ユニバーサルツーリズムとは、年齢や国籍、障がいの有無を問わず全ての人々が安心して楽しめる旅行をめざすツーリズムの考えかたです。「アクセシブルツーリズム」は同義語です。
現在、バリアフリーや多言語対応などの側面において多くの観光地でユニバーサルツーリズムに向けた取り組みが行われていますが、ユニバーサルツーリズムという言葉の認知度が低いことや、ユニバーサルツーリズムへの取り組みが少ないといった課題も存在しています。
今回の記事では、ユニバーサルツーリズムの考え方について説明した後、観光業界でユニバーサルツーリズムを行うために必要なステップを紹介し、実際にユニバーサルツーリズムに取り組んでいる自治体や企業の事例について紹介します。
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ユニバーサルツーリズムとは?定義・対応の必要性と課題
観光庁によると、ユニバーサルツーリズムとは「すべての人が楽しめるよう創られた旅行であり、高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行」のことを指します。「アクセシブルツーリズム」とも呼ばれています。
ユニバーサルツーリズムは、「あらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする」というユニバーサルデザインの考え方に基づいて設計されています。
高齢者や障がい者を対象にこれらの人が参加しやすい旅行をバリアフリーツーリズムと呼ぶこともありますが、ユニバーサルツーリズムの考え方はそこから一歩進んで、高齢者や障がい者に限らず誰もが気軽に旅行に参加できることを目指すものです。
たとえば持病や怪我のせいで通常歩行に困難を抱える人のために段差の少ない場所を選んだり、妊婦がマタニティ施設が充実している宿泊施設をに宿泊することなどは、ユニバーサルツーリズムの考え方に基づくものです。
また、インバウンドにおいても、日本語がわからない訪日外国人に対してツアーや観光施設内で多言語対応を行うこともユニバーサルツーリズムの一環といえます。
多言語対応とは?インバウンド対策で求められる言語・対応方法・おすすめツールを紹介
多言語対応はインバウンド対策として重要視されています。しかし、語学は短期間で習得できるものではなく、多言語を操れるスタッフを雇うにも、時間と労力がかかってしまいます。 日本にはさまざまな国から訪日外国人がやってきますが、多言語対応でメインとなる言語は英語と中国語です。この2か国語に対応できれば、かなり多くの訪日外国人観光客とコミュニケーションがとれるようになるといえます。 「多言語対応」でどの言語に対応すべきか、また多言語対応を行う手段、おすすめの翻訳サイト・ツールついて紹介します。 ...
ユニバーサルツーリズム対応の必要性と課題
ユニバーサルツーリズムが注目されている理由のひとつとして、ユニバーサルツーリズムの対象となる人が年々増加していることがあげられます。国連によると、全世界では障害者の人口が10億人以上であると推定されています。障害者の配偶者や子供、介護者も含めると、ユニバーサルツーリズムで対策が必要になる対象者は20億人を超えるとされています。
また、一部の国では高齢化が進んでおり、日本の場合、総務省統計局の発表では、2016年の日本における65歳以上の高齢者人口は3,461万人で、人口の約3分の1を占めているとされています。これからも、高齢者人口の増加が進んでいくことが予想されています。
上述した障害者や高齢者などのような層が将来も継続して旅行に行けるような環境を整えるためにも、ユニバーサルツーリズムへの対応が必要とされています。
しかし、現時点では、ユニバーサルツーリズムという言葉の認知度が低いことや、ユニバーサルツーリズムに取り組んでいる施設が少ないなどの課題があります。
ユニバーサルツーリズムへの対応例を知り、対応に取り組むことは、現在旅行に制約を感じている人の旅行需要の喚起につながります。
さらに、ハンディを持つ人への取り組みにより「誰もが楽しめる観光地」というイメージを醸成できれば、それによってハンディを持つ人以外への大きなアピールにもなり、全体的な観光客が増加し、地域経済や交流の活性化につながると考えられます。
ユニバーサルツーリズムは2020年のインバウンド4,000万人誘致の切り札になるかも!?…年間3,000万人以上が訪れるタイのインバウンド対
以前の記事でもご紹介したように、2016年にタイを訪れた外国人観光客の数は、約3,259万人 でした。タイを訪れる外国人観光客は、ここ数年、右肩上がりで増え続けており、10年後の2027年には 推定6,760万人 の外国人観光客がタイを訪れるようになるようです。タイにおける2016年のインバウンド消費額はタイのGDPの 9.2%にあたる6兆3,300億円 であり、2027年にはこの額は 14兆1,040億円 まで伸びる予定です。観光業はタイ人に多くの雇用を産み出しており、主要産業としての地...
ユニバーサルツーリズムへの対応例
ユニバーサルツーリズムへの対応には、以下のような例があります。
- 段差になっている部分に、車いすの人のためのスロープを設置した
- 視覚障がいを持つ人のために、点字や音声による案内を始めた
- 日本語がわからない外国人のために、多言語の案内板を設置した
またこのような直接的なハード面の対応以外にも、地方自治体としてユニバーサルセンターと呼ばれる問い合わせ窓口を設置することも対応に含まれます。
窓口を置くことにより、ハンディを抱える人がどのようなサービスが受けられるのかという情報が共有されやすくなります。
ユニバーサルツーリズムを実践するために必要な3ステップ
ユニバーサルツーリズムを実践するためには、手当たり次第に施策に手をつけるのでなく、現状を理解した上での段階を踏んだ対応が必要です。
ここでは、観光庁が発表している「ユニバーサルツーリズムに対応した観光案内の実践方策 」から、ユニバーサルツーリズムを実践するために必要なステップを3つに分けて解説します。
1. 当事者への理解・コミュニケーション
まずは何より、高齢者や障がい者など、サポートを必要とする当事者の特性についての理解が必要です。
それぞれの人がどういう部分に障壁を感じるのかということを、当事者とのコミュニケーションなどによって学ぶ必要があります。
高齢者や障がい者以外にも妊婦や乳幼児連れ、大所帯の家族連れなどの家族形態によって必要となるサポートや、外国人への対応など、ニーズの種類は多岐に渡ります。
それぞれのニーズを把握するためには簡単な調査だけでなく、自治体が実施するセミナー等に参加して外部からの知見や経験を得ることも、当事者へのより深い理解につながります。
2. 自身の地域の状況把握
ニーズが把握できたら、自身の地域がそれらのニーズにどのように対応しているのかや、今後対応すべき点はなんなのかという現状を把握します。
まずは、所属する自治体や近隣の福祉団体ですでに行われているバリアフリーに関する調査や資料がないか調べます。
もしあった場合、それらを参考に、各施設が実際にどのような形で施策やサービスの提供が行われているかの確認を行います。
可能であれば、現地に赴いての確認まで行うと、それぞれの施設の対応状況について詳しく把握できると考えられます。
それらを基に、施設のバリアに対する対応の有無や、バリアフリーへの取り組みを積極的に行っている観光施設を調査し、実際にバリアフリーの強化や観光PRに使用する情報の選定していきます。
3. 情報発信・観光案内への活用
地域の状況が把握できたら、その次はそれらの情報を外部に向けて発信します。
観光施設や宿泊施設の取り組み状況について、ウェブサイトや情報誌などを活用して利用者に向けた情報発信を実施します。
その際には、ただ単に資料の数値を並べるだけでなく、利用者の目線に立って必要な情報は何かを考え、アピールにつながるような工夫が大事です。
具体的には、バリアフリー化されている部分の写真や、段差の高さなど具体的な数値的なデータを掲載するなど、利用者が知りたい情報を盛り込むことがあげられます。
また発信は一度行なったら終わりではなく、最新の状況を踏まえて絶えず情報を更新し続けることも必要です。
地方自治体・企業のユニバーサルツーリズム取り組み事例
すでにユニバーサルツーリズムに関する取り組みをおこなっている地方自治体や企業の例もあります。
ここでは日本のユニバーサルツーリズムへの取り組み事例を紹介します。
長野県・信州型ユニバーサルツーリズム推進
長野県では、県で行っているユニバ―サルツーリズム推進事業を「信州型ユニバーサルツーリズム」とよび、ユニバ―サルツーリズムの整備に向けて多くの取り組みを行っています。
「信州型ユニバーサルツーリズム」では、「人材」「機器」「地域」の3つが、ユニバーサルツーリズム対応のキーワードとなっています。
「人材」の面では、セミナーや会議を通して受け入れ意識の啓蒙や人材育成を行い、「機器」の面では、車いす補助装置「JINRIKI」などサポート機器の導入を行っています。
さらに、「地域」の軸としては、本来ならバリアとなりえるような山や自然を、魅力ある観光資源としてとらえ、障がい者向けのスキー学習旅行の受け入れ整備や、スポーツの国際大会の誘致を進めています。
このような取り組みを通して、長野県は、県の福祉、高齢者、障がい者団体などとの連携を深めており、「信州のどこに行っても障がい者、シニア、妊婦、外国人などに優しい地域づくり」を目指しています。
HIS|ユニバーサルツーリズムデスクの設置
大手総合旅行会社のHISは、2002年に「ユニバーサル・ツーリズムデスク」を設置しました。
「ユニバーサル・ツーリズムデスク」では、介護・福祉関連の専門知識を持ったスタッフや手話のできるスタッフが、旅行の相談や手配を受け付けています。
ここでは、車いすや杖が必要な人のための添乗員付きの団体ツアー「バリアフリーたびのわ」や、聴覚障がいのある人のために手話ができるスタッフが添乗する「しゅわ旅なかま」など、コンセプトを明確にしたツアー企画を造成し販売しています。
また、様々なハンディキャップに合わせて、個々の要望に関する細かいアレンジをおこなう「オーダーメイド旅行」にも対応しており、施設や団体での手配も可能となっています。
世界で5店舗目 共通言語”手話”のスタバが国立市に開店:日本のユニバーサルツーリズムを前進させるか
2020年6月27日、スターバックスは国内初の手話が共通言語となる「サイニングストア」として、「スターバックス コーヒー nonowa国立店」をオープンしました。今回のスターバックス新店舗nonowa国立店の開店は、近年、観光客の増加に寄与するとして観光庁が推進する「ユニバーサルツーリズム(年齢や障がいの有無に関係なく気兼ねなく参加できる旅)」の実践にあたり、参考になるところも少なくないでしょう。今求められているユニバーサルツーリズムとは何か、スターバックスの事例を交えて考察します。目次ス...
全ての人が安心して楽しめる旅行に
ユニバ―サルツーリズムとは「すべての人が楽しめるよう創られた旅行であり、高齢や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行」であると観光庁によって定義されています。
現在、日本でユニバ―サルツーリズムを必要とする人は、高齢者だけでなく、障がいを抱える人や外国人など多く存在しています。しかし、ユニバ―サルツーリズムの認知度が低いことや、取り組んでいる施設が少ないことが、ユニバ―サルツーリズムの課題としてあげられています。
さまざまなニーズに応えられることは、その観光地にとって大きな強みとなります。ユニバ―サルツーリズムへの対応は、それぞれの事情により旅行に制約を感じている人だけでなく、その同行者や家族、ひいては観光客全体への利便性の向上につながります。
社会的な課題解決に向けた取り組みとしても、今後もユニバーサルツーリズムの考え方はより広く知られ、活用されていくことになるでしょう。
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