日本の交通課題に「テクノロジーで」挑む ─業界を牽引するマイクロモビリティ・Limeの成長戦略─

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インバウンド需要が好調な一方、人手不足オーバーツーリズムなどの問題が顕在化する観光業界。特に交通面においては、運転手の不足や交通空白、さらにそれらを解決するためのモビリティの導入に対する安全性の懸念など、深刻な問題が山積みとなっている状況です。

一方で、そうした問題の解決へ向け、業界の先頭に立ってテクノロジー開発を続けるサービスがあります。今回はマイクロモビリティ「Lime」を展開するLime株式会社より、日本社長 兼 アジアパシフィック地域統括責任者 テリー・サイ氏にインタビュー。Limeの日本での事業展開やインバウンド需要の動向、そして交通課題やモビリティの安全性問題などの解決に向けたLimeの取り組みについて伺いました。

Lime株式会社 日本社長 兼 アジアパシフィック地域統括責任者 テリー・サイ氏
▲Lime株式会社 日本社長 兼 アジアパシフィック地域統括責任者 テリー・サイ氏

※本記事は、訪日ラボ主催カンファレンスTHE INBOUND DAY 2025」PlatinumスポンサーのLime株式会社に、事業概要や観光・インバウンド業界への想いについて伺うスペシャルインタビューです。


「たった125台」でのスタートから数年で急成長。Limeのグローバル展開を支えた3つの施策とは

── まずは改めて、Limeの事業概要について伺えますでしょうか。

弊社Limeは、世界最大級の電動マイクロモビリティのシェアリングサービスを提供する会社です。「電動マイクロモビリティが公共交通手段として定着し、カーボンフリーでサステナブルな未来をつくることを目指す」をコンセプトとし、世界で事業を展開しています。

Lime株式会社 日本社長 兼 アジアパシフィック地域統括責任者 テリー・サイ氏
▲Lime株式会社 日本社長 兼 アジアパシフィック地域統括責任者 テリー・サイ氏

現在、世界5大陸・30カ国以上でサービスを展開しており、アプリのダウンロード数は6,500万件を突破しました。

── 米国で2017年に創業されてから、今までどのように事業を展開されてきたのでしょうか。

2017年3月の創業当時は、「LimeBike」と名付けた自転車を、たった125台だけ用意して事業を開始しました。そのときは電動ですらない普通の自転車だったのですが、翌年2018年に電動アシスト自転車や、スクーターの提供を開始しています。

次の転機は、CEOとしてウェイン・ティンがジョインした2020年でした。ウェインは、「これからは3つのことに力を入れる」と宣言したのです。1つ目はオペレーション(ユーザーが必要とするときに車両が存在していること)、2つ目がGR(Government Relations: 政府自治体との関係構築)、そして3つ目がハードウェアでした。このときから、自社で製品を作ることに力を入れ始めました。

ウェインがジョインするまでは赤字で、いかに会社を逆転させるかが課題でした。今はキャッシュフローが潤沢になり、次なる投資を積極的にできるフェーズに入ってきています。

キャッシュフローが改善した背景の一つとして、スクーターを自社で開発したことにより、1台あたり5年間使えるようになったのが大きいと思います。以前他社から買っていた車両は30日間しか使えず、その度に交換しなければならないので大変でした。

耐用年数が増えたことは、SDGs的な観点からも良かったのかなと思います。日本のお客様は使い方が丁寧なので、5年と言わず8年くらい持つかもしれませんね。ほかの会社さんだと2年間で差し替えることが多いと聞いているので、これは弊社ならではの強みでもあると考えています。

マイクロモビリティの市場規模は2030年で「52兆円」に

── Limeのようなマイクロモビリティの市場は、今後の可能性を感じる市場だと思います。今後もマイクロモビリティ市場は世界で拡大していくのでしょうか。

世界のマイクロモビリティ市場は、2022年時点ですでに1,750億ドル(約25兆円)でしたが、2030年に3,600億ドル(約52兆円)に至るのではないかと言われています。移動手段におけるシェアも、16%から19%へ拡大する見込みです。

また、2024年には世界で2億回以上の乗車があったと推計されており、これは1秒あたり6回乗車されている計算になります。グローバルでニーズの高い市場であることは、おわかりいただけるのではないかと思います。

世界のマイクロモビリティ市場は急拡大中。2030年で「52兆円」に達する見込み
▲世界のマイクロモビリティ市場は急拡大中。2030年で「52兆円」に達する見込み

── 日本でもマイクロモビリティは複数のサービスがあるかと思いますが、それらと比較してLimeにはどのような強みや特徴があるのでしょうか。

やはり自社設計・自社生産管理というのが大きな強みだと思います。自社で開発しているからこそ細やかなニーズに対応できますし、修理対応もしながら1台を長く使えます。

また、乗車データに基づいた改良改善を実施しているのも特徴です。人の命に関わりますから、安全性が担保できる車両を提供するというのが大前提で、故障やタイヤのパンクなどがあればすぐに対処できるようにしています。そして、乗りたい時にものがないと困るので、オペレーションにも気を使っています。人流データやAIを生かし、車両を1日前に配置するというのを行っています。

メインは自分でものを作っていることと、ハード・ソフト両方を持っていること。そしてカスタマーサポートや安全性への配慮の手厚さも強みですね。

訪日インバウンド需要と日本市場の可能性は

── もともと欧米圏でシェアの高いLimeですが、日本国内では外国人旅行者の方の利用も多いのでしょうか。

そうですね。インバウンド年間3,687万人のうち600万人以上が、Limeがすでに浸透している欧米からの旅行者です。日本に入国する際、メインは成田か羽田空港からになると思いますが、そこからの電車バスの乗り方がわからないという方も多く、空港に着いて最初に開くアプリはUber。タクシーを呼んでホテルへ向かい、着いたらまず開くのがLime。というように、日本に来てすぐに使うアプリの一つとして認知されてきており、現地での観光の足として使っていただいています。

ちなみにUberとも提携していて、UberのアプリからもLimeのポート(駐輪場)を探せるほか、車両予約や乗車ができます。

UberアプリからもLimeを利用できる仕組みになっている
▲UberアプリからもLimeを利用できる仕組みになっている

── 日本国内の利用のうち、日本人と外国人旅行者の方の割合はそれぞれどの程度なのでしょうか。また、今後のターゲットとしては日本人と外国人旅行者どちらを想定されていますか。

今は日本人と外国人の利用がそれぞれ半々くらいですね。インバウンドの方はシーズナリティがあって、桜・紅葉の時期に増えたりはしますが。

ターゲットとしては日本人か外国人のどちらかに絞るつもりはなく、お客様を選ばない、むしろ選んでいただくという考え方です。

欧米から来た方々は本国で毎日Limeを使っているという方が多いのですが、日本でも母国で登録した決済方法がそのまま使えますし、新たに登録しないといけない内容もほぼゼロになっているので、利便性も確保しています。唯一、日本の道路交通法やマナーを理解していただくためのセーフティクイズの合格は必須となっていますが、それくらいです。

他社さんですと海外の電話番号では登録できないサービスもあるようですが、Limeは再登録すら不要で利用できます。インバウンド向けのサービスとしても優位性を持っているといえます。

── 世界で事業展開される中で、日本という市場をどのように捉えていますか。

実は我々は、日本で展開できるタイミングを5年以上待っていたんです。以前からマーケットとして可能性が大きい国だと考えていましたが、広大な土地があり駐輪できるスペースが豊富なアメリカなどとは違い、日本ではポート(駐輪場)の用意が必須になってきます。日本向けにポートを置かせていただくための営業チームを独自に編成して営業をかけ、やっとサービス展開できるようになったのが昨年だったのです。

また、車両によっては欧米人サイズで日本人の体格に合っていないものもあったのですが、これを機に日本人向けの開発も進めました。ほかにも荷物を置けるカゴを追加するなど、柔軟なカスタマイズができるのは自社で開発しているからこそですね。

シートボード型のLime ラクモには座席下に荷物置きが設置されている。日本市場ではこの着座タイプが人気なのだそう
▲シートボード型のLime ラクモには座席下に荷物置きが設置されている。日本市場ではこの着座タイプが人気なのだそう

── 現在日本では東京を中心にサービス展開されていると思いますが、今後はどのように展開されていくのでしょうか。

これまでは渋谷新宿・池袋エリアから始めて、インバウンドも多い上野浅草・両国エリア、さらに日本航空との提携を契機に那覇に展開。2025年には北広島市北海道)でも実証実験を始めました。

今後は大阪・京都への進出を皮切りに、2030年には全国へ展開しようと考えています。

── Limeによって、日本における交通課題をどのように解決できるとお考えでしょうか。

我々が儲かるためにというモチベーションではなく、その国・地域がどういった社会問題を抱えているか、我々がそれに対して少しでも貢献できるところはどこなのか、などを分析してから参入しています。Limeが解決できる課題は主に以下の6つで、市場によってどの課題が当てはまるのかは異なりますが、日本の場合は6つ全てが当てはまると考えています。

  1. 交通安全
  2. オーバーツーリズム
  3. 駐車場不足
  4. 人材不足(人手不足)
  5. ラストワンマイルの課題解決
  6. CO2削減

特に今交通業界では、ドライバーの減少が非常に深刻な状況です。バス会社の方に聞くと、バスの車両自体はそこまで不足していないそうなのですが、それでも運行本数が減るなど人手不足が目に見えてわかる状態になってしまっていますよね。これらをどうやって解決していくかについて、地域・自治体との対話も進めています。

日本の交通課題は世界と比べても深刻だと語るテリー氏
▲日本の交通課題は世界と比べても深刻だと語るテリー氏

顕在化する「危険運転」問題…ユーザーのモラルに頼らず「テクノロジーで」解決

── 国内では、モビリティサービスを利用するユーザーの危険運転や、交通マナー・ルールの軽視などが問題になっています。Limeでは、安全な運転の推奨に向けて、またルールの周知に向けて、どのような取り組みを実施していますか。

モビリティサービスの利用者による危険運転などはもはや社会問題化しており、決して矮小化できない課題だと思います。弊社はそもそも問題が起きないようにするための対策、そして問題が起きたあとの迅速な対処、双方の観点から対応しています。

たとえば、マイクロモビリティが首都高に進入してしまうという問題が発生し、警視庁の注意喚起や各社報道でも大きく取り上げられています。この問題に対し、弊社では「ジオフェンシング制御」といって、走行禁止エリアで走行できなくなる/減速エリアでは自動で減速されるシステムを全車両で採用しています。走行停止する際には急停止はしない仕組みなので、ユーザーにとっても安全です。

現地の交通規則に則って走行禁止エリアを設定し、Limeアプリに表示。たとえば都内では、代々木公園・明治神宮・新宿御苑近辺などで走行禁止エリアが設定されている
▲現地の交通規則に則って走行禁止エリアを設定し、Limeアプリに表示。たとえば都内では、代々木公園・明治神宮・新宿御苑近辺などで走行禁止エリアが設定されている

特に外国人にとっては高速道路の入口がそれとはわかりづらく、「地図アプリで案内されたから入ってしまった」という事案もあると聞きます。こうした問題は、ユーザーのモラルに頼るのではなく、テクノロジーで解決すべきだと我々は考えています。

また、外国人の方が2段階右折のルールを知らず、車と同様に右折してしまうという問題もあります。我々はこの問題が発覚した際、即日で対策を始めました。例としてアプリを開いた際、2段階右折をはじめとした日本の交通ルールがポップアップで表示されるように対策したり、2段階右折を説明したフライヤーを直接配布したり、安全講習会を実施したりと、ルールの周知徹底に向けた積極的な取り組みを実施しています。

天王洲で行われた初心者向けの実地講習の様子。こうした講習会では、専任スタッフがモビリティの操作方法や交通ルールを丁寧にレクチャーする
▲天王洲で行われた初心者向けの実地講習の様子。こうした講習会では、専任スタッフがモビリティの操作方法や交通ルールを丁寧にレクチャーする

ほかにも「ヘルメットを着用していることをアプリで確認できたら料金から割引する」サービスなど、安全な利用を促進するための独自の取り組みを実施しています。

モビリティ業界ではどうしてもこうした問題が発生してしまうのですが、それをきちんと把握し、責任感を持ってスピーディーに対応できるかどうかが大事だと思います。業界のいちプレイヤーとして、マイクロモビリティを「マナーが悪い人が多いから」という理由で忌避する人が増えていることは非常によくない状況だと思っていますし、問題が起こっているにもかかわらずサービス提供側が放置する風潮を危険視しています。我々が率先して対策し、ほかのプレイヤーにとってもそれが当たり前になってくれればと思っています。

宿泊業・駐車場事業者など日本国内事業者との連携強化で「サステナブル」な世界の実現へ

── 日本国内事業者との連携については、どのように考えていますか。

ポート(駐輪場)がないとこうした問題解決もできないので、国内でポートを置かせていただける場所を常に探しています。具体的には宿泊業、駐車場事業者、鉄道自治体、大学、不動産業、娯楽施設、小売業などが対象になってきます。

たとえば駐車場に関しては、面白い事例があります。「三井のリパーク」さんと連携しているのですが、ある駐車場が面している車道の1つが私道のため、車が通れずにデッドスペースになってしまっていた場所が、自転車なら狭いところを通っていけるので有効活用できたというケースがありました。

さらに自治体では北広島市さんと連携して実証実験を行ったほか、大学でもテンプル大学と連携しており、キャンパス内の移動手段として活用いただいています。

2025年ならではの取り組みとして、大阪・関西万博のバックヤードでも活用いただいています。実は万博には約2万名ものスタッフがいるそうで、自動車と違って場所を取らず狭い道も移動しやすいことや、簡易にバッテリーを交換可能で修理もほとんどいらないこと、そして最低限のCO2排出で完結することなどから、非常に好評いただいています。

大阪・関西万博のスタッフもLimeを利用してバックヤードを移動している
▲大阪・関西万博のスタッフもLimeを利用してバックヤードを移動している

── 今回Limeさんには、弊社mov/訪日ラボが主催するカンファレンスTHE INBOUND DAY 2025」のスポンサーになっていただいています。カンファレンスに来場される事業者の方々と、どのように繋がっていきたいと考えていますか?

ぜひ、ポートを置かせていただきたいと思っております。たとえばホテル民泊商業施設や小売施設の方など、ポートを置くことで車両台数ごとの収益化が可能です。また、泊まっている方や買い物をしに訪れた方が、楽にいろんなところへ行けたり、タクシーを呼ぶフロント業務が効率化したりと、ホテル等の体験価値をよりよくする手段の一つとしても検討いただけたらと思います。欧米圏の旅行者は「サステナビリティ」な取り組みがされているかどうかも非常に気にされますので、CO2排出量が少ないエコロジーなサービスとしても、魅力を感じたホテル様に導入いただいています。

── 最後に「訪日ラボ」の読者、そして「THE INBOUND DAY 2025」に来場される皆様へ、メッセージをお願いいたします。

我々は日本の交通課題を解決するために進出してきました。特に観光業の方々には、その強みをダイレクトに感じていただけると思います。観光地の体験価値の向上や、まちづくり、利便性向上などに貢献していき、結果として皆様のビジネスのプラスにもなるように考えています。

また、Limeが目指す世界として掲げているのが「ライド・グリーン」という考え方です。車はCO2の排出も多いですし、短距離では効率が悪く、渋滞にはまれば時間もロスしてしまいます。Limeなら楽に移動でき、時間ロスも、経済ロスも、CO2も減ります。

こうした環境への配慮は一人で実現できることではないので、Limeを通して日本全体にグリーンな世界を作っていくというビジョンを、皆様と一緒に実現できたらと思っています。

【訪日ラボ主催「THE INBOUND DAY」にLime株式会社が登壇!】

mov/訪日ラボが主催するインバウンドカンファレンスTHE INBOUND DAY」にて、Lime株式会社が「モビリティを起点とした体験価値向上の可能性」をテーマに登壇します。

Limeのグローバルな展開実績や、安全性確保に向けた独自の交通施策の解説、さらには訪日観光客における利用ニーズの傾向まで解説します。

詳細は特設サイトをご確認ください。


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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

訪日外国人観光客インバウンド需要情報を配信するインバウンド総合ニュースサイト「訪日ラボ」。インバウンド担当者・訪日マーケティング担当者向けに政府や観光庁が発表する統計のわかりやすいまとめやインバウンド事業に取り組む企業の事例、外国人旅行客がよく行く観光地などを配信しています!

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