世界的な日本食ブームの到来とともに和牛人気が海外で高まるなか、和牛を含む日本産牛肉の輸出の活発化が顕著です。
一方で、近年海外で話題となっている外国産“WAGYU”の存在も無視できません。2018年夏には、輸出が禁止されている和牛の受精卵が中国に持ち出され、流出しかけるといった事件も発生しています。
今回は、インバウンドにも人気の和牛の輸出状況や海外における外国産WAGYUの流通の現状をふまえ、インバウンド誘客に対する和牛の可能性を解説します。
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外国人の間で高まる和牛人気
和牛の輸出量の増加から海外でも認知が拡大した和牛ですが、本場の日本で和牛を味わおうとインバウンドにも人気の日本食の1つとなっています。そもそも和牛とは何かを振り返りながら、輸出が増えた背景を解説します。
そもそも和牛とは
和牛とは「明治以前から日本で独自に交配され、育てられてきた品種名」を指します。和牛の定義は厳しく定められており、和牛として名乗れるのは「黒毛和種」「褐毛和種」「日本短角種」「無角和種」の4品種とそれらの交雑種のみとされています。これらは古くから品種改良がなされ、高い品質が受け継がれていることから、現在も世界的に高評価を受けている品種です。特に黒毛和牛は遺伝的な特性から、霜の降り具合、肉の色味、締まりなど肉質が非常に良いため、最高峰の牛肉として世界中で親しまれています。
牛肉のおいしさの要素は「食感(テクスチャー)」「味」「香り」の3つが挙げられ、和牛特有のものである「和牛香」が大きな魅力の1つとして、海外でも評価されています。和牛香は、桃やココナッツのようなコクのある甘い香りが特徴とされており、口の中に入れてよく噛むと出てくる香り「口中香」の1つです。
和牛の輸出増
財務省の貿易統計によると、日本から海外への和牛の輸出は急増しています。2017年の日本産牛肉の輸出量は約2,700トンと、前年比41.8%増という大幅な増加を記録しました。金額面でも、191億6,000万円と、前年比41.4%増となっています。輸出量と金額はともに、7年連続の増加が認められました。牛肉の生産量全体に占める日本産牛肉の輸出の割合は1%程度ですが、松坂牛などブランド牛のなかには輸出割合が1割を占めるケースもあるとしています。和牛の輸出においては、ヒレやサーロインなどの高価格な部位が重量ベースで過半数を占めており、輸出の増加が和牛の価格や生産を支えているのが現状です。
輸出が増えた背景
日本から和牛の輸出が増えた背景として、台湾での輸入解禁が挙げられます。台湾では牛海綿状脳症(BSE)の影響で日本からの牛肉の輸入を禁止していました。16年ぶりに輸入を解禁した2017年からは、日本産の高級和牛ブームが巻き起こり、日本の和牛輸出を後押ししました。日本政府は2013年以降、和牛の輸出促進に取り組んでいます。世界各地でセミナーや試食会などを開催し、原産国として“ジャパン・ブランド”を示す和牛統一マークを策定するなど、海外への和牛の売り込みへ積極的に取り組んでいる様子がうかがえます。
海外で外国産WAGYUが流通
海外で「WAGYU」と言えば、「日本産牛肉ではなく、高級牛肉の代名詞」となっているのも事実です。日本での「和牛」は両親がともに和牛であることが条件ですが、1990年代にアメリカやオーストラリアに和牛を流出させてしまった業者がいたため、和牛の遺伝子を用いた外国産WAGYUの生産が世界に広まりました。仕方なかった?海外産の和牛
海外産の和牛が流通するようになった背景として、2010年の口蹄疫の流行や2011年の福島原発事故が挙げられます。これらの出来事をきっかけに、各国が日本からの牛肉の輸入を停止するようになり、世界市場ではまずオーストラリア産WAGYUが広く浸透しました。「オーストラリアWAGYU協会」も設立され、和牛の育成と改良に積極的に取り組むようになっています。日本と同レベルの厳しい品質管理を徹底するなどし、日本の和牛よりはるかに安い価格帯で品質の良いWAGYUが広く輸出されるようになりました。
オーストラリアでは両親のどちらかがWAGYUと認定を受けたものであれば、WAGYUと名乗ることが可能です。こうしたブランド認定のハードルの低さが、WAGYUの浸透を後押ししたと考えられるでしょう。
アメリカでも第二のアンガス牛として、アメリカ産WAGYUの地位確立を狙っています。赤身肉が一般的なアメリカですが、近年は日本食ブームの到来から、霜降りのWAGYUの人気拡大も顕著です。アメリカでは和牛の血が50%以上入っていればWAGYUとして流通しているため、定義の曖昧さが目立ちます。
まとめ:インバウンド誘客要因としての「和牛」
Instagram:jenn.624氏の投稿
世界で「和牛」が身近になってきているなか、和牛の本場「日本で食べること」を魅力に感じてもらうためには、あらためて和牛をジャパン・ブランドとして確立し、その価値を地方からも発信することが重要でしょう。
海外での旅行見本市で、和牛の産地である自治体が地域の銘柄牛を紹介するといった取り組みは、地方創生への鍵も握っているといえます。海外では神戸牛、松坂牛、近江牛などのブランド牛の認知は拡大していますが、日本各地には他にもさまざまな和牛があるとアピールすることで、その意外性もありインバウンドの地方誘客とともに和牛の消費拡大にもつながることが期待されます。
<参照>
株式会社Meat-Companion:世界をとりこにする和牛 攻めの戦略で輸出が急増
農林中金総合研究所:国内の牛肉需給と和牛生産
nippon.com:和牛は今や世界の「WAGYU」:米国、オーストラリアに続き中国でも生産
農村協働工舎:黒毛和牛とは?意外と知らない和牛の話
日本畜産物輸出促進協議会:和牛の特徴
農林水産省:海外の牛肉マーケットにおける「都道府県ブランド」の意義及び「和牛統一マーク」使用の効果に関する調査報告書
オリーブオイルをひとまわし:世界に広がる外国産WAGYU。日本の和牛を守れ!
講談社:日本の和牛ブランドを狙う中国の「流出工作」驚きの手口
朝日新聞:和牛受精卵、中国に複数回持ち出しか 運搬役に渡航歴
AtMedia:「和牛(WAGYU)」でインバウンド
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