インバウンドビジネスに取り組むうえで、災害が起こったときの対応策を用意しておくことは不可欠。直接的な利益にはつながりませんが、トラブルが発生すると悪評が発生する恐れがあります。
たとえば、日本人にとって地震はありふれた災害のひとつで、よほど震度が大きくなければ、すぐに日常生活を取り戻すことができます。しかし、訪日外国人観光客の中には地震を経験したことがない人が数多くいます。そのうえ、言葉も通じない異国の地となれば、強い不安を感じるはずです。観光地の印象にまで悪影響を及ぼすかもしれません。
では、具体的にはどのようなことを行えばいいのでしょうか。今回は、災害多言語支援センターの取り組みから、訪日外国人観光客向けの災害対策の方法をご紹介します。
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災害多言語支援センターとは:自治体が設置している災害対策組織
災害多言語支援センターとは災害が発生した際に、国内の外国人を支援する組織。行政機関などが発信する情報を、多言語に翻訳して外国人に伝えるなどの取り組みを行います。情報を理解できるようになることで避難などの行動が取れるようになるだけでなく、精神的な負担を取り除く効果も期待できます。
各地の自治体が設置しており、日本に在住する外国人向けをうたっていることが一般的。しかし、11月に設置された別府市の災害多言語センターは、訪日外国人観光客も視野に入れています。
2016年4月に発生した熊本地震の際、訪日外国人観光客が避難先が分からない駅や公園に集まり、対応が遅れたことなどが背景にあるようです。今後も大規模な地震が発生すると予測されている日本では、必要不可欠なのではないでしょうか。風評被害が起これば、長期間にわたって観光業に影響を及ぼす可能性があるのです。
災害に多言語化が必要とされる場面とは?
一般財団法人「自治体国際化協会(CLAIR/クレア)」は、災害が起こった際に、多言語で情報を発信するためのハウツーを掲載した資料「災害時の多言語支援のための手引き2012」を公開しています。基本的には日本に在住している外国人を対象としていますが、訪日外国人観光客に対して利用することも可能。また、分かりやすい日本語の活用方法も取り上げており、高齢者向けにも活用できるとしています。
この資料の内容を、大まかにご紹介していきましょう。
災害時の行動を左右する「ストック情報」「フロー情報」
「災害時の多言語支援のための手引き2012」では、「ストック情報」「フロー情報」という概念を取り上げ、災害に遭遇した際のトラブルについて解説しています。
ストック情報とは、過去の経験や学習を通じて身に付けている情報のこと。たとえば、日本で生まれ育った人は誰でも小中学校で避難訓練を経験しているため、「落下物を避けるために机の下に隠れる」「屋外に避難する」といった地震発生時の対応についてストック情報を持っています。また、ニュースなどで地震報道が頻繁に行なわれているため、「大規模な災害時には学校の体育館などが避難所になり、物資が提供される」ということも分かっています。
どんなストック情報を持っているかは、生まれ育った地域によって異なります。外国人の場合、これらの事柄を知っている可能性は低いでしょう。数年間にわたる滞在を考えていない訪日外国人観光客は、なおさらです。
フロー情報は、一般的にニュースや天気予報、SNSのタイムラインといった随時現れ、消費されていく情報のありかたを指します。災害時の場合、「津波の恐れがあるから、高台に避難してください」「炊き出しが◯◯で行なわれています」といった情報を指します。
外国人向けの災害対策では、フロー情報を多言語化して伝えると同時に、ストック情報の不足をフロー情報で補うことが課題になります。
民間企業ができる、訪日外国人観光客向けの災害対策
災害多言語支援センターの設置を行うのは主に自治体であり、民間企業ではありません。コスト的に考えても「翻訳担当者を集め、行政が発信した情報を多言語化し、発信する」といった同センターの機能を保持することは困難です。それでも、緊急時にはできる範囲で外国人向けの災害対策を行うことが求められるのではないでしょうか。
ここからは民間企業が取り組みやすい、手軽な対応策をご紹介します。
平易で分かりやすい日本語を使うこと
日本語に詳しくない訪日外国人観光客であっても、平易な日本語なら理解できる可能性があります。たとえば、東日本大震災のときには「高台に避難」という表現が伝わらなかったが、「高いところに逃げて」は伝わったという事例が存在します。
このように必要な情報を平易に伝えることも、災害対策として有効です。訪日外国人観光客のみならず、子どもや高齢者向けにも活用していくべきでしょう。
やさしい日本語で訪日外国人をおもてなし 「やさしい日本語ツーリズム研究会」が発足。日本語学習者の誘致に有効か
2016年8月18日の株式会社電通によるニュースリリースによると、日本語教師養成講座ほか教育事業を行うヒューマンアカデミー株式会社および東京外国語大学の荒川洋平教授との共同で、産学連携の「やさしい日本語ツーリズム研究会」を発足すると発表しました。簡単に説明すると、「訪日外国人観光客を簡単な日本語を通じてもてなそう。」という試みの模様です。 目次既存のインバウンド対策における外国語対応への行き詰まり半数がインバウンド市場獲得を今後の優先課題とみなすも未だに拭えない外国語への抵抗感 訪日外国人...
無料の災害時向け多言語化ツール
「自治体国際化協会(CLAIR/クレア)」は英語、中国語、韓国・朝鮮語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語の6ヶ国語に対応した「災害時多言語情報作成ツール」を無料で配布しています。
このソフトは「避難場所」「使用禁止」「室内では静かにしましょう」「支援物資配給:○○時○○分から」といった使用頻度の高い表現をPDFファイルとして用意しています。また、災害用の告知や被災者への注意などに活用できる音声データも収録しています。
まとめ:民間企業も災害に備えて、外国人向けの対応策を
インバウンドビジネスに取り組むうえで、災害が起こったときの対応策を用意しておくことは不可欠。熊本地震で被災した別府市は11月、訪日外国人観光客への対応を考慮した災害多言語センターを設置しました。民間企業がすべきこと、できることの範囲は限られていますが、それでも緊急時に備えて対応策を用意しておくべきでしょう。
そのためには、一般財団法人「自治体国際化協会(CLAIR/クレア)」が無償配布している「災害時多言語情報作成ツール」などが活用できます。
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