近年、訪日外国人観光客の増加とともに、日本の伝統文化を体験したいというニーズが高まっています。なかでも柔道、剣道、相撲、空手、合気道などの「武道」は世界的に関心が高く、政府は武道と地域の観光資源を組み合わせた「武道ツーリズム」を推進しています。
全国各地で「武道ツーリズム」に取り組む自治体や団体が増えるなか、受け入れ体制の整備や関係者間での連携など、課題もいくつか存在します。本記事では、「武道ツーリズム」の概要や海外でのニーズ、問題点や事例を踏まえたうえで具体的な実施に向けたステップなどを解説します。
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武道ツーリズムとは
武道ツーリズムとは日本発祥のスポーツである「武道」と、地域の観光資源を組み合わせたツーリズムです。スポーツ庁は、スポーツツーリズム推進の一環で「武道ツーリズム」を提唱しており、全国各地でさまざまな取り組みが展開されています。
2023年に政府が発表した「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」で、武道等に着目したスポーツツーリズムを契機とした地方誘客の促進が盛り込まれるなど、国全体で武道ツーリズムが推進されています。
2025年2月には「第8回スポーツ文化ツーリズムシンポジウム」が開催され、スポーツや文化芸術資源を融合して地域の魅力を発信している優れた取り組みが表彰されました。政府によって「スポーツ文化ツーリズム」が推進されるなか、武道ツーリズムはスポーツと日本文化の融合した取り組みという観点から、外国人観光客の誘致と地域活性化が期待されています。
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海外で「武道」に高い関心
武道は世界での関心も高く、武道を観戦したり体験したりすることを目的に日本を訪れる外国人観光客も存在します。スポーツ庁が2016年に訪日旅行者数の上位7か国(中国、韓国、台湾、香港、アメリカ、タイ、オーストラリア)を対象に行った調査によると、日本で最も観たいスポーツの1位は「武道」で、2位は相撲でした。
また、武道体験へのニーズとして、「日本文化・歴史、日本武道の精神文化に触れたい」といった声が多く、日本人の精神を象徴し、神秘的な雰囲気をもつ武道は外国人観光客から注目を集めています。
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武道ツーリズムを推進するための「課題」とは
インバウンド集客につながるコンテンツとして期待される武道ツーリズムですが、各地での取り組みは少しずつ増えているものの、まだ認知度は低い状況です。日本でしか体験できない、スポーツと文化が融合したツーリズムとして認知されるためには、受け入れ体制の強化や各地域や関係団体間での連携が必要です。
ここでは、武道ツーリズムを推進するための課題について紹介します。
コンテンツ開発・受け入れ体制の強化
スポーツ庁が発表した資料によると、世界には5,000万人の武道愛好者がいるといわれており、武道の体験を求めて訪日する外国人は、日本の歴史・文化に高い関心を持っています。地域で武道ツーリズムに取り組むにあたっては、まずは自治体や事業者が体験者のニーズを把握し、ニーズに応じたコンテンツを用意する必要があります。具体的には、より専門性の高い体験を求める層には、歴史や文化を学んで指導者と交流する機会を提供したり、武道未経験者には他の文化コンテンツと組み合わせた体験を提供したりすることが挙げられます。
また、多言語対応できる人材の育成・確保も課題のひとつです。初心者の知識不足によるマナーやルール面でのトラブルが発生する恐れもあるため、基本的なフレーズを覚えることで指導の際に役立ちます。
ここでは、具体例として空手の稽古でよく使う英単語・英語フレーズをいくつか紹介するので、指導をする際の参考にしてみてください。
- 正座 Seiza (sit on your heels)
- 気をつけ Stand up straight
- 礼 Bow
- 前蹴り Front kick
- 横蹴り Side kick
- 後ろ蹴り Back kick
- 二人で組んで Pair up with a partner
国・企業・地域・団体等の連携強化
武道ツーリズムを推進するためには、自治体と観光関係者同士が連携していくことが大切です。さらに、武道の直接指導を行うなど、武道の精神・文化を伝えるためには武道関係者の協力は不可欠で、国・企業・地域・団体等が連携して推進していくことで、その地域ならではの新しい観光資源として発信することができるでしょう。
官民連携プロモーション
外国人の武道体験ニーズを訪日旅行につなげるためには、国が関係する団体等と連携して武道ツーリズムをプロモーションしていく必要があります。具体的には、コンテンツを検索・利用できるようなウェブサイトの充実や、オンラインでのプログラムやツアーの販売、海外の旅行予約サイトへの掲載などが挙げられます。そのほか、海外で行われるエキスポやイベント等で、現地の日本人武道関係者や団体等と連携することで、武道ツーリズムの機会を提供することもできます。政府・自治体と関係団体等が連携してプロモーションを行うことで、インバウンド需要を取り込みながら、武道ツーリズムを盛り上げていくことができそうです。
武道ツーリズムの事例5選
全国各地で武道ツーリズムに取り組んでいる地域や団体があり、武道の見学や観戦、実技体験、施設見学等ができます。ここでは、各武道別に武道ツーリズムを導入している事例を紹介します。1. 柔道:受身体験はもちろん、柔道の歴史や哲学も学べるプログラム
東京の柔道教室「文武一道塾 志道館」が行っている柔道体験プログラムでは、受身や投技だけでなく、柔道の歴史や哲学も学べます。90分間程度のプログラムで、英語の通訳者もいるため、柔道初心者で日本語が話せない外国人でも気軽に参加できる点が特徴です。
<参照>
文武一道塾 志道館 四ツ谷本部道場:Judo Experience Program
2. 剣道:外国人に剣道の奥深さを知ってもらう体験プログラム
大阪体育大学では武道ツーリズムに力を入れていて、剣道着や防具の着付け、礼儀作法、竹刀の扱い方など、外国人にも楽しんでもらいながら剣道の奥深さを知ってもらえるようなプログラムを実施しています。また、大学周辺で武士の時代を体感できる観光スポットを巡るツアーも企画しており、地域に根付いた武士文化とともに武道を体験できます。
<参照>
大阪体育大学:武道ツーリズム
3. 相撲:相撲にエンタメ要素を追加した新感覚相撲ショー
「THE SUMO HALL 日楽座 OSAKA」は、日本の国技である 「相撲」をテーマにした体験型エンタテインメントショーホールです。ショーは全編英語で、食事をしながら相撲ショーを楽しめるほか、実際に土俵に上がって力士と触れ合ったり、力士との記念撮影をしたりできます。ホームページ上では英語でのチケットの購入ページや、旅行代理店や団体・企業向けのプランも用意されているなど、受け入れ体制も整えられています。
<参照>
4. 空手:豊富な空手体験プログラムに多くのインバウンド客が参加
沖縄県内には約400もの空手道場が点在していて、その中の1つである「一般社団法人 沖縄伝統空手道振興会」では、初心者向けのプログラムを数多く用意しており、海外から多くの人が参加しています。基本の受けや突き、蹴り等を指導者から教わることができるほか、道着のレンタルが可能で気軽に参加できます。
また施設内にはカフェがあり、空手の文字や型が描かれたラテアートを楽しめるなど、観光地としても魅力的なスポットといえます。
<参照>
一般社団法人 沖縄伝統空手道振興会:おきなわ空手ツーリズム
5. 合気道:道着を身につけて本格的な合気道体験が可能
和歌山県田辺市では、合気道と熊野古道ウォークの両方を体験できるツアーを開催しています。初日は初心者から経験者までレベルに合わせた内容で基本動作の体験ができるほか、演武の披露も行われます。
ツアー2日目には、地元に精通した熊野古道ガイドとユネスコ世界遺産に登録された熊野古道を巡ります。合気道体験だけでなく、精神世界の基礎となる熊野の文化・歴史を知ることができ、合気道の真髄に触れることができる点が特徴です。
<参照>
熊野トラベル: 合気道と熊野古道 体験 2泊3日 プラン
武道ツーリズムの実施に向けた5ステップ
武道ツーリズムのコンテンツをサービスとして提供するためには、ニーズを踏まえた企画の開発やプロモーション、受け入れ体制の整備などが必要になります。ここでは、スポーツ庁の資料をもとに武道ツーリズムの実施に向けた流れを、5つのステップに分けて解説します。
1. コンテンツ・商品開発
武道ツーリズムは「する武道(実際に自分で体験する)」と「みる武道(見学・観戦する)」の大きく2種類に分かれます。ターゲットに合わせたコンテンツを企画するといいでしょう。武道の基本動作や礼儀作法のほか、文化や歴史を学ぶ座学など、多様なニーズに対応できる内容が外国人から好まれているようです。
2. 集客・宣伝活動
外国人観光客を集客するためには、多言語対応したホームページやSNS、アクティビティ予約サイトなどを活用してプロモーションを行います。人気の観光地であれば、周辺の観光案内所やホテルなどとの連携を行い、誘導することも効果的です。
3. 問合せ・支払い対応
サービスへの問い合わせに対応できるよう、伝達が必須な内容を事前に作成しておき、対応できるよう準備します。また、支払い方法は当日キャンセル防止のため、事前払いのシステムを導入すると安心です。
4. 実施に向けた準備
実施に向けて、当日の稽古内容やルールなどを英語で作成し、当日わたせるように準備しておくとスムーズです。レンタル用の道着を準備したり、体験後に持ち帰ることができるような修了証を用意したりすることで、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
5. サービスの実施
当日は礼儀作法や稽古のポイントなどを交えながら、武道の魅力をしっかりと伝えられるようサービスを提供しましょう。日本流の雰囲気を体験できると喜ばれるので、その道場ならではの作法ややり方を伝えることもおすすめです。
終了後にもコミュニケーションをとり、近隣の観光施設やおすすめスポットなどを紹介してもいいでしょう。
武道ツーリズムでインバウンド誘客へ
武道ツーリズムは、武道の本場である日本でしか体験できない魅力を発信できるため、外国人観光客の誘致や地域活性化の可能性を大いに秘めています。実施するにあたってはニーズを踏まえた企画の開発やプロモーション戦略、自治体・団体との連携が不可欠です。
外国人観光客の武道のニーズをインバウンド集客につなげるためにも、本記事で紹介した事例や実施ステップなどを、実施する上での参考にしてみてください。
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<参照>
- 観光庁:『新時代のインバウンド拡大アクションプラン』の決定について
- 観光庁:「第8回スポーツ文化ツーリズムシンポジウム」を開催します!
- スポーツ庁:『武道ツーリズム』とは
- スポーツ庁:JAPAN SPORT TOURISM
- 文部科学省:武道ツーリズム推進にあたっての課題と対応策
- 文部科学省:インバウンド向け 武道ツーリズムベーシックプログラム
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【インバウンド情報まとめ 2025年2月前編】12月の外国人宿泊数1,529万人、2024年累計は過去最高 ほか
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