われました。
個の欲求を満たすAI活用の旅
「AIの活用」は、2025年の旅行業界においても大きなトレンドとなっています。同社でも「AIトリップ・プランナー」を導入し、AIによる個別の旅行先の提案などサービスが進行中だといいます。
今回の同社の調査によると、生成AIを活用したさらなるパーソナライズされた旅行体験を求める声がより大きくなっていることが判明。世界の旅行者の41%(日本の旅行者:26%)がAIを活用して旅行を計画することに興味を示しており、AIを活用した今までとは違った旅行体験に対するニーズが高まっているといいます。
多世代で紡ぐ、心に刻む旅
2025年のトレンドとして、多世代旅行が挙げられます。家族の関心は将来のための貯蓄から、家族での旅行を通じて経験を分かち合うことを大切にしていきたいという気持ちが大きくなっていると紹介されました。特にアジア太平洋地域でこの傾向は顕著だといいます。
調査対象の旅行者の約半数が、子どもに遺産として貯蓄を残すのではなく、旅行に投資して楽しい思い出を作ることに使いたいと回答しています。
長寿を得る没入型リトリート旅
コロナ後、多くの人々が心身の健康を重視する傾向が強くなり、自身のライフスタイルをより健康的により良いものにしていきたいという希望を多くの人が持っています。
同社の調査では、対象者全体の60%が旅行に癒しを求めているという結果に。さらに単なるスパやマッサージだけでなく、長寿につながるような、もっと根本的なものが求められていることもわかっています。また地域の文化とふれあい、つながっていきたいと考えている旅行者も多いようです。
シニアの枠を超えてスリル満点な冒険への旅
「エイジレスな旅」も大きなトレンドだと予想されています。同社の調査によると、約23%のベビーブーマー世代の旅行者が今までとは違った大胆なことを挑戦してみたいと回答。たとえばハイキングや氷河の探索などの冒険を求めていて、静かで平和なリタイア生活を望んでいないことがわかったといいます。
地方への需要は拡大中
2025年のトレンドの共通点について同社は「自分を変えたい、変革したい」といった願望と、「訪問先の地域とさらに深くつながりたい」という要望があると説明しました。
また、日本における従来の人気観光地であった東京や京都に限定されず、地方の魅力を発見しようとする観光客が増加しているといいます。
スキーシーズンであれば野沢温泉やニセコ、白馬などが人気だとしており、そのほかにも松山(愛媛県)や岡山など、従来は外国人の認知度も高くなかった場所の人気も拡大中で、地方への需要がより大きくなっていると紹介しました。
また「2025年に人気を集める世界の旅行先」には、日本からは唯一「沖縄県那覇市」が選ばれました。その理由として、登壇者からは「ウェルネスやリトリートといったニーズが高まるなかで、沖縄県に注目が集まっているのではないか」という見解が述べられました。
インバウンド需要の高まりを地域の価値向上につなげる方法とは
発表会の後半では、「地域の価値向上を持続するためには」というテーマでパネルディスカッションが実施されました。
以下の4名が登壇し、それぞれの立場から議論を深めました。
- 宮崎俊哉 氏(株式会社三菱総合研究所 社会インフラ事業本部 観光立国実現支援チームリーダー 主席研究員)
- 八尾良太郎 氏(野沢温泉企画 Communication Strategy + Creative Director・野沢温泉蒸留所 Marketing Director・野沢温泉ロッヂ オーナー)
- 後藤理恵 氏(ホテルグランコンソルト那覇 / ホテルコンソルト新大阪 総支配人)
- 安倍宏行 氏(ジャーナリスト・Japan In-depth 編集長・元フジテレビ解説委員)
インバウンド需要の高まりと課題
パネルディスカッションの冒頭のテーマとして、インバウンド需要の高まりと課題について議論が交わされました。後藤氏は「直近6か月では、利用者の6割がインバウンド客」と述べ、ホテル運営において、需要の高まりを実際に感じている様子を紹介しました。
長野県の野沢温泉で宿や蒸留所を営む八尾氏も「12月〜2月の3か月は、利用者の8割がインバウンド客」と述べた上で、インバウンド需要による呼び込みの課題も説明。人口3,300人程度の野沢温泉には、ニセコや白馬ような大規模ホテルはありません。村は小規模民宿の集合体であるため、「旅行サイトから利用者が地域のことを知り、集客につながるのは重要」と述べました。
インバウンド獲得とAI
次に、旅の習慣やあり方が変わるなかで、生成AIの活用やその可能性について議論が進みました。
宮崎氏は、旅行業界におけるAIの活用には2つのパターンがあると説明。ひとつが「マーケット(需要)に対してAIを活用すること」、もうひとつが「サービス(共有)の方で活用する」ことだといいます。
日本で特に地方への誘客を促進するためには、前者の「マーケットに働きかける手段としてのAIの活用」が重要であり前提になると宮崎氏は説明。「地方を知ってもらう」ということは、単に地名を知らせるだけでは不十分だと話します。その場所で何ができて、旅行者のどんなニーズに価値を提供できるところなのか、旅行者の価値観に合わせておすすめすることが必要であると宮崎氏は強調し、今後AIの活用で実現したい点だと述べました。
宮崎氏の意見を受けて八尾氏も「AIは地方の観光地にとって期待するサービスとなる」と発言。
野沢温泉は、ニセコや白馬と比較すると「雪山の観光地」としての認知度は高くないと話す一方で、たとえば「家族旅行での雪山体験」とすれば、徒歩圏内に温泉やバーが楽しめる野沢温泉はベストな選択肢になり得ると説明しました。
エリアのユニークポイントを旅行者のニーズに合わせて訴求できる「AIによるリコメンド機能」には大きく期待していると述べたほか、村にとっても旅行者にとってもベストな経験を提供できることは大きなメリットだと語りました。
AI活用の課題
AI活用の可能性についての話題を受け、安倍氏は地域の課題にも言及。「地元の事業者や行政がどのように町を発信していくのかをしっかり地域として考えながら取り組んでいく必要がある」と述べました。
これを受け八尾氏は、発信の方法は大きな課題があると説明。移住者である八尾氏から見るとエリアの魅力は冬だけでなく、他の季節もさまざまな魅力があるが、うまく伝えられていないのが現状だといいます。今ある魅力をいかに発信するか、そして通年での雇用にいかに結びつけるかなど、多くの課題があると述べました。
地域外にお金を漏らさないことが大切
次に「インバウンド需要と地域経済」についても議論が行われました。
宮崎氏は「地域の産業のひとつである観光をきっかけとして、地域全体の経済・経営を安定させるところまで考える必要があるが、日本ではなかなかできていない」と述べ、「域内調達率」に注目する必要性を説明しました。
観光収入が地域にもたらされても、仕入れている材料などの関係で、結局地域外に利益が出てしまう場合が多くあるといいます。そこで宮崎氏は、地域の金融機関などを通じてインバウンド需要の高まりを地域に還元するための仕組み作りが急務だと語りました。
宮崎氏の発言を受けて後藤氏は「地域活性化について(宿泊業者としても)もっと目を向けていかなければいけない」と発言し、「地域で起こっていることや、沖縄の将来や未来について語れるような場が必要だと改めて思う」と述べました。
八尾氏は「地域課題をいかに『よそ者』が入ることによって解決できるかが重要」と説明。地域外から参入する事業者は「利益のいいところ取り」をするのではなく、いかに地域の利益や未来にコミットできるかが重要だと述べました。
また安倍氏は香川県小豆島のナイトツーリズムの取り組みを例として紹介し、地域の観光資源を活かしていかに地元に新たなお金を落とせるかが重要であり、その魅力をいかに世界に発信するのかが鍵になってくると意見を述べました。
観光振興は手段であってゴールではない
パネルディスカッションの最後に宮崎氏は、「観光は地方創生の一つの手段であって、『それさえできればいい』というものではない」と説明。誘客だけでなく、地域の産業のつながりや人材の確保、育成の推進なども同時に考えないと、地方創生にはつながらないと述べました。
これを受けて安倍氏は、地方にはさまざまな観光資源があるからこそ新たなビジネスが生まれるチャンスがあると話した上で、地方をより活性化させるためにはどのようにしたらいいのか、2025年はその再定義のタイミングになると述べました。
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