2022年10月の水際対策緩和以降、訪日需要は急速に拡大中。2024年の訪日外客数は感染症拡大前の水準を上回り、過去最高を記録すると予想されています。実際、直近の日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2024年3月の訪日外客数はコロナ禍前を超えており、初めて月間300万人を超えました。各地でインバウンド対策が急務となっています。
そんな中、観光地域づくり法人(DMO)として瀬戸内のしまなみ海道周辺地域における観光産業振興を図る一般社団法人しまなみジャパン 専務理事の坂本大蔵氏と、株式会社mov 訪日ラボ インバウンド事業部長の川西哲平との対談が実現。しまなみ海道での取り組みから、効果的なインバウンド対策の今後について考えます。
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しまなみ海道でも訪日需要は回復傾向。地方におけるインバウンド対策が急務
川西:本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、まずはしまなみ海道の現在のインバウンドの状況について教えてください。水際対策緩和以降、外国人観光客は戻ってきていますか?
坂本:少しずつ戻ってきてはいます。2019年度は約2万3,500人の外国人がしまなみ海道のレンタサイクルを利用したのに対し、2023年度は約2万9,700人でしたので、伸びてきていると言えます。ただ、訪日需要の急拡大を報じるメディアとのギャップは少し感じているのも事実。地方ではその勢いをまだまだ感じづらいというのはあります。
川西:その感覚は間違っていないかもしれません。観光庁が公表している「都道府県別 外国人延べ宿泊者数」をもとに集計すると、外国人宿泊者数の上位に並ぶのは東京、大阪、京都、北海道など、いわゆる定番の観光地に一極集中する傾向が見られました。
コロナ禍を経て数年ぶりの日本旅行になる旅行客が多いため、改めて定番の観光地へ、という流れになっているのではないかと考えています。また、訪日旅行のリピーターになりうる東アジア市場の回復が遅れていることも、地方の需要が戻っていない理由の一つでしょう。とはいえ、地方の人気が高まりつつあるのも事実なので、今後分散が進んでいくのではとみています。
坂本:では、やはり地方でも、今後期待されるインバウンドに向けて対策を進めていかなくてはならないですね。
「外国人観光客」をひとまとめにしない。正確なデータで、効果的な対策を考える
川西:サイクルツーリズムで有名なしまなみ海道には、どこの国からの観光客が多いのでしょうか?
坂本:コロナ前は台湾や中国、香港などアジアからの観光客が多かったのですが、2023年度はヨーロッパを中心に欧米豪の方々が非常に多い結果となりました。順位別に見ると1位がアメリカで、以降はオーストラリア、フランス、イギリス、ドイツ、台湾、カナダ、オランダと続いている状況です。
川西:「外国人観光客」をひとまとめにして捉えるのではなく、その中身を詳しく分析できている点が良いですね。そうした状況をふまえ、しまなみ海道ではどんなインバウンド対策を行っていますか?
坂本:欧米豪の方々のニーズに合った商品になっているか、その方々にしまなみ海道の情報を届けられているか、といった課題と今向き合っているところです。商品という観点では、彼らが乗れるサイズの自転車や、乗り慣れているであろうE-バイクの用意を検討しています。情報の発信については、つい先日しまなみ海道の海外サイトを立ち上げました。ただ、英語圏以外の観光客も多いことをふまえ、次は英語表記だけでなく多言語対応を進めなければと考えているところです。
ただ、そもそもこの国別のデータは正確ではなくて。
川西:どういうことでしょうか?
坂本:自転車をレンタルした一つのグループの全員が、受付代表者の国籍でカウントされてしまっているんです。たとえば、地元の日本人がアメリカ人を連れてきたとしたら、その記録は2人とも「日本」になります。つい最近まで紙で受付を行っていたこともあり、旅行客一人ひとりの国籍を把握できていませんでした。
川西:そういうことだったんですね。2023年に開発された観光客向けアプリ「SHIMANAMI JAPAN」は、その課題感から生まれたものなのでしょうか。
坂本:まさにそうです。予約の管理がExcelだったりと、しまなみ海道の観光領域ではDXが進んでおらず、観光産業の振興を進めるにしても定量データが一切ない状態でした。今どういう状況なのか、どこに課題があるのか、どんな施策が有効なのか、わからない。まずは観光客の属性や行動などのデータを集める必要があり、レンタサイクルを利用される方に使ってもらえるアプリを開発したんです。
川西:今アプリをダウンロードしてみたのですが、これとてもいいですね。特にマップ機能は便利だと思います。以前しまなみ海道に行った際、Googleマップだと車と自転車のルートの違いがわかりづらいなと感じたことがあって。でも、このアプリはサイクリスト用の情報や機能で構成されているので、サイクリングを楽しみたい方にとってすごく使いやすいだろうと感じます。
坂本:ありがとうございます。しまなみ海道のレンタサイクル利用者に関する様々なデータを把握するため、そして利用者の皆様の利便性を高めるため、こだわって開発したこのアプリを、いかに多くの方に使ってもらうかが目下の課題です。
外国人旅行客の行動を促すには、「メリット」と「わかりやすさ」が重要
川西:アプリの提供は順調に進んでいますか?
坂本:アプリ開発後に閑散期を迎えたこともあり、まさにこれからという状況です。ただ、外国人観光客にアプリをダウンロードさせるのは決して簡単ではないなとすでに感じているところです。
川西:具体的にどんな難しさがあるのでしょうか?
坂本:第一に、言語の壁がありますね。レンタサイクルの受付の順番待ちで並んでいる方々に声をかけてアプリを案内しているのですが、先ほどお伝えしたとおり英語圏以外の方も多く、英語の案内だけでは不十分なケースも少なくありません。また、日本のアプリをわざわざダウンロードする、ということに抵抗を感じている様子も見受けられます。
川西:実は私も前職で、訪日外国人向けのアプリのプロモーションをやっていた時期がありまして。その経験から学んだことを共有するならば、ポイントは「メリット」と「わかりやすさ」です。
たとえば、サイクリストにとって便利な地図機能がある点は、このアプリを利用する大きなメリットになると思います。それを伝えるだけで、旅行客にとってダウンロードする理由が生まれるのではないでしょうか。次にわかりやすさという観点では、まず各言語に対応できているか。あとは人を介するプロモーションだと紙を配るよりも伝わりやすいので、英語などの言語ができる人が声をかけたり、多言語に対応している案内を見せながら伝えたりするのが良いと思います。
また、もし予算がつけられるのであれば、ノベルティやキャンペーンを用意しても良いかもしれません。アプリのダウンロードで何かグッズがもらえる、しまなみ海道で使えるクーポンが発行されるといった特典は、得られるものがわかりやすく行動促進に繋がりやすいんです。
坂本:非常に参考になります。何か施策をやるにしても「効果があるかわからないけどやってみよう」はなかなか難しく、どうしたものか…と思っていたんです。データと同様、実績は関係者を動かす大きな力になるので、ありがたいお話でした。ノベルティやキャンペーンも含め、社内で検討してみます。
データを活かしたインバウンド対策で、地域の稼ぐ力を高めていく
川西:アプリで得られるデータを活かし、今後どういったインバウンド対策を進めていきたいと考えていますか?
坂本:できることはいろいろあると思っていますが、まずはデータによって、外国人観光客の需要を取りこぼさないための動きに繋げられたらと思っています。
たとえば、利用者のニーズに合う自転車の用意や、自転車のレンタルや乗り捨てができる各スポットの在庫調整ですね。しまなみ海道は広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶサイクリングロードですが、海外の人の多くが尾道側からしまなみ海道に入っています。つまり、尾道側に外国人観光客の需要に対応できる車種をたくさん用意しておかなければなりません。どんな種類のものをどれだけ用意すれば良いのか。逆に、その車種が必要ないスポットはどこなのか。
これらをデータによって把握し、効率的でありながら外国人観光客のニーズに最大限応えられる状態を目指したいと考えています。
川西:なるほど。利用者の詳細な属性はもちろん、誰がどこを目的地に走っているのかという行動履歴なども把握できるアプリだからこそできることですね。
坂本:そうですね。ほかにも、サイクリストの各地の滞在時間から誰がどこで消費を行っているのか、どんな楽しみ方をしているのか、なども推測できるようになると思います。
そうしたデータを活用して、ゆくゆくは利用者がもっと長く滞在したくなるようなしまなみ海道をつくっていくのにも役立てていきたいです。単にサイクリングを楽しんでもらうだけではなく、道中で食や観光、宿泊などまで楽しみ尽くしてもらえるような観光地になることで、地域全体の稼ぐ力を高めていけたらと考えているんです。
川西:アプリを通じて興味深いデータがたくさん集められそうですし、集まったデータが活用できるシーンはどんどん広がっていきそうですね。今日のお話を通じ、インバウンド対策においてデータを活用することの重要性がとても理解できました。どうもありがとうございました。
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