近年、自然環境の悪化から世界中で注目されているのが「エコツーリズム」です。環境保全の観点から、自然に優しく、その土地の文化や歴史を学ぶ新しいスタイルの観光形態を取り入れる国や自治体も多くなっています。
しかし、環境保全と観光を両立させるには難しい部分もあり、エコツーリズムには課題が多く残ります。エコツーリズムの抱える課題と、解決に向けた取り組み例をご紹介します。
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エコツーリズムとは
エコツーリズムは、その地域ならではの自然や資源を保護しながら、それを利用して行う観光のことを指します。環境保全と観光の振興を両立させ、持続可能な観光産業と地域の発展を目指します。
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エコツーリズムは地域固有の資源を保護する観光
近年よく耳にするようになったエコツーリズムですが、国際的に統一された定義はありません。一般的には自然環境や歴史文化など、その地域ならではの魅力を観光客に伝えることによって価値を見出し、保全につながることを目的とした観光の考え方をエコツーリズムと呼びます。
観光によって自然環境や資源が損なわれることのないよう適切な管理の元で保護・保全するとともに、地域住民も自分たちの資源の価値を再認識し、観光のオリジナリティを高めて地域の暮らしの安定や活性化を目指します。
日本では、日本エコツーリズム協会がエコツーリズムの健全な普及と推進を図っています。
エコツーリズムの歴史
エコツーリズムは、当初途上国において、森林などの自然を観光客に見せることによって観光資源とし、森林伐採などの開発から自然を守りながら経済発展する考え方として注目されました。 先進国では、持続的な観光振興を目指す概念として論じられています。
日本では、1990年頃から民間事業者が屋久島などの自然豊かな観光地でエコツアーを始め、1991年には環境庁(当時)がエコツーリズムに関しての調査を開始しました。
2003~2004年にかけては環境大臣を議長とした「エコツーリズム推進会議」が開催され、2007年には地域で取り組むエコツーリズムに関する総合的な枠組みを定めた「エコツーリズム推進法」が成立しました。
エコツーリズムに取り組むには
エコツーリズムに取り組むには、その土地固有の文化や自然を守りながら、それを使用して持続可能な観光振興を目指すというエコツーリズムの考え方に基づいたエコツアーを行うことが重要です。
エコツアーを行うにあたっては、環境保全を図りながらその観光資源の魅力を観光客に的確に伝えられるガイドの存在も必要になります。そして観光客側にも、自然を大切にし土地の文化を理解する姿勢が求められます。
エコツーリズムを健全に推進するためには、観光客、地域住民、観光業者、研究者、行政の5つの立場の人々がバランス良く協力し合うことが不可欠です。
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エコツーリズムが抱える課題
自然を保護しながら経済活動を活性化させることが目的のエコツーリズムですが、良いことだけではなくさまざまな課題も抱えています。その中でも大きなものは、環境保全と観光振興を両立させることと、エコツアーを行うガイドの確保です。
自然環境保全と観光振興のバランスをとるのが難しい
エコツーリズムの目的は、地域の環境を保護しながら観光業として成立させることです。
しかし、観光客が増加すればゴミが増えたり外来の植物が持ち込まれたりなど、地域の生態系が壊される可能性があります。
また、観光客が安全に見学できるように森林が伐採されて車道や歩道が作られたり、階段や手すりが作られたりもします。その過程で多少なりとも植物や昆虫が犠牲になり、野生動物が人間に慣れ、警戒心が無くなることでさまざまな問題も発生します。
その一方で、環境保全に力を入れ過ぎて観光時のルールを厳しくしすぎたり、人数の制限などをしたりすると観光客の数が減ることにつながります。それでは観光業として成立しなくなる可能性があり、環境保全を優先するのか観光振興を優先するのか、この二つのバランスをとるのが難しい現状があります。
エコツアーを行うガイドの確保が難しい
エコツアーでは、地域ならではの自然の魅力や特徴、文化や伝統を観光客に紹介することが目的です。そのためには、それを観光客に分かりやすく説明し、環境に負荷を与えずに案内できるガイドの存在が非常に重要であるといえます。
エコツアーは自然への負荷が無いツアーではなく、ガイドが自然環境への影響を常に考えながら行動しなくてはならないツアーです。そのため、ガイドの知識や経験が十分でない場合、自然環境に負荷をかけずに案内することが難しくなります。
しかし、国や専門機関によるエコツーリズムに関するガイドの資格認定制度はありません。一時的なアルバイトや無償のボランティアがガイドを行っている場合があり、ガイドの質にばらつきがあることが問題となっています。また、ガイドの高齢化や後継者不足も問題視されています。
エコツーリズムの課題解決に向けた取り組み例
環境保全と観光振興のバランスをどのように取ればよいのかはエコツーリズムにおける大きな課題ですが、その課題の解決に向けて取り組んでいる地域もあります。タイ、エクアドル、そして日本の小笠原諸島の例をご紹介します。
タイ:ピピ・レイ島
タイのピピ諸島では、観光客の増加によりサンゴの破壊、ごみ問題、砂の減少による砂浜の傷みなどが大きな問題となっています。
人気No.1の観光スポットであるピピ・レイ島のマヤ湾は、海洋生態系回復のために2018年から現在に至るまで閉鎖され、観光客は立ち入ることができません。閉鎖により多額の経済的損失が発生しましたが、最も大切なのは自然を回復することであり、長期的に見れば自然回復を促す方が観光客の満足度が高まるとの考えから、閉鎖という決断がされました。
入島再開後は、入島時間・人数の制限、ガイドによる環境教育の実施、観光客が参加できる環境配慮プロジェクトの実施などを取り入れる予定です。また、観光業としては、観光客数の増加ではなく一人当たりの観光消費額の向上を目標にします。
エクアドル:ガラパゴス諸島
ダーウィンが訪れ進化論の着想を得たことで有名なガラパゴス諸島は、1978年に世界自然遺産の第1号の一つとして登録されました。しかし、90年代以降の急激な観光地化と人口増加から、環境汚染や外来種の侵入などで2007年には危機遺産リストに登録されました。危機遺産とは、世界遺産のうち、価値を失うような重大な危機にさらされている遺産のことです。
その後、観光客の入島数や滞在期間の制限、外来種の持ち込みを防ぐために探知犬を導入するなど取り締まりを強化した結果、エクアドル政府による環境保全措置の努力が実を結び、2010年には危機遺産リストから脱却しました。
また、ガラパゴス諸島ではナチュラリスト・ガイド制度が取り入れられており、観光客はナチュラリスト・ガイドと共に観光やマリンアクティビティをしなければいけません。ガイドは観光客に生態系や歴史などの紹介をするほか、公園内のルールを遵守するように指導もしています。
日本:小笠原諸島
小笠原諸島は、島の誕生以来、他の陸地と地続きになったことのない海洋島です。そのため、2011年には生態系の独自性が評価され、国内4番目の世界自然遺産に登録されました。
山域のガイドツアー、ナイトツアー、スターウォッチング、スキューバダイビングなど様々なエコツアーが行われています。
東京都は、小笠原諸島の南島と母島石門一帯を自然環境保全促進地域として指定しており、利用区域や経路、時期や時間、一日当たりの利用者数などを定めたルールに基づいてエコツーリズムを実施しています。
自然環境保全促進地域を利用する際には、都認定の「東京都自然ガイド」の同行が必須となり、一人のガイドが担当する利用者数も決められています。
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エコツーリズムの課題を乗り越え、環境保全と観光振興の両立へ
元々は途上国の自然環境を保全しながら観光産業を発展させるという考えから始まったエコツーリズムですが、環境保全と観光振興の両立には課題もあります。
環境保全に偏り過ぎては経済的効果が見込めず、観光振興に重きを置けば自然破壊が進んでしまうというジレンマがあり、そのバランスをうまく取ることが必要です。
課題解決のためには、エコツーリズムの考え方を多くの人に広めることと、ガイドの質を高めてより自然環境に配慮したツアーができるように努力することではないでしょうか。
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【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
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