在日外国人向け街歩きツアーや海外向けオンライン体験の企画運営をしております、Japan Localizedインバウンドアナリストの宮本です。
オミクロン変異株が徐々に解明されつつあるも、感染拡大のペースを緩めるために欧米各国が入国規制を再び強化しています。また日本も2021年12月31日までの外国人の新規入国を停止しました。
そのような中、連日のオミクロン変異株の報道を受け、日経平均株価はコロナによる行動規制強化による景気減速の懸念から大きく下落しました。また、前回の記事でカテゴライズしたインバウンド銘柄も大きく下落しました。
今回の記事では水際対策が緩和され、短期ビジネス目的や留学生の入国が可能になった11月8日(11月5日の株価終値を使用)から12月3日までと、11月25日から12月3日までのインバウンド銘柄の株価パフォーマンスを元に、株式市場から読み解く、オミクロン変異株によるインバウンド業界への影響を考察していきます。
前回までの連載
・大手旅行会社2社の株価推移の差から分かる、市場の期待感は(Vol.1)
・「インバウンド銘柄」の正体(Vol.2)
・インバウンド需要を「カテゴライズ」し、株価を比較する(Vol.3)
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インバウンド業界をめぐる出来事:オミクロン株初確認前後
まずオミクロン変異株の報道前後のインバウンドに関わる出来事を簡単に整理したいと思います。
- 11月8日、短期ビジネス目的や留学生の入国が可能となった
- 11月25日、南アフリカ共和国で新型コロナウイルスの変異株「B.1.1.529」が発見されたと発表される
- 11月30日、モデルナのCEOがオミクロン変異株に対するワクチンの有効性はかなり低いとの見方を公表
- 12月1日、国土交通省が日本に到着する国際線の新規予約受け付けを12月末まで停止するよう、各航空会社に要請
- 12月2日、国土交通省が前日の停止要請を取り下げ
上記を見ても、オミクロン変異株が発見される前は入国制限緩和の流れだったのが、発見された後は急激に巻き戻されたことがわかります。これにより、インバウンド復活の期待感は大きく後退しました。
その期待感の後退がインバウンド銘柄の株価にどう影響を与えたのか、まずはパフォーマンスから見てみたいと思います。
11月5日から12月3日までのインバウンド銘柄の株価パフォーマンス
以下の図は11月5日から12月3日までのインバウンド銘柄の株価パフォーマンスです。
赤いバーはTOPIXのリターンになります。それを上回るのは3銘柄のみで、残りのインバウンド銘柄は全てTOPIXを下回るパフォーマンスとなりました。
美顔器を製造するヤーマン(銘柄コード:6630)、HIS(銘柄コード:9603)、和雑貨販売や着物レンタルを展開する和心(銘柄コード:9271)が-20%を下回る下落率でした。
次にKNT-CT(銘柄コード:9726、近畿日本ツーリストクラブツーリズム)やANAホールディングス(銘柄コード:9202)、資生堂(銘柄コード:4911)、日本航空(銘柄コード:9201)などの馴染みがある会社の株価の下落率も目立ちます。
一方、比較的に下落率が小さいのは、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランド(銘柄コード:4661)、帝国ホテル(銘柄コード:9708)、コーセー(銘柄コード:4922)、京都ホテル(銘柄コード:9723)、ビックカメラ(銘柄コード:3048)でした。
このグラフから、全体的に宿泊にカテゴライズされる銘柄の下落率が小さい一方、移動(空運)やサービス、メーカーにカテゴライズされる銘柄の下落率が大きいことが読み取れます。
ヤーマンの株価推移
その中でヤーマンの下落率が目立ちますが、詳しく見ていくと、ヤーマンは11月15日大引け後に発表した業績予想の修正の内容に市場が失望し、大きく売られました。
このことから、ヤーマンはオミクロン変異株の影響懸念より、業績予想の修正の発表を材料として売られた影響の方が大きいと判断できます。
しかし、寿スピリッツや資生堂などの銘柄の下落も目立ちますので、オミクロン変異株の影響により、各社の業績回復期待を下押したと考えられます。
HIS・KNT-CT・和心と航空会社2社(JAL・ANA)の株価推移
次に下落が目立ったのはHISやKNT-CT、和心です。
これはオミクロン変異株による旅行需要の下押しとインバウンド回復時期が後ずれし、業績回復が遠のきを懸念し、株価が下落したと考えられます。
また、上記に加えて、JALとANAの2社は国土交通省が日本に到着するすべての国際線で新たな予約の停止を各航空会社に要請したものの、岸田総理が邦人の帰国に配慮するようにと要請を撤回したことによって、12月1日から3日の両社の株価は乱高下しました。
加えて上記のグラフからは、11月8日を境に株価が下落していることが読み取れます。
11月初めから入国制限緩和の報道で関連銘柄の株価は上昇していましたが、11月8日以降、上記のグラフから読み取れるように、材料出尽くしからHIS、和心、JAL、ANAの株価はじりじり売られ、11月26日からオミクロン変異株の影響でさらに一段株価が下がりました。
11月25日から12月3日までのインバウンド銘柄のパフォーマンス
次にオミクロン変異株の報道があった、2021年11月25日から12月3日までのインバウンド銘柄のパフォーマンスを見ていきます。
オミクロン変異株ショックで一番売られたインバウンド銘柄は、レジャーにカテゴライズしている富士急行(銘柄コード:9010)、移動(陸運)にカテゴライズしている京成電鉄(銘柄コード:9009)、回転寿司チェーンを運営するフードアンドライフカンパニーズ(銘柄コード:3563)の順番で売り込まれました。
フードアンドライフカンパニーズはオミクロン変異株の影響というよりは、12月2日に発表した11月既存店売上高が3.7%減となり、それが嫌気され株価が売られています。
以下の図はフードアンドライフカンパニーズの株価推移です。
富士急行と京成電鉄の株価推移
次に一番パフォーマンスが悪かった富士急行は、オミクロン変異株の影響に加えて運営する遊園地の富士急ハイランドです。
利用客に骨折などが相次いだジェットコースター「ド・ドドンパ」とは別のアトラクションでも、利用客が来園後に骨折が判明したと申し出があったと発表した事も悪材料となりました。
そして、京成電鉄は10月30日から一部運休していたスカイライナーの運転を再開したばかりでしたが、オミクロン変異株による水際対策強化が嫌気されて大きく売り込まれました。
以下の図は富士急行と京成電鉄の株価推移です。
一方、比較的下落率が低かったのは一風堂チェーンを運営する力の源ホールディングス(銘柄コード:3561)、ビックカメラ(銘柄コード:3048)、帝国ホテル(銘柄コード:9708)、星野リゾート・リート投資法人投資証券(銘柄コード:3287)、京都ホテル(銘柄コード:9723)などの宿泊にカテゴライズされるホテル関連銘柄で、オミクロン変異株による株価への影響は少なかったといえます。
オミクロン株の発生、旅行代理店と空運への影響大きく
以上より、インバウンド銘柄の株価の推移と入国制限各銘柄のパフォーマンスから読み取れるインバウンド業界への影響は、オミクロン変異株発生によってHISやKNT-CTなどの旅行代理店と、JALとANAの空運への影響が大きかったといえます。
一方、ホテル関連への影響は小さくなっています。
考えられる理由としてはオミクロン変異株によって水際対策が強化されたものの、国内の感染者数は低く推移しており、国内の宿泊業界には影響が少ないと判断されたことが挙げられます。
株価は常に数か月先の未来を見据えて値が動きますが、オミクロン変異株などの突然出てくる材料は織り込んでおらず、材料が出て瞬間に即座に織り込みにくるため、インバウンド銘柄の株価は大きく下落しました。
そして徐々にオミクロン変異株が解明されれば、再び期待先行で株価は上昇してくると考えられます。
次回もお楽しみに!
筆者紹介:Japan Localized代表 宮本 大
立命館大学卒。SMBCフレンド証券(現SMBC日興証券)を経てかんぽ生命保険入社。外国債券・為替ポートフォリオマネイジメント、日本株アナリスト兼株式ポートフォリオマネイジメントを担当。
米国College of William & Mary School of Business卒(MBA)。
Japan Localized設立後、訪日観光客向けへ体験ツアーの企画運営、インバウンド市場のリサーチ業務に従事。
Japan Localized 公式サイト
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