SDGsのカギは「原点回帰」にあった 人吉市「あゆの里」若女将に聞いた

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コロナ禍を経た今、観光業界は変革を迫られています。ウィズコロナ時代の旅のスタイルとして、「密回避」や「分散型旅行」などがキーワードとして飛び交う中、「持続可能な観光」も重要なテーマの一つです。

近年一層注目が集まる「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」に強く関連したサスティナブルツーリズム、ウェルネスツーリズムなどは、旅行者にとっても旅の目的地を選ぶ上で重要な要素となっています。

今回はコロナ禍の観光業への打撃に加え、さらに2020年7月の熊本豪雨を被災したところから復興を遂げ、先進的な取り組みを進める熊本県人吉市の旅館「清流山水花あゆの里(以下:「あゆの里」)」様の若女将、 有村友美様にお話を伺いました。

▲「あゆの里」若女将 有村友美氏
▲「あゆの里」若女将 有村友美氏

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1941年創業、人吉温泉旅館「清流山水花 あゆの里」

「清流山水花 あゆの里」は1941年に創業した、熊本県人吉市九日町にある温泉旅館です。

コロナ禍による打撃に加え、その後を追うように熊本豪雨の被災を経験しましたが、修繕とリニューアルを経て2021年8月に営業を再開させました。

「あゆの里」の様子
▲「清流山水花 あゆの里」公式サイト

「相良700年」の歴史を持つ人吉球磨

「あゆの里」がある熊本県人吉市は、熊本県南部の人吉盆地の西南端に位置し、南は鹿児島、宮崎両県に接しています。

山々に囲まれた盆地に日本三大急流である球磨川が中央を流れる自然豊かな地域であり、急流を活かしたラフティングが楽しめるほか、温泉地としても有名です。

歴史的には鎌倉初期より明治維新まで実に約700年余りにわたって相良氏が統治したことで知られ、江戸時代には人吉藩相良氏の城下町として栄えていました。

この長く豊かな歴史は「相良700年」と称され、日本遺産構成文化財として50以上の寺社仏閣や独自の食文化が登録されています。

▲日本遺産 人吉球磨 公式サイト
▲日本遺産 人吉球磨 公式サイト

復興までの道のり

新型コロナウイルスのパンデミックが始まった2020年、観光業界が大打撃を受ける中で「あゆの里」は更なる難局に立たされていました。それが同年7月の熊本豪雨です。

豪雨災害では実際に旅館の1階と地下が浸水するなど施設面でも甚大な被害が出たといいます。

復興に懸けた想い

度重なる苦難の中で復興に着手した経緯について有村氏は、「あゆの里」のマーケティング再考に注力したと語りました。コロナ禍が本格化する前から、団体客から個人客への客層の変化を察知していた有村氏。だからこそコロナ禍は、「見直す時間を与えてもらった」とも語ります。

「豪雨災害からの復興をハード面、コロナ禍からの復興をソフト面とすると、どちらかというとソフト面により時間を費やしました。ハード面、つまり壊れた設備を修復すること自体は時間をかければできますし、業者さんにある程度頼ることもできます。

それよりもソフト面、つまり「あゆの里」の核となるビジョンやブランディング、そしてマーケティングについて改めて見つめ直しました。

この町がどうなっていくのか、この世の中がどうなっていくのかを模索しながら、「あゆの里」が耐え抜けるだけの戦略を練ることに多くの時間を使いました。

そこで生まれたのが、『Discover HITOYOSHI』というコンセプトです。人吉球磨に流れる歴史が紡ぐ価値と魅力についてお客様にもっと触れていただくために、 スタッフの一人ひとりが「人吉コンシェルジュ」としておもてなしすることを心がけています。」

カギは「原点回帰」。先人から学び、後世に遺すこと

天災は予測できるものではなく、今後も起きないと言い切れるものでもありません。

そうした中で有村氏は、先代が築き上げてきた経営理念、考え方に立ち返ることで「あゆの里」の在り方を捉えなおしたといいます。

「とにかく「あゆの里」をどうにかして再建し、存続させないといけないというところで、まず一番最初に考えたのは「原点に返ろう」という事でした。

先代の会長、女将、そして今の会長、女将がどんな思いでどんな風に経営をやってきたのか、なぜ80年も続けてこられたかについてとにかく話を聞き、私なりに考えました。

そうして知ったものの中で「私が知るだけではもったいない」と思うものも多くありました。そうした後世に遺していきたいものを『ブランドブック』としてまとめ、お得意先様にお渡ししたり、社員教育につかったりしています。

また運営面についても見直しました。うちはよく「ホテルかと思った」と言われますが旅館です。

旅館の運営というのはとても効率よくできていて、一人が何でもやるというマルチタスクで成り立っています。ならば原点である旅館運営に戻そうと考え、「旅館のおもてなし」を中心に据え、それに基づいた運営方法にしました。」

人吉球磨、「相良700年」の歴史から学ぶ

有村氏は人吉球磨地域の10市町村と関係団体による官民一体の地域連携DMO「人吉球磨観光地域づくり協議会」にも参画しています。

町づくりについても旅館同様に「原点回帰」を通して得たことがあったということです。それを、人吉、球磨の700年の歴史に基づいて話してくださいました。

「人吉球磨は歴史的に多様性のある町なんです。相良700年の歴史の中で多くの寺社仏閣があって。

その中で私が注目しているのが、相良氏18代目当主の相良 義陽(さがら よしひ)という方です。この方のお人柄や球磨を治めた方法は、今の経営者が見習うべきことがいくつもあります。なぜ相良が700年も続いたのか、繁栄させられたのかというヒントがこのお殿様にありまして。

このお殿様は元は静岡からきているのですが、人吉球磨の民衆がそれまで大事にしてきたものをすごく大切にしているんですよね。この地域の人が心豊かに暮らせたのは、お殿様と民が一つになって伝統文化をずっと守ってきたからなんです。そこにすごく感銘を受けました。

「あゆの里」、そして人吉球磨の地域全体にも共通していえますが、過去をさかのぼって叡智を学び、それに倣い、現代に活かしていくことが、結果的に持続可能な発展につながるのではないかと考えています。」

もとに戻すだけではない、一歩先の復興へ

「あゆの里」の復興は、災害前に戻すにとどまりません。

アフターコロナの旅行回復期に備え、以前の「あゆの里」からの更なるアップデートを図ったということです。

新たに取り組んだ「創造的復興」

コロナ禍での豪雨災害に見舞われ、「あゆの里」は休館を余儀なくされました。

休館を経て、再開時には旅館内の施設やコンテンツを増設し、さらに多様な過ごし方を提供しています。

2021年8月にグランドオープンした「天空のテラス」(7階に新設)はその代表例で、球磨川や盆地がもたらす絶景などを望めるほか、朝の澄んだ空気の中でヨガを体験できるプランもあります。

「あゆの里」に昨年新設された「天空のテラス」
▲「天空のテラス」:「あゆの里」公式サイト

こうした改修にあたっては、その根底に「創造的復興」の考えがあるといいます。

「熊本県知事は「創造的復興」ってよく仰るんです。

つまりただ元の状態に戻すのではなく、よりお客様に付加価値を提供できるかたちへと発展させていく。「あゆの里」も再興に際していろいろなものを新たに作りました。

今後はもっともっとお客様に人吉の魅力を提案できるものを、「Discover HITOYOSHI」のコンセプトをもとに作っていきたいと考えています。」

食の多様性への取り組みが「三方よし+未来よし」に

また「あゆの里」では、食の多様性への取り組みも積極的に行っています。

地域との連携を深める地産地消の活動や、インバウンド再開時を見据えたヴィーガンやハラール対応などを進めています。ここにも持続可能な発展を実現するヒントがありました。

「「あゆの里」の再建後、この土地ならではのものを訪ねていき、そこでたくさんの食の魅力に出会いました。

そこで出会った魅力をお客様に知ってもらいたいなと。人吉は海がないので「海の幸」はあえて出さず、「川の幸」、「山の幸」にこだわり、料理長らが振舞って出すことにしたところ、お客様の反応が非常に良くなったんです。

今は会席料理という固定観念は無くし、人吉球磨の食の魅力を活かしながら知ってもらいたい料理や伝えたい料理を提供しています。

世の中ではインフレといわれていますが、地元のものを仕入れる時には価格変動はあまり影響を受けないですし、「フードマイレージ」(食の輸送距離)を削減することになるので、脱炭素や温室効果ガスの抑制にも大きく寄与しています。

このようにして地元の業者さんとも繋がることができましたし、お客様にも付加価値を感じていただける。そして有難いことにお客様の評価も上がる「三方よし」であり、さらにプラスして環境にやさしいことで「未来良し」にもなっています。」

「地球にやさしい」を叶える旅館

食事面で、多様性や持続可能性を意識したお取り組みをすることにより、実際の環境への負荷を大幅に減らすことにも成功したそうです。

「朝食は、バイキングから和定食に変えて、夕食も13品から9品に変えました。そうしたところ、生ごみが本当に減りましたね。

前は大きいバケツに大体2~3個出ていた生ごみが、今は小さいバケツに一個くらい。信じられないくらい少なくなりました。」

加えて、旅館内での「脱プラスチック」への取り組みも進めているといいます。日本では4月より、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行されています。

これは国内におけるプラスチックの資源循環を一層促進することを狙いとしたもので、旅館やホテルではアメニティやその提供の仕方が見直されています。

「あゆの里」では、このような社会背景にも精力的に対応しています。

「歯ブラシなどの必要最低限なもの以外のアメニティに関しては「必要な人だけとってください」というシステムにしています。これも啓蒙活動の一つになるのではと思っています。

温泉露天風呂付きの客室では、オリジナルのシャンプーなどをフルセットで置いていますが、「あゆの里は地球にやさしい宿を目指しています。お使いにならなかったものはそのままに置いておいてください。」とメッセージカードを添えています。

「あゆの里」で常備しているアメニティ
▲「あゆの里」で常備しているアメニティ


「あゆの里」を、人吉球磨の魅力をつなぐ”ハブ”として

人吉球磨を代表してPRする存在として「あゆの里」がどのような役割を果たしていきたいかについて、有村氏は語ります。

「旅館の役割って、その土地の食材や温泉など...観光地としての魅力を総合してアピールすることが求められているということを、旅館経営や観光地域づくりに関わる中でより一層強く感じています。

「人吉球磨観光地域づくり協議会」に参画して色々な人と出会い、ビジネスができるようになったのはとてもよかったと感じています。自分はもちろん、他に参画している人も、環境にとっても、そしてお客様にとっても。

「あゆの里」は宿泊施設なので、訪れたお客様に対して人吉球磨の他のアクティビティ、温泉、食などの魅力を提案し、つないでいく"ハブ"の役割を果たしていきたいなと思います。」

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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