かつて流行語にもなるほど世間を賑わせた、インバウンドによる「爆買い」。その流行自体は終わったと言われていますが、訪日外国人の買い物意欲が衰えたわけではありません。
実は現在でも、訪日外国人の旅行消費額に占める買い物の割合は29.5%(2兆3,952億円)と、宿泊費に次いで高い割合を維持しています(観光庁 インバウンド消費動向調査 2024年年間値より)。
では、現在のインバウンドによる買い物トレンドはどのようになっているのでしょうか。
今回訪日ラボは、訪日客向けショッピングサポートアプリ「Payke」を提供する株式会社Payke 代表取締役CEO 古田奎輔氏へ取材。インバウンド客の消費トレンドや、訪日前に作る「買い物リスト」の中身、そして同アプリを活用したマーケティング事例について伺いました。

Paykeとは:訪日外国人向けショッピングサポートアプリ
訪日外国人向けショッピングサポートアプリ「Payke(ペイク)」は、商品バーコードを読み取ることで、商品の詳細情報を母国語で確認できるアプリです。
従来の翻訳アプリと異なり、「Payke」は商品の使い方や魅力など、購入を検討する際に役立つ情報を多言語で提供しています。これにより、外国人観光客は自国の言語で商品について詳しく理解することができ、安心して買い物が楽しめます。
2015年にサービスを開始し、累計ダウンロード数は500万を突破。ユーザーの96%が外国人で、言語は中国語(簡体字 / 繁体字)・韓国語・タイ語・ベトナム語・英語・日本語の計7か国語に対応しています。利用者の多くが日本へ旅行に来る前にアプリをダウンロードしており、ダウンロード後3か月以内に訪日するケースが7割となっているそうです。
Payke(ペイク):https://payke.co.jp/
Paykeのデータから見る、訪日外国人に人気の商品とは?
——買い物データを可視化できる点がPaykeの特徴の一つかと思いますが、具体的にどのようなデータを蓄積しているのでしょうか。
Payke 古田氏:アプリユーザーが商品情報を読み取ったとき、アプリを起動したときなどのデータを蓄積しています。商品をスキャンした方の国籍・年齢・使用言語など属性データが取れるので、どんな人たちがどんな商品に興味を持っているのかを定量的に可視化できます。
——Paykeのデータからわかる訪日外国人に人気の商品としては、どういったものがあるのでしょうか。
古田氏:2024年8月に調査した際には、多くの市場で「ダーマレーザー スーパーVC100マスク」が1位となりました。ほかには「龍角散ダイレクトスティック」「パブロンゴールド」「ロートリセ」など、医薬品がランキングの上位を占めていることがわかりました。
ブランド別ではロート製薬や花王、小林製薬など、医薬品・日用品メーカーが台頭しています。


——お菓子や食品のランクインが少ないようですが、そういったカテゴリではどんな商品が人気ですか。
韓国でミルクブームが起こっていることもあり、日本のミルクプリンや飲むヨーグルト、乳酸菌飲料などがよくスキャンされています。
関連記事:インバウンドに人気の商品・お土産ランキング【2024年版】
インバウンドは「買い物リスト」を作ってから訪日する
——ほかにPaykeではどのようなデータを持っていますか。
面白いのが「ほしい物リスト」機能で、訪日前に買いたい商品に目星を付けて、リストに追加する機能です。
これから日本に来る人たちは「買いたい物のリスト」を作ってから訪日することが多いのですが、それをアプリ上で作成できるようにしているんです。さらに、実際にそのユーザーが来日した時、リストの商品をどのお店でスキャンしているのかまでデータで追うことができます。
——「ほしい物リスト」は、高単価の商品が多い傾向にありますか。
古田氏:意外と高単価から低単価まで幅広くリストインされています。スキャンされた商品ランキングの中には、たとえば「うまい棒」などかなり低単価な商品もあり、ここまで事前に調べるのかと驚く方も多いのではないかと思います。
ただ、100円の商品なら「試しに買ってみよう」と気軽にカゴに入れる方が多いと思いますが、単価の高い商品になるほど、商品情報をしっかりチェックしようと思うのが通常の心理です。ですから1,000円以上の商品のスキャンが比較的多くはなりますね。
「買い物リスト」の中身を特別に公開!
今回、Payke内の「ほしい物リスト」に登録されているデータを特別に見せていただきました。データは個人情報と紐づかない形で集計されています。
たとえば中国人の20代女性は、「DHC ブルーベリーエキス」といった健康を意識した商品や、「コロロマスカット」「白いバウム つむぎ」「白い恋人」などのお菓子を登録。
台湾人の20代男性も、「サロンパス」「太田胃散」とともに「森永乳業 焼きプリン」を入れており、医薬品・健康食品とお菓子・食品をメモする傾向にあるようです。

なかには下記のように、10種以上の商品を登録する方もいました。
この方は食品に加えて、「ダーマレーザーマスク」のようなシートマスクや、洗顔フォーム、日焼け止めなどを選択しています。

こうした「ほしい物リスト」の登録データを、テキストマイニング化してみました。
一番人気は「ダーマレーザーマスク」で、ほかにも「ロート」「サンティア」「太田胃散」など、医薬品関連の商品が並ぶ結果となりました。

Paykeを活用したマーケティング事例
——Paykeに蓄積されたデータは、どのように活用できるのでしょうか。
古田氏:メーカーや小売店の皆さんは「どの商品がどれくらいスキャンされていて、実際にどれだけ売れているのか」を知りたいと思います。
そこで、Paykeの該当データとお店のPOSデータとを連携させることで、その数値を把握することができます。
「ある商品と一緒にスキャンされることが多い商品」もPaykeでデータ化できるので、売り場のレイアウト提案なども可能です。
近隣店舗とのデータ比較もできる
——なるほど。具体的に活用された事例はありますか。
古田氏:あるドラッグストアでの案件がありますね。たとえば大阪・心斎橋のようにドラッグストアがたくさん並んでいるようなエリアのトレンドデータを調べて、クライアントと他店の取扱商品のギャップを比較したことがありました。
「自社では取り扱いしてないけど、隣のお店では取り扱っていて、たくさんスキャンされてる商品」などもあるわけです。そういうものを全部洗い出して、仕入れや棚配置のアドバイスをさせていただいています。
Paykeは訪日客の10%弱が利用、かつユーザーの70%が訪日リピーター
——Paykeは多言語対応サービスという印象が強いですが、マーケティングにも活用できるアプリなんですね。
古田氏:はい。Paykeは毎月新規で10万ダウンロードされ、アクティブユーザー数は月間30万人前後となっており、「訪日客数全体の10%弱」に利用されている計算になります。
さらにユーザーの7割がリピーターなので、購買意欲の高いインバウンド層をおそらく一番獲得しているサービスだと思います。そうしたユーザーにダイレクトにプロモーションを行えるのもPaykeの強みです。
——アプリ上ではどのような形で宣伝広告が可能なのでしょうか。
古田氏:たとえば特定メーカーの商品を「ほしい物リスト」に入れている人にだけ広告やプッシュ通知を送る、タイアップ記事を通知するといった施策ができます。
メーカー向けのインバウンド施策効果測定ツール「In-Scan」も提供開始
——広告は中長期的なものが多いですが、Paykeならば訪日前のインバウンド層にダイレクトにプロモーションできる点が魅力的ですね。
古田氏:そうなんです。インバウンド客向けにいろんな会社が広告を打っていますが、効果測定がしづらいという課題もあります。インプレッションの数は見えても、売上までは見えづらいんです。
しかしPaykeではスキャンされた商品と売上がほぼ比例するので、プロモーションの効果測定としてスキャン指数を元に算出できます。そのツールが昨年発表した「In -Scan」です。
実際にあるメーカーさんが台湾現地でプロモーションをした後、日本国内の店舗での商品スキャンが3倍以上に増えたといった効果測定ができています。
店舗データと連動すれば「スキャンあたり何%の確率で購入されている」といったこともわかるので、定点観測を続けていけば、概ねの売上予測もできるようになります。
インバウンド業界の課題をデータで解決したい
——インバウンド客への商品PRの効果検証ができず、“なんとなく”感覚でやっている企業も結構あると思います。データをもとに的確な施策が行える点はとても画期的ですね。
古田氏:おっしゃる通り訪日外国人のデータは不足しがちで、課題を感じている企業様は多いと思います。
それが要因で広告宣伝も不足していて、日本の商品の良さが海外にしっかり届いておらず、SNSなどでの「偶然のバズ」に頼っているのが現状なんです。
Paykeは国産アプリとしてファーストパーティーデータが取れる点が強みです。こうしたデータをもとにインバウンド市場が抱える課題を解決していきたいと思っています。
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