新型コロナ流行を受け、密集を避けたい消費者心理が形成されています。これまで訪日旅行市場では「東京」「大阪」といった大都市圏に旅行客が集中していましたが、今後は感染リスクを避けながら観光を楽しめる「地方」に注目が集まると考えられます。
今回は、自治体におけるインバウンド施策の効率を高め地域に誘客する上で注目の「B-biz LINK」という一般社団法人の取り組みについて紹介します。
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自治体のインバウンド施策、スタート・運営までの道のり
インバウンドを集客したい観光施設や自治体の施策として、タビマエ・タビナカ・タビアトの、それぞれのフェーズに適した施策があります。
具体的には、タビマエでは現地の旅行博への出展、タビナカでは訪日旅行で使えるクーポンの配布、タビアトではSNSアカウントを運用したキャンペーンの実施などが考えられます。
民間企業であればインバウンド施策の発注先は自由ですが、自治体や公的機関の場合は入札をして複数の候補から最も有利な条件を示す契約者を決める必要があります。インバウンド誘客はスピード感が重要になるなか、公平性は高まる一方で、スピード感が足りないケースも考えられます。
自治体×民間企業の取り組み
地域のインバウンド施策について、自治体だけで進めるのではなく、観光業や海外マーケティングの専門家と進めるインバウンド施策について、2つの実例を紹介します。
山形県村山市は2015年より、地域発祥の居合道の体験を観光商品化することを目指し、観光関係者や行政関係者、居合道振興会、神社関係者、地域住民などが集うワークショップを開催してきました。
さまざまな立場の意見を取り入れた上で、居合道体験会を実施した際には、旅行会社や航空会社、観光行政関係者などに募集をかけたほか、JTB仙台支店を通じて国内外のイベントや旅行博に出展しプロモーションに力を入れたところ、インバウンド向け観光商品としてのポテンシャルの高さが評価されました。
欧米豪からの誘客が進んでいる広島県は、JTB広島支店およびJTBグループ会社の協力を得て、広島県が定めた重点市場へのアプローチを強化してきました。
また、広島県の観光地としての認知度や魅力度について、市場別に現状を把握しPDCAを回しながら、官民一体となり複数年にわたり継続的な施策を実施しています。
別府市の「B-biz LINK」地域のインバウンド施策に取り組む
B-biz LINKは2017年9月、別府市の出資により、一般社団法人として立ち上げられました。観光地域づくりを担う観光マーケティングチームと、別府市内のビジネス活性化を目指す地域ビジネスプロデュースチームで事業を展開しています。
事業内容は、別府市内の旅館・ホテルなどの事業者を対象とした、訪日外国人誘致のためのマーケティング支援です。市内外の事業者、金融機関、大学・行政など様々な機関との連携を図っています。
また、移住を検討中の場合を含む、これから別府市に関わっていきたいと考えている事業者や個人を対象に、事業計画作成・オフィス情報の提供・事業者紹介などの各種相談に対応しています。必要に応じて、商工会議所や金融機関、インキュベーション施設への紹介も行っています。
B-biz LINKは一般社団法人です。公的組織の入札案件のように、公示からプレゼン、審査といったステップを踏むことなく、民間企業との調査や施策に取り組めるため、機動力のある組織となっています。
利益の分配を行わない非営利法人の一つである一般社団法人のため、利益は出資者に配当するのではなく、翌年度に繰り越し事業拡大に活用します。
2018年、インバウンドにおける対応領域を拡張、専門家を仲間に
2018年7月、インバウンド事業を展開する株式会社フリープラスは、B-biz LINKと連携し別府におけるインバウンド対策を強化していくと発表しました。
別府市は国内旅行客によって支えられてきましたが、今後は国内の人口減少が懸念されるため、インバウンド誘客を促進する継続的な施策が必要です。フリープラスからの専任メンバーの派遣により、B-biz LINKはランドオペレーター領域にも対応が可能となりました。
ランドオペレーターはツアーオペレーターとも呼ばれ、旅行会社からの依頼により、ホテルや交通手段・ガイドなどの予約を専門的に行う会社を指します。
この提携により、別府市は海外の観光旅行市場の調査や、海外に向けた地域の魅力発信だけでなく、海外の旅行会社を対象とした独自ツアーの造成提案や、ツアー商品の販売といったより集客に直接結びつく活動が可能となりました。
アフターコロナに向け、FITに選ばれる観光地づくりを促進
今後の観光業界は、新型コロナウイルスの感染防止という制約の中で、市場を回復させていくことが求められています。密集が避けられるべきものとなった今、薄利多売のビジネスモデルは通用しません。顧客一人当たりの消費単価を高めることのできるサービス設計が、その後の生き残りを左右していくと考えられます。
インバウンドにおいては、個人旅行客であるFITに選んでもらうことが鍵になります。FITは、関心を惹かれる商品に対しては惜しみなく予算を投じる傾向があります。こうした層を地方に誘客するためには、彼らがどこで情報収集をし、何をきっかけとして行先を決断するのかをデータに基づき理解する必要があるでしょう。
2020年7月の国際社会は、レジャーやエンターテイメント業界にとってまだ厳しい状況が続いています。観光業界においても、世界中の旅行者がタビマエよりもう一つ手前の段階に位置しているといえるでしょう。
コロナ収束後の観光旅行で、世界から日本が選ばれるためには、現時点から、見込み旅行客が欲しいと思っている情報を発信していくべきです。
世界中で状況が日々変化しており、観光旅行についてもその回復速度や道筋はまだ明確ではないものの、安全を確保した旅行形態が徐々に普及していくことも考えられます。
B-biz LINKのように、一般社団法人の形でインバウンド施策をハンドリングすることは、施策の効率を高めることにつながります。観光市場の回復を見据える中で、公的機関にとって参考にできる部分もあるのではないでしょうか。
<参照>
観光庁:【訪日外国人消費動向調査】2019年の訪日外国人旅行消費額(確報)
B-biz LINK:B-biz LINKとは
JTB INBOUND SOLUTION:インバウンド事例 2019 武道「居合道」を商品化した山形県村山市の取り組み
JTB INBOUND SOLUTION:インバウンド事例 2019 広島県を訪問する欧米豪訪日旅行者が急増!大切なことはターゲットの明確化と官民一体の継続的な取り組み
B-biz LINK:よくある質問
一般社団法人設立まごころ相談室:一般社団法人とは|一般社団法人に関するよくある11の質問
FREEPLUS:大分県別府市にある B-biz LINK とインバウンド対策支援に関する事業提携を締結
JTB総合研究所:ランドオペレーター
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