【ポストコロナのインバウンド戦略】「ポスト・コロナ」時代の生き残りに大事な2つのこと:株式会社ビースポーク 代表取締役社長 綱川明美

公開日:2020年05月20日

緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。今回は株式会社ビースポーク代表取締役社長でAIを活用した緊急時の多言語コミュニケーション「Bebot(ビーボット)」を展開する綱川 明美氏に寄稿いただきました。


「人類共通の敵」新型コロナウイルスが縮めた見えない心の距離

2月10日、早朝のロンドンヒースロー空港。子会社設立準備のために2週間に一度乗る、いつもの羽田・ロンドン便の着陸アナウンスがいつもと違うことに気づいた乗客たちの声でざわつく機内。通常であれば前から順番に降りられる飛行機が、指定列の乗客のみ降りられる形へ変更に。

降りる際に振りかえると、残された乗客のほぼ全員が中国系の家族づれ。その頃、欧米圏では「新型コロナウイルスは中国人やその他アジア人がかかるエキゾチックな病気」と分類されていたのではないかと思います。アジア人に対する差別が連日報道されていた時期と重なります。

あれから10週間。

グローバリゼーションにより一度は一つになったはずの世界が幕を閉じ、「人類共通の敵」新型コロナウイルスと戦闘するために到来したのは鎖国時代。いつも賑わっていた成田空港は、渡航制限によりターミナルの一部を当面閉鎖し、連日訪日客対応に頭を抱えていた都内ホテルは、新型コロナウイルス軽症者向けの一時滞在施設へ早変わりしました。

毎年この時期になるとオーバーツーリズムに悩んでいた観光地は、まるで時が止まったままのゴーストタウンとなり、人間の代わりに夜の街を歩き始めたのは、本来山にいるはずの野生動物です。

私が4年半前に創業し、緊急時の多言語コミュニケーションの自動化を主軸とする株式会社ビースポークでは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、外国人旅行者からのチャットクエリ内容が急変。

1月末時点では「マスクはどこで買える?」「まだ入国できる?」「ホテルはまだキャンセル可能?」といったライトな質問が、3月上旬には「ウイルス検査がしたいが病院で言語が通じない」「渡航規制により自国に帰れない」「発作が止まらないのに電話が通じない」などと胸を痛める内容の割合が圧倒的に増えたことが深く印象に残っています。そして、1日約5万人いた利用者が5%に激減しました。

▲[AIチャットボット「Bebot」概要]:株式会社ビースポーク
▲[AIチャットボット「Bebot」概要]:株式会社ビースポーク

株式会社ビースポークでは「Bebot」という、訪日観光客をサポートするAIチャットボットを開発・運用。 ビースポークが目指すのは、「地元の人が案内して くれる安心感」を備えた優秀なコンシェルジュ。利用者の心をつかむ温かい人工知能です。

例えば、成田国際空港の無料Wi-Fiに接続後に現れるBebotのチャット画面で「渡航制限」など、よく出る質問をチャットすると、AIが多言語で回答をします。

「おもてなし」をとても大事にする「ロイヤルパークホテル」や「東京ステーションホテル」等で採用されたのは、ビースポークで開発する「技術」よりも、Bebotを通して利用者が体感できる 「おもてなし」が大きな決め手でした。

▲[COVID-19カテゴリ別問合せ内容]:株式会社ビースポーク
▲[COVID-19カテゴリ別問合せ内容]:株式会社ビースポーク


今までの「日常」が「非日常」と丸っと入れ替わった「新しい世界」。とりわけ、人間の物理的な移動と接触が必須である観光業が受けている影響は、甚大以外の何物でもありません。

ただ、その「新しい世界」はめまぐるしい日常の中でつい私たちが忘れてしまう「大切なもの」の存在感を高めたことも事実です。

いま、世界中の人々が求めているのは「豪華な高級ホテル」や「コストパフォーマンス」ではなくむしろ「安心感」であり、自分の大好きな人と過ごす「密度の濃い時間」。「人類共通の敵」新型コロナウイルスが縮めたのは、経済だけでなく、世界中の人々の「見えない心の距離」だと私は考えています。

鎖国後、「ポスト・コロナ」時代の観光業の未来予想図

今まで当然のことと考えられていた人々の価値観や行動パターンが180度劇的に変化を遂げる中、「ポスト・コロナ」の観光業はどうなっているのでしょう。

米国LuggageHero社の調査では、58%の回答者が2020年の夏から秋にかけて、「旅行へ出かけたい」と回答しています。ロックダウン中のフロリダのJacksonvilleのビーチ再開日は、多くの住民で賑わい、ロックダウン終了直後の世界遺産「黄山(中国・安徽省)」は、かつてないほどの大混雑。

外出自粛による旅行需要の大幅なリバウンドが予想される一方で、今後は今まで以上に世界各国において自然災害・疫病・テロを含む緊急時の対策が必須になり、「旅先の選択基準」が大きく変化するでしょう。

人々は旅行に何を求めるようになるのか。

キーワードは、「安心感」と「密度の濃い時間」なのでは、と私たちは予想します。そして、新たな需要に対し、スピーディーに取り組んで行くことが、旅行業界の可能性をさらに大きく広げると考えています。

それでは、リバウンドに備えて実際にはどんな動きが起きているのでしょうか。シンガポールでは、政府が独自に設定した公衆衛生基準を満たした施設にのみ与えられる「SG Clean」Quality マークが徐々に普及し始めています。業種別にそれぞれ異なる7つの基準が設けられ、全てをクリアした場合にのみ「SG Clean」Quality マークが付与されます。

<参照>Checklist for SG Clean Programme – Singapore Licensed Hotels Updated as at 27 March 2020

例えば、宿泊施設の場合は「公共スペースを頻度高く消毒するだけでなく、従業員のPersonal Hygiene も一定のレベルにあること」などが含まれます。

政府主導で行うことにより醸し出されるのは、ちょっとした「安心感」であり、訪問者に対する「思いやり」なのかもしれません。従来の格付けや星の数よりも、公衆衛生への取組が旅先の重要な選択要素に加わる日を予想していた観光事業者はほとんど存在しなかったはずです。

遠隔業務の普及が、宿泊施設に与える影響

さて、「安心感」の先に「密度の濃い時間」が本当に必要とされるのであれば、観光業にとってそれは一体何を意味するのでしょう。

「顧客ポートフォリオの組み直し」だと私たちは考えます。遠隔業務が一時的なものではなく、「ポスト・コロナ」時代にも続いた時に何が起きるか。それは、家族や大切な人と過ごす時間を増やすことに繋がり、レジャー需要が高まるでしょう。

さらに、大半の打ち合わせは、ビデオ会議で事足りると気づいた企業にとっては、以前と比較して出張の正当化が、圧倒的に難しくなるはずです。出張客をメインに取り込んでいた宿泊施設にとって、これは戦国時代の始まりを意味するのかもしれません。

ここ数十年大きな変化が見られなかった旅行商品。変化する需要に追いつくために、どこまで多様化が進むのかが楽しみです。北欧のスキーリゾートではすでに年々拡大している「ワーケーション」。日本でも普及すれば、それは、旅行需要が低かった若年世代に変化を起こす大きな可能性を秘めています。

一方短期的には、経済低迷により、長期ではなく短期の国内旅行の需要が上回るかもしれません。経済が縮むからこそ、人々にとって、旅行はさらに多様な意味を帯びることになります。

▲[緊急宣言発動後の開発会議の光景]:株式会社ビースポーク
▲[緊急宣言発動後の開発会議の光景]:株式会社ビースポーク

コロナ待機中の過ごし方で決まる「勝ち組」と「負け組」

実質「鎖国状態」が続くことで静まり返る世界中の観光地。これは、わたしたち人間が、政府からの「外出自粛」要請に応えたことによるポジティブな結果と私たちは解釈しています。

今までの人類史で、世界中の人がここまで一丸となって乗り越えようとしたイベントを記憶している人は少ないでしょう。

「人類共通の敵」新型コロナウイルスが縮めた見えない心の距離。それをさらに縮めるために、「旅行」が重要な役割を果たすはずです。

そして、ポスト・コロナの「勝ち組」と「負け組」を決める戦いはすでに始まっているように見えます。

各企業のコロナ待機中の過ごし方が、半年後、さらには一年後にどう影響してくるか。最後に国内企業と海外企業の事例を一部ご紹介いたします。

「蔦温泉」のアーティスト支援

平安から続く千年の秘湯で知られる青森県の「蔦温泉」では、「文豪体験」と称し、執筆活動に集中する作家を応援する長期滞在プランを準備中とのこと。

湯治しながら、かつての文豪たちが愛した「時の流れ」を感じながら執筆活動に励む。100年前にこの地でそれを楽しんだ文豪の一人が大町桂月。

蔦温泉代表のお話では、「ロックダウンという閉塞の中、様々なニーズを叶えることにより国民の健康を支援したい」という意図があり、家族連れでも快適に楽しめるよう、保育士の配置も検討しているそうです。

「ホテルニューオータニ(東京)」のデイユーステレワークプラン

ユニットバスを国内でどこよりも早く取り入れたりと、いつの時代も革新的な取り組みを進めてきた「ホテルニューオータニ(東京)」では、日帰りの『デイユーステレワークプラン』をどのホテルよりも早く発売。テレワークが急激に普及する中、環境がまだ整っていない人や、自宅で集中できない大人達の救済に一番最初に動いたのが宿泊施設のようです。

「Universal Orlando Resort (ユニバーサル・オーランド・リゾート)」の直球アプローチ

閉鎖中のテーマパーク「Universal Orlando Resort (ユニバーサル・オーランド・リゾート)」では、顧客アンケートを電子メールで実施。「再開後また来園したい思うか」「セルフサービスの食事オプションは中止すべきか」「来園者は全員マスクをすべきか」などといった直球の質問をし、顧客目線で再開後の計画を立てているそうです。

「Bebot」経由で寄せられた日本への旅行を待ち望む外国人の声

  • “Hopefully after this condition recovers I will visit Japan and will be staying In.. How I miss Kyoto so bad!!”
  • “I’ll definitely come back to Japan”
  • “i'm from zurich switzerland and I want come to japan”

旅行は手法であり、目的ではありません。ただ、旅行には既存の価値を緩やかに拡張できる可能性がある。だからこそ、世界を巻き込んだ一大産業でいられるのだと思います。

▲[緊急宣言発動前の開発会議の光景]:株式会社ビースポーク
▲[緊急宣言発動前の開発会議の光景]:株式会社ビースポーク

ポスト・コロナの開発会議は参加前に検温が必須になるかもしれません。

▲[緊急宣言が発動される前のゲーム大会]:株式会社ビースポーク
▲[緊急宣言が発動される前のゲーム大会]:株式会社ビースポーク

ポスト・コロナのゲーム大会はサイコロの消毒が必須になることでしょう。

著者:株式会社ビースポーク 代表取締役社長 綱川明美

▲[株式会社ビースポーク 代表取締役社長 綱川 明美]

1987年神奈川県生まれ

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)卒。 豪系投資銀行にて日本オフィス初の新卒として機関投資家向け日本株のリサーチ・セールスに従事。

その後、日本株のトレーディング、海外企業の日本進出支援、日系金融機関の海外進出コンサルティング業務を担当し、フィデリティ・インターナショナルで機関投資家向け金融商品の開発を経て、2015年に株式会社ビースポークを設立。

世界8カ国からトップレベルの開発者を採用し、AIを活用した緊急時の多言語コミュニケーション「Bebot(ビーボット)」を展開中。

現在、成田国際空港、JR東京駅、他多数施設へ導入中。海外カンファレンスにも多数登壇。趣味はボードゲーム「カタンの開拓者たち」。

緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』寄稿募集

訪日ラボでは、現在のコロナ禍をどうやって乗り越えていくべきなのか、ポストコロナをどのようにとらえ、今対策をしていくべきなのかなどを、インバウンド業界の「中の人」に寄稿いただく特別企画を実施しております。本企画における寄稿を募集しておりますので、ぜひご応募ください。

ご応募の際には、まずは問い合わせフォーム( https://honichi.com/contact/ )より、

  1. お名前
  2. 所属・役職
  3. 寄稿したい記事内容の草案(タイトルやどんな内容になりそうかが見えれば問題ございません)

をご連絡くださいませ。ご連絡の際には完成した原稿は必要ございませんので、まずはお気軽にご相談ください。

なお、ご応募頂いたすべての方の掲載を保証するものではございませんのでご了承ください。ご応募受付の際には、お問い合わせの返信を持ってお知らせいたします。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

訪日外国人観光客のインバウンド需要情報を配信するインバウンド総合ニュースサイト「訪日ラボ」。インバウンド担当者・訪日マーケティング担当者向けに政府や観光庁が発表する統計のわかりやすいまとめやインバウンド事業に取り組む企業の事例、外国人旅行客がよく行く観光地などを配信しています!