経済効果は約「520億円」、佐渡金銀山世界遺産登録に向けてのレポート発表

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2010年、佐渡金銀山遺跡は「金を中心とする佐渡鉱山の遺跡群」として日本の世界文化遺産暫定リストに掲載されました。

そこで2020年度中の国内推薦、2022年度中の世界遺産登録を目指していたものの、2020年に入ってコロナ禍となり、文化庁は世界文化遺産の国内推薦候補の選定を見送りました。

登録が進まなくなってしまった今、佐渡市の現状と課題、そして世界遺産に向けての動きと経済効果の試算について、株式会社日本政策投資銀行(以下DBJ)新潟支店と、株式会社日本経済研究所(以下JERI)が共同で調査を実施しました。

そのレポートが7月5日、DBJの公式サイトから公開されたため、その一部を紹介します。

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佐渡市の現状と課題:1991年をピークに半減、インバウンドも減少

2020年に発表された「2019年度 佐渡観光データ調査分析業務報告書」によると、佐渡市の来訪者数は1991年の123万人がピークであり、2019年はピーク時の半数以下である41.8万人になっています。

減少原因について、レポートによると佐渡市は以前から団体客を受け入れていましたが、個人客の増加に伴い、団体客向けの施設のほとんどが昭和に整備され老朽化が進行していることがあげられています。

さらに、観光客の減少に伴い施設を整備する余裕がなく宿泊者から古い印象を持たれてしまい来訪者が減少するという悪循環に陥っている可能性がレポートでは指摘されていました。

また佐渡市の観光は夏が繁忙期、冬が閑散期となり、時期によって来訪者数に大きな差があります。この差を埋めるのが訪日外国人旅行者で、閑散期である4月と11月に来訪者が増加しています。

なお年間の訪日外国人旅行者数は、台湾の航空会社「遠東航空」が2017年に台湾ー新潟間の直行便を運航した影響で2018年は増加したものの、2019年12月から運休し旅行者数は減少しています。

この状況の中で、佐渡市の観光を活性化させるため「佐渡島の金山」の世界遺産登録が目指されています。

世界遺産登録に向けて:登録後の取り組みも見据える

2010年、「佐渡島の金山」が世界遺産暫定一覧表に記載されて以来佐渡島では取り組みを続けてきました。コロナ禍の影響で登録は早くても2023年度以降にずれ込むこととなりましたが、佐渡市では取り組みが続けられています。

また新潟県及び佐渡市は、「佐渡島の金山」が世界文化遺産として登録された後を見すえ、「登録推進」や「普及啓発・情報発信」のみではなく、「保存整備・活用」等に関する取り組みを行っています。

特に「保存整備・活用」に関しては、新潟県および佐渡市が「世界遺産を核とした魅力ある地域づくり」などを行っています。

世界遺産に登録された場合の「利点」と「問題点」:住民の視点から

「佐渡島の金山」が世界文化遺産に登録されるにあたり、新潟県民にアンケートが行われました。

利点として「佐渡への観光客が増える」「地域経済が活性化する」「佐渡のみならず新潟県全体の魅力向上につながる」が挙げられました。

一方、問題点として「遺跡や周辺の破壊が心配」「交通渋滞の発生」「環境の保全強化のため、地域の財政負担が増加する」などオーバーツーリズムに関する問題点が見られました。

またこれらに加え、レポートでは世界遺産登録後に観光客が増加した屋久島と白川郷、おおむね堅調に観光客が推移した原爆ドームと日光の社寺、登録後に減少した石見銀山・富岡製糸場の6か所において先行事例研究が丁寧に行われています。

佐渡市の現在の取り組み:新たな観光コンテンツの醸成

これを受けて佐渡市では、世界文化遺産登録後の来訪者の増加に備え、様々な取り組みを実施しています。

実施取り組み事項の一覧を以下に示しています。

観光コースの整備

・ガイド付きの世界文化遺産関連施設の散策
・「ISLAND MIRRORGE」(アイランド・ミラージュ)プロジェクト開始
(MR技術を活用した新たな観光コンテンツを企画・販売)

利用施設の整備

・駐車場整備
・トイレの老朽化対応(洋式化等)
・敷地内のバリアフリー化(車いす対応等)

広告宣言の整備 ・ホームページ及びパンフレットの定期更新
・SNSでの広域的な情報発信
インバウンドへの対応 ・多言語対応
「外国語おもてなし会話帳」

このほかにも、佐渡金銀山関連のお土産開発などを行っています。

そして現在の課題として史跡佐渡金山の整備と関係者との合意形成が問題となります。

またコロナ禍以前から観光への取り組みとして、準市民向け館員制度来訪者向け地域通貨、また金銀山やトキなど専門的にガイドする人々も含めたガイド養成、市内交通の利便性向上としてバス乗り放題チケットの発売などが行われていました。

コロナ禍には、新たに感染拡大防止策として佐渡クリーン認証を設けているほか、ワーケーション・リモートワークの環境整備、古民家再生などを行っています。

「佐渡島の金山」の活用による経済効果は約520億円

また佐渡市は、先行事例研究を基に経済効果を試算しています。

特に要素として、来訪者数×旅行消費単価×地域内自給率=観光振興による地域経済効果をあげています。

よって、来訪者数の増加のみを試みるのではなく、旅行消費単価の向上も狙い活動を続けています。

また、収容能力や移動手段などを十分に検討することでオーバーツーリズムによる弊害を防ごうと試みています。

これらの指標と、現実的な来訪者人数を加味した結果、最終的に「佐渡島の金山」が世界遺産に登録された1年後の年間旅行消費額の総計は約370億円となりました。

また佐渡市への経済波及効果は、約520億円になるという指標もでています。2019年での経済波及効果は約379億円であったため、150億円ほどの効果が見込めます。

経済効果として、具体的には宿泊施設の場合、宿泊施設の売上が増加する直接効果に加え、食材の仕入れなど一時間接、また宿泊施設の従業員の所得が増加し、その結果買物した商店の売上が増加する二次間接の効果が見込まれています。

また佐渡市への税収効果は7億9,600万円になると想定され、これは2019年の5億8,500万円から約2億円ほど増額する見込みとなります。

持続可能な佐渡市の実現へ

「佐渡島の金山」が世界遺産に登録されることの魅力は、経済波及効果の大きさだけではありません。

世界遺産に登録されることで、佐渡市のグローバルに対するプレゼンス向上や、インバウンド誘致につながり観光振興を加速できると考えられます。

そして世界遺産に登録されるということは、同時に「佐渡島の金山」を保存する責務を負うということになります。

そのため、「保存」と「活用」のバランスに基づく、持続可能な佐渡市の実現が不可欠になってきます。

これらを実現するため、MaaSの導入キャッシュレス化の推進インフラの高度化なども望まれています。

このレポートでは、現状分析や課題、それらに対する対策が綿密に記されており、世界遺産に登録されることによる急激な人流の増加を防ぐ方法や、持続可能性においても言及されていました。

日本の他の地域においても、世界遺産登録にあたり、細部にわたる分析に基づき、持続可能性を意識しながら観光プラン、地域振興プランや経済波及効果を考えてみてもよいでしょう。

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<参照>
日本政策投資銀行:『佐渡島の金山』世界文化遺産登録を契機とした地域価値の向上に関する調査報告書~持続可能な佐渡市の実現~
アイキャッチ:佐渡観光PHOTO

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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