昨今インバウンドへの関心が高まり、世界各国における旅行博やファムトリップ、ローカルメディアとのタイアップなど、日本の各自治体や企業が訪日客誘致に向けた様々な施策を行っております。そんな中、皆様は自信をもって正しいアプローチを企画、実行できていますでしょうか。 プロモーションしている内容は本当にターゲットの訪日観光客が求めているものでしょうか。
このシリーズでは訪日旅行ビジネスに精通しているシンガポール現地のスペシャリストにインタビューを行い、今のシンガポール市場の現状や訪日観光に関するリアルボイスを前篇、後篇の2回にわたってお伝えします。
今回は シンガポール4大旅行代理店の1つであるDynasty Travel(ダイナスティ・トラベル)の広報責任者であるアリシアさん に話を伺ってきました。アジアの中でも特に競争の激しいシンガポール旅行業界をけん引する現場のリアルボイスに迫りたいと思います。
【訪日ラボは、インバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025」を8月5日に開催します】
インタビュイー紹介:アリシア・シア(Alicia Seah)さん 旅行業界で25年の経験
本日インタビューするアリシア・シア(Alicia Seah)さんはシンガポール旅行業界で 25年の経験 を持ち、ダイナスティ・トラベルの広報責任者として企業のブランドの向上のため、持続可能な発展に全力で取り組んでいます。顧客のニーズを最優先に考え、ユニークで経験豊かな旅を求めている中級から上級者まで、ターゲットを絞ったマーケティング活動を行っています。
シンガポール国内メディアにおいて観光に関する番組のゲストコメンテーターとして招かれることも多く、また「International Taiwan Fair」(台湾)、「NATAS Industry Accreditation & Presentation Ceremony」(シンガポール)や「JATA Tourism EXPO Japan」(日本)のような国外イベントにもゲストスピーカーとして参加しています。2015/2016年にはシンガポール「Marketing Interactive’s Best Marketing and PR Awards」の審査委員も務めました。
今回はアリシアさんに、シンガポールの旅行市場の変化、シンガポール人旅行者の特性やトレンドなどついて現場の声を聞いていきたいと思います。
ネットの普及によりF.I.Tが増加したシンガポール市場 所得上昇によりリッチな旅行商品へのニーズ変化も
<Points(以下:P)>
本日はお忙しい中ありがとうございます。では早速ですがシンガポールの現状から伺っていきましょう。この10年、シンガポールの旅行業界は劇的に変化したと思いますが、どのように変わりましたか。
<Dynasty Travel アリシアさん(以下:ア)>
そうですね。最も明白な変化は F.I.Tの増加 です。現在、多くのシンガポール人は旅程の計画からアレンジまでほとんどすべてを自分たちで行います。少人数(2〜6人)のグループを好み、もはや団体では旅行しなくなってきています。
F.I.Tの増加はインターネットの普及とオンライン予約システムの発展によってもたらされました。今日では、個人がインターネットを使ってリサーチし、航空券からホテル、レンタカーまで簡単に予約できます。特に、新しい情報に敏感な20代~40代の若者やファミリー層に多く見られます。
シンガポール国内のニーズの変化でいうと、この数年、シンガポール人の平均所得は上昇し、質の高くて贅沢な旅行商品への要望が増えてきています。 例えばアフリカ、南アメリカ、アイスランド、グリーンランド、ブルガリア、ジョージアとアルメニアのようなあまり知られていないエキゾチックな場所ですね。このような場所はいまだに情報や交通手段が少ないため、ツアーで行くことが必然的に多くなります。
テクノロジーが進歩しても絶対に置き換えることができないもの:ヒューマンタッチ
<P>
なるほど、経済の発展により所得が増え、インターネットの普及や発展によって情報が増えたことにより様々な選択の幅が出てきているということですね。団体旅行が減ってきている反面、個人では行きにくい場所や贅沢な旅というものが旅行会社にとっては新しいマーケットとなってきているのですね。
さて、続いてテクノロジーに関してお伺いします。テクノロジーの進化は旅行業界にも革命的な変化をもたらしたと思いますが、ダイナスティ・トラベルはこの変化にどのように対応していますか。
<ア>
弊社でも日々変化するお客様の要求にしっかりと答えられるように、新たなシステムを導入しています。弊社独自のオンライン予約サイトは持っていますが、いわゆるF.I.T層が利用するOTA(オンライン予約サイト)のように安売り競争に参加する戦略は取っていません。
あくまでオンラインではグループツアーパッケージのみを販売し、ライブチャット機能や会員ロイヤリティプログラム、キッズ倶楽部などで顧客ひとりひとりのニーズにしっかりと向き合い、満足度を高める戦略をとっています。
もちろん、全てがオンラインからの購入者ではありません。弊社の場合は顧客層の特性からも、電話で予約を入れて、旅行を熟知した担当のコンサルタントによる的確なアドバイスや提案を受けてから購入いただくことが非常に多いです。お客様の細かい要望に応えることが非常に重要であると考えています。
急速なテクノロジーの発展で、従来の旅行代理店業界は斜陽産業になると批評家に見なされています。しかしそれは真実からは程遠いのではと感じています。実際にお客様はまだ弊社にアドバイスを求めてきます。特にお年寄りや子供との旅行を予定している方々からの相談は非常に多いです。
ヒューマンタッチはテクノロジーでは絶対に置き換えることができません。最新のテクノロジーを使いつつも、お客様ひとりひとりの要望に応えるサービスを提供することをいつも大切にしています。
旅行先で英語・中国語・マレー語が通じるならF.I.T、通じないならツアー旅行が好まれる
<P>
旅行を熟知したスタッフによるアドバイスで、より満足度の高い旅行を提供し、長期的な顧客となっていくのですね。では現在、シンガポール人にとって一番人気の旅行先はどこでしょうか?
<ア>
シンガポール人のF.I.Tの場合は、やはり東南アジア旅行は値段的にもリーズナブルに行ける先として人気です。特にマレーシアとタイが多いです。各国のプロモーションキャンペーンもシンガポール国内で非常に積極的に行われているのが要因の一つです。
ツアーで旅行に行く方は、自分のコンフォート・ゾーン外=旅費が高い(距離、価額、言語の壁など)国をよく選びます。ですので、ヨーロッパ、南アフリカ、エジプト、トルコのツアーの割合が高いです。言語の壁が比較的高い日本と韓国のツアーも人気です。
注1:ダイナスティ・トラベルの顧客層の中心は40~60代という背景があります。
<P>
なるほど、シンガポール人は英語や中国語、マレー語などを話せる方が多いので、言語の通じる英語圏や東南アジア圏はFITを選び、言語の壁がある国はツアーを選ぶ傾向が強いということですね。
まとめ
シンガポールの旅行に関する実情が分かったところで、次回の後篇では訪日旅行に関するインタビューを行いましたので、こちらをお伝えいたします。ASEAN市場におけるリサーチ・マーケティングやプロモーションにご興味がある方はぜひ、ポインツまでご連絡ください。様々な事例をご紹介しながら、最適な施策をアドバイスいたします。
取材協力:ダイナスティ・トラベル
ダイナスティ・トラベルは1978年に創業。長年シンガポールの旅行業界を牽引する4大旅行代理店の一つ。2014年よりJTBの子会社となる。この数年間に名誉ある賞を数多く受賞している。
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
本イベントでは「顧客への情報アピール」「顧客体験(ゲストエクスペリエンス)」「運営のデジタル化」など、施設運営に必要なをテーマを、市場の最前線を走るエキスパートたちが集結。お客様が施設を見つける「旅マエ」から、実際に滞在する「旅ナカ」まで、あらゆるフェーズにおける最新戦略と成功事例を徹底解説します。
<本セミナーのポイント>
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詳しくはこちらをご覧ください。
→宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」【7/3開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
→「THE INBOUND DAY 2025」特設ページを見てみる
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
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