コロナ禍で“お買い得”温泉旅館を狙う中国マネー:入国拒否でも「オンライン視察」これからの観光地の生存戦略は?

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新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、客足が途絶えた温泉旅館が閉館する事態が相次いでいます。特にこれまで訪日中国人客の割合が高かった温泉旅館では、今後の売り上げの見通しが立たなくなり、閉館を余儀なくされることもあるようです。

そのようななか、中国の富裕層がコロナショックで割安となった温泉旅館の買収を目的に、オンラインで視察を進めている姿が報道で伝えられています。

今回は、温泉旅館の倒産の現状と、中国の富裕層や外資による温泉旅館買収、経営の動向を紹介し、今後の観光地の生存戦略の展望について考察します。


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温泉旅館がコロナで閉館

日本中でインバウンド市場の成長が実感されていたここ数年、メインのターゲットを訪日外国人、その中でも年間の訪日外客数が最も多い中国人に据えて経営をしていた施設も存在します。

ある温泉旅館は、中国人団体旅行客をメインの宿泊客として経営をはじめ、実際に9割以上が中国からの宿泊客だったそうです。

ところが、新型コロナウイルスの感染流行により、渡航の制限が開始され、中国人だけでなく訪日外国人は激減してしまいます。

同旅館では、1日1台のバスが来館しており、1グループあたり30人前後が宿泊していたといいます。新型コロナウイルスの流行が中国で始まった2020年1月下旬から、同年4月末までの約90ツアーがキャンセルとなりました。

人数にして延べ3,000人分、売り上げとしては約1,500万円分の損失となります。今後も客足が戻るまで時間がかかることが予想されるなか、売り上げの見通しが立たなくなり閉館という苦渋の決断を迫られました。

この例だけでなく、日本各地の温泉旅館に、閉館を余儀なくされるケースが発生しているそうです。

中国富裕層が「オンライン視察」で買収を進めている

温泉旅館をコロナショックが直撃する最中、中国富裕層の間では、日本の温泉旅館を買収しようとする動きが活発化しているとの報道があります。

客足が途絶えた温泉旅館を割安で手に入れる狙いとされており、日本への渡航が制限されているなかでも、日本の代理人を通じたオンライン視察を進めています。オンライン視察では、日本の代理人と中国本土にいる資産家がテレビ電話をつなぎ、旅館の館内や周辺の様子を動画で撮影しながら説明します。

新型コロナウイルスの感染拡大による被害も大きかった中国ですが、外出禁止の徹底等が奏功し、比較的早期に経済の回復に成功しているようです。中国の資産家は、日本や欧米の価格が低下した資産に注目しているようです。

欧州ではこうした買収が今後の国内経済に与えるネガティブな影響を懸念し、対策をうっています。たとえばイタリア、ドイツでは、株式の買収を仕掛けられている企業の業種が、国益に大きく影響を及ぼすような場合には、政府が外資による株式の買収を拒否できるようになっています。

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中国の富裕層は、日本の箱根や伊豆・熱海・富士山周辺の温泉旅館の買収を計画しているそうです。旅館買収に向けた準備の一環として、オンライン視察を経て、日本への入国制限の緩和を見据えて訪日予定を組んでいるとの情報もあります。

日本の旅館を買収することで、企業の代表者が取得できるビザの申請も可能となり、こうした点も彼らにとってのメリットの1つととらえられているようです。

中国以外の海外ファンドも「温泉」買収に熱視線

2019年2月には、インバウンドをターゲットとした米資本の温泉型テーマパーク「空庭温泉」が大阪市で開業しました。この施設はソフトバンクグループ傘下の米フォートレス・インベストメント・グループが手掛けています。

同グループは、日本ならではの資源として温泉に着目し、すでに日本の温泉施設を中心に約90軒を日本でサービス展開しています。2019年の報道では、今後4年間で最大4,000億円を投資す計画が報道により伝えられています。

また、香港投資ファンドの間でも日本の老舗旅館を買収する動きが高まっています。

香港の投資ファンドであるオデッセイ・キャピタル・グループは、2018年に新潟県越後湯沢の老舗旅館「松泉閣花月」を承継しました。さらに今後3年で約552億円を投資し、日本の老舗旅館を約20軒取得する予定です。

このように日本の温泉旅館を含む不動産の買収は、中国だけでなく世界中の投資ファンドから注目を浴びていることがうかがえます。これまでも後継者をみつけることが難しくなっている老舗の温泉旅館にとっては、渡りに船と感じられる場合もあるでしょう。

日本国内での経営が現状苦しいという事実がある一方で、世界における日本の観光市場としての価値はまだまだ高いということが見て取れます。

まとめ:海外資本の参入による温泉旅館の生き残り方

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、客足の減少により経営難に立たされるなか、政府の補償をもってしても切り抜けられないとなれば、海外資本により生き残りを図るのは当然の展開ともいえるでしょう。

今後は中国資本や外資により経営される温泉旅館が、このコロナ禍を切り抜けた日本の温泉旅館の競合ということになってくるのかもしれません。

ただし、こうした旅館が「日本観光」を期待してきた訪日外国人のニーズを満たせるかどうかは、また別の観点となりそうです。外観だけが老舗旅館で、中で提供されるサービスが「中国式」とあっては、中国であれ欧米であれ、滞在時の期待を満たせないことにもつながってしまいます。訪日旅行の満足度向上という点からは、こうした外資参入という動きは、日本の観光市場としては諸手で歓迎するわけにはいかない場合も、あるかもしれません。

インバウンド市場の回復まではまだ少し時間がかかりそうですが、国内旅行では徐々に人の移動も出てきています。インバウンド市場同様、客単価の向上をいかにして図っていくかという点も、今回のコロナショックからの回復を左右するでしょう。

コロナ後のインバウンド市場においても、客単価の上昇は課題となってきそうです。密集を避ける心理は、今後も引き続き観光客に残ると考えられます。団体旅行による人数の確保という方策だけでなく、客単価を上げるようなコンテンツの提供が必要でしょう。

たとえば千葉県いすみ市では、欧米で普及している「ガストロノミーツーリズム」と日本ならではの「温泉体験」を組み合わせた「ONSEN・ガストロノミーツーリズム」という新しい旅行スタイルを、2019年から提供しています。インバウンド向けのイベントにおける調査では、満足度が96%と非常に好評でした。

従来の温泉旅館の枠にとらわれず、同時に「日本らしい」「その土地らしい」と感じてもらえる時間や空間の提供ができるかどうかが、今後の日本の温泉旅館の未来を左右するのではないでしょうか。

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<参照>

・日経ビジネス:温泉旅館、中国客激減で閉館〔敗軍の将、兵を語る〕

・産経新聞:中国富裕層が狙う日本旅館 コロナ禍で割安…オンライン視察

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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