商品そのものではなく、体験に価値を見出す消費傾向を「コト消費」と呼びます。
「モノ消費」から「コト消費」へのシフトは、国内でもインバウンド市場でもその傾向が高まっており、各企業は「コト消費」への対応を進めています。
国内のコト消費の事例を6つ、ご紹介します。
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消費傾向は「モノ消費」から「コト消費」へ
近年、消費者のニーズは「モノ消費」から「コト消費」へと変化しています。
まずコト消費とは何か、詳しく説明します。
「コト消費」とは「目に見えない体験」に価値を見出すこと
コト消費とは、「商品・サービスによって得られる経験に価値を見出す」という消費傾向のことを指します。
経済産業省の「コト消費空間づくり研究会 取りまとめ~マネジメント組織を中核とした地域協同システムの構築~(案)」によると、コト消費の定義は以下のようになります。
製品を購入して使用したり、単品の機能的なサービスを享受するのではなく、個別の事象とが連なった総体である“一連の体験”を対象とした消費活動のこと
国内でもインバウンド市場でも、コト消費の需要が拡大しています。
2017年5月、データ分析やコンサルティングを行うグローバル企業「GfK」が、世界17か国のインターネットユーザーを対象に行った調査によれば、「何を所有するより何を体験するかの方が大切だ」との質問に対し、世界の回答では「所有より体験が大切」が44%にのぼり、「体験より所有が大切」と答えた人はわずか3%にとどまりました。
日本での回答は「所有より体験が大切」が27%で「体験より所有が大切」と答えた人は3%でした。
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「コト消費」の用語説明
拡大の背景はモノの普及とインターネット
国内、インバウンド市場ともに、「コト消費」への志向が高まっている背景として、「モノ」が広く行き渡ったことや、インターネットが普及したことなどが考えられます。
経済成長や訪日旅行の簡易化などを経て、消費者が欲しいと思うモノが行き渡った結果、商品の機能やそのもの価値よりも、それらを通して得られる体験や経験などの「コト」に対する消費意欲が高まったといえます。
またインターネットの普及により、家に居ながらにして、日本のみならず世界中のあらゆるモノが手に入ることも影響していると考えられます。
観光庁も「コト消費」への取り組みを推進
観光庁は、訪日外国人の「コト消費」を広め、訪日旅行をさらに楽しんでもらうため、「VR(仮想現実)」や「AR(拡張現実)」の活用を進めるとしています。
また「最先端ICTを活用した観光」「潜在的な観光資源」「夜間の観光資源」に関するモデル事業を日本各地で実施し、新たな体験型観光コンテンツの開拓・育成に取り組んでいます。
コト消費の事例7選
コト消費の需要の高まりに応じ、各企業ではさまざまな取り組みが行われています。
そのなかで、7つの事例についてご紹介します。
1. ストリートカート
トリップアドバイザー株式会社が2018年6月に発表したランキング「外国人に人気の日本の体験・ツアー2018」では、1位に「マリカー」がランクインしました。
訪日観光客に人気なストリートカートで、2020年4月に発表されたトリップアドバイザーのランキング「旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の体験・ツアー 2020」でも4~6位を占めています。
東京都内の公道を、任天堂の人気ゲームさながらのカートやコスチュームで走れるという体験型コンテンツで、訪日外国人から人気を集めています。
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2. 東京ディズニーリゾート
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、観客参加型のショーやイベントで、コト消費を提供しています。
入場客は、イベントに参加することで「実体のない体験」を享受できます。「東京ディズニーリゾートに行かないと経験できない」というところに価値を見出している人も多いのではないでしょうか。
オリエンタルランドが2017年10月2日に発表した、「東京ディズニーランド®・東京ディズニーシー®2017年度 上半期入園者数(速報)」によると、2017年度上半期(4月1日~9月30日)の東京ディズニーランドおよび東京ディズニーシーの2パーク合計の入園者数は、14,775千人(前年同期比103.1%、44万5,000人増)となりました。
2012年から2013年の増加以来4年ぶりの増加となり、上半期としては過去3番目となったと言います。
春の「イースター」や、同年夏に開催されていた映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」などのイベントに人気が集まったとされています。
また、2018年以降は2年連続で顧客満足度も高まっています。
日本生産性本部・サービス産業生産性協議会が発表している「JSCI(日本版顧客満足度指数)」を見ると、2017年には353社中36位だった顧客満足度が、218年には343社中8位へ急上昇し、さらに2019年は335社中6位となりました。
顧客満足度を可視化している「スコア」も2017年の77.1から、2018年は81.1、2019年は81.9と確実に成果を上げています。
2018年から2019年にかけては、開業35周年イベントが行われていました。この限定イベントが来場者の感動や充実度を高め、満足度向上につながったのかもしれません。
3. 琴平バス
琴平バスは、コロナ禍でも「コト消費」を提供しています。
有料コンテンツとして「オンラインツアー」を開発し、あらかじめ地域の特産品を参加者の自宅に送り、ツアー中に食を楽しむ時間を挟むなど、実体験を重視したコンテンツを工夫しています。
2020年10月には初のインバウンド向けのオンラインバスツアーの試みも実施しました。
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4. THE OUTLETS HIROSHIMA
「THE OUTLETS HIROSHIMA」は、2018年4月に開業した大型商業施設です。
アウトレット施設でありながら、屋内スケートリンクなどのアミューズメント施設、シネマコンプレックスなどのエンターテインメント施設を設置しています。
ショッピングでモノ消費を促すとともに、エンターテインメント施設でトランポリンやスケートを楽しむことができるという「体験」、すなわちコト消費も同時に提供しています。
また、施設内のエリア「なみのわガレージ」は、広島・瀬戸内の文化・魅力が体験できるエリアとなっており、例えば「SAKKA ZAKKA」では、瀬戸内、山陰のものづくりブランドが集結して地域ならではの買い物を楽しめるほか、ワークショップも行っています。
広島や瀬戸内を存分に味わうことができ、その地域を堪能できるというところで「コト消費」を楽しんでいる人も多いと考えられます。
「地域との出会い」をコンセプトのひとつに組み込んでおり、地域創生型商業施設としての魅力も有しています。
5. irina
ケーキ専門通販サイト運営のCake.jp内で事業展開しているスイーツショップ「irina」は、顧客自身が積み上げることで完成するロールケーキタワーを商品として販売しています。「ケーキを買う」だけでなく、「作り上げる」という段階があるということから、コト消費が提供されている商品だと言えます。
抹茶やきなこ、ピスタチオなど25種類のミニロールケーキを使用し、タワーの高さは3段から10段まで選ぶことができます。
商品を購入し、自宅に届くときにはロールケーキが一つずつ箱に入った状態で、それらを積み重ねることで自分達だけのケーキが完成します。
ケーキの見た目の美しさやおいしさと共に、家族や仲間、恋人と分かち合う時間も、商品のひとつとして売り出しています。
公式オンラインショップでは、よく用いられる場面として、企業パーティー、結婚式、誕生日、女子会などが挙げられています。
6. 無印良品銀座店
無印良品銀座店は、従来の店舗と同じく商品を販売するなか、店舗の中にアトリエ、ホテル、レストランも併設しています。
アトリエではワークショップが開催され、利用客に体験を提供しています。
過去に開催されていたイベントでは、「加賀てまり」を講師のレクチャーの下で作るワークショップや、インドの「チャイ」を作り、お菓子と共に口にすることで奥深さを知るといったワークショップまで、さまざまなものがありました。
新型コロナウイルス感染症拡大以降は、公式サイトの「過去のイベント」ページで実践型の動画を公開しています。
例えば、「半紙で折る 手紙包み」 のオンラインワークショップもその一つで、動画を見ながら体験できるようになっています。
店舗にはホテルが併設されており、利用者は「宿泊体験」をも楽しむことができます。
無印良品の商品という「モノ」以外を販売、提供して消費者を楽しませるなど、「コト消費」に注目して、共感型、体験型販促に力を入れていることが分かります。
7. 蔦屋書店
蔦屋書店も、コト消費を促す仕掛けを散りばめています。一般的な書店とは異なり、本を売るだけにとどまらず、さまざまな体験ができる空間を提供しているのが特徴的です。
「DAIKANYAMA T‐STTE」や「二子玉川 蔦屋家電」では、生活提案型所業施設として他業者の企業と提携するなど、幅広く展開しています。
例えば、「DAIKANYAMA T‐STTE」は、書店のほかに、ラウンジ、トラベルカウンター、ベーカリー、ペットケア施設などをガーデン内に併設し、顧客に多様な消費活動を促しています。
ラウンジでは古今東西の書物やアートを楽しむことができるほか、食事も提供しています。それぞれの商品は「モノ」ですが、それらを上質な一つの空間に融合することで、同時に楽しめるという「コト消費」に繋げているといえます。
この結果、「書籍が売れない」時代に、蔦屋書店は大きく利益を上げています。
出版科学研究所の「2020年版 出版指標 年報」から、日本では、書籍、月刊誌、週刊誌すべてにおいて販売数が減少していることがわかっています。例えば、減少が最も顕著な月刊誌は、1997年には1兆2,000憶円に迫っていましたが、2019年には4,000憶円近くにまで落ち込んでいます。
このように書籍が苦境に立たされている中、蔦屋書店は2020年1月から12月までの国内書籍・雑誌販売額が1,427億円となり、過去最高額を更新しました。
変化する消費傾向を掴んでより良いマーケティングを
最近ではモノ消費からコト消費のシフトが顕著にみられ、「見えないものに価値を見出す」傾向が高まっています。
今回紹介した企業のように、本来の展開方法に新たな要素を追加させることで、モノ消費とコト消費をともに促すことも成功事例のひとつといえます。
また最近では「トキ消費」「エモ消費」「イミ消費」などの新たな消費傾向も登場しており、ニーズを汲んで対応していくことが重要となるでしょう。
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<参考>
経済産業省:コト消費空間づくり研究会 取りまとめ~マネジメント組織を中核とした地域協同システムの構築~(案)観光庁:最先端観光コンテンツ インキュベーター事業
トリップアドバイザー:トリップアドバイザー「外国人に人気の日本の体験・ツアー2018」を発表~ 上位 3 位は、カート、フクロウカフェ、お料理教室!日本人には馴染みのない体験も複数ランクイン! ~
トリップアドバイザー:旅好きが選ぶ!外国人に人気の日本の体験・ツアー 2020
オリエンタルランド:2017年度 上半期入園者数(速報)東京ディズニーランド®・東京ディズニーシー®
公益財団法人日本生産性本部:JCSI(日本版顧客満足度指数)年間発表
irina:ロールタワー
Cake.jp:プレスリリース
無印良品:無印良品 銀座
DAIKANYAMA T-SITE:公式サイト
出版科学研究所:「2020年版 出版指標 年報」
CCC 蔦屋書店カンパニー:プレスリリース
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