コロナ禍が収束し、急速に拡大するインバウンド需要。地域活性化策としても注目が高まる観光業の振興やオーバーツーリズム対策は、各自治体の喫緊の課題となっています。
訪日ラボでは、各自治体が観光政策の考え方や方向性を示した「観光振興計画」のなかでも、インバウンド市場に着目してシリーズでお届け。47都道府県が発表している観光振興計画を読み解きながら、計画の方向性や具体策についてまとめていきます。
第4回目の今回は、東北(青森県、岩手県、秋田県、山形県、宮城県、福島県)の観光振興計画を読み解きながら、計画の具体策についてまとめていきます。自地域はもちろん、ほかの地域のインバウンド戦略について気になっている担当者の方は、最後までご覧ください。
- 連載1回目:【首都圏編】インバウンド分野の基本方針や具体的な取り組みとは
- 連載2回目:【関西編】2025年の万博開催、そしてその先へ向けた各県の取り組みは
- 連載3回目:【北海道編】北海道総合開発計画を踏まえた「世界トップクラス」の観光地域づくりとは
- 連載4回目:【東北編】震災復興とコロナ禍を経て、各県の次なる取り組みとは
- 連載5回目:【中国・四国編】外国人観光客への認知拡大が課題の中国・四国。需要拡大の波に乗るための各県の施策とは
- 連載6回目:【九州・沖縄編】ゴールは地域経済の発展。持続可能な観光立県に向けた取り組みとは
- 連載7回目:【北陸編】広域連携で周遊促進。訪日客への知名度向上を目指す各県の取り組みとは
- 連載8回目:【北関東・甲信越編】地域資源の活用と観光の高付加価値化を目指す各県の取り組みとは
- 連載9回目:【東海編】ブランド力向上とゴールデンルートからの誘客を狙う各県の取り組みとは
- 連載10回目:【総集編】地域ごとに特色のある観光振興計画、各地の特徴と傾向とは?
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観光振興計画とは?
観光振興計画とは、自治体が策定する地域の観光政策の方向性を示す計画書のことをいい、観光政策の目指す将来像、基本的な方向性、目標、実施計画などが記載されています。自治体ごとに目指す姿やアクションプランを具体的にすることで、地域の観光資源の活用や観光業の振興、地域経済の活性化を図ることが目的です。
策定は各自治体の任意で行われるものですが、一般に3年または5年ごとに作成されています。また都道府県だけでなく、市町村単位で策定するケースも多数あります。
観光振興計画については「観光振興計画とは?民間事業者がチェックすべき内容とコロナ禍での変化について紹介」もご確認ください。
今回のエリアは「東北」
「観光振興計画を読む」と題し、47都道府県の観光振興計画を分かりやすく解説していきます。シリーズ4回目の今回、取り上げるエリアは「東北」です。紹介するのは、青森県、岩手県、秋田県、山形県、宮城県、福島県の計6自治体です。
東北のインバウンド観光の概要
観光庁が2024年2月29日に発表した「宿泊旅行統計調査」によると、2023年の外国人延べ宿泊者数は宮城県が51万8,330人泊(全体19位)で、東北では最も多い結果に。次いで岩手県の27万1,380人泊(同28位)、青森県27万1,020人泊(同29位)、福島県22万220人泊(同32位)、山形県16万6,930人泊(同38位)、秋田県9万5,460人泊(同43位)となっています。
なお他のエリアでは、2023年の外国人延べ宿泊者数が最も多かったのが東京都(約4,273万人泊)、2位が大阪府(約1,848万人泊)、3位が京都府(約1,212万人泊)でした。
各県の動向について簡単にまとめます。青森県では、2023年の県内延べ宿泊者数はコロナ禍前の96.4%まで回復しました。2024年の春節の時期には「ねぶた」の文化を中心とし、青森県が中国から注目を集めているとの報道も複数ありました。しかしコロナ禍前より問題視されていた観光業の人手不足はさらに深刻化し、旅行需要の増加に合わせた対策が急務です。
岩手県では、県内宿泊者数が最も多い台湾を最重点市場に設定するほか、中国、香港、韓国を重点市場にして取り組みを進めています。 ニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2023年に行くべき52か所」の2番目に盛岡市が選ばれたことで訪日外国人旅行者が増加。新たな市場開拓が目指されています。
秋田県は外国人観光客の延べ宿泊者数が東北6県で最下位。外国人観光客の観光消費額においても東北で最下位と、宿泊者数や消費額の拡大が喫緊の課題です。
山形県では、2013年から2018年までの四半期ごとの平均観光消費額を見ると、4〜6月が最も高く、夏の7〜9月が最も低い結果に。夏の観光消費額の向上が課題です。
宮城県では2016年以降、外国人観光客数が順調に推移し、2019年には50万人泊の目標を達成しました。東北地方最大の都市である仙台を中心に、複数の人気観光地を持っています。今後はコロナ禍で落ち込んだ需要の回復と、新しい観光のニーズに対応した取り組みを進めるということです。
福島県では、震災を機に減少した外国人観光客が着実に回復していますが、全国的なインバウンド拡大の流れには追いついていない状況です。海外での風評被害を払拭するためにも、継続的な情報発信やプロモーション活動が必要となっています。
<参照>
青森県の観光振興計画
計画の名称
青森県観光戦略
対象期間
2024年度から2028年度までの5年間
ビジョン
- 世界とつながり、世界から選ばれ、観光産業が基幹産業として地域経済を力強くけん引している状態
- 「訪れる人」「働く人」「地域の人」が幸せを感じる地域
数値目標
2028年までの目標
- 観光消費額:2,000億円
- 延べ宿泊者数: 550万人泊
- 外国人延べ宿泊者数: 50万人泊
基本方針
付加価値の高い観光業の確立を目指し、「サステナブル観光県青森」をスローガンに掲げ、以下の3つを基本方針として定めています。
- 持続可能な観光の確立
- 観光消費額の拡大
- 連泊の推進
特徴
観光分野を含めた地域課題を明確化することで、次の5年間の取り組みと目指すべきビジョンを設定。観光を基幹産業として地域活性化策の中心に定め、取り組みを進めています。
具体的な取り組み施策例
戦略1:観光の付加価値創出・向上
世界自然遺産である白神山地など、雄大な自然を生かしたアドベンチャーツーリズムの推進、ネイチャーガイドの育成を実施。体験型コンテンツを拡充させ付加価値の高い観光業確立を目指します。
戦略2:多様な来訪者が快適に滞在できる環境づくり
ハラールやベジタリアンに配慮したメニューの提供やユニバーサルツーリズムを強化。外国人や高齢者など誰もが楽しんで旅行できる環境を整えます。
戦略3:国内外からの誘客の強化
韓国や台湾など重点的に取り組んできた地域に加え、欧米富裕層などへのマーケティングも強化。航空会社や鉄道会社、オンライントラベルエージェント(OTA)と連携し、旅行者の特徴に合わせたプロモーションを実施します。
<参照>
岩手県の観光振興計画
計画の名称
みちのく岩手観光立県第4期基本計画
対象期間
2024年度から2028年度までの5年間
ビジョン
「住んでよし、訪れてよしの観光地域づくり」と「地域経済の活性化」を推進することにより、自然と人、文化と人、人と人をつなぎ、地域社会の好循環を生む観光産業の更なる発展を目指します。
数値目標
2028年までの目標
- 観光消費額:2,256億3,000万円
- 外国人宿泊者数:59万2,000人泊
- 外国人観光消費額単価:6万9,000円
基本方針
- 持続可能な観光の推進
- 外国人観光客の誘客拡大
- 魅力的な観光地域づくりの推進
- 周遊・滞在型観光の推進
- 観光DXによる観光推進体制の強化
特徴
震災復興も重要な取り組みの一つである岩手県。三陸振興、震災伝承、地場産業の振興など、さまざまな分野を横断的に「観光振興計画」の一部と捉え、地域全体で取り組みを進めています。
具体的な取り組み施策例
戦略1:サステナブルツーリズムの推進
岩手県独自の地域資源を観光資源として活用。それらを維持・保存するとともに、住民生活や地域産業との調和を図り、持続可能な観光業を促進します。
戦略2:データに基づく戦略的なプロモーションの実施
デジタルマーケティングを強化し、高付加価値旅行者や外国人観光客の誘客を促進。東北各県と連携したプロモーションを展開することで、東北全体での外国人観光客の増加を目指します。
戦略3:外国人観光客に対応した受入環境整備
多言語や多様な食習慣への対応など、宿泊施設や飲食店の受入環境整備を支援。SNSを含むICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用した情報発信セミナーなどを実施し、事業者の情報発信力の強化を目指します。
戦略4:県産品の海外展開と連動した取組の推進
海外の現地商談会や見本市への参加を通じて、県産品や県内事業者の情報発信、販路の回復・拡大に取り組みます。フードツーリズムなど、「岩手ならでは」を求める外国人観光客のニーズに応える観光コンテンツの拡充を目指します。
<参照>
秋田県の観光振興計画
計画の名称
秋田県観光振興ビジョン
対象期間
2022年度から2025年度までの4年間
ビジョン
訪れる人のこころと地域を潤す持続可能な観光をめざして ~何度でも訪れたくなるあきたの創出~
数値目標
2025年までの目標
- 延べ宿泊者数(全体):380万人泊
- 外国人延べ宿泊者数:7万人泊
- 観光消費額単価:3万円
基本方針
- 観光産業の生産性向上
- デジタル技術の効果的な活用
- 旅行者の多様なニーズへの対応
特徴
東北のなかでも宿泊者数や消費額に課題が大きい秋田県。インバウンド需要の取り込みや付加価値の高い観光業を確立し、地域全体で「稼ぐ力」の強化を目指しています。
具体的な取り組み施策例
戦略1:客観的データの分析等に基づいた観光エリア経営による「稼ぐ力」の強化
データを活用した戦略的な情報発信やデジタルを駆使した業務効率化を支援。経営改善や「稼ぐ力」の強化を図ります。
戦略2:ターゲットを的確に捉えた誘客の推進
ランドオペレーター(旅行会社の依頼を受け、旅行先のホテルやレストラン、ガイド、バスなどの手配・予約を専門に行う会社のこと)機能の拡充や、「バーチャル秋田」による情報発信を実施。アフターコロナを見据えた戦略的プロモーションの強化を図ります。
戦略3:インバウンド回復を見据えた受入態勢の整備促進
外国人旅行者に対応した多言語表記を拡充。ベジタリアンやヴィーガンなどに対応した食事メニューの導入促進なども行い、異文化理解に基づいた受け入れ態勢の充実を目指します。
<参照>
山形県の観光振興計画
計画の名称
第2次おもてなし山形県観光計画 ~beyond2020~
対象期間
2020年度から2024年度までの5年間
ビジョン
県民の総参加と全産業の参加による観光振興施策の実施を通して、観光による交流人口の拡大を図り、本県経済を持続的に発展させるとともに、魅力ある活力に満ちた地域社会を築くことによって、『「観光立県山形」の確立』を目指す。
数値目標
2024年までの目標
- 年間観光消費額(全体): 2,600億円
- 年間観光消費額(日本人):2,400億円
- 年間観光消費額(外国人):200億円
基本方針
消費単価・訪問者数アップを目指し、下記の2軸で取り組みを進めていきます。
・基本的施策
- 魅力的な観光地域づくり
- 効果的な情報発信(情報でのおもてなし)
- 観光交流人口の拡大
- 観光産業の成長促進による地域活性化
・リーディングプロジェクト
- ICT等を活用したインバウンド拡大の加速化
- 稼ぐ観光地域づくりによる地域活性化
- 各種ツーリズムの推進
特徴
観光消費額や宿泊客数の向上が課題の山形県。地域連携やICTの活用、デジタルマーケティングを積極的に取り入れ、国内外からの観光客誘致を目指しています。
具体的な取り組み施策例
戦略1:国内外から本県への移動手段の確保・二次交通の充実
鉄道やバスなど公共交通機関に加え、レンタカー、タクシーなど多様な移動手段を整え、円滑で快適な周遊を促進。首都圏・関西圏などのゴールデンルートからの誘客の拡大にも取り組みます。
多言語ホームページやSNSを利用した情報発信、近隣県と連携した旅行博への出展などを実施。重点的に取り組んできた市場(台湾、中国、香港、東南アジア)のほか、新市場(ヨーロッパやオーストラリアなど)の開拓にも努めます。
戦略3:ICT等を活用したインバウンド拡大の加速化
動画の配信、デジタル広告、観光予約サイトの充実を通じて、個人旅行者向けのデジタルプロモーションを強化。データの収集・分析を通じて国内外の旅行者の現況を把握し、効果的な施策を展開します。
<参照>
・山形県:第2次おもてなし山形県観光計画~beyond2020~
宮城県の観光振興計画
計画の名称
第5期みやぎ観光戦略プラン
対象期間
2022年10月から2025年3月までの2年半
ビジョン
- 観光客と地域住民が共に高い満足度を得られる観光地の姿
- 観光関連産業が地域経済を牽引している姿
- 多様化する観光ニーズや自然災害・感染症等に対応した姿
- 戦略的な情報発信により,広域周遊を通じて国内外から多くの観光客が訪れている姿
数値目標
2024年の目標(回復目標 / 成長目標 ※)
- 宿泊観光客数(全体):990万人泊 / 1,040万人泊
- 宿泊観光客数(外国人):50 万人泊 / 70 万人泊
- 年間観光消費額:3,990 億円 / 4,200 億円
※回復目標:コロナ禍前の水準を目指した目標、成長目標:観光需要の回復を見据えた目標
基本方針
- ウィズコロナ(産業の回復)及びポストコロナ(産業の成長)時代への適応
- 持続可能な観光に向けた多様な関係者の意識向上とSDGsの実践
- 観光DX、データ等に基づく政策立案(EBPM)の推進
特徴
県全体の観光振興計画と合わせて、県内各地域の特性に応じた個別の方向性も設定。地域間連携を図り、県が一体となって観光振興に取り組む体制作りを進めています。
具体的な取り組み施策例
戦略1:多様化する旅行者の受入環境整備
多言語化やキャッシュレス対応を促進。地域内・広域周遊のための二次交通の利便性向上を目指し、観光交通機能の強化を図ります。
戦略2:旅行者のニーズやターゲットに応じた戦略的プロモーション
デジタルマーケティングを活用し、旅行者のニーズを的確に把握。ターゲットに応じた最適なプロモーションを実施します。
<参照>
福島県の観光振興計画
福島県については、「福島県総合計画」の観光分野を抜粋してまとめています。
計画の名称
福島県総合計画
対象期間
2022年度から2030年度までの9年間
ビジョン
「やさしさ、すこやかさ、おいしさあふれる ふくしまを共に創り、つなぐ」
※県の地域づくり全体の目標
数値目標
2030年の目標
- 県内宿泊者数:1,450万人泊
- 観光消費額(観光目的の宿泊者):1,450 億円
- 外国人宿泊者数:30万人泊
- MICE(国際的な会議等)件数:60件
具体的な取り組み施策例
戦略1:インバウンド促進に向けた観光の強化
海外メディアと連携したプロモーションを実施し、県のイメージアップ策を強化。関東都県や東北観光推進機構などと連携して広域的な周遊ルートを発信し、外国人観光客を誘致します。
戦略2:多様なニーズに対応する観光地・受入環境づくりの推進
観光地やその周辺地域の多言語表記や Wi-Fi 整備、福島地域通訳案内士の育成など外国人観光客の受入体制を強化します。
戦略3:国際交流の推進
関係機関と連携して国際会議など各種イベントの誘致。大学や国際教育研究拠点、民間団体などが主催する国際会議等の開催を支援します。
「福島県南会津地域観光振興ビジョン」取り組み施策例
福島県では総合計画のほかにも、南会津地域の観光振興計画(福島県南会津地域観光振興ビジョン)を県が個別に定め、取り組みを強化しています。
具体的な施策としては、多言語対応やICTを活用した観光案内、外国語人材の確保など、受入環境を整備。SNS などを活用した情報発信の強化や外国人旅行者向け旅行コンテンツの造成などにも取り組むということです。
<参照>
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