※新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京オリンピック(五輪)・パラリンピックは1年延期され、開会式は2021年7月23日(金)、閉会式は2021年8月8日(日)となりました。
2020年の東京オリンピックもいよいよ来年に迫りました。オリンピック開催に合わせて試みられる取り組みにはさまざまなものがあり、その1つとしてLGBTに対する理解の促進があります。
前回のリオデジャネイロオリンピックでは、LGBTであることをカミングアウトする選手が過去最多となるなど、LGBTとオリンピックには深い関係性があります。しかし、オリンピックを目前に控えた日本ではLGBTに関連する課題がいくつも残されています。
この記事では、LGBTの概要、オリンピックとLGBTの関係性、LGBT支援の現状について解説します。
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LGBTとは?
LGBTとはセクシャルマイノリティを総称する呼称であり、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字をとったものです。以下では、LGBTの意味や関連する用語について解説します。
セクシャルマイノリティの種類
性にはさまざまな基準があり身体的な性、性自認と呼ばれる心の性、恋愛や性愛の対象となる性などが代表的なものです。
LGBTは、以下それぞれのセクシャルマイノリティの頭文字です。
- L:レズビアン(女性同性愛者)
- G:ゲイ(男性同性愛者)
- B:バイセクシャル(両性愛者)
- T:トランスジェンダー(性別越境者)
トランスジェンダーは出生時の性と性自認が異なるという特徴からMtF(Male to Female:身体的には男性であり性自認は女性)やFtM(Female to Male:身体的には女性であり性自認は男性)とも呼ばれています。
これらの用語は混同されがちですが、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルは性愛の対象に関する定義であり、トランスジェンダーは性自認に関する定義です。例えば、「MtFでありレズビアンである」といったこともあり得ます。
LGBTIQという呼称も
LGBTという呼称では網羅しきれないセクシャルマイノリティを含む、さらに広い概念を表す言葉としてLGBTIQという呼称もしばしば用いられています。
IQはインターセクシャル、クエスチョニングの頭文字をとったもので、それぞれ以下のような意味を持っています。
- I:インターセクシャル(性分化疾患)
- Q:クエスチョニング
インターセクシャルは染色体異常などにより男性的特徴と女性的特徴が部分的に混在する人々、クエスチョニングは性自認や性的指向を意図的に定めない、または探求している状態の人々を指します。
他にもXジェンダー(性別の枠にとらわれない)、アセクシャル(無性愛)などの呼称もあり、LGBTに対する理解の広まりとともにさまざまな呼称が誕生しています。
LGBTの象徴:レインボーフラッグ
セクシャルマイノリティを尊重する考え方において、1人1人の性はグラデーションのようなものであると表現されます。
これは性について男性と女性の二元論的な考え方を廃し、性はそれぞれの身体的特徴や性自認、性的指向によって多様に分けられるという考え方に基づくものです。
「白か黒ではなくさまざまな色があっていい」というイメージから、グラデーションによって複数の色で塗り分けられたレインボーフラッグがLGBTの象徴として用いられています。
オリンピックとLGBT
リオオリンピックはLGBTフレンドリーを掲げて開催された大会としても有名です。
また、スポーツの力を用いた社会的ダイバーシティ推進のための取り組みとしてオリンピックにおけるLGBTフレンドリーは世界的に注目されています。
以下では、オリンピックとLGBTの関連性について解説します。
オリンピック選手のLGBTカミングアウトが過去最多となったリオ五輪
2014年にオリンピック憲章が変更され、第6章の差別禁止の条項には性的指向による差別も含まれています。
オリンピック憲章の変更に伴いリオオリンピックはLGBTフレンドリーを掲げて開催される運びとなり、自身がLGBTであることを発表した選手の数が過去最多となりました。
2012年にロンドンオリンピックでは23人の選手がカミングアウトしたのに対し、2016年のリオオリンピックでは50人以上にものぼりました。オリンピック憲章の変更やLGBTフレンドリーを掲げての大会開催は社会的なLGBTへの認知度を向上させたと言えるでしょう。
東京でもオリンピックに向けて「人権尊重条例」を制定
オリンピック憲章が変更されたのは東京オリンピックが内定した後でしたが、現在東京都もオリンピックに向けLGBTへの理解を深めようと取り組んでいます。
新たに制定された人権尊重条例(東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例)では、性自認や性的指向による差別の禁止や企業、団体等における性自認に合致しない服装の強制禁止などが盛り込まれました。
この条例の制定は、LGBTの人々が暮らしやすい街づくりへの大きな一歩となるとして、人々の期待が寄せられています。
LGBTへの理解を深めるプロジェクト「プライドハウス東京」
プライドハウス東京とは、東京オリンピックを契機として、LGBTに対する理解を深めることを目的としたプロジェクトです。イベントの開催、コンテンツや情報の発信を行っています。
ラグビーが盛り上がる期間に合わせる形で、2019年9月20日から11月4日にかけてコミュニティスペース「プライドハウス東京2019」が設けられました。これはLGBTの当事者や家族・友人それぞれが自分らしく過ごせることを目的として設置された、情報発信施設です。
東京オリンピックに向けた課題
リオオリンピックと同様にLGBTフレンドリーを謳っている東京オリンピックですが、それに伴う問題も発生しています。
以下では、東京オリンピックに向けた課題について解説します。
トランスジェンダーの選手は男子?女子?
オリンピックをはじめとするスポーツの大会では男女の性差による運動能力や筋肉量の違いを結果に影響させないために男女別で競争する仕組みをとっています。
しかし、身体的な特徴のみによって性別を分け、性自認と異なる性別として出場させるオリンピックのやり方はLGBTを尊重する姿勢に反するのではないかという意見もあります。
LGBTの選手のみが出場する枠を設けるなどの案も出ていますが、差別を助長するというリスクも指摘されており、いまだ現実的な解決策は出ていないのが現状です。
LGBTに関する学習経験を持つスポーツ指導者は約3割
日本スポーツ協会による2018年の調査によれば、スポーツ指導者の中でLGBTに関する学習経験を持つ人々は全体の約3割にとどまっています。LGBTに対する知識がないと、トランスジェンダーの選手を指導する際どのような支援や対応・配慮をすべきかわからず、選手を精神的に傷付けてしまう可能性があります。
上記の問題を解決するためには、今後東京オリンピックに向けて心境的な理解だけでなく知識的な理解を促進することが重要であると言えるでしょう。
当事者のニーズと乖離した施策の問題も
LGBTフレンドリーを掲げる場においてはセクシャルマイノリティの人々に対する配慮としてさまざまな取り組みが行われますが、LGBTのための施策が当事者のニーズと乖離しているケースも発生しています。
代表的な例はLGBTトイレで、入るとLGBTであることが一目でわかってしまうため、他人の目が気になって利用できないという声が上がっています。
また、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルの場合は必ずしも身体的な性と性自認が異なるわけではないため、LGBTすべてに同じ施策で対応することにも疑問が残ります。
このような問題を解決するためにも、当事者のニーズを把握し、それを反映させる形で施策への取り組みを進めていくことが求められていると言えるでしょう。
オリンピックに向け、LGBTに対する理解や適切な支援が必要
2014年のオリンピック憲章変更以降、オリンピックにおいてもLGBTフレンドリーが掲げられており、セクシャルマイノリティの人々に配慮した大会運営が求められています。
オリンピックにおけるLGBT関連の問題は当事者の選手だけが抱えるものではなく、大会を開催する街や国、さらには世界中で考えるべき問題です。
LGBTに対する理解や支援という点ではまだまだ十分な対応がとられていない日本において、オリンピックの開催は多くの人々がLGBTについて理解を深めるための契機となるでしょう。
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