「デジタルは苦手…」を克服した"シンプル"な方法とは。しまなみ海道の事例に学ぶ、地方の観光DX

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今、日本の観光業の重要なテーマとして注目されている「観光DXデジタルトランスフォーメーション)」。オーバーツーリズムや観光事業者の高齢化、人材不足など、たくさんの課題が観光業をとりまく中、デジタル技術の活用が急務となっています。

観光庁も観光領域におけるDXを推進しており、その一環として「事業者間・地域間におけるデータ連携等を通じた観光・地域経済活性化実証事業」を実施。今回は、その事業の一つである、しまなみ海道の観光DXを進める一般社団法人しまなみジャパン 専務理事 坂本大蔵氏に取材しました。

しまなみ海道は、広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶサイクリングロード。世界中のサイクリストが訪れる日本有数の観光地でありながら、「地域や観光事業者の高齢化を背景に、つい最近までキャッシュレス対応すらできていなかった」と坂本氏は話します。関係者のデジタルリテラシーをふまえ、DMOとしてどのように周囲を巻き込みながらDXを進めてきたのでしょうか。

ぜひ、観光庁による観光DX成果報告のレポート記事「稼ぐ観光」から「稼ぐ地域」へ。3つの事例から学ぶ、観光DXで目指すべき姿【観光庁 観光DX成果報告会を取材】とあわせてご覧ください。

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一般社団法人しまなみジャパン 専務理事 坂本大蔵氏
▲一般社団法人しまなみジャパン 専務理事 坂本大蔵氏:観光DX成果報告会にて訪日ラボ撮影

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予約管理はExcel、決済は現金のみ…関係者の多くがデジタルに疎かった

ーーしまなみ海道では現在観光DXを進めているとのことですが、まずは推進前の状況について教えてください。

坂本:施策を始める前は、全くと言っていいほどデジタル化に取り組んでいない状況でした。

DMOである弊社においても平均年齢は59.3歳。窓口業務を務めるスタッフには、60〜70代の方もいたりします。地域の観光事業者も同様の状況で、レンタサイクルの予約はExcelではあるものの手打ちで管理していたり、受付は紙で対応していたり、決済方法は現金のみだったり。長年のアナログ的な運営が染み付いてしまっていました。

ーー確かに、キャッシュレス決済ができない、ネット予約に対応していないなど、地方の観光地にはアナログなイメージもまだまだあります。そのような観光業の在り方に対して、しまなみジャパンではどのような課題感を持っていたのでしょうか。

坂本:しまなみ海道のサイクルツーリズムを盛り上げていくにあたって、「何をすれば良いか?」「どこに課題があるのか?」を明らかにしたかったのですが、参考にできるような定量データが何一つない状態で、これは大きな課題であると考えました。どの事業者もずっとアナログな方法でやってきていたため、レンタサイクルを利用される方の属性や行動などのあらゆる情報を感覚的にしか把握できていなかったんです。

ーー観光振興を進めるにあたって、まずはデータを集めるというところから取り組んでいく必要があったのですね。

坂本:そうです。その一環として、レンタサイクル利用者向けのスマートフォンアプリをつくりました。自転車でどのルートを通ったらいいか、実際にどこを通ったのかといった情報がわかる利便性を提供しつつ、弊社としては利用者の属性、しまなみ海道での移動や滞在時間はもちろん、新たに導入した予約システムとの連携によって予約情報なども見えるようになりました。

利用者の行動状況を把握するための基盤を整え、ゆくゆくはこのアプリで蓄積するデータを新サービスの展開、行政や観光事業者への情報共有などに活用することを構想し、アプリの普及を進めています。

デジタル化に対し、現場からは反発も。段階的に導入していく進め方で、混乱を最小限に

ーーアプリの開発や予約システムの導入などに対して、現場の反応はいかがでしたか。長年のやり方を変えるのは、高齢化が進む現場にとっても負担だったのではないかと想像しています。

坂本:現場からの反発は日常茶飯事でした(笑)。この地域の観光業はこれまでずっと同じやり方で成立していたこともあり、「なぜやらないといけないのか?」と必要性を伝えていくところから始めなければならなかったですね。特にレンタサイクル利用者向けアプリに関しては、自分たちも使ったことがない。お客様に対してアプリのダウンロードを案内するよう、弊社スタッフや各事業者に協力を依頼するも、自分たちが使いこなせないようなものを人に説明することはできない…と困る人も少なくありませんでした。

ーー抵抗感のある人も多い中、どのようにDXを進めてきたのでしょうか。

坂本:関係者のデジタルリテラシーを考慮し、彼らにとって馴染みやすい部分からデジタル化を進めるよう意識しました。

一番最初に取り組んだのは、国内外の観光客にとっての利便性を高めるうえでも急務だったキャッシュレス化です。スタッフの中には、キャッシュレス決済なら消費者側として使ったことがあるという人も多かったので、現場の抵抗感も少ないだろうと思ったのです。運用開始前にはデモ画面を使い、お客様役とレジ係役を設定して練習したりして、ほとんどの人がイメージできていたこともあり、ほぼトラブルなく導入できました。

ーー複数の施策を一気に進めるのではなく、一つひとつ現場に浸透させてきたのですね。シンプルですが、非常に効果がありそうです。

坂本:そうですね。ただ実は、元々キャッシュレス化と予約システムの導入は同時に取り組む予定でした。ですが、予約システムの開発が想定より遅れ、先にキャッシュレス化だけ進めることになったんです。たまたまですが、時期をずらして現場へ浸透させることができました。

また、これも結果的にではありますが、現場の繁忙期の波と合わせて計画を進められたのも良かったです。一番の繁忙期である3月〜6月を避けて9月にキャッシュレス化を、その後アプリの提供を開始、そして閑散期の1月に予約システムの導入に取り組みました。忙しい時期を避けたことで混乱を最小限に抑え、お客様にご迷惑をおかけすることなく進められました。

集まったデータが、DXに関心の低かった関係者たちの意識も変えた

ーー他に、デジタル化が進んでいない地域でDXを推し進めていくにあたり重要なポイントがあれば教えていただきたいです。

坂本:一連のプロジェクトの中で、集まったデータは、観光施策に活かせるだけではなく、関係者をさらに動かすエネルギーにもなるということを学びましたね。

たとえばキャッシュレス対応を始めてから、外国人客の決済はほぼ100%がキャッシュレスという結果になりました。これほどのニーズに対応できるようになった喜びを、一同ひしひしと実感しているところです。こうして効果を見える化したことで、関係者にはキャッシュレス導入の重要性をこれまで以上にわかってもらえたのではないかと思っています。

また、最初はレンタサイクル利用者向けアプリの必要性をあまり理解していなかった人も、アプリを通じて得られたデータや、お客様に案内すればするほどアプリダウンロード数が増えていることを見せると、納得してもらえるケースが多かったですね。データの活用は、人をうまく巻き込むうえでも大切なものなのだと改めて感じました。

ーーやっていることがどんなことに繋がっているのか見えると、モチベーションに繋がりますよね。こうしたDXによって、しまなみ海道の観光業にはどのような変化がありましたか。

現状を正しく把握できるようになり、これまでは気づきもしなかったような課題も見えてくるようになりました。

たとえば、2023年の外国人利用者の46%が欧州の方々ではありますが、英語圏以外からの旅行客も多く、英語の案内だけだと不十分なのでは…といった課題感に繋がりました。コロナ禍が明けて外国人利用者が少しずつ戻ってきていることをふまえ、つい先日英語版のサイトを公開したところなのですが、多言語への対応が急務だと認識できました。

ほかにも、観光客の属性や行動が見える化したことで、欧州の人が乗り慣れた車種や高齢の方でも楽に移動できるE-バイク、チャイルドシート付き自転車などの需要が議題に上がることも。社内や関係者の意識が大きく変わり、「このくらいの台数を用意してこんなサービスにすれば、このくらいの利用や売上につながる」といった話もできるようになりました。

ーー「稼ぐ地域」の実現に向けて着実に歩みを進めていますね。最後に今後のビジョンを教えてください。

目指すのは、レンタサイクルの収入で稼ぐだけではなく、食事や宿泊、観光など、サイクリングを通じて様々な形でしまなみ海道を楽しんでもらうことによって、地域全体で稼げる状態。その実現において重要なデータの「収集」「蓄積」「活用」のサイクルは、まだまだ始まったばかりです。

まずは十分なデータが得られるよう、アプリのダウンロード数をもっと増やしていく必要があるでしょう。しかし、言語の問題もあって外国人利用者への案内が難しく、また日本のアプリをダウンロードするのに抵抗を感じる方も少なくないようで、思うように進んでいないのが現状。安定して十分なデータが得られるよう、この突破口を見出すのが目下の課題です。特に、これから迎えるしまなみ海道のサイクルツーリズムのベストシーズンのデータは、今後のしまなみ海道の観光振興に大きく役立つものとなるはずです。引き続き地域や事業者、自治体と協業しながら、DXによってしまなみ海道の観光業のより良い未来をつくっていきたいと思っています。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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