注目が高まる「高付加価値旅行」とその戦略とは?JNTO「Japan Luxury Showcase」を取材

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インバウンド市場において注目が高まる「高付加価値旅行」。一回の旅行で一人当たりの消費額が100万円を超えるハイエンドな旅行のことで、特に地方への誘客を目指し、日本政府観光局JNTO)や行政機関、自治体等も対策の強化へ動いています。

そんな中、富裕層の誘客に向けたJNTOの取り組みの一つとして、2024年2月4日〜9日に「Japan Luxury Showcase(高付加価値旅行商談会)」が開催されました。本記事では、高付加価値旅行に対するマーケティング戦略と、Japan Luxury Showcaseを取材した際の様子をまとめます。

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高付加価値旅行とは?日本のインバウンドの課題

訪日外国旅行者数の目標として、コロナ禍前には「2020年に4,000万人」という目標が掲げられていました。2019年には、訪日旅行者数は3,000万人を超えており、目標に対して8割まで迫りました。一方で訪日旅行消費額については、2020年までの目標8兆円に対し、2019年の消費額は4.8兆円。目標に対して6割程度の数字となっており、消費額を上げていく取り組みが必要とされていました。

それに加え、コロナ禍を経て「観光客が一箇所に集中する状態」、そしてそれに伴って起こる「オーバーツーリズム」への懸念が、コロナ禍前以上に指摘されるようになりました。そのため観光庁JNTOは、訪日外国人旅行者の「数」ではなく、「質(消費額拡大・地方誘客促進)」を重視する方向へとシフトしています。

そこで今、注目を集めているのが「高付加価値旅行者層」です。旅行者全体の1%程度ですが、消費額でみると全体の14%を占めています。この層を取り込むことで、消費額を底上げしていく狙いです。

しかし、高付加価値旅行者層は東京や京都などの都市部や有名観光地に集中しており、地方での消費が少ないのが現状です。地域の魅力を訴求し、地方への誘客を進めることが今後の大きな取り組み課題の一つとなっています。

JNTOとしては特に海外セールスの強化を目指して体制を強化していく方針で、2023年4月には高付加価値旅行推進室を立ち上げ、人員を強化して臨んでいるとのことです。

高付加価値旅行のターゲットは

高付加価値旅行層におけるターゲット層は、消費額の違いによって2つに分類されます。

一つはオールラグジュアリー(All Luxury)層。旅行一回の一人当たりの消費額が300万円以上の旅行者で、旅行中の多くの場面で品質の高いサービスを求める、富裕層の中でも特にハイエンドな人たちのことを指します。このオールラグジュアリー層へのアプローチについては、まずはニーズの深掘りを最優先で行い、その上でどのようなサービスを提供するべきかを検討していくとのことです。

もう一つはセレクティブラグジュアリー(Selective Luxury)層で、旅行一回の一人当たりの消費額は100万円以上〜300万円未満。旅行の全ての要素を高付加価値にするのではなく、自分のこだわりのポイントに絞ってラグジュアリーなサービスを求める層です。例えば「ホテルは高くてもサービスの質がいいところを選びたい」「体験にはしっかりお金を使いたい」といった考え方の旅行客を指します。

セレクティブラグジュアリー層については、さらに下記の3つに細分化し、取り組みを進めていく方針です。

1. 訪日経験層

すでに訪日旅行を経験済みであり、一度目の旅行で東京や大阪、京都など、いわゆる観光の「ゴールデンルート」を経験済みの方が多い客層です。地方にも関心を持ってもらえる可能性が高く、地方の魅力をしっかり訴求するとともに、地方観光を見越した旅行商品の多様化を図る必要があります。

2. 訪日関心層

訪日未経験層ではあるものの、すでに訪日旅行への関心がある層です。実際に日本へ行きたいと思わせる取り組みが必要であることから、JNTOでは旅行商品のラインアップを充実させていくアプローチを積極的に実施しているとのことです。

3. 訪日低関心層
日本を旅行先として認知していない層です。日本でどのような高付加価値な旅行体験ができるのかを、これまでより深く訴求することが必要となります。こちらについてはデジタルマーケティングの取り組みを中心に、認知・関心の向上を目指していくそうです。

高付加価値旅行のマーケティング戦略

地方における高付加価値旅行の推進においては、ラグジュアリー層の特性を踏まえたプロモーションやコネクション強化が必須です。JNTOは以下の4つの具体的な方針に沿って、取り組みを進めていくとしています。

1. 国内の関係者のネットワーク

DMC(Destination Management Company:海外旅行会社の依頼を受け、国内で旅行手配を行う法人)や、各地域のサプライヤーとのネットワークの構築が急務です。JNTOがハブとなり、高付加価値旅行の誘客強化に向けた連携を促進するとしています。

2. サービス内容の収集・蓄積

各地域にある観光コンテンツ・サービスの発掘および磨き上げの支援を実施。さらに各地域の情報を収集して体系的にまとめ、Web上で発信するなどの支援も行っています。

3. セールスの強化

海外で開催される高付加価値旅行の関係者が集まる商談会への出展などを通じて、積極的なセールス活動を実施しています。

4. 情報発信の強化

デジタルマーケティングやメディアへのアプローチ、イベント等を通じて、一般消費者に地域の魅力を訴求しています。

また上記に加え、高付加価値旅行者の求める高いニーズに対応できる観光ガイドの育成なども強化していく方針だということです。

Japan Luxury Showcaseの内容

そうした高付加価値旅行層の誘客に向けた取り組みの一つとして、今回実施されたのが「Japan Luxury Showcase」です。

ヨーロッパ、北米、オーストラリア、中東地域の高付加価値旅行を取り扱う旅行会社をJNTOが日本へ招待。日本各地への視察ツアー(ファムトリップ)の実施や全国のホテルや旅館、旅行手配会社(DMC)との商談会が実施されました。

開催期間は2024年2月4日(日)〜2月9日(金)の5日間。そのうちファムトリップは2月5日〜2月8日の3泊4日で、2月8日のファムトリップ終了後には懇親会を実施。そして最終日の2月9日に商談会が行われました。

Japan Luxury Showcase 商談会の様子
▲Japan Luxury Showcase 商談会の様子

Japan Luxury Showcaseの参加者

今回、Japan luxury showcaseに参加した海外バイヤーは各国・地域の旅行会社32名。企業にはいくつかの参加条件が設けられ、一つはVirtuosoなど高付加価値旅行会社のコンソーシアムに加盟していること、もしくは100万円以上の旅行消費への取り組み実績があること。さらに、旅行商品の造成に関する意思決定者であること、つまり旅行商品の販売だけでなく実際にツアーを作る権限があることも参加条件となっていました。

また、商談会に参加した国内セラーは40社。国内のラグジュアリーホテルや高級旅館、高付加価値旅行を取り扱うDMCが中心で、コンソーシアムへの加盟のほか、SDGs関連の認証や表彰取得企業を優先して選定したということです。

ファムトリップの概要

2月5日〜2月8日の3泊4日で行われた海外バイヤー向けのファムトリップ。全国8つのコースが設けられ、海外バイヤーが地方の魅力を直に体験できる機会を提供しました。

8つのコースは次の通りです。

1. 金沢・福井、2. 高山・富山、3. 奈良・和歌山、4. せとうち、5. 鳥取・島根、6. 鹿児島・屋久島、7. 沖縄、8. ゴールデンルート

いずれも各地の歴史や伝統文化などを背景に、匠の技や人々の生活をテーマにコースを設定。各国から参加したバイヤーには事前に日本のどこに行きたいか希望を聞き、なるべくその希望に沿ったテーマのコースに割り当てられるようにしたそう。ファムトリップ中は、参加者同士で活発に意見交換も行われ、終始、和気あいあいとした雰囲気だったとのことです。なお、能登半島沖地震を受けて、1の金沢・福井のコースについては現地の宿泊施設や観光施設に確認をとり、受け入れが可能であることが確約できた上で実施したとのことです。

ファムトリップ参加者の感想

ファムトリップのコース分けについては、必ずしも希望通りにならなかった参加者もいました。しかし希望通りのコースでなかった人たちも実際に地方の魅力を体験することで、「当初希望を出したコースでなくてもよかった(楽しめた)」と、体験したコースに満足したとの声があったそうです。

例えば日本旅行が初めてだった参加者の1人は、「東京・京都に行きたい」と、事前の希望ではゴールデンルートを選択したそう。しかし割り当てられたコースは6. 屋久島・鹿児島。その方は当日まで「ゴールデンルートに行きたい」と言っていたようですが、屋久島の大自然の中のハイキングや鹿児島の武家文化を体験したことで、最終日には「東京に帰りたくない」とまで言うようになったのだとか。JNTOの担当者はそうした状況に対し、地方ならではの文化を体験することで、より大きな感動を味わってもらえたのではと振り返っていました。

Japan Luxury Showcaseに参加した事業者の声

Japan Luxury Showcaseの最終日2月9日には、国内のラグジュアリーホテルや旅館が参加した商談会が行われました。

今回は、商談会に参加した国内事業者の中から2社にお話を伺うことができましたので、ご紹介します。

瀬戸内海に浮かぶ島「直島」の美術館併設型リゾートホテル『ベネッセハウス ミュージアム』担当者

ハイエンドなお客様への発信を強化していきたいと考えており、高付加価値旅行についてどのような需要があるのかを聞けるチャンスと思い、参加しました。

今回、ファムトリップで実際に私たちの施設にお越しいただき、参加者からフィードバックをもらえたことで、海外の方々から見た自分たちの特色を改めて認識することができました。

今後は美術や建築はもちろん、コンセプトそのものに共感いただき楽しんでもらえるよう、旅行会社への情報提供などを進めていきたいと思います。

奄美大島「大島紬」の織元が運営するホテル『ティダムーン』担当者

海外から来た方々の話を聞き、今後進むべき道が少しでも見えたらと思い参加しました。

沖縄を知っている人は多いですが、奄美大島の知名度はまだ高くないと感じています。私たちは島の伝統産業である「大島紬」を製造しているメーカー(織元)でもあるので、実際につくっている着物を紹介しながら、「着物とともに地域の文化を体験できる」と伝えると、良い反応が返ってきますね。

海外の方々が、職人が丁寧につくった製品のバックグラウンドや歴史に興味があることを知り、そういった情報が外国人には刺さるとわかったのは大きな収穫です。今回の経験をもとに、今後の取り組みについても検討していきたいと思います。


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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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