【連載:訪日ラボマーケティングトレンド話】 本連載では、ローカルビジネスコンサルティング・店舗マネジメント業を行い、 デジタル、アナログ両面で小売・飲食・宿泊業、観光業に豊富な経験を持つ、株式会社ユニットティ代表取締役 永山氏と、株式会社mov 訪日ラボ副編集長 石橋が、「観光・インバウンド × マーケティング」をテーマに、ざっくばらんにあれこれ議論していきます。 |
<これまでの連載>
石橋:永山さん、今回もよろしくお願いします!
永山:お願いします!
石橋:前回は「Googleビジネスプロフィールをやっていれば、各種予約サービスは不要なのか?」について議論しました。グルメサイトやOTAなどのプラットフォームがメインだったので、今回は「SNS」をテーマにしようと思いますがいかがでしょうか?
永山:いいですね。SNSは今や観光業の集客にとっても欠かせない要素ですが、AIの登場や検索エンジンの仕様変更、環境の変化によって、集客の戦略も大きく変化しているので、ぜひ深掘りしていきましょう。
<プロフィール>
永山卓也:株式会ユニットティ代表取締役
ローカルビジネスコンサルティング、店舗マネジメント業を行い、 デジタル、アナログ両面で小売・飲食・宿泊業、観光業に豊富な経験。各都道府県の地方自治体、地域団体などを中心にセミナー、講演実績多数。株式会社ユニットティ代表取締役。観光庁 インバウンドの地方誘客促進のための専門家。Googleビジネスプロフィール(Googleマイビジネス)ダイアモンドプロダクトエキスパート。Google Maps, Google広告プロダクトエキスパート。東京観光財団 観光おもてなしアドバイザー。京都府観光連盟 観光アドバイザー。株式会社movが運営するお客様の声のDXサービス「口コミコム 」テクニカルアドバイザー&インバウンド業界最大級メディア「訪日ラボ」アドバイザー。
石橋美奈子:訪日ラボ副編集長
株式会社movが運営する業界最大級のインバウンドビジネスメディア「訪日ラボ」副編集長。訪日ラボでは官公庁や自治体・DMO、民間企業など数々の先進事例を取材し、年間計2,000件以上のインバウンド情報記事を配信中。デジタルマーケティング領域にも知見を持ち、書籍編集の経験も:永山卓也氏(株式会社ユニットティ 代表取締役 / Google ビジネス プロフィール ダイアモンド プロダクト エキスパート)の著書『Googleビジネスプロフィールですごい集客力を手に入れる』(2024年8月発売)
検索エンジンによるSNSの取り扱いが変化している件
石橋:まず単刀直入に伺いたいのですが、SNSを活用した集客において「集客の戦略が大きく変化している」というのは、どういうことなのでしょうか?
永山:以前までは、SNSはいわば「閉じた世界」で、その内部での情報共有が主でした。しかし今はGoogleなどの検索エンジンでも、一部SNS記事が引っかかるようになり始めました。さらに、Googleビジネスプロフィールの「ソーシャルリンク」機能で店舗情報とSNSアカウントを紐づけることが可能になったり、検索結果上にもSNS投稿が表示されたりと、Google検索とSNSとのつながりが強くなっています。
これはGoogleのクローラー(ウェブの情報を収集しデータベース化するロボットあるいはプログラム)がSNSを巡回し、掲載している(インデックスしている)ということでもあります。どのビジネスがSNSでどのように言及されているか、ということにも注目しなければいけない時代になったんです。
石橋:SNSが「閉じた世界」ではなく、検索とも連携するようになったと。それって企業や地域側がSNSを運用していなくても、検索エンジンからの流入を意識するなら、SNS上で自分たちのことがどう語られているかを知る必要があるということですよね。
永山:そういうことです。「SNSで発信する・しない」という二元論だけではなく、「お客様からどの程度、どのように発信されているかを理解する」という視点も非常に重要になります。
たとえば、京都の嵐山にある「団子屋・永山」で食事をした人が、SNSに感想を投稿するとしましょう。このときのテキストとして「京都最高!」と書けば京都というエリアに、「嵐山最高!」であれば嵐山の地域の情報として絡んでくる可能性があります。しかしながら、これだとお店に対して言及されていないので、お店側が把握することもできませんし、情報がお店に紐付きもしないわけです。
石橋:京都や嵐山といった地域視点ではいいけど、お店視点ではちゃんと言及されてないことになるってことですね…。
永山:そうなんです。たとえば「京都嵐山で、団子屋・永山の団子を食べました」と具体的に店舗名を含んでもらうことで、初めてその情報が京都嵐山のほかに、お店にも紐づくんです。これはSNSなどに特有の現象で、たとえばブログなどの長文コンテンツだと、お店の紹介をせずに団子の紹介だけするっていうのはなかなか想像しづらいと思います。
石橋:確かに、テキストの量が少ない投稿だからこそ起きる現象ですね。
永山:もちろん「京都」「京都 観光」「嵐山」といったキーワードで検索する人もいて、なかには「京都 団子」「嵐山 団子」とかで検索して「団子屋・永山」にたどり着いてくれる人もいるわけなので、地域に投稿されることによるメリットがゼロというわけではありません。
とはいえ店舗の集客であれば、店舗名に情報が紐づくほうが基本的にはメリットが大きいので、利用者が店舗名を意識して投稿してくれるような施策を講じる必要があります。また、観光地であれば、その地名に言及してもらえるようにしたほうが良いわけです。
SNS上で「紐付け」を促す施策
石橋:お客様に名前を意識してもらうというのは、具体的にどうすれば良いのでしょうか?先ほどの例として「京都の団子最高」「嵐山の団子最高」のようにお店の名前に言及してもらえないことも多いですし、もっと言えば写真だけ貼られて「美味しかった!」みたいに、具体的な内容が一切書かれない投稿もありますよね。
永山:おっしゃる通りで、SNSでは投稿がお店ではなく、各利用者のアカウントに紐づいているのが特徴なんですよね。グルメサイトのレビューであれば「美味しかった」だけでも通じますが、SNSだと「この人がどこかのお店で美味しいものを食べたんだな」ということしかわからない。お店視点では情報同士が紐づかず、断片化してしまっているわけです。
そこで重視したいのが、店舗名を書いていただいたり、ハッシュタグをつけてもらったりすることです。これによって、紐づけられていなかった情報同士を関連づけることができます。これまでもSNS内の検索対策としてハッシュタグが使われていましたが、現在は一部SNSの投稿に書かれている内容が検索エンジンに認識されるようになったので、情報同士を紐づける重要性はさらに増しているというわけです。
石橋:では、お客様に店舗名を書いてもらったり、ハッシュタグをつけてもらうには、具体的にどう働きかければ良いのでしょう?
永山:よくやられていて効果的かつ簡単にできるのは、「店舗の公式ハッシュタグを決めて、それを入れてシェアしてくださいとお願いする」方法ですね。お客様に店舗名や、オリジナルの商品名、イベント名などの名称を覚えてもらい、正確に言及してもらうための重要なステップになります。良いお店だけど店名が覚えられにくく、「〇〇を売ってるいいお店があった」といった漠然とした投稿になってしまうケースもあります。これでは情報が紐づかないので、具体的な名前を入れてもらう工夫が必要です。
ハッシュタグ以外でSNSの投稿を促進する方法は?
石橋:もしかすると、お店のハッシュタグを決めたり、お客様に「このハッシュタグをつけてね」「この内容は入れてね」とお願いしたりすることに対して、少しハードルが高い、あるいはやりたくないと感じる方もいるかもしれません。何か、もっと簡単にお客様による投稿を増やす方法はあるでしょうか?
永山:お客様からの発信を効果的に増やす、簡単な方法がいくつかあります。最も効果的なのは、ストレートに店舗内で「写真撮影・SNS投稿大歓迎です!」と明確に伝えることです。多くの利用者は、撮影や投稿をして良いのかを躊躇したり、恥ずかしいと感じたりすることがあります。この心理的なハードルを取り除き、「大丈夫」と明言することで、自発的な投稿を促す強力な導線となります。特に、店主が厳しそうなイメージのあるラーメン店などでは、このようなハードルを下げる工夫があるかどうかで、かなり投稿のされやすさが変わってきます。
あとは、声かけがしづらいのであれば三角POPや貼り紙などでアピールしてもいいかもしれないですね。接客時間が少なく、声かけが難しい業種業態では有効に働くでしょう。
石橋:それならすぐにでも実践できそうですね!
AI時代の集客に不可欠な「自発信」と「他発信」
永山:AIの登場により、もはや「自発信」(企業側によるPR活動など)だけを参照する時代ではなくなりました。インターネット上では、「自発信」と「他発信」(お客様による情報発信)の両方が発信されることで、より高い効果を生む場合があります。第三者視点の情報が重要なのは言うまでもありませんが、公式な「一次情報」である自発信がしっかりしているからこそ、他発信が活きてくるという側面もあるんです。
たとえばSNS上で素敵なカフェを見つけたとして、公式サイトを探しても存在していなかったり、Googleマップ上に営業時間や写真などの情報が載っていなかったり少なかったりしたら、不安になりますよね。自分も積極的に発信しつつ、お客様からの発信を促すという、両面からのアプローチが成功の鍵になるんです。
石橋:それって、 前々回の連載で話したAI検索の文脈でも大事になりそうですね。AIが表示した情報の真偽を確かめるための公式の情報というのは必ず必要になる気がします。
とはいえ、公式として発信する以上に「他発信」が重要という結果にはなりそうですよね。AIもレビューを好んで参照すると言われていますし。
永山:そうですね。 口コミの重要性はますます高まっているといえます。
ただし先ほどの話につながりますが、SNSでの個人的な投稿も、地域や店舗に関連した情報であれば、口コミの一つとしてAIや検索エンジンが認識するようになっています。その中で、Googleの口コミや食べログのように自動で店舗に紐づくわけではないSNSの商品・店舗・地域の感想の投稿は、書かれている内容(特定の店舗名や地域名が言及されていないもの)によっては、どこにも紐づかない情報としてインターネット上に存在してしまう可能性が高いという課題があります。
特に動画で投稿するTikTokなどのプラットフォームや、短文で投稿するXなどのようなSNSでは「このお店どこですか?」という質問が非常に多く見られますよね。「いい店見つけた♪」といった投稿は、情報が何に対しても紐づかない典型的な例です。このため、お客様が発信する情報が店舗に確実に紐づくように、お店側が積極的に促す必要があるんです。
石橋:なるほど…。「いい店見つけた♪」だと、確かに検索やAIはどう評価していいかわからないですもんね。
そうすると、先ほどの「京都嵐山で、団子屋・永山の団子を食べました」という言及を目指せばいいのでしょうか?
永山:さらに応用的な話をすると、AI検索の時代にはそれだけでも不十分かもしれません。「団子を食べた」という事実にしか言及されていないので、きちんと魅力を認識してもらうには、「どんな団子だった」「どこが良かった」といった、具体的な体験や評価まで語られている必要があります。
このあたりは、今後の連載でもAIの話を深掘りしていくと思うので、またどこかでお話しできればと思います。
石橋:わかりました!ここまで議論してきて、SNSと検索エンジンのつながりの強化やAIの登場といった変化の中で、店舗側がお客様が発信した情報が正確に紐づくように促す工夫が、これからの店舗集客には不可欠だということがよくわかりました。永山さん、今回もありがとうございました!
永山:ありがとうございました!
インバウンド対策にお困りですか?
「訪日ラボ」のインバウンドに精通したコンサルタントが、インバウンドの集客や受け入れ整備のご相談に対応します!
【9/26開催】元外食チェーン担当者が答える!飲食店のインバウンドお悩み解決 〜『大衆点評』入門編〜
訪日外国人観光客の数が急増する中、飲食店の現場では「インバウンド対応をしたいけれど、具体的に何をすればいいのかわからない」という声が数多く聞かれます。
そんな方にお届けしたいのが、中国人観光客にとって日本での飲食店探しに欠かせない存在となっている、中国最大級の生活情報プラットフォーム「大衆点評(たいしゅうてんぴょう)」の対策です。ユーザーの口コミや写真、メニュー情報の整備次第で、来店数に大きな差が生まれることも珍しくありません。
本セミナーでは、外食チェーン企業でインバウンド施策を担当していた経験を持つ、株式会社mov インバウンド支援事業本部 プランナーグループ マネージャー 金子が登壇。
大衆点評の基本的な仕組みや、飲食店が登録・情報整備を行うことのメリットをわかりやすくご紹介します。
「大衆点評って聞いたことはあるけれど、よくわからない」「まずは基礎から知りたい」という飲食店の皆さまにおすすめの入門編セミナーです。
<セミナーのポイント>
- 中国最大級生活情報プラットフォーム「大衆点評」の基本が学べる!
- 飲食店が今すぐ取り組むべきインバウンド対策がわかる!
-
元外食チェーン担当者に直接質問ができる!
詳しくはこちらをご覧ください。
→【9/26開催】元外食チェーン担当者が答える!飲食店のインバウンドお悩み解決 〜『大衆点評』入門編〜
訪日ラボ主催「THE INBOUND DAY 2025」アーカイブ配信中!
訪日ラボを運営する株式会社movが8月5日に開催した、日本最大級のインバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」のアーカイブ動画が公開中です。
アーカイブ配信では、元大阪府知事の橋下 徹氏と大阪観光局理事長の溝畑 宏氏による基調講演のほか、脳科学者の茂木 健一郎氏、日本文学研究者のロバート・キャンベル氏、アパグループ 社長兼CEOの元谷 一志氏などの貴重な講演の様子を一挙公開(一部を除く)。
参加できなかった方はもちろん、もう一度議論を見直したい方も、ぜひご覧ください。
【インバウンド情報まとめ 2025年9月前編】PayPayが中国「WeChat Pay」と連携 / 観光庁予算要求814億円、人手不足対策などの予算増 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に9月前半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
※口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→PayPayが中国「WeChat Pay」と連携 / 観光庁予算要求814億円、人手不足対策などの予算増 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年9月前編】
今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」

スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。
「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!