観光産業の中で、近年「LGBTツーリズム」に注目が集まっています。世界におけるLGBTツーリズムの市場規模は約22兆円といわれ、新たな市場となることが期待されています。
日本の観光産業の発展にも、LGBTツーリズムへの理解は重要です。日本国内においては、LGBTに対する理解はまだまだ広まってきたばかりです。
2020年6月3日、三重県ではLGBTなど性的少数者への差別防止のため、性的指向や性自認を本人に無断で暴露する「アウティング」の禁止などを盛り込んだ新たな条例を制定することを発表しています。アウティングを禁じる条例の制定は都道府県では初めてとなります。
この記事では、LGBTツーリズムとその事例、LGBTの用語説明や、日本での取り組みなどLGBTを巡る事例を紹介します。
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LGBTツーリズムとは?
LGBTツーリズムとは、LGBTと呼ばれるレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーを対象にした観光産業のことです。
LGBTツーリズム市場は世界中で注目を浴び、世界旅行ツーリズム協議会の調査結果では、世界中の旅行者の10%以上、総旅行支出の16%をLGBTの人々が占めているといわれています。
その理由として、旅行好きであること、ダブルインカムを持ち高所得者が多いことが挙げられます。家庭を持たないカップルが多いことから旅行などの消費にお金をかける人が多く、LGBT市場は富裕層マーケットに入るといわれています。
LGBTに理解があることを示す「LGBTフレンドリー」
LGBTツーリズムを盛り上げるためには、まずLGBTを理解することが必要です。LGBT旅行者は、差別や偏見を持たれない旅行先やホテル選びをするため、「LGBTフレンドリー」を大切にしています。
LGBTフレンドリーな姿勢とは、たとえば性別により関係性を判断するのではなく、旅行者としてのニーズをくみ取れる姿勢があります。ホテルにチェックインする際に、ツインではなくダブルの部屋に自然に案内することが旅行者のニーズに合致している場合もあるでしょう。
日本国内でも、「LGBTフレンドリー」を目指すために「LGBT研修」を導入する企業も出てきました。研修では、LGBTの基礎知識からLGBTツーリズムに関するプロモーション、LGBTに配慮した接客方法や運営方法などの具体案が盛り込まれています。
富裕層マーケットであるLGBT市場に日本が「LGBTフレンドリー」だと示すことで、観光客増加が見込めます。さらに、消費量も多いとされるLGBTの人々の来日により、観光業界全体の売上向上につながるといえます。
他国のLGBTツーリズムに対する取り組み
近年、少なくない国や地域で同性婚を認めたり、合法化を試みたりと、LGBTを受け入れLGBTツーリズムへも高い関心を示しています。
ドイツの国際的なゲイ専門旅行ガイド「スパルタカス・インターナショナル・ゲイ・ガイド」が毎年行っている、ゲイにフレンドリーな国ランキングが発表されました。
このランキングよると2019年はカナダ、ポルトガル、スウェーデンが同率1位の結果となっています。
続く4位は同率で13の国がランクインしています。世界中が高い関心を持ってLGBTツーリズムへ取り組む姿勢が読み取れます。
世界的にLGBTツーリズムへの対応が進む中、日本は2018年の55位から順位を下げ、2019年は68位という結果に終わっています。観光立国を目指す日本にとって、この結果を指標にするならば、LGBTツーリズムにおける意識改革は喫緊の課題といえるでしょう。
LGBTツーリズムの実現に成功した国にスペインがあります。スペインの観光収入60兆円のうち、およそ10%をLGBT観光客が占めているというデータがあります。2005年に同性婚を認めたスペインは、「LGBTフレンドリー」国であることをアピールし、それによりLGBTへ寛容なイメージが広まり、旅行客が集まっているようです。
旅行客だけではなく、スペインにはヨーロッパ各地のLGBT定年退職者が移住する動きも増え、各自治体を挙げて受け入れやさまざまな取り組みが進められているようです。
そもそも、LGBTとは?
「LGBT」は4つの言葉の頭文字です。Lはレズビアン(女性同性愛者)、Gはゲイ(男性同性愛者)、Bはバイセクシャル(両性愛者)、Tはトランスジェンダー(性別越境者)です。
レズビアン・ゲイ・バイセクシャルは性愛の対象に関しての定義、トランスジェンダーは自己の性自認への定義です。
その他に、LGBTIQという呼称もあります。LGBTに含まれないセクシャルマイノリティも入れて定義された言葉です。
Iはインターセクシャル(性分化疾患)、Qはクエスチョニングの頭文字です。インターセクシャルは染色体異常により典型的な男性・女性の特徴のどちらにも当てはまらない状態の人々であり、クエスチョニングは自分の性自認や性的指向が定まらない、もしくは意図的に定めていない人々です。
LGBTへの認知の高まりと共に、このような言葉も増え、多様な性への受け入れについて、様々な情報発信が見られるようになってきました。
日本はLGBTフレンドリー対応が遅れている?
スパルタカス・インターナショナル・ゲイ・ガイドによる「ゲイにフレンドリーな国ランキング」にもある通り、日本は「LGBTフレンドリー」対応が遅れているといわれています。 国内における、LGBTへの理解はいまだに低いというのが現状です。
2015年にNHKがLGBTへ大規模なアンケート調査を展開した際、カミングアウトしたことで「親に全否定された」という回答も見られました。未だに偏見の目を持っている人が多いといえるでしょう。
アンケート結果によると、そもそも「家族にカミングアウトした」と答えた割合は51.2%に留まり、約半数の人が家族にカミングアウトしていない現実があります。
家族だけでなく周囲へのカミングアウト率も低く、南関東では42.8%、京都・大阪・兵庫では43.2%に留まっているほか、20%台の地域も多くあります。
LGBTの中には、カミングアウトできないストレスで精神疾患を患う人や、就職活動でLGBTを理由に不採用になったという差別を味わった人もいるといいます。
他人事ではなく、一人ひとりが「LGBTがいることは当たり前」だということに気づき、思い込みを捨てて受け入れることが、日本社会の多様性の実現と世界での存在感を高めることにつながるでしょう。
パートナーシップ制度が徐々に広まる
一方で、2015年に渋谷区と世田谷区が同性カップルに「同性パートナーシップ証明」を発行するなど、少しずつLGBTに対する社会的な働きかけは進んでいます。
ただし、同性カップルに権利や保証を与える制度を持つ国は世界中の約20%といわれており、こうした国と比較された場合、日本は整備が進んでいないと感じられるでしょう。
LGBTに対する制度は、各国で推進されており、日本も世界から取り残されないためにも今後様々な取り組みを進めていく必要があります。
観光スポット、映像コンテンツによるポジティブなイメージの広がり
日本国内でも、特定のエリアであればLGBTの存在は当然のものとして受け止められています。新宿二丁目はその代表的な存在でしょう。
LGBTの人々が集う場所のなかには、観光スポットとして認知されているものもあります。こうした場所は、LGBTの人もそうでない人も気軽に足を運べるスポットになってきています。
また大ヒットを記録したテレビドラマ『おっさんずラブ』のように、男性同士の恋愛物語が多くの人に受け入れられるなど、徐々に日本国内でのLGBTに対する理解は広がっているといえるでしょう。
まとめ
多様性を尊重するムーブメントや、これまで見えていなかった生きづらさを解消することへの意識の高まりは、この数年SNSやメディアにより多く伝えられています。こうした動きは、LGBTツーリズムをさらに活発にさせると考えられます。観光立国を目指す日本でも、こうした動きにしっかりと目を配るべきでしょう。
マジョリティ向けのサービスと同様に、ターゲット像を明確にすること、日本ならではの魅力について調査し訴求することが成功の鍵となると考えられます。
「LGBTフレンドリー」を示すことも重要ですが、中には「LGBTであることを公表したくない」と考えている人もいます。LGBTにも様々な考え方があることを理解し、LGBT当事者目線でのサービス設計が、日本の評価を高めるためには重要となるでしょう。
<参照>
JTB総合研究所:インバウンド 訪日外国人動向
日経クロストレンド:旅行業界が注目する新セグメント「LGBTインバウンド」とは
OUT JAPAN:2019年版の「ゲイフレンドリーな国ランキング」が発表されました
NHK:LGBT当事者アンケート調査
NPO法人 EMA日本:世界の同性婚
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