「泳ぐ宝石」と呼ばれる高級観賞魚の錦鯉が、中国などアジアの富裕層に人気です。
業界団体によると購入者の約8割が外国人とも伝えられており、国際的な人気の広がりとともに相場も上昇傾向にあるといいます。
昨年2018年10月、広島県三原市で開かれた錦鯉のオークションで、中国人の愛好家が提示した過去最高の金額はなんと2億300万円。この落札に会場に詰め掛けた内外のバイヤーからどよめきの声が上がったそうです。
2億円は異例の高値ですが、最近は品評会で優勝した錦鯉を海外の富裕層が1匹数千万円で購入するケースも珍しくないと言います。
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海外の「錦鯉」ブームは熱冷めやらず
錦鯉は日本原産の観賞魚です。新潟県が発祥となっています。かつては多くの日本人が飼っていましたが、都市部を中心に地価上昇で池を作る場所の確保が難しくなり、下火となってしまいました。
国内では錦鯉の飼育数が減少していますが、反対に錦鯉のオーナーとして増加しているのが海外勢です。
全日本錦鯉振興会(新潟県小千谷市)が毎年開催している品評会では、直近5回のうち4回の優勝が、中国人オーナーが日本で買い付け出品した錦鯉となりました。
更に、2018年の錦鯉の輸出額は43億円で、これは15年前の3倍の額です。輸出先は従来の欧米に加え、近年は中国や香港、タイなどアジア向けが急増しています。
関係者によると、輸出に委託分も加えた海外需要は「100億円規模」と言います。
最近の中国「錦鯉」ブーム、きっかけは支付宝(アリペイ)のキャンペーン
錦鯉は昔から中国では「鯉の滝登り」の故事があり、極めて縁起が良いものとされています。実は中国にも錦鯉の生産地があり、錦鯉で有名な河南省では年間で約8,000万匹の錦鯉が売れているそうです。ここ数年は高所得者層が増えたことから、1匹1万元(約17万円)もする錦鯉でもすぐに売れるような市場となっていると言います。
中国教育省(日本の文部科学省に相当)傘下の国家言語資源モニタリング・研究センターの発表する「2018年度ネット流行語大賞ベスト10」で、第1位は「錦鯉(強運の持ち主)」でした。
今回流行語大賞のトップになった理由のきっかけは、中国EC最大手である「アリババ」の仕掛けたキャンペーンにあります。
巨額の当選品を準備したこのキャンペーンにより「錦鯉」が「幸運」の象徴としてさらに強いイメージを社会に与えることとなりました。
皆が望む商品を手に入れる強運の持ち主と錦鯉のイメージは次第に重なっていき、また素晴らしい生活へのあこがれを意味する文脈でも用いられるようになりました。
アリペイは中国でもっとも使われている電子決済サービスの一つですが、昨年公式の微博(ウェイボー)アカウントで、リツイートによる参加型の抽選に当たれば「中国の錦鯉になれる」というキャンペーンを実施しました。
「中国の錦鯉」は当選者を意味し、世界各国で利用できるアリペイのクーポンが贈られるというのがこのキャンペーンの賞品でした。
アリペイは「この錦鯉をシェアするだけで、これから働かなくていい」という言葉で参加者を募ります。
この呼び掛けには多くのネットユーザーが反応し、合計300万回以上のリツイートと2億超えのアクセスを記録しました。
300万分の1の確率の幸運を手にしたのは北京市に住むITエンジニアの女性でした。世界各国の商業施設での買い物券がプレゼントされ、彼女は中国のネットでやはり大勢の注目の的となっています。
▲アリペイが当選者に送った買い物券のリストの一部
「鯉ブーム」波に乗って訪日中国人集客のインバウンド消費を加速させる
中国では、生きている「錦鯉」だけでなく、幸運の象徴としての「錦鯉」がネット流行語としてSNSにあふれかえるなど、「鯉ブーム」ともいえる波が全国的に起こっています。錦鯉については「日本の品評会で勝った」「日本で飼育されている」という日本ブランドを大切にする向きもあり、こうした錦鯉のオーナーとなる中国人富裕層は足しげく日本に通っているとも考えられます。こうした訪日中国人はインバウンド市場全体で考えると多数派ではありませんが、インバウンド市場の活性化や拡大を見据えた戦略を練る上では、重要視すべき存在と言えるでしょう。
また錦鯉の所有や生育は、言ってしまえば富裕層にしか需要がありませんが、一般の訪日中国人を対象に考えた場合も、錦鯉をモチーフにしたキャンペーンには縁起の良さを感じ関心を誘うと考えられます。
加えて、日本では5月の節句に合わせて掲げられる鯉のぼりは、中国では日本を象徴する存在として、桜やランドセルと並び認知を獲得しています。訪日中国人の集客においては、こうした「中国人にとってわかりやすいモチーフ」を起用することで、日本旅行の気分を盛り上げ、ひいては消費の促進もはかることができるはずです。
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