【ポストコロナのインバウンド戦略】インバウンド公共事業専門家の視点 V字回復に向けて今できる事:株式会社ゼロイン 木立徹

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緊急企画『ポストコロナインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。今回は訪日客向けサイト「DeepJapan」で公共事業のインバウンドマーケティングを担当する木立徹氏に寄稿いただきました。


こんにちは。DeepJapanの木立です。

コロナ後のインバウンドのV字回復に向けて、訪日ラボに寄稿の機会をいただきましたので、これまで公共事業のインバウンドマーケティングをやってきた知見を、シェアさせていただきます。

DeepJapanを知らない人がほとんどだと思うので、簡単に自己紹介させてもらいますと、2013年からDeepJapan.orgという在日外国人が日本の魅力を投稿するメディアの運営と、2016年から自治体向けにインバウンドマーケティングを提供しています。メディア運営をするために協力してくれている800人の日本が大好きな在日外国人のパワーが、より日本の役に立つために公共事業に取り組んでいます。

私は、2015年から40以上のプロジェクトに関っています。小さいものでは、在日外国人のインタビュー、大きいものはラグビーワルドカップの最中に元ワールドチャンピオンのラガーマンを招聘して、日本の観光の魅力を発信するということをやってきました。

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1. 何故、外国人は日本に旅行をしにくるの?

コロナの収束後に、どうすれば外国人旅行者が戻ってくるか?が、みなさんの最大の関心事だと思います。

何故、外国人旅行者が日本に来るのでしょうか?

そして訪日する外国人旅行者が年々増えている理由は何なのか?

こちらを解説してみることにします。

2. みなさんは年収が100万円増えたら何をしますか?

▲みなさんは年収が100万円増えたら何をしますか?
▲みなさんは年収が100万円増えたら何をしますか?

この質問は、私がワークショップで最初にする質問です。

「そんな簡単に増えないよ」とか「コロナで大変な時に、何を言うんだ」なんて思わずにイメージしてみてください。ただし貯金はダメですよ。

私はこれまで200人以上の方にヒアリングしたのですが、「車」「趣味にお金を使う」などの後に必ず出てくるのが「海外旅行に行く」という答えです。家や車などモノは一度買えば十分なのですが、余裕ができると「趣味」や「旅行」にお金を費やすもので、一定の割合の人たちが「海外旅行」に出かけます。

3. 水平飛行の日本と、右肩上がりの海外勢

▲1人あたりGDP(2000~2018):2019 The World Bank Group
▲1人あたりGDP(2000~2018):2019 The World Bank Group

ここに2000年から2018年までの1人あたりのGDPのグラフがあります。

グラフを見てみると一人当たりのGDPは、日本は2000年も2018年も、数値がほぼ変わりません。一方、日本以外の訪日の多い国は右肩上がりです。つまり「2. みなさんは年収が100万円増えたら何をしますか?」での質問のように、年収が100万円増えて「海外旅行に行く」という人たちが、海外ではどんどん増えています。その海外旅行をしたい人たちが、ありがたいことに日本を選んで、日本に旅行に来てくれています。

4. リピーターに選ばれる国 日本

▲訪日回数:観光庁 訪日消費動向調査 2019年、JNTO資料より作表
▲訪日回数:観光庁 訪日消費動向調査 2019年、JNTO資料より作表
では次に日本に来ている外国人旅行者の特徴です。それはリピーターが多いということです。次の表は、JNTOのデータと観光庁の訪日消費動向調査のデータを組み合わせてつくりました。2019年度に観光庁が実施した23,353人への調査だと、約57%(13,249人)が訪日2回目以上と答えていました。各国別でわかりやすくグラフにするとこうなります。

こう見ると東アジア4か国のボリュームとリピート率の高さがハッキリしますね。ちなみに観光庁の調査では「日本への再訪意向」も聞いているのですが、「必ず来たい」と「来たい」を合わせると94%と非常に高い水準になっています。

▲日本再訪意向:観光庁 訪日消費動向調査 2019年
▲日本再訪意向:観光庁 訪日消費動向調査 2019年

「訪日旅行」という商材は、15万円もする高額商品(訪日外国人の平均消費金額2019年度15万8,458円より)なのにリピート率が50%を超えていて、また来たいと答えている人が94%います。コロナで一時的に止まっているとはいえ、需要は存在し、伸び続けていて、リピーターも過半数に達しているので、簡単に訪日外国人の波は消えません。

このリピート率や再訪意向は、インバウンドにかかわる人たちが外国人に向けてプロモーションして、現場でおもてなしをして、これまで磨き上げた「観光産業」があるからです。

どうでしょうか?この先のインバウンドの未来に希望は見えましたでしょうか?もちろん観光事業者からするとこのコロナで観光が止まってしまうのは大打撃ですが、「イマをどう耐えるのか?」そして「その先に何をすればいいのか」考えていきましょう。

5. オープンデータを眺めてみる

どう耐えるのか?については、政府の色々な施策や国内需要を喚起する策が大きく動こうとしているので、そちらに任せるとします。後は、手洗い、マスクと社会的距離を保ち、コロナをみんなで収束させて、コロナが収束した国から順に誘客を再開するという流れです。この一般論を私が話してもしょうがないので、マーケターの視点で「今、何をすればいいのか」をお話します。

この身動きがとりづらい時期だからこそマーケティングの基本を改めて考えてみてはどうでしょうか。どうしても、どうプロモーションをするかが先行しがちですが、「外国人」を量的にも質的に理解するマーケティングの基礎固めを改めてしてみませんか?Web上にあるオープンデータを活用するだけで色んなことがわかります。

まずは下の2つの表を見てみてください。

▲各国の訪日人数、人口、アウトバウンド数、一人当たりのGDP:JNTO資料等より作成
▲各国の訪日人数、人口、アウトバウンド数、一人当たりのGDP:JNTO資料等より作成

これは、各国の訪日人数、人口、アウトバウンド数、一人当たりのGDPと、各数値の割合をまとめています。

これを見ると、

  • 中国は訪日旅行者が多く来ているけど人口と比較すると一握り
  • 香港・シンガポール・イギリスの島国は、アウトバウンド率(海外旅行に行く割合)が高い。ドイツは、陸続きの国が多いし旅行好きなのか割合が高い。
  • 一人当たりのGDPが低い国は、アウトバウンド率が低い傾向
  • 欧米豪は、距離もあるので海外旅行先としての日本のシェアは低い。
  • リピーターは少ないが、複数回、訪日している人たちがいる。

などなど色々見えてくると思います。

他にも観光庁は、各県別の宿泊者の統計を出しています。この表もちょっと加工してみると、国別で相対的に人気のある県、人気のない(もしくは知られていない)県が見えてきます。

▲各県別の宿泊者の統計:観光庁データより作成
▲各県別の宿泊者の統計:観光庁データより作成

▲各県別の宿泊者の統計:観光庁データより作成
▲各県別の宿泊者の統計:観光庁データより作成

この表では、2018年の外国人の国別・県別の宿泊者数をまとめています。

山吹色のセルが各都道府県別の、のべ宿泊者数シェアです。全体がのべ約8,300万人泊なので東京都はそのうち26.7%のシェアを持っています。もし外国人が全く同じ興味、同じ行動をしていたら各県のシェアはどの国も一緒になるはずですが、実際の行先には当たり前ですが偏りがあります。

「東京都×韓国」のマスを見ると-12.67%となっていますが、これは韓国人が東京都に宿泊した割合が、全体の26.7%から12.67%少ないことを表しています。逆に青いグラフになっている「東京都×アメリカ」は、19.79%となっていますので、「26.7%+19.76%」で、46.6%のアメリカ人が東京を選んでいると読み取れます。

細かい計算は置いといて直観的に、セルが青くなっているところは、対象国の中で相対的に人気の都道府県と見てもらえれば大丈夫です。

オープンデータは、コスト0で色々なことがわかるので、私は観光庁の出している統計が大好物です(笑)。

6. 「外国人」という人は存在しない。

オープンデータから量的なものを見るだけでも色々なことがわかってきましたね。次は質的なことも考えてみましょう。

私は、仕事柄、在日外国人のスタッフと一緒にプロジェクトを進めたり、モニターツアーやグループインタビューしたりしてきました。これまで200人ぐらいのアメリカ・中国・台湾・韓国・フランス・ドイツ…色々な国の人と一緒に、観光映像をつくるならどういうストーリーにすべきか、Webサイトで県の魅力を伝えるにはどうしたらいいのか、取り組んできました。

その中で行きついたことは、「外国人」という人は存在しないということ。「アメリカ人」「中国人」といった人がいるだけです。それぞれの国の中でさらに細かい属性を言い出すとキリがないのですが、まずは「国ごとの好みや特徴」は突き詰めていくことは大切です。個人のデモグラフィックの影響より、「国」の影響の方がインバウンドでは大きいのです。

私のおススメは、各国の口コミサイトやブログを読むことです。

  • 英語圏:トリップアドバイザー
  • 中国:マァファンウォー(中国版の口コミサイト)
  • 台湾:PIXNET(台湾のブログサイト)
  • 韓国:NAVERブログ
  • タイ:PANTIP

言葉がわからなくても心配いりません。検索窓に、自分と関係ある地名や観光施設を自動翻訳して入れてみてください。その国の言語で書かれていても、ブラウザの自動翻訳機能を使えば、多少、支離滅裂な日本語訳になっていても「写真」で雰囲気はかなりつかめます。

この方法を使えば、コスト0でプロモーションする時にどういうスポットや写真が、対象の国の人に刺さるのかリサーチできます。

7. マーケティングの基礎固め

オープンデータを駆使するだけで、色々なことが見えてきますね。来るべき需要の復活に向けて、マーケティングリサーチと、プランニングの基礎固めをしておけば、より効率的にプロモーションを再開できます。旅行者の動きが止まっている今だからこそ、「外国人旅行者のこと」や「これまでのマーケティング施策」について考えてみてはどうでしょうか。

かくゆう私たちDeepJapanもこの機会を使って、これまで行ったプロモーションの効果検証や費用対効果の算出を黙々とやっています(笑)。多言語サイトをつくって1PV得るのに、いくらかかっていたんだっけ?とか、同じ1PVでも一瞬で読み終わってしまうものもあれば、滞在時間が長いメディアの違いは何だっけ?という費用対効果やFacebookで人気コンテンツが何か分析をしています。

プロモーションについてまで話すとページ数が足りないので、何をすればいいか?というのは、ぜひ訪日ラボの他の記事や訪日コムのソリューションを調べてみてください。

著者:株式会社ゼロイン インバウンドマーケティング部 DeepJapan プロデューサー 木立徹

木立徹

株式会社ゼロイン インバウンドマーケティング部 DeepJapan プロデューサー

2015年からゼロインの新規事業DeepJapanチームに参加し、公共事業のインバウンドマーケティングを担当する。メインクライアントは、東京都、東京観光財団、環境省、関東広域観光推進協議会、千葉県観光物産協会、三重県観光連盟など。

2019年には、在日外国人と各国に強いソリューションをネットワークしてマーケティング施策を提供しているDeepJapanが東京都から評価され、世界発信コンペティションで「革新的サービス特別賞」を受賞。

在日外国人やインバウンドの各分野の先端企業を集めたコミュニティを運営しながら、インバウンドマーケティングの有効的な方法の模索と実践を続けています。

緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』寄稿募集

訪日ラボでは、現在のコロナ禍をどうやって乗り越えていくべきなのか?ポストコロナをどのようにとらえ、今対策をしていくべきなのかなどを、インバウンド業界の「中の人」に寄稿いただく特別企画を実施しております。本企画において寄稿を募集しておりますので、ぜひご応募ください。

ご応募の際には、まずは問い合わせフォーム( https://honichi.com/contact/ )より、

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  3. 寄稿したい記事内容の草案(タイトルやどんな内容になりそうかが見えれば問題ございません)

をご連絡くださいませ。ご連絡の際には完成した原稿は必要ございませんので、まずはお気軽にご相談ください。

なお、ご応募頂いたすべての方の掲載を保証するものではございませんのでご了承ください。ご応募受付のさいには、お問い合わせの返信を持ってお知らせいたします。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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