緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。今回は大阪府登録の旅行サービス手配業Japan Exploration Tours JIN-仁の代表、藤本 賢司氏に寄稿いただきました。
私は大阪府登録の旅行サービス手配業Japan Exploration Tours JIN-仁として、関西を拠点に訪日外国人向けの少人数限定のハイキング・サイクリング・食べ歩きなどの英語ツアーを行なっています。これまで2,500人以上を案内してきました。
ところが新型コロナウィルス感染症の影響で、3/16のツアーを最後に、4〜7月の予約が完全にゼロとなりました。おそらく多くのインバウンド事業者は似たような状況かと思います。
そんな中、Withコロナの状況でも訪日外国人に日本の魅力を届けるべく4月頭よりオンラインツアーの造成に取り掛かり、進行中のものも含めいくつかのプロジェクトに関わってきました。他のオンラインツアーも、研鑽のために15個ほど参加しました。その活動を通じて感じるのは「オンラインツアーの大いなる可能性」です。
何よりオンラインツアーは、アウトバウンド・インバウンドで今打てる数少ない打ち手の一つです。これを追求しない手はないと思います。本記事では、この3ヶ月弱で学んだ「オンラインツアーの魅力」をまとめています。私が感じる「わくわく感」を少しでも多くの方と共有できたら幸いです。
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【よく聞くオンラインツアーに消極的な理由と、積極的にやるべしと思う私の考え】
<よく聞くオンラインツアーに消極的な理由>
- 「そもそもオンラインツアーなどは旅行ではない」
- 「オンラインで満足したら、実際の旅行につながらなくなる (オンラインツアーとリアルツアーは対立する)」
- 「オンラインツアーは大した収益にならない」
<それに対するオンラインツアーを積極的にやるべしと思う私の考え>
①「そもそもオンラインツアーなどは旅行ではない」
オンラインツアーでも、工夫すれば没入感やつながり感がありますし、一定の満足度を得ることができます。「光を観る」と書いて「観光」です。「旅行しないツーリズム」ともいうべき、オンラインツアーですが、私は立派な「光」足り得ると思っています。
もちろん一方で「物足りないこと」もあぶり出されてきますが、逆にそれこそがリアルツアーで注力すべきエッセンスです。
②「オンラインで満足したら、実際の旅行につながらなくなる (オンラインツアーとリアルツアーは対立する)」
オンラインツアーに参加したお客様は、逆に旅行したい機運が高まるのを実感として感じます。これはオンラインツアーをやるガイド間の共通認識です。
オンラインツアーを「広報」と捉えれば、収入を伴う広報となります。実際の渡航先をオンラインツアーで探すというやり方がこれからは現れるかもしれません。
オンラインツアーは、実際のリアルツアーと対立するものではなく、リアルツアーを補完する、あるいは促すものです。今、個人的にそれを実証するため参加者向けのアンケートを作っています。
③「オンラインツアーは大した収益にならない」
オンラインツアーは単価が低くならざるを得ないので収益性が低いです。オンラインツアーによってこれまでの収益をカバーしようと考えると、おそらく期待外れになります。
しかし、オンラインツアーを「広報」と捉えれば大した収益にならなくとも行う意義は大いにあります。
そして何より、旅行屋は旅行を作るのが仕事です。ツアーを企画して、お客様に案内して、楽しんでもらうことは、関わる企画者、添乗員・ガイドを必ず元気付ける作用があると信じます。
以下は、オンラインツアーのメリットを7つにまとめたものです。
【オンラインツアーのメリットその①「地理的制約を受けない」】
例えば、知り合いのガイド仲間で、茨木市という大阪の郊外で、駅から車で10分程の自宅で外国人向け料理教室をやっている人がいます。
内容は素晴らしいのですが、アクセスの悪さ故、集客が振るわず苦戦されていました。ところが、オンラインツアーになるとアクセスの悪さは関係なくなり、大阪駅前の一等地と同じ土俵になります。
同じどころか、むしろ地価が安くスペースのある地方の方が有利です。大都市がコモディティ化する中で、地域の独自色を出すことができたら、それは大きな訴求ポイントにもなります。
これは画期的なことで、「立地のパラダイムシフト」ともいえます。
【オンラインツアーのメリットその②「マーケットは世界」】
オンラインツアーは、インターネット環境がある全世界からのアクセス可能性があります。まさにマーケットは全世界です。
「『日本に旅行をしている』世界中の外国人」ではありません。日本とは縁もゆかりも興味もない人も含めて「世界中の人」です。
また、日本への興味の有無とは関係なく、特定テーマへの興味がある人を新たに呼び込むことが可能です。例えば私のやっているウィスキーツアー(Airbnbオンライン体験 "Secret of Japanese Whiskey")であれば、「ウィスキー」に興味がある人が、日本旅行に関心が全くなくても、予約をしてくれます。
始めて3週間程度ですが、ウィスキー好きの夫の誕生日プレゼントや、父の日のプレゼント、ウィスキークラブの会員で合同参加など、様々な形で既に60人以上のゲストが参加してくれました。
そして、参加した多くの人は、日本旅行に強い興味を持ってくれます。これは、本当にすごいことだと思います(もちろん、マーケットは全世界といってもある程度、言語や時差の制約はありますが)。
今年は富士山が開山しないので、富士山八合目太子舘のガイド組織で7月1日の富士山開山日から「#オンライン富士登山」を始めました。
ガイドが撮影した富士山の写真を多用してガイドが自ら解説し、実際に富士山に登っているかのように感じてもらう1時間30分の富士山擬似登山ツアーです。
そうすると、「今年は富士山に実際に登ることはできないので、せめてこのオンライン富士登山で登ってみよう」という人が予約してくれています。
また「富士山登山はしたいけど、実際に登る体力がないから諦めていた」という人や、「昔登ったけど、もう一度登ってみたいと思っていた」というような人も予約してくれます。
これは「オンラインで行うことで成立する」新たなマーケットの開拓であり、「興味があるけど実際の予約には繋がっていなかった人へのアプローチ」という新たな顧客の開拓という側面があります。
マーケットは世界であり、新しいマーケットの世界でもあります。
【オンラインツアーのメリットその③「広報的効果」】
先程も触れたように、オンラインツアーには広報としての側面があります。オンラインツアーは参加者を実際の旅行へと背中を押します。
既にオンラインツアーの中には、バーチャル東京観光、バーチャルパリ観光のようなタイプもあります。
リアルな旅行のハードルが上がり、旅行の価値が高くなれば、これからは実際の旅行先を決める際に、オンラインツアーに参加するという手法が一般化するかもしれません。一度に届けられる数は限られますが、オンラインツアーを「訴求力が桁違いの新しい広報形態の出現」ととらえると、とても革命的なことだと思いませんか。
【オンラインツアーのメリットその④「物販との親和性」】
既に国内のオンラインツアーでは事例が出てきていますが、「オンラインツアーは物販との相性が非常に良い」です。リアルな旅でも、ご当地の食や工芸品などに触れるのは、旅の大きな楽しみの一つです。オンラインツアーでも現地とつながったら、やはりご当地のお酒を飲んだり、旬の食べ物を食べたり、お土産を買ったりしたくなるのが旅心です。
この物販は「タビマエ」と「タビアト」があります。おそらく併用がスタンダードになるでしょう。
「タビマエ」
ツアーに予約したら、ツアー実施日前に地元から名産が送られてきます。これをツアー前に食べて楽しみ、ツアー当日への期待へとつなげます。
もしくは、ツアー中にガイドの解説を聞きながら一緒に食べて楽しむこともできます。
「タビアト」
オンラインツアーを通じて知った現地の商品をツアー後に購入します。謂わば、旅行してお土産を買う感覚です。オンラインツアーを実施する旅行会社などが、名産品の購入サイトを作ったり、ECサイトに誘導もできます。
流通の関係で今は国内に限られますが、旅行会社が付き合いのある現地のランドオペレーターなどをを通じて、海外にも郵送の展開ができれば、ここにも新しい可能性があります。「訴求力が桁違いの新しい通販形態の出現」が起これば、これも革命的な出来事です。
【オンラインツアーのメリットその⑤「地域活性化に寄与」】
地域の観光事業者あるいは観光関連業者が潤い、雇用が生まれ(あるいは保たれ)、地域の物産が売れるのであれば、それは地域経済にとってプラスになります。
また地域のファンが増え、訪問したり、様々な形で応援してくれる人が将来的に見込めるのは地域にとって基本的にはいいことだと思います。
アクセスの悪さで苦労をしている地域は、訪日外国人向けでなくとも、日本人向けオンラインツアーの造成で地域活性化の大きなきっかけとなる可能性があります。
【オンラインツアーのメリットその⑥「双方向性」】
オンラインツアーには双方向性があります。これがYoutubeなどの動画コンテンツと大きく異なる点です。中間のものとしてライブ配信などがありますが、オンラインツアーの双方向性は抜きん出ています。
全員の顔が見え、相互コミュニケーションもでき、参加している感を味わえるオンラインツアーは、実際のツアー同様に「つながり」感じることができ、それがリアルツアーと同様の満足感をもたらしています。
多くのオンラインツアーは、その点を意識して人数制限を少なく設定し、はじめに自己紹介の時間を設けたり全員一緒に何かを行う仕掛けを入れたりと工夫をこらしています。逆にいえば、この双方性をいかに演出できるかが、オンラインツアー成功の鍵ともいえます。
【オンラインツアーのメリットその⑦「ガイド・観光事業者が元気になる】
これは個人的にとても強調したいことです。オンラインツアーをすることでガイドが元気になります。今ガイド・添乗員は本来の仕事がなくなり、意気消沈しています。
ガイドの仕事はガイドをすること。たとえオンラインでもガイドをすることは、大いなる喜びで、やはり自分はガイドの仕事が好きだったんだなと思い出すガイドが多いのではないかと思います。私自身もそうでしたし、周りのガイドでオンラインツアーを始めた仲間は、面白いくらい精気を取り戻しました。
コロナ禍で、現場を離れたガイド・添乗員が他の業界へ流失してしまうことは観光業界にとって大きな損失です。
おそらく、コロナ後の観光でガイドの必要性は高まります。なぜなら、コロナ後はより旅行のハードルは高まるので、旅行の価値と値段が上がるからです。
また、旅行者の来訪が潜在的な感染リスクを内包するのであれば、これからは「地域に歓迎されない旅行は成り立たない」ことになるでしょう。
そうなると、地域と旅行者の繋ぎ役として、リスクマネジメントもこなすガイドが重要な役割を担うことになっていきます。オンラインツアー成功のためにも、映像コンテンツを適切に伝える「語り手=ガイド」の存在は大きな鍵となります。
来たるべく爆発的復活期に備えて、有能なガイド・添乗員人材を観光業界につなぎとめることになるのであれば、オンラインツアーはそれだけでも大いに価値があると思います。
ガイドのことばかり書きましたが、これは旅行会社をはじめとして、観光業者も同じことだと思います。旅行屋は、旅に関わると元気がでるはずです。
最後に
以上が、私が感じるオンラインツアーのメリットです。オンラインツアーはまさに百聞は一見に如かず。
まだ一度も参加されていない観光関連産業の方は、とにもかくにも一度参加してみることを強くお勧めいたします。
『サピエンス全史』を書いた世界的歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏はコロナに立ち向かう鍵は「人々の協力と団結」と提言しています。
観光、旅行が人や社会に提供してきた価値は「豊かさ」です。コロナ危機を乗り越えるのに、「人々の協力と団結」、いわば「共感力」が大切なのであれば、私たち観光産業の人間が果たすべき役割は大きいのではないでしょうか。
バラバラのものを組み合わせて価値のあるものを産み出したり、異文化の触れ合いを通じて人々の想像力を培うのは、私たちの本分のはずですから。
今、観光産業そのものが大きな危機に面しています。
これまでの競合関係の垣根を超えて産業全体で協力をし、ゼロベースで新しい形を創り出す気概と具体的活動が必要ではないでしょうか。
私は、その様な仲間と共に、明るく豊かな未来に作るべく、微力ながら頑張っていきたいと思っております。
著者プロフィール
藤本 賢司(ふじもと けんじ)
Japan Exploration Tours JIN-仁 代表
私立武蔵中学高校山岳部、京都大学探検部所属出身。文科省登山研修夏山1、2修了。(株)H.I.S.勤務、(株)サミットエアーサービス勤務後、2013年に妻と共に7ヶ月弱で世界一周。(株)西遊旅行大阪支社勤務後、2018年に独立。
富士山登山ガイド通算7シーズン(100回以上)。外国人の受け入れ態勢作りに尽力。海外秘境・登山添乗日数通算400日以上(2017年アンケート成績全社1位)。個人旅行含め訪問国50カ国以上。訪日外国人を関西圏中心に通算2,500人以上案内。NoteやYoutube等で訪日外国人向けの観光情報やインバウンド情報を発信。
総合旅程管理主任者、総合旅行業務取扱主任者。旅行産業経営塾 卒業8期生。
SKAL INTERNATIONAL OSAKA所属(2016年〜)大阪のエアビー体験ホスト団体Kansai Experience代表(2019年〜)。
『関西インバウンド最前線 エアビー体験ホスト100人100体験 第1弾』(Kindle本)。
緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』寄稿募集
訪日ラボでは、現在のコロナ禍をどうやって乗り越えていくべきなのか?ポストコロナをどのようにとらえ、今対策をしていくべきなのかなどを、インバウンド業界の「中の人」に寄稿いただく特別企画を実施しております。本企画において寄稿を募集しておりますので、ぜひご応募ください。
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