世界的に有名なオーストラリアの「ウルル」(エアーズロック)への登山が、2019年10月26日より禁止となりました。
先月、オーストラリアで発生した大規模な森林火災が世界に大きな衝撃を与えましたが、オーストラリアの自然が極めて貴重であることは世界に広く知られるところです。
今回は、オーストラリアの重要な観光資源の一つであるエアーズロックが登山禁止となった背景について、観光公害の観点から解説します。
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オーストラリアを旅行する外国人は多い?
「UNWTO Tourism Highlights 2018 Edition」のデータによると、オーストラリアは2017年の国際観光収入ランキングでは第7位で、国際観光到着数は約880万人となりました。
翌2018年には、2月までの1年間にオーストラリアを訪れた外国人数が初めて中国がニュージーランドを上回り1位となり、中国市場の取り込みにも成功しているといえます。
また、オーストラリア政府統計局によると、2018年のオーストラリアへの日本人渡航者数は、前年より7.9%増の46万9,200人となりました。2019年9月1日からは全日空の成田ーパース線が新規就航しており、日本人の渡豪者数も今後ますます増加することが見込めます。
動物・自然・先住民・ワイン、そしてアクセスの良さ
オーストラリアの魅力として、豊かな自然、カンガルーやコアラなどオーストラリアならではの動物とのふれあい、先住民体験、地域により特色があるワインを体験するプログラムなどが挙げられます。
近年ではシドニーやブリスベン、ゴールドコーストをはじめとする東海岸へのフライトだけでなく、西海岸の都市へもキャセイパシフィック航空やシンガポール航空などが直行便を就航させています。アジアはもちろん欧米からのアクセスの良さも、観光地としての魅力の一つとなっています。
あのエアーズロックが、2019年10月から永久に「立ち入り禁止」
海外旅行先としてオーストラリアの認知が拡大するなか、代表的な観光スポットであるエアーズロックへの登山が禁止される事態となりました。
エアーズロックはオーストラリアの中央部 ・ノーザンテリトリー州に位置する、高さ348メートルの巨大な一枚岩を指します。日本ではエアーズロックの名で有名ですが、これはイギリスの探検家がつけた名前であり、現地では先住民アボリジニの言葉である「ウルル」が正式名称です。
エアーズロックへの観光客向けの登山は、2017年にウルル・カタ・ジュタ国立公園委員会の全会一致によって、2019年10月26日から禁止されることが決定しました。
先住民アボリジニからの訴え
エアーズロックを聖地とする先住民アボリジニから、観光客の態度にはリスペクトがないといった訴えがあり、登山禁止へつながったとされています。
頂上から360度のパノラマや地平線を見渡せるエアーズロックは、オーストラリアの重要な観光資源として、数多くの観光客を受け入れてきました。
同時に、エアーズロックは、地質学的に貴重なものであるうえに、先住民アボリジニの聖地として古くから信仰されてきた存在です。
今回の登山禁止の決定は、テーマパークを訪れるような軽い気持ちで観光客が入山する様子が、聖地に対するリスペクトが欠けていると見なされたことが影響したといえるでしょう。
登山が禁止される数週間前から、エアーズロックには数千人もの観光客が押し寄せました。登山者で大渋滞が発生したほか、周辺のキャンプ場や宿泊施設が満室となった結果、違法なキャンプやゴミの放置など、駆け込み需要からなる観光公害が発生する事態となりました。
富士山も大渋滞!避けられない?名勝の観光公害:緩和策とマナー喚起
日本の富士山でも、登山客の殺到による混雑が後を絶ちません。
特に週末やお盆の時期になると、山頂付近の登山道では御来光を拝むための大渋滞が発生しているのが現状です。
そこで、富士山における適正利用推進協議会は「富士登山オフィシャルサイト」にて、混雑予想カレンダーの公開や、混雑時の様子を映したYouTube動画の配信、山頂以外の御来光スポットを紹介するなどして、混雑緩和へ向けた対策に取り組んでいます。
訪日客向けには、静岡県が6か国語対応の富士登山者向けマナーガイドブックを作成しました。富士登山のマナーやゴミの持ち帰り、トイレ事情などを解説し、増え続ける訪日登山者のマナー改善を目指しています。
まとめ:観光客と居住者がお互いの利益を尊重し、観光公害を乗り越えるには?
観光公害への改善策として、観光客を追い出すことはベストな手段なのか、ということを考える必要があります。
経済を回すために観光客が多く訪れている現状を活かすのは有効なやり方です。
エアーズロックの場合は、先住民アボリジニの宗教的な信仰が歴史的いきさつとして影響していましたが、誰が観光客の立ち入りを制限する権利を持つのかといった問題の構図は、他の観光地でも同様に見られるでしょう。
観光客と観光地周辺の居住者がお互いの利益を尊重するには、観光客の「民度」の向上に期待するしかないのかもしれません。しかし「民度」の向上は見聞を広めることで達成される場合もあるため、バランスをとりながら時間が解決するのを待つしかないと言えます。富士山の例のように、混雑時の様子や混雑回避の方法を発信し、多言語のマナーガイドブックを用意するのも1つの手段です。
同時に、日本国内でいえば、地方を中心に依然として観光客の到来を待っている場所もあるはずです。地方都市が人気観光地になるための取り組みには、まだまだ伸びしろがあると言えるでしょう
こうした新たな観光地が人々の観光需要を吸収することも、一つの解決方法となることが期待されます。
<参照>
・BBC NEWS JAPAN:豪ウルルに観光客が殺到、登山禁止目前に駆け込み
・UNWTO:UNWTO Tourism Highlights 2018 Edition日本語版
・REUTERS:2月までの1年間の訪豪旅行者、中国が初めてNZ抜き首位に=統計
・観光経済新聞:2018年の日本人渡豪者数、前年比7.9%増5年連続プラス推移 10年ぶりに45万人超え
・トラベルWatch:オーストラリア政府観光局が会見。2020年までに観光客の年間支出1,400億オーストラリアドルを目指す
・トラベルWatch:オーストラリア政府観光局 国際担当GMインタビュー。日本人旅客は4%成長、2018年は西海岸を訴求
・JTB:エアーズロック(ウルル)を知る-歴史的な歩みから過ごし方まで-
・富士山Net:富士山、混雑予測で登山者分散 知事会見 安全、保全対策に成果
・富士登山オフィシャルサイト:混雑を避けて、安全・快適な富士山へ
・訪日ラボ:富士山63.6%が訪日客トラブルを経験 登山関連事業者向け調査で判明 静岡県は外国人登山者を対象にした啓発グッズを拡充
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