JNTO企画総室長に、新・訪日マーケティング戦略について聞く

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観光庁と日本政府観光局JNTO)は4月28日、新たな訪日マーケティング戦略を公表しました。

第5次観光立国推進基本計画と同じく2026~2030年度の5か年を対象とし、訪日外国人旅行者数6,000万人および消費額15兆円時代に向けて、きめ細やかに訪日プロモーションを展開するための戦略となっています。

今回、JNTOで戦略を取りまとめた竹中理登 企画総室長に、この新しい戦略について策定背景を聞きました。

▲日本政府観光局(JNTO)企画総室長 竹中理登氏:訪日ラボ撮影
▲日本政府観光局(JNTO)企画総室長 竹中理登氏:訪日ラボ撮影

取材・文/萩本良秀(地方創生パートナーズネットワーク)

前回の記事:JNTO地域連携部長に、国内観光地と連携した地方誘客について聞く


3年ぶりの戦略改訂 取り組みの柱は「多様化」「消費額」「地方誘客」

――3年ぶりに新しくなった訪日マーケティング戦略は、どのように策定されたのでしょうか。

前回策定された2023~2025年度計画から初の見直しになります。

戦略は「市場別」「市場横断」「MICE」の3部構成になっています。コロナ禍以降の動きを踏まえ、各市場のアンケート調査や統計、JNTO海外事務所の知見も活かして、各市場の「誰に、何を、どのように」伝えれば誘客につながるかを整理しました。

調査を経て、一年強をかけて議論を交わしました。観光庁とも一緒に検討を進め、4月22日に開かれた観光庁マーケティング戦略本部にて、有識者も交えて最終決定しました。

▲訪日マーケティング戦略の全体構成:JNTO発表資料より
▲訪日マーケティング戦略の全体構成:JNTO発表資料より

また、観光立国推進基本計画で掲げられた2030年までの目標に向け、3つの取り組みの方向性を示しています。

  • 持続可能な観光の実現に向けたインバウンド市場のさらなる多様化
  • 旅行消費額に着目したターゲティングとプロモーション
  • 地方の観光地の魅力向上・地方誘客促進

関連記事:JNTO、新たなマーケティング戦略を策定 インバウンドの多様化を推進

▲第5次「観光立国推進基本計画」を踏まえた戦略策定と取組の方向性:JNTO発表資料より
▲第5次「観光立国推進基本計画」を踏まえた戦略策定と取組の方向性:JNTO発表資料より

――現在の訪日市場の変化について、どのように捉えていますか。

市場やニーズの多様化が進みました。

堅調な旅行需要や航空便の回復により、主力の東アジアに加えて欧米豪からの訪日客数が伸びています。特に最近のトレンドとしてファミリー層が増加しており、家族連れに訴求するコンテンツが重要になってきています。

また、初めての訪日ではゴールデンルートなど有名な観光地を巡る傾向にありますが、リピーターになると、地方にも足を伸ばすようになります。加えて、自然文化をはじめ、さまざまなコンテンツへの関心も高まります。

このように、訪日回数が増えると旅行ニーズは多様化していくので、それに対応したプロモーションも強化していきたいです。

ターゲット設定の背景まで詳しく解説 「ファミリー層」を新たに追加

――今回の戦略では、市場別の方針についても詳しくまとめられていますね。

台湾などリピーターが多い市場は地方誘客の対象となっています。米国も近年リピーターが増加しており、欧州からはファミリー層が増えています。一方、インド中東は訪日未経験者が多く、市場を開拓していく必要があります。

市場ごとに全体方針からターゲット別の戦略・戦術まで、その地域の強みや観光資源との相性を踏まえながら正しいターゲット設定ができるよう、情報を整理してわかりやすくまとめました。

▲市場別マーケティング戦略の概要:JNTO発表資料より
▲市場別マーケティング戦略の概要:JNTO発表資料より

――今回のマーケティング戦略策定の背景について、「地域からターゲットやプロモーションに関する具体的な情報が求められている」と記載がありました。具体的にはどのような情報が求められているのでしょうか。

訪日マーケティング戦略を自治体DMOを始めとした、地域の方々にもより活用いただけるものにしたいという考えで策定を進めてきました。事前にヒアリングしたところ、「設定されたターゲットがどういう人で、どんなプロモーションが効果的なのか具体的に知りたい」というニーズが一番大きかったですね。

そのため、地域の方々に「誰に、何を、どのように」情報発信すれば効果的かについてご理解いただけるよう、ターゲット設定の背景から詳しく記載しています。

さらに、こうした情報を活用いただけるよう説明の機会を設け、地域ごとの強みやターゲットとの相性を適切に理解するためのお手伝いをしていきます。

――先ほどお話に出たファミリー層も、今回新たに訪日ターゲットとして追加されています。その背景を教えてください。

訪日未経験者が多かった欧州市場においても、リピーターが徐々に拡大しています。それに伴い、これまでターゲットとして見えにくかったファミリー層が顕在化してきています。訪日旅行が一般的なものとして、徐々に浸透・拡大してきていることを感じています。

家族旅行の増加は、旅行グループの人数が増えることで、訪日客数や消費額の拡大につながります。また、子どもが親と一緒に日本を訪れることで、将来の再訪や日本への理解促進も期待でき、継続的な訪日旅行市場の拡大につながります。

「日本は治安が良く子連れでも安心して旅行できる国」というイメージが世界に広まってきており、ファミリー層の増加を後押ししています。

訴求コンテンツとしては、自然、文化体験テーマパークなどが有効であると考えています。

――日本人の家族向けコンテンツが、インバウンドにおいても効果的かもしれませんね。

旅行消費額に着目したプロモーションでは、「各市場からの旅行消費単価が大きい層を誘客」という記載があります。これは、どういった層をイメージされているのでしょうか。

いわゆる高付加価値旅行(1人あたりの着地消費額100万円以上の訪日旅行、国際航空券代は除く)の取り組みを市場横断的に展開するだけでなく、各市場の中で旅行消費単価の向上が見込まれる層をターゲットとした取り組みを進めます。

具体的には、各市場の可処分所得上位層を念頭に、地方誘客や消費額向上に資するターゲットを設定して取り組みを進めていきます。

市場横断の新テーマに「ガストロノミーツーリズム」

――今回、市場横断のテーマとして「ガストロノミーツーリズム」が新たに選ばれました。その背景を教えてください。

「和食」や「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に選ばれるなど、日本食は世界的に高く評価されています。

外国人旅行者の間でも日本の食への関心は高まっており、各地に根付いた食文化を活用することで、地方への誘客にもつなげられると考えています。

――もともと人気のある日本食を「ガストロノミーツーリズム」として設計するためには、どういうプロモーションや体験の設計が必要になると思いますか。

ガストロノミーツーリズムは、その土地の気候や風土、伝統などによって育まれた食を楽しみ、食文化に触れる旅と定義しています。単においしいものを食べるだけでなく、その土地ならではの歴史や暮らしを含めたストーリーを掘り起こして、発信していきたいと考えています。

具体的には、観光庁ガストロノミーツーリズム事業の中からいくつか地域を選定し、そのエリアにメディアを招請、海外に向けて魅力をストーリーとして発信していく予定です。

――同じく、市場横断のテーマとして挙げられているアドベンチャートラベル(AT)についても、教えてください。方針として「ATという名称にとらわれない」とありますが、どういうことでしょうか。

アドベンチャートラベルは、「アクティビティ」「自然体験」「文化体験」の3つの要素のうち、2つ以上で構成される体験型の旅行を指します。今回の戦略では、多様なアクティビティをきっかけとして、地方誘客・消費額拡大を図る狙いがあります。

ハイキングやトレッキングなどの本格的なアドベンチャー体験を求める層だけでなく、雪遊びを楽しむ家族連れまでを広くターゲットとしてとらえると、地域ならではのコンテンツを出していきやすくなると考えています。

▲市場横断マーケティング戦略の概要:JNTO発表資料より
▲市場横断マーケティング戦略の概要:JNTO発表資料より

持続可能な観光目指し、旅行者にも情報発信

――訪日外客数が過去最高を更新するなか、持続可能な観光への取り組みも重要性が増しています。今回の戦略では、その点についても触れられていますね。

▲持続可能な観光の推進:JNTO発表資料より
▲持続可能な観光の推進:JNTO発表資料より

持続可能な観光を実現するには、「日本に来てください」と発信するだけでなく、観光客の一極集中やマナー問題に対処する必要があります。

一極集中への対応策としては、まさに地方誘客の促進がカギとなるため、地方における魅力的なコンテンツの発信などを進めています。マナー啓発については、JNTOが公開しているWebサイト「Responsible Travel Guide」などを通じて、旅行者に責任ある行動を促すための情報発信を行っています。

また、ベスト・ツーリズム・ビレッジ認定地域など、自然と共生した取り組みを行っている事例について、同じような課題を持つ地域の参考になる情報の提供を行います。

引き続き、こうした住民生活の質と観光を両立するための取り組みを推進する予定です。

▲Responsible Travel Guide
▲Responsible Travel Guide

市場が成長する中での戦略発表 インバウンド誘客のヒントを掲載

――最後に、今回のマーケティング戦略について、あらためて一言お願いします。

前回(2023年)はコロナ禍からの回復期でしたが、今回は、訪日需要が復活し、日本が着実に選ばれる国となっていくタイミングでの策定となり、新しいトレンドも見えてきました。

ボリュームは多いですが、より具体的な誘客ヒントとなる内容を盛り込んでいるので、ぜひインバウンド観光に取り組む関係者の皆さまにご活用いただきたいです。

プロフィール:日本政府観光局(JNTO)企画総室長 竹中理登氏

▲日本政府観光局(JNTO)企画総室長 竹中理登氏:訪日ラボ撮影
▲日本政府観光局(JNTO)企画総室長 竹中理登氏:訪日ラボ撮影

2009年国土交通省入省。観光庁国際観光政策課、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局や国土交通副大臣秘書官などで観光政策に関わり、2024年よりJNTO企画総室長。

著者プロフィール:萩本 良秀

地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター

民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語WebサイトInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士(英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣」など観光庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める。

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この記事の筆者

萩本良秀

萩本良秀

地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター。民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語ウェブサイトやInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士(英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣」など、観光庁や文化庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める。

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