日本政府は東京五輪において、海外客の受け入れを見送る方向で調整を進める方針を明らかにしました。
新型コロナウイルスの感染拡大の可能性を考慮し、東京五輪は海外からの観客がいないオリンピックとなる可能性があります。
それでも五輪自体を開催することには、インバウンド業界におけるメリットがあるといえます。
本記事では東京五輪をめぐる最新の動向と、コロナ禍で五輪を開催する意義を考察します。
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政府・IOC共に外国人一般観客受け入れには慎重な姿勢
東京五輪における外国人一般観客の受け入れについて、関係組織はどのような考えを持っているのか、各組織の姿勢をご説明します。
IOC、IPC、東京都、組織委員会、政府での外国人観客についての正式表明が待たれる
日本政府と、東京都、大会組織委員会は、外国人観客受け入れを見送る方針を固めました。
政府、都、組織委、国際オリンピック委員会(IOC)と国際パラリンピック委員会(IPC)を交えた5者の代表者協議を経たうえで、聖火リレーが福島で始まる25日より前に、海外在住の一般客受け入れ断念について正式表明する方向で調整しています。
一方でIOCは、スポンサー関連の招待客らが入国し観戦できるよう要望しており、日本側が検討を続けているとされています。
コロナ禍で五輪を開催する意義とは
もしも東京五輪が海外からの観客を入れない形の開催になるとしても、その開催自体にはメリットがあります。
その理由を以下で詳しくご説明します。
五輪での宣伝効果は大きい:メディアを通じて世界中での宣伝につながり、効果が長期にわたっても観察できる
コロナ禍でも五輪を開催するメリットとして、まず五輪での宣伝効果の大きさが挙げられます。
企業スポンサーの広告は、テレビやインターネットを通じて世界中に流れるため、コロナ禍で東京会場に直接足を運べなくても、オリンピックを視聴している全世界中の人々に向けて好印象を与える影響があるのではないかと考えられます。
みずほ総合研究所がまとめた以下のグラフからは、スペインやオーストラリア、ギリシャなどこれまでの五輪開催国において、五輪前後を通してインバウンド観光客数の増加傾向が続いていることがわかります。
五輪の開催により、長期にわたって様々な場所で宣伝できるというメリットがあると考えられます。
開催した実績が「レガシー」に。「東京五輪モデルはコロナ後も継承」と橋本氏
大会組織委員会の橋本聖子会長は、海外客受け入れ見送りの報道が行われた3月3日の前日の協議で、巨大化したスポーツイベントの簡素化は重要だと表明しました。
今回の東京五輪の事例が、巨大化したスポーツを競技中心にそぎ落とすことにつながるとし、東京五輪モデルをコロナ後も継承することを提案しました。
ウィズコロナ時代に行われた最大級のスポーツの祭典として、東京五輪は感染症を乗り越えるための先行事例になり、今後も各国で参考にされるでしょう。
経済波及効果は五輪開催後の方が大きい
東京五輪の経済波及効果については、大会開催そのものにかかる直接効果よりも、開催決定後長期に渡ってもたらされるレガシー効果の方が大きいとされます。
東京都オリンピック・パラリンピック準備局は2017年に、「大会開催に伴う経済波及効果」を試算しました。
これによれば、東京オリンピックの招致が決定した2013年から2030年までの中で、レガシー効果としてあげられている経済波及効果は、東京で12兆円、全国で47.1兆円にのぼるとされています。
この効果は、コロナ禍後も長きに渡って持続するものといえます。
コロナ禍でも見込まれる経済波及効果
全国のレガシー効果として算出された47.1兆円の内訳としては、生産誘発額(27.1兆円)、付加価値誘発額(13兆円)、雇用者所得誘発額(7.3兆円)などが挙げられます。
コロナ禍で人の動きが制限される中、この試算通りの経済波及効果が本当に発生することは難しいでしょう。
しかしながら、長期的な視点では、経済にプラスの効果を及ぼすことは間違いありません。
生産者誘発額や、付加価値誘発額、雇用者所得誘発額として実際に試算対象となっているものとしては、以下の項目があります。
- 新規恒久施設・選手村の後利用、東京のまちづくり、環境・持続可能性
- スポーツ、都民参加・ボランティア、文化、教育・多様性
- 経済の活性化・最先端技術の活用
これらのうち多くの試算項目は、コロナ禍に関係なく見込まれる経済効果です。
たとえば雇用社所得誘発額において、会場の改修や仮設施設の撤去はコロナ禍に関係なく必要な作業です。
また東京都民に選手村を住居として利用してもらうことはすでに決定しており、その後はオフィスや商業施設など新たな用途での活用も期待されています。
これらの点は、コロナ禍の現在でもレガシー効果として見込まれることには変わりありません。
関西大学名誉教授の宮本教授も、生産者誘発額、付加価値誘発額について以下のように語っています。
「どんな形になったとしても、新型コロナ拡大による経済への打撃は大きい。しかしながら、これまで東京大会の準備のために実施されてきた公共事業などの経済効果はすでに実現しているし、東京大会を目指して開発されてきた映像、通信、自動運転などのITS技術・ロボット産業の拡大、5Gの進展、水素社会の実現などの技術開発は続けられて、レガシー効果として日本の社会、経済、医療、生活などの発展に貢献していくことであろう」
関連記事:五輪開催の意義をもう一度考える。コロナ禍で変容する価値と、遺すべきレガシー
五輪開催を最大のチャンスに、適切な情報発信を
外国人観光客の受け入れ判断の正式表明は3月25日と見られており、それまでは注視していく必要があるでしょう。
五輪後もコロナ禍での大会としてレガシーになるほか、宣伝効果や経済効果が見込まれるため、たとえ外国人観光客が来なくても五輪の開催実現はインバウンド業界にとってはポジティブといえます。
コロナ禍の五輪開催は、世界中から大いに注目されます。
情報発信などを適切に行うことで、五輪開催後往来が再開した際の訪日客需要を狙っていくことが期待されます。
<参照>
毎日新聞:東京五輪、海外客受け入れ見送りで調整 コロナ拡大懸念に配慮
朝日新聞デジタル:東京五輪、海外一般客の受け入れ断念へ 日本側が方針
みずほ総合研究所:2020東京オリンピックの経済効果
ブルームバーグ:東京五輪・パラで5者協議、海外観客受け入れは月内に判断で一致
東京都オリンピック・パラリンピック準備局:大会開催に伴う経済波及効果
関西大学プレスリリーズ:どうなる東京五輪!?
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