中国依存脱却は必要か?中国頼みを抜け出せない日本の製造業と観光業の現状

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中国はリーマン・ショック後、欧米諸国が経済活動で苦戦する中でも「世界の工場」として拡大の一途を辿っていましたが、アメリカによる対中制裁関税や生産年齢人口の減少により、その成長スピードは減速しつつあります。

また、新型コロナウイルス感染拡大に伴い生産、消費活動が制限されたことにより、経済損失を余儀なくされています。

中国への経済依存度が高い日本は中国経済の影響を大きく受けており、今回のような不測の事態による経済低迷を避けるためにも、依存脱却およびサプライチェーンの国内回帰が議論されていますが、他国に代替する見通しは不透明です。

本記事では、中国経済の現状と日本への影響、中国依存からの脱却策について解説します。

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中国経済の現状:経済は減速しているのか

全世界に占めるGDP規模が25%のアメリカに続き、中国は現在16%を占めており世界第2位となっています。この中国のシェアは2002年から2018年までで11%まで上昇しており、中国経済の世界への影響は強まっています。

データで見る中国経済

4月17日の中国国家統計局の発表によると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により2020年第1四半期(1〜3月)のGDP成長率が前年同期比で6.8%減となり、1992年以降初のマイナス成長を記録しました。なお、産業別では第一次産業が3.2%減、第二次産業が9.6%減、第三次産業が5.2%減となっています。

1月下旬ころから団体旅行禁止、娯楽施設の営業停止、企業活動や国内移動の制限により1月25日の春節以降、経済活動がほぼ2か月停滞状態であったことが原因とみられており、拡大の一途を遂げてきた中国経済へ深刻な影響を与えています。

しかしながら2020年は、習近平国家主席が2012年の就任時に掲げた、平均成長率5.6%以上の確保を目指し「いくらかゆとりのある社会」を意味する「小康社会」の全面的建設の目標年にあたります。

また、2016年から2020年までの平均成長率6.5%以上の確保を目指す「第13次五か年計画達成」の最終年にもあたることから、中国政府は引き続きこれらの実現を目指していくと宣言しており、習近平・国家主席自身も、生産活動の再開や消費喚起、雇用確保、貿易・外資など新型コロナウイルス感染拡大によって受けた損失を取り戻すと強気な姿勢をみせています。

新型コロナによる中国経済への影響

初のマイナスとなった、前年同期比6.8%減という2020年第1四半期実質GDPは、新型コロナウイルスの影響の甚大さを物語っています。

製造業やサービス業の購買担当者を調査対象にした、企業の景況感を示す景気指標のひとつである製造業購買担当者指数(PMI)において、製造業活動の拡大・縮小の分かれ目の数値は50とされている中、今回統計局が公表した3月のPMIは35.7に留まっています。

これは、春節の連休後に職場復帰できない人がいたことや、原材料不足による工場の生産停止などが要因とみられています。

3月のPMIは52.0とV字回復を見せたものの、4月は50.8、5月は50.6、6月は50.9と再び減少に転じています。

企業活動の再開とともに、少しずつ回復の兆しを見せ始めていますが、輸出受注の大幅な減少など輸出に対する逆風が強まっており、国内需要に頼らざるを得ない中国にとっては予断を許さない状況が続くと見られています。

中国経済は減速している?その理由とは

現在実質GDPは世界第2位と経済大国として存在感を強めている中国ですが、2011年以降、欧州債務危機の影響を受けてEU諸国向け輸出が減少しはじめ、経済成長は鈍化しつつあるといわれています。

その理由としてはまず、生産年齢人口比率の減少が挙げられます。農村での余剰労働力の減少や地元での雇用創出などを背景に、都市部の求人倍率は上昇しつづけており、一人っ子政策の実施による高齢化の進行も相まって2015年のピーク以降、2010 年から 2030年までの20年間における生産年齢人口比率は72.4%から68.9%に減少すると見られています。

また、2018年以降、徐々に拡大したアメリカによる対中制裁関税の影響により、2019年のアメリカへの輸出は前年比13%減を記録しました。

輸出総額の約2割を占める対米輸出の冷え込みを受け、企業も業績悪化となり、国内需要も不振に陥るなど影響が連鎖しています。

このように元々鈍化気味で合った中国経済へ、今回の新型コロナウイルス感染拡大が致命的なダメージとなり、GDPの落ち込みにつながっています。

中国経済が日本に与える影響とは

長引く米中貿易摩擦、および新型コロナウイルス感染拡大による中国経済の減速は、日本企業の業績にも深刻な影響を与えています。

自動車業界、訪日業界における中国市場の状況について解説します。

日系自動車メーカーの業績悪化

中国において、新型コロナウイルスの感染拡大が最も深刻であった2月は、経済活動もその影響を大きく被ることとなりました。

中国汽車工業協会の統計によると、生産活動の遅れや部品供給や消費の停滞などが原因で、中国市場全体における2月の生産実績は前年同月比79.8%減の28.5万台、販売実績は79.1%減の31.0万台となり、生産・販売実績共に約80%減という結果となっています。

特に乗用車の減少は特に突出しており、2月における生産実績は前年同月と比べ82.9%減少の19.5万台、販売実績は81.7%減少し22.4万台と、新車全体の生産、販売台数よりも減少の幅が大きくなりました。

これを受けて、日系自動車メーカーの中国市場の生産・販売実績も大きく落ち込んでいます。

3月30日に行われた各社メーカーの発表によると、生産台数に限っていえば、日産自動車は東風汽車ブランドの乗用車と小型商用車を含めて前年同月比87.9%減の7,740台、ホンダは同92.4%減の5,700台、三菱自動車は同97.0%減の240台、トヨタ自動車は同77.4%減の1万5,311台と、軒並み激減しています。

一方、販売台数に関しては、トヨタ自動車は前年同期比70.2%減の2万3,809台、日産自動車は同80.3%減の1万5,111台、マツダは同79.0%減の2,430台となるなど、生産台数同様に大きく数を減らしており、中国市場への新型コロナウイルスの影響が顕在化した結果となっています。

中国人観光客の減少による国内消費額減少

日本政府観光局の統計によれば、2019年の訪日外国人約3,188万2,000人のうち、中国からは959万4,300人と全体の約30%を占めており、国・地域別では最も多いシェアを誇っていました。

観光庁が1月17日に発表した訪日外国人消費動向調査においても、2019年の中国人観光客の消費総額は1兆7,718億円で全体の36.8%を占め、国・地域別にみても第1位となっていたことからも、インバウンド業界における中国人観光客の影響力の強さが伺えます。

しかしながら、2020年は新型コロナウイルス感染拡大による中国人観光客激減に伴い、国内消費額も大幅に下回ると予想されています。

中国政府の要請により、1月27日に発令された団体旅行禁止令」は、発令からすでに3か月以上が経過しています。

個人旅行の冷え込みも視野に入れ、年間で約288万人に上る中国人団体旅行客のうち約100万人が訪日の機会を逸したと仮定し、これに2019年の中国人一人当たりの消費額21万2,981円を掛けると、経済損失は約2,000億円に上ります。

さらに、他産業への影響も踏まえると計2,500億円程度の損失になるとの試算もあり、訪日市場回復には相当な時間を要するとして、懸念の声が高まっています。

データでわかる訪日中国人観光客

爆買いという流行も後押しし、2015年の中国人訪日外客数は前年の約2倍となる499万人となりました。また、2015年の訪日中国人によるインバウンド消費額は約23万円で前年比10%増程度ですが、訪日外客数増加の後押しをうけ、訪日中国人全体のインバウンド消費額はなんと5,583億円。

コロナの影響により明らかになった日本の中国への依存

日本の輸入相手国として中国が占める割合は年々高くなってきており、2000年は14.5%に留まっていたものの、2019年には23.5%と、この20年で9.0%も増加しています。

中間財の輸入に占める中国の割合でも、アメリカは16.3%、カナダは9.2%であるのに比べ、日本は21.1%と他先進国と比較しても中国依存度が高いことが伺えます。

また中国の最終需要依存度の割合を、2015年と2005年のデータを基に比較すると、2015年の数値はスマートフォンやパソコンなどの情報通信機器が14.4%、半導体を含む電気機械は10.2%、半導体製造装置などの一般機械は9.7%と、2005年の数値のそれぞれ約2倍高まっており、相対的に依存度が強まっていると分析されています。

日本は「中国依存」から脱却すべきか

新型コロナウイルス感染拡大により明白となった、観光業やサプライチェーン企業の中国への依存度が問題視されており、製造業においては拠点の分散が検討されています。

中国人観光客への依存を後悔する観光業界

訪日外国人客数・消費額共に存在力を強めていた中国は、観光業界にも致命傷を残しています。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて中国で団体旅行が中止されたことにより、旧正月期間中に日本を訪れる予定だった中国人観光客のキャンセルが相次ぎました。

北海道だけでも3月末までに200億円の損失、静岡県でも2月から3月において9万件以上の宿泊キャンセルが生じるなど、苦境に立たされています。

この状況が続いた場合、日本の観光業は大きな損失に見舞われてしまいます。2020年の訪日外国人数の目標数である4,000万人達成は困難であるとの見方も強まっており、訪日中国人観光客への過度な依存を指摘する声が強まっています。

日本政府はサプライチェーンの分散を検討

日本政府は3月5日、成長戦略を議論する未来投資会議の中で、中国を中心としていた製造業のサプライチェーンにおける付加価値の高い製品の拠点を、国内や東南アジア諸国に分散化させる方針を示しました。

前述したように、日本は中間財の輸入における中国への依存度が他先進国と比較して高いとされています。

今回のコロナウイルスのような不測の事態が発生すると、工業製品に必要な部品の供給に問題が生じてしまいます。重大な危機を回避するためにも、重要部品は国内生産に転換すべきでしょう。

供給不足によって生活へ支障をきたす日用品などは、東南アジア諸国に生産拠点を分散させ、中国への依存割合を軽減する意向でサプライチェーンの再構築を検討しています。

日本企業「中国依存」脱却は困難との声も

このように政府が話し合いを進める一方で、企業側の危機感は強くなく、足並みが揃わない状況となっています。

ロイター通信が3月2日から12日の間にかけて502社を対象に実施し、約230社から回答を得た「3月ロイター企業調査」によると、「新型コロナウイルス感染拡大により2月中のサプライチェーンへの影響を受けた」企業のうち、サプライチェーンの見直しを実施した企業は僅か8%、見直しを検討している企業は39%となっています。

同調査から、サプライチェーン再構築を検討している企業は半数以下の計47%に留まっていることが明らかになり、企業側での危機感は薄く、中国依存からの脱却は難しいという意見もあります。

また、生産拠点を国内や東南アジア諸国に移せたとしても、構成部品は中国から調達する必要があるなど、代替品の調達に苦戦を強いられるとの見方もあります。

さらに、自動車産業においては販売実績の2割弱、電子部品においては3割強が中国向けという状況のなか、それを上回る巨大市場はなかなかなく、他の市場を見つけるまでには時間がかかるとして、中国依存脱却は困難を極めるとの声が挙がっています。

中国経済の動向が日本経済にも影響、それでも手放せない市場

今回の新型コロナウイルス感染拡大によって、日本の製造業や観光業における中国への依存度の高さが浮き彫りとなりました。

アフターコロナで徐々に回復するとの見方もあるものの、中国の経済は一時期のような著しい成長は見せておらず、今後も生産年齢人口比率の低下や外交状況などにより、さらに減速の動きが強まると予想されています。

中国国内の成長率低下は、日本経済にも大きく影響を与えるであろうことが、今回の新型コロナウイルス流行で強く意識されました。今後民間でも、中国依存脱却への動きが強まると考えられます。

一方で、日本インバウンドメディア・コンソーシアム(JIMC)が4月に発表した中国人の訪日旅行に対する意識調査によると、「コロナ後の旅行先」ランキングでは日本が堂々の1位となっており、インバウンド市場にとって中国が訪日需要回復に向けた頼みの綱であることも見逃せません。

今後は中国市場の動向を注視しながら、日本経済へのネガティブな影響を最小限にとどめるリスクヘッジもとりつつ、引き続き市場の取り込みが進められていくと考えられます。

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<参照>

人民網日本語版:第1四半期のGDP成長率は同6.8%低下 中国統計局が発表

Investing.com:中国 製造業購買担当者景気指数

ロイター通信:3月ロイター企業調査:新型肺炎、5割弱で2月事業に影響 3月以降本格化との見方も

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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