中国式訪日ツアーの闇/ランドオペレーターの役割と“免税店“サービスの問題点

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2019年も人数、消費額ともに増加した訪日外国人インバウンド)市場ですが、観光客の中には団体旅行の形で日本を訪れる人もまだまだたくさんいます。こうした団体旅行で利用されるホテルやバス、ガイドやレストラン等の手配は、実は「ランドオペレーター」と呼ばれる、こうした業務を専門に扱う会社が行っています。

BtoCで一般のお客様に旅行商品を販売している大手旅行代理店などが、ランドオペレーターのクライアントです。

外国人観光客の訪日旅行手配なども、日本のランドオペレーターが海外の旅行代理店から発注をいただき、ツアーの手配を行っています。

筆者は、そんな訪日旅行手配専門のランドオペレーターで、海外法人営業としてインバウンド最前線で勤めていました。日本のランドオペレーターの中でも売上高や訪日客数の取り扱いも多い企業だったからこそ、その裏側もたくさん見てきました。

この記事では、インバウンドが日本で注目され続ける一方で、一般の方にはほとんど知られていない中国人観光客の訪日ツアーの闇について取り上げます。

悪徳商品と言わざるを得ない商品を販売する免税店やランドオペレーター 、ツアーガイドの報酬はどの程度なのか、またこうしたツアーが東南アジアからの訪日観光客にまで販売され始めている現状についてお伝えします。


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2018年は約260万人の中国人が、団体ツアーで日本を訪れている

訪日観光客の中でも、その客数や購買力などの点から、中国人観光客の存在感はやはり大きいです。

個人旅行が中国も近年増えてはきましたが、まだまだ団体旅行は減っておらず、日本全体の訪日観光客数の多くを占めています。

▲[訪日中国人の旅行形態(2011年〜2018年)]:JNTO訪日旅行データハンドブック2019より引用
▲[訪日中国人の旅行形態(2011年〜2018年)]:JNTO訪日旅行データハンドブック2019より引用

こちらのJNTO訪日旅行データハンドブック2019によると、2018年は訪日中国人全体の31.4%、中国人観光客の36.2%が団体ツアーに参加していることがわかります。

2018年の訪日中国人数は約840万人でしたので、実に約260万人の中国人が、団体ツアーで日本を訪れていることになります。2018年の日本全体の訪日客数は2,670万人でしたので、日本に訪れる外国人の10人に1人が中国人団体ツアー客ということになります。

これはものすごい数です。しかし、そんな訪日中国人団体ツアーの実態は、残念ながら悪徳サービスとセットになったツアーが蔓延しているのが現状です。

悪徳サービスを提供し、莫大な利益を上げるランドオペレーター

こうしたツアーの実態については、「悪徳」という言葉こそ使っていませんが、日本の観光庁も紹介しています。

筆者は、この現状についての意見交換や情報共有の目的で観光庁の担当課に足を運んだだけでなく、実際にこの悪徳ツアーの潜入調査にも参加しました。

▲[訪日旅行における手配構図の例]:観光庁資料「ランドオペーレーターの現状について」より引用
▲[訪日旅行における手配構図の例]:観光庁資料「ランドオペーレーターの現状について」より引用


中国人向けの団体訪日旅行ツアーですが、悪徳ツアーの場合は中国ではかなりの格安価格で販売されています。そのままではそのツアーを販売する中国の旅行会社に利益は出ないような価格設定です。

筆者が勤めていたランドオペレーターではこうした悪徳な免税店を組み込んだツアーは一切提供しなかったですが、ツアーの原価を全て計算に入れて悪徳ツアーと同等の販売額に設定してみると、数十万円の赤字になります。それほどに、格安でツアーを販売しています。

ではなぜそんなにも格安でツアーを販売できるのかというと、ツアーの販売以外でランドオペレーターがかなりの利益を叩き出せるからです。

こうした利益が上がらないはずの価格設定を可能にしているのが、高額な商品販売と、その販売報酬です。

ツアーを手配するランドオペレーターは、お客様の旅程の中に"免税店"を組み込み、お買い物時間を設けます。この販売によるキックバック(販売報酬)により、赤字が出るようなツアーでも、関係者は利益を手にすることができるのです。

偽物で高額な「日本ブランド」

旅程にお買い物時間を設けることはツアーではごく一般的なことですが、この”免税店”に問題があります。この”免税店”では、販売している商品のほとんどが、どこにも売っていないような奇妙なサプリメントや美容系商品ということが少なくありません

免税店の場所も繁華街から離れたところや、目立たない場所で、ツアー参加者には、他の施設の商品と見比べるチャンスがありません。

筆者も実際にこの免税店に潜入したことがあるのですが、『すっぽんの〇〇』『サメ△△』『納豆』『〇〇エキス』などなど、日本の店舗では取り扱われていないどころか成分も箱に書かれていない奇妙な商品が、健康増進に効果があるかのように販売されていました。

しかもその価格は、5万円や10万円を超える商品が大量にあります。これを免税店の販売員やツアーガイドが、言葉巧みに商品をお客様に売りつけます。

「日本では大人気」「有名な女優も使っている」「中国人観光客みんなが買っていく」「今だけの激安セール」などと謳い、お客様を騙して高額商品を販売しています。

商品の値段の半分は、ランドオペレーターへの「販売報酬」

そしてその商品の販売額から、販売報酬(キックバック)がランドオペレーターやツアーガイドに支払われます。

この販売報酬ですが、実際に悪徳ツアーのガイドを昔やっていたという中国人によれば、商品にもよりますが平均して50%〜60%が報酬として受け取れるそうです。

あくまでもこの中国人の場合ですが、月に100万円以上の利益を稼いでいたと話しています

ツアーガイドは観光地案内などのガイド業務は無報酬で、仕事をランドオペレーターから受けています。ランドオペレーターにとっては、ツアーガイドの業務委託は原価0円で、免税店での商品販売から販売報酬まで受け取っています。こうして、ツアーの原価は非常に低く抑えることができてしまします。これが、悪徳ツアーの実態です。

なぜ中国人団体客は悪徳ツアーを選んでしまうのか?

中国からの訪日団体ツアー客は、内陸部などの地方から訪れる方が多く、沿岸部などの都会に比べ高齢者も多いため、情報弱者の方がほとんどです。

そういった情報弱者をターゲットにしたランドオペレーターは、案内する免税店以外の買い物時間は一切旅程に組み込みません。こうしたツアーの参加者は、本当の日本を見ずにお金を騙し取られ、帰国しているといえるでしょう

しかし一方で、お客様も徐々にこの悪徳ツアーの実態に気付き始めており、国交省にも苦情が多く寄せられています。

▲[ランドオペレーターに対する外国人からの苦情(国交省意見箱)]:観光庁資料「ランドオペーレーターの現状について」より引用
▲[ランドオペレーターに対する外国人からの苦情(国交省意見箱)]:観光庁資料「ランドオペーレーターの現状について」より引用


2015年(平成27年)に、外国人から国交省に寄せられた苦情の件数は49件でした。そのうちの22件が免税店に関するクレームで、ほとんど半分に近い数です。

主なクレームの内容は、下記の通りです。

「ツアーガイドに勧められて高額商品を購入したが、ツアーガイドが言っていたような効果は見られなかった。」

「旅程の中に免税店ショッピングを多く組み込み、ツアーバスの車内でも保健食品などを勧められ大量に買わされた。」

免税店にて熱心に勧められた薬を買ったが、後に偽物だとわかった。」

このように、日本で実際に被害に遭っている外国人観光客は少なくありません。

観光市場における日本のブランドを守るためにも、一刻も早くこういった悪徳ツアーをなくすべきです。

ランドオペレーターの監督を、政府や観光庁が規範も作成して徹底的に行い、違反した場合の罰則を厳しく設けるなどで対応すれば、こうした事態を防ぐことも可能になるはずです。

ランドオペレーターはすでに登録制へと変更になり、以前よりは取り締まりも強化はされていますが、現場の感覚ではまだまだ免税店を組み込んだツアーは減っていません。もっと本腰を入れた、日本政府の対応が待たれます。

悪徳ツアーを提供する中華系ランドオペレーター

では、一体こういった悪徳ツアーを提供するのは誰なのかというと、大半が日本に本社を構える中華系のランドオペレーターです。

中国人が経営するランドオペレーターが中国の大半の旅行代理店にツアーを卸し、中国人のお客様に悪徳ツアーを販売しています。

つまり、中国人が中国人を相手に悪質なサービスを提供している構図です。こうした構図は、近年よく話題に上がっていた白タク行為と共通しています

中華系のランドオペレーターは、法の合間やグレーゾーンをうまく使い、巧みにお客様を騙して利益を上げています。

東南アジアの訪日客相手にもサービスを展開し始める

そしてこの悪質な中華系ランドオペレーターですが、実は2年〜3年ほど前から、中華圏のみでなく東南アジア市場にも進出してきています。

全く同じビジネスモデルで、東南アジアからの訪日観光団体市場に価格破壊を起こし、東南アジアからのお客様を騙し続けています。特にタイやマレーシアなどでは、残念なことにこういった悪徳ツアーがすでにかなり普及してしまっています。

2019年も、東南アジアから日本に来るインバウンドが増えました。特にタイからの訪日客は、2018年から二年連続で年間100万人を超えています。

東南アジアでは年中気温が高く、訪日客は日本の本物の雪や紅葉、桜といった自然や風景には特に関心を引かれるようです。距離も近く、東南アジアのこれからの経済成長と人口の増加を考えると、まだまだ伸びていくと考えられます。 

まとめ

悪徳ツアーが日本のイメージ低下につながるのは間違いありません。 真っ当に素敵なツアーを提供しようとしているランドオペレーターおよび旅行代理店にとって、これほど悔しく悲しいことはありません。 

新型コロナウイルスの影響で、勢いが完全にストップしてしまった日本の今のインバウンド業界にとって、ここが変革のチャンスともいえます。インバウンドが減っている今だからこそ、落ち着いてもう一度現状の日本のインバウンド対策を官民ともに見直し、業界をよりクリーンで健全なものに是正していく機会にできるのではないでしょうか。

日本国内外問わず、悪徳ツアーに関する情報発信を粘り強く続けることはもちろん、日本政府がランドオペレーターの取り締まりをさらに強化していくことが必要でしょう。

悪徳ツアーを日本から無くし、すべての外国人観光客に本当の日本を楽しんでもらうことが、インバウンド業界を持続可能なものにするはずです。


<参照>

https://www.mlit.go.jp/common/001148478.pdf

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/2018_december_zantei.pdf

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/jnto_databook_2019.pdf

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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