訪日外国人市場でも「テーマ別」の観光に注目が集まっています。この先進められていく渡航制限の緩和では、団体旅行よりも、個人旅行が先んじて解禁されるとの見立てもあります。
個人旅行の場合、滞在中は興味関心を全面に押し出した過ごし方ができるため、また惜しみなく消費する分野があるケースも少なくなく、団体旅行と比べて消費単価が大きいという特徴があります。
訪日外国人に高く評価される日本の「食」も、こうした惜しみない情熱を注がれるコンテンツとなりえます。
今回は公益財団法人大阪観光局とAmobee Japanが共同で実施した調査結果を紹介し、「ガストロノミー」に焦点を当てた観光、ガストロノミーツーリズムについて整理します。
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アメリカ人から見た世界の都市と食の関係
公益財団法人大阪観光局とAmobee Japanでは2020年2月より、欧米豪市場をターゲットとしたインバウンド対策のための共同研究を実施しています。
同社は2020年8月、アメリカの消費者から見た東京、大阪、京都、パリ、バルセロナ、バンコク、ロンドン、香港の「食」のイメージに関する統計を公開しています。
大阪「ランチ」と「ストリートフード」の街
「ベース」の3項目を見てみると、東京、大阪、京都の3都市とも「ディナー」の印象が最も強いことがわかります。東京と京都の2都市と比較して大阪は「ランチ」の印象を比較的多く持たれています。
また、「特徴」の4項目を見てみると、大阪は東京、京都と比較して「ストリートフード」の印象を多く持たれています。大阪にはたこ焼きやたこせんなど、ストリートフード系の料理が多く、昼食を食べ歩きで済ませる観光客も多く見られます。
こうした実情を反映してか、ランチとストリートフードという大阪の食文化を代表する2つの特徴が、アメリカの消費者にも伝わっていることが分かります。
ベジタリアンからも高評価、ヨーロッパ各国には「肉料理」のイメージ
「対応性」の4項目を見てみると、東京、大阪、京都の3都市はベジタリアンの項目においてそれぞれ比較的高い評価を得ています。
また、バンコクと香港も日本の各都市と同じかそれ以上の高い評価を得ているのが特徴です。一方、パリ、バルセロナ、ロンドンの3都市は上述した5都市と比較して低い評価となっています。
世界の多くの国では、和食は健康に良いという印象が持たれています。また、日本の郷土料理は旬の野菜を基本に用いていたり、蒸したりゆでたりなどシンプルな方法で調理される場合も多く、菜食主義者でも手に取りやすいものが多数存在します。こうしたイメージが、3都市ともにアメリカ人消費者からベジタリアン対応の項目で高い評価を得た要因とも考えられるでしょう。
その一方、フランス料理、スペイン料理、イギリス料理などは肉を使うメニューも多く、ベジタリアンという視点から見ると気軽に選べる料理は相対的に少ない印象を持たれているようです。
また、タイ料理や中華料理にも肉料理は多くありますが、タイでは「ジェー」中華圏では「素食」と呼ばれるベジタリアン文化が普及しており、滞在中のベジタリアンが選択に困らないということも考えられるでしょう。
既存のイメージと、今後とるべき方策は?
前述の調査結果から分かるように、大阪に対し「ランチ」「ストリートフード」の印象を持つアメリカ人消費者が多く存在します。また「ベジタリアン」の評価も高い一方「シェフ」「ミシュラン」の印象や「ハラール」の評価は低くなっています。
実際にはミシュランの星付きレストランも数多く存在しており、こうした情報が的確に発信できていないため、本来ならば十分訪日旅行を動機づけることのできるターゲット層を逃している可能性もあります。
分析結果からは、バルセロナは大阪とイメージが近しいと読み取ることができ、富裕層もタパスやワインをカジュアルレストランで楽しむ体験に関心があることが確認されたそうです。これらの結果を参考にすると、たこやきなどのローカルフードはカジュアルなポジションを維持・拡大すべきと考えられます。
同時に、これらとは別の食体験を高単価なプレミアムポジションに据えて訴求していくことにこの先の市場成長のヒントがあることが、レポートでは示されています。
ガストロノミーツーリズムとは:食事と、食事を取り巻く体験がコンテンツに
ガストロノミー(Gastronomy)は、食事と文化の関係を考察する学問です。日本語では美食学とも訳されます。ガストロノミーでは料理そのものを研究するだけでなく、その料理が作られた文化的背景や料理が社会に与える影響など、料理を取り巻く環境全てを研究します。
ガストロノミーは近代フランスの法律家であったジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランの著書「美味礼讃」から始まったとされています。同書は料理の作り方を紹介する一般的な料理本とは異なり、食卓における楽しみを科学し、料理を取り巻く事柄について哲学的に考察したことで注目されました。
ガストロノミーツーリズムは、ガストロノミー的な考え方を活かした観光モデルです。ガストロノミーツーリズムでは、東京であれば江戸前寿司やもんじゃ焼き、大阪であればお好み焼きや串カツなど、郷土料理をメインに据えた観光モデルを構築します。
単純に郷土料理を食するだけでなく、その郷土料理が生まれた文化を知ったり、実際にその郷土料理を作るなど、食事を取り巻く一連の出来事を体験することも、ガストロノミーツーリズムにおける重要な要素です。
どんな地域にもポテンシャル 日本では「温泉」とのかけ合わせも
ガストロノミーツーリズムには他の観光モデルにはないいくつかの特長があるため、多くの自治体や飲食事業者から注目されています。最も大きなメリットは、地域を問わず簡単に取り組めるということです。新たに観光資源を模索する必要はなく、元々その地域で親しまれている郷土料理を観光資源として活用することで、食に興味のある観光客の誘致が見込めます。
国内ではONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構が設立され、温泉と食をつなげたガストロノミーツーリズムを推進しています。
2019年には岩手県にて三陸国際ガストロノミー会議2019が開催されました。日本以外にもフランス、スペイン、台湾などから著名なシェフが参加し、ガストロノミーの視点から地域の魅力や誇りを認識することについて意見が交わされました。
このように、ガストロノミーツーリズムは新しい観光モデルとして国内外から広く注目されており、アフターコロナの観光においても重要な役割を果たすと考えられます。
「食の国 日本」グルメ系メディアとシェフの独自性がプロモーションのポイントに
観光庁が毎年行っている『訪日外国人消費動向調査』の2019年の結果では、「訪日前に期待していたこと」、および「訪日前に最も期待していたこと」の両方で、「日本食を食べること」が最も多くの回答者に選ばれています。
日本は食の楽しめる国としての印象があること、また食に興味のある外国人が日本を訪れている可能性が考えられます。
訪日旅行については、「旅行好き」な属性への訴求だけでなく、「美食家」「食べることが好き」「料理が好き」といった属性にリーチできるようなプロモーション設計も有用となりそうです。
ターゲットとする国にはどのようなグルメ系メディアがあるのかを事前に調査し、富裕層や若年層などターゲットの属性も考慮しながらメディアを選定し食文化をプロモーションすることも、ガストロノミーツーリズムの活性化には一定の効果があると考えられます。
同じく、昨今では動画配信サービスでシェフ当人に注目するコンテンツに人気が集まっている中で、本調査ではシェフに対する関心の高まりも確認されました。著名シェフやシェフの人柄を全面に出したマーケティング戦略も今後有効となってくるでしょう。
世界へ日本食の「地域色」さらにアピール
日本は多彩な食文化が共生する国であり、北海道から沖縄まで都道府県ごとに独自の食文化が存在し、また国内市場向けへはある程度のブランド確立ができています。こうした土台を活用し、インバウンド市場の回復後を見据え、情報発信や呼び込みを図るべきでしょう。
ガストロノミーツーリズムには富裕層からの関心も高まっています。料理そのものだけでなく、食事を取り巻くさまざまな文化を包括的に観光資源として提供するスタイルは、地域社会全体の活性化に貢献するでしょう。
新型コロナウイルスの流行は、食事に対する意識にも変化を与えつつあります。今回の調査ではアメリカ消費者の世界の都市の「食」に対する意識が見えましたが、市場ごと、属性ごとに着眼点や印象は変わってくると考えられます。こうした世界の消費者の意識をとらえた取り組みが、アフターコロナのインバウンド市場の成長を左右するはずです。
<参照>
OSAKA-INFO:大阪観光局とAmobee(アモビー)、インバウンドガストロノミーの共同研究を実施
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