旅行先で動物と触れ合う機会を提供する「アニマルツーリズム」が注目を集めています。テクノロジーの発達により旅行先での様々なトラブルに対する問題解決が容易になり、多様な旅行体験ができるようになりました。しかし一方で、動物や自然とのつながりを実感する機会は確実に減っているといえます。
アニマルツーリズムは動物への理解を深めながら、特別な体験ができます。日本の柴犬もヨーロッパを中心に、賢く愛らしいとして人気であり、日本には新たなアニマルツーリズムの可能性に溢れています。
今回は、日本のアニマルツーリズムの可能性について考察します。
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柴犬人気
柴犬は日本原産の日本犬であり、天然記念物に指定されている犬種です。海外人気も高く、「Shiba Inu」と日本語読みで呼ばれ、愛されています。
猟犬として活躍していた歴史から、主人に忠実で賢く独立心があります。愛らしい見た目と相まって、ペットとしての飼育のしやすさから人気が高まりました。
その例として、ドイツの愛犬団体「ドイツ・ケネルクラブ」の人気犬種ランキング50に柴犬は入っていませんが、柴犬限定のコミュニティ「ドイツ柴犬クラブ」が設立されています。海外では飼い主同士のコミュニティも盛んなため、情報の少ない柴犬の飼育に関する悩みをシェアし、柴犬人気に拍車をかけています。
柴犬の飼育数が増えて認知度が高まれば、柴犬をアイコンとしたアニマルツーリズムにも活用できそうです。
柴犬のユニークさ
柴犬が愛される大きな理由の一つに、愛嬌のある顔立ちがあります。三角形の立ち耳と短毛でがっちりとした体格が特徴です。尻尾は巻かれていて、頬には皮下脂肪が多く含まれており柔らかいことも、柴犬ファンならばよく知るところでしょう。
活発でありながら落ち着きを持つ性格で、芸を仕込むこともでき、洋犬とは異なる性質も海外で人気のようです。
犬が日本のイメージアップに貢献「柴犬まる」
世界的に有名な柴犬として、Instagramでフォロワー数約258万人を誇る「柴犬まる」がいます。
国内に動物アカウントが少なかった2011年に、東日本大震災をきっかけとして、「震災後の雰囲気を明るくしたい」と始められたアカウントです。
アメリカTime誌が発表した「最も影響力のある動物100(2016年)」では33位に選出され、三重県観光大使の就任、リオオリンピックの応援CMへの出演など、国内外で活動を広げています。
柴犬の日常を写したアカウントの魅力は国外まで届き、日本のイメージアップにつながっています。まるの海外での知名度は、日本だけでなく、柴犬の認知度向上に間違いなく貢献しているでしょう。
またインバウンドでも注目される京都市内に「おもてなしアート空間」をコンセプトにした「まるごとホテル」が2019年にオープンしていますが、同施設は言語の壁を取り払ったアプローチとして、柴犬まるの世界観を楽しめる部屋を設置しています。京都を訪れる訪日外国人を主なターゲットとして、柴犬まるが来訪を動機づけていると考えられます。
アニマルツーリズム
柴犬のように注目される動物たちを活かしたアニマルツーリズムは、今後も広がっていくと見込まれます。民泊サイト「Airbnb」では体験コンテンツの新たなカテゴリとして「アニマル体験」を発表しました。
コーギーとパドルボードをしたり、ブルドックスケーターとスケートボードを楽しんだり、動物と触れ合うことが旅行先の体験として提供されています。
柴犬の人気もあり、日本でも日本犬をアイコンとしたアニマルツーリズムの取り組みが既に行われています。秋田県では「秋田犬ツーリズム」と称し、秋田犬を軸にしたインバウンド向けの取り組みが行われています。
秋田犬と触れ合える施設の紹介や、秋田犬を入り口として伝統体験へ誘導させるなど、秋田犬に興味がある層へアプローチを行って、秋田の魅力を伝える設計です。日本犬の知名度を使った誘導と、動物のふれあいを通して得られる学びを明確に示すことが大切になってくることでしょう。
イマドキは「コト消費」っていうけれど…外国人は何望む?KWは「知識欲」世界の先行事例に学ぶ
2019年10月中旬、子供たちの職業体験施設である「キッザニア」が鹿児島にオープンしたというニュースが報じられました。現在常設での施設は、東京と兵庫にあり、鹿児島にできる「アウトオブキッザニア」は29種類の職業を体験できる施設となります。インバウンド・レジャー業界は「コト消費」に向けた多くのプログラムを準備し、広く人気を博しています。今回は「新しいコンテンツ」を考えたいけどなかなか浮かばない、とお悩みの担当者に向けて海外にはどんな「体験コンテンツ」があるのかを探っていきたいと思います。目次...
「自然や文化」と「きりたんぽ」使い分けて成功した、秋田犬ツーリズムの取り組み
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アニマルカフェの人気
日本では猫カフェ、フクロウカフェ、うさぎカフェ、爬虫類カフェなど、様々な動物を扱うアニマルカフェがあります。
動物とのコミュニケーションに際し、言語ハードルはさほど問題にならないため、アニマルカフェは訪日外国人の集客にも有効と考えられます。癒し効果だけではなく、動物への関心やリテラシーを高めたい訪日外国人にとって、動物の扱い方を知れる貴重な場所と認識されています。
さらにハリネズミや爬虫類など、普段なかなかふれあえない動物たちと交流できるカフェも需要が高まっています。動物によっては注意が必要な動物もいますので、注意書きを多言語に翻訳しておくなどの配慮が必要です。
身体的特徴を過度に目立たせることの功罪
動物は繊細で扱いには注意が必要です。アニマルツーリズムの体験によって、初めて対象の動物と触れ合う観光客もいます。動物の身体的特徴をアピールすることはマスコットキャラクターとして有効ですが、命ある動物だということを忘れてはいけません。
例えば足が短く愛しい見た目をしているマンチカンは、多くの猫カフェでも飼育されています。マンチカンは遺伝子の突然変異により生まれた種類であり、その後計画的に繁殖させられた歴史を持っています。
同じようにスコティッシュフォールドは、突然変異で生まれた種類であり、折れ耳という身体的特徴を持ち、その可愛らしさから人気です。スコティッシュフォールドの特性も、遺伝子の突然変異によるものです。
これらの種類では、特徴を出すための繁殖の結果として、骨格など身体に障害がある個体が生まれることもあります。遺伝子欠陥を抱えたまま人の商売のために繁殖させられる行為は、動物たちにとって本当に良いことなのかという点には議論の余地があると言えるでしょう。
新たな市場に訴求できる可能性:アイコンとして起用する際に注意すべきこと
柴犬だけでなく、秋田犬や甲斐犬など、日本を代表する犬種はいくつか存在します。異文化目線で日本らしさを感じとれる「犬」のアイコンは、今後のインバウンド市場で、これまでになかったターゲットに訴求できる存在となるかもしれません。
柴犬まるの成功例のように、SNSを通じてマスコットキャラクターとして認知度を高め、旅行先として選んでもらうといった事例にならうことも検討に値するでしょう。
またアニマルカフェなど、体験を通して動物の生態を知り知見を深められる場所は、訪日外国人にとっても貴重な場所です。動物への意識の高まりに合わせて、独自で魅力的な体験を提案していくことが求められるようになるでしょう。
ただし、動物の健康や安全を脅かすような観光コンテンツは、それ自体避けられるべき存在であるだけでなく、ネガティブなイメージを大きく世の中に喧伝してしまうことにもなりかねません。
観光コンテンツに動物を起用する場合には、これから世界が目指す持続可能な社会という文脈において、日本の独自性や魅力を高めていくメッセージになっているかどうかという目線が必要でしょう。
<参照>
TIME:These Are Time’s 100 Most Influential Animals of 2016
https://www.instagram.com/marutaro/
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