【訪日旅行の安全管理】観光庁「旅行業界のための旅行安全マネジメントのすすめ」改訂版を解説

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観光庁が2014年に発行した「旅行業界のための旅行安全マネジメントのすすめ」は、旅行会社が安全な旅行を提供するための具体的な取り組みを示したガイドラインです。

インバウンド需要が回復してきた観光業界において、改めて安全対策の重要性が再認識されるなかで、観光庁は2024年6月に改訂版を発表しました。

本記事では、主に訪日旅行における旅行安全マネジメントについて、ガイドラインで示されたポイントをまとめて紹介します。

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旅行安全マネジメントの必要性

地方創生の切り札としても期待される観光業ですが、自然災害やテロ、戦争や感染症などの影響を受けやすく、常に何らかの危機対策が求められています。

日本は地震や台風などをはじめとした、自然災害の多い国です。2018年と2019年には台風の影響で、関西国際空港や成田国際空港に多数の旅行者が長時間足止めされ、国際的な問題にも発展しました。

自然災害以外にも食中毒や交通事故など、旅行にはさまざまなリスクが伴います。企画旅行において「危機は必ず起きる」という前提に立ち、適切な旅行安全マネジメントの導入が必要です。

安全確保における旅行業者の義務として、以下の6つが裁判所の判例として示されています。

  1. 安全な目的地と旅行行程の設定
  2. 安全な旅行サービス提供機関の選定
  3. 安全調査の実施
  4. 安全に関する説明
  5. 添乗員による旅行者の安全を確保するための適切な措置
  6. 緊急時対応

観光危機管理の基本要素

観光危機管理の基本要素として、次の4つの“R”が挙げられています。4つの要素をもとに、旅行会社は旅行者の安全確保のための準備と対策を行う必要があります。

  1. Reduction(減災)
  2. Readiness(危機対応への備え)
  3. Response(危機への対応)
  4. Recovery(危機からの復興)

また発行された「旅行業界のための旅行安全マネジメントのすすめ」では、観光危機管理におけるケーススタディや公的機関が提供している情報についても紹介されています。

Reduction(減災)

「Reduction(減災)」は事故などの危機発生を防止・抑制すること、または旅行者や事業への影響を低減することです。減災を確実なものとするためには、起こりうる危機をできるだけ詳細に想定することが重要です。具体的には、旅行中に災害やテロなどの可能性が高まったときには旅行を中止するなどの対策が挙げられます。

また旅行企画の段階でリスクの少ない目的地や行程を選ぶことも、減災と考えられています。

Readiness(危機対応への備え)

「Readiness(危機対応への備え)」では、危機対応マニュアルや行動計画を策定し、有事の際には適切に実行できるよう日常的に教育・訓練を実施することが求められます。たとえば、事業において起こりうる事故などの危機を洗い出しておくこと、危機発生時の代替案を用意しておくことなどが挙げられます。

Response(危機への対応)

実際に危機が発生した際にはマニュアルに従い、旅行者の安全確保を最優先に対応します。また、風評被害の防止や危機後の旅行需要の回復のために、迅速かつ正確な情報発信も重要です。

「Response(危機への対応)」では、危機対応体制の構築や関係箇所との連携など、速やかな動きが求められています。

Recovery(危機からの復興)

「Recovery(危機からの復興)」は、危機発生後のできるだけ早い時期に、安全かつ安心な旅行を再開できるように取り組むことです。継続的なマーケティング活動などで旅行需要を早期に回復させる必要があります。また復興のタイミングでは、自社内だけでなく行政や業界団体、交通機関などの観光関係者と連携することが求められています。

旅行安全マネジメントの取り組み体制

旅行の安全を守るためには、危機管理を行う体制構築も重要です。観光庁のガイドラインによると、以下のPDCAサイクルに基づき、継続的な危機管理の取り組みが必要とされています。

  • Plan(計画策定): 安全管理責任者の任命・安全基本方針の策定・重点施策の策定など
  • Do(実行): 安全な目的地と行程の設定・安全なサービス提供機関の選定・安全調査の実施・緊急時対応など
  • Check(内部チェック): 自主点検・模擬訓練の実施など
  • Act(改善): 内部チェックの結果を踏まえた改善・安全教育の実施など

たとえば安全管理責任者は、次の事項を推進する必要があります。

  1. 安全基本方針の策定とその周知徹底
  2. 安全基本方針に沿った安全重点施策の策定と推進
  3. 社内の横断的・縦断的なコミュニケーションの確保
  4. 安全管理体制における内部チェックの実施
  5. 安全管理全般の経営陣による見直し
  6. PDCA サイクルの仕組みの導入とその有効活用

策定した推進内容をもとに、スピーディな計画の実行や定期的なチェックによる安全管理体制の構築・改善が求められています。ガイドラインでは、PDCAの実施状況について年に一度同時期に自主点検を行い、安全管理の改善と社内教育に活用することが示されています。

ガイドラインには、すぐに使える自主点検表が掲載されているほか、改善案の反映時に使える確認事項が紹介されています。

訪日旅行における安全管理のポイント

今回発行されたガイドラインでは、日本人の国内・海外旅行以外に、外国人の訪日旅行における安全管理も言及されています。訪日旅行における安全管理のポイントは、以下のように示されています。

  • 旅行サービス提供機関選定:旅行サービス提供機関(宿泊施設・運送機関・飲食店・土産物店など)が法令を遵守した事業者であるかを確認。添乗員やガイドも、適切な選定を経て基準を満たした人である必要があります。
  • お客様への情報提供:年齢や健康状態などに関する受け入れ基準を明確に定め、旅行実施の過程で起こりうるリスクについて適切に情報提供することが求められます​​。
  • ツアー催行中の緊急時対応:緊急時の連絡体制を構築し、定期的に訓練を実施。実際の危機発生時に適切な対応ができるように備えます。
  • 訪日旅行特有の安全管理:日本語を理解できない外国人旅行者に対して、緊急時の避難が適切に行える体制を整備。自社または宿泊施設や交通機関で、外国語で避難経路を表示したり、避難説明を行ったりする必要があります​​。

訪日旅行において、日本の旅行会社がツアーオペレーターの役割を担う場合は、旅行者に対して直接的な責務は負わないとされています。その上でも、ガイドラインに基づく手配を推進していくことで、日本の旅行会社への信頼性の確立を目指すように記されています。

訪日旅行の安全確保の取り組み

訪日旅行需要が拡大するなかで、重要性が高まる旅行安全マネジメント。安全管理体制の構築に向けて、参考にしたい制度や取り組み事例についてご紹介します。

ツアーオペレーター品質認証制度(TOUR QUALITY JAPAN)

ツアーオペレーター品質認証制度は、訪日旅行の品質向上と旅行者が安全・安心で良質な旅行を楽しむために設けられたものです。次の4つの側面から事業者を評価し、所定の基準を満たした優れた事業者を認証します。

  • 企業の法令遵守
  • 品質管理・サービス水準
  • CSR(企業の社会的責任)
  • サステナブルツーリズム(持続可能な観光)

認証される事業者が増加することで、業界全体の品質向上が図られ、訪日旅行者の増加とリピーター化が期待されます。特に、欧米市場からの要望が高い持続可能な観光(サスティナブルツーリズム)に対する取り組みも、認証基準の一つです。訪日旅行を実施する際には、積極的な認証取得が推奨されています。

関連記事:観光庁、「サステナブルな観光」の証明に役立つ認証ラベル集を更新

危機管理体制強化のための官民協力

事故の未然防止や、事件・事故・災害対応において官民の協力は欠かせません。近年は、旅行会社と地方自治体が包括連携協定を結ぶ取り組み事例も増加。国内外からの誘客やプロモーションのほか、地域活性化や災害対策など、官民が連携した取り組みは多岐に広がっています。

たとえば株式会社JTBは、東京都が企業と複数の政策分野を包括的・横断的に連携・協力を行う「ワイドコラボ協定」を旅行会社として初めて締結(2018年)。また、阪急阪神ホールディングス株式会社は宝塚市と包括連携協定(2022年)を結ぶなど、旅行会社と地方公共団体が連携した取り組みが広がっています。

旅行安全マネジメントの徹底で「安心感」をブランドイメージに

訪日旅行の需要が拡大するなか、旅行安全マネジメントは旅行業界にとって必須の取り組みです。適切な安全管理体制を整え、組織的な危機管理と継続的な改善が求められています。

統計上には表れませんが、治安の良さといった安心感は、旅行先として日本が選ばれる理由になるといいます。特にコロナ禍を経た今は、旅行においてより安全がより一層求められています。

「安全で綺麗で旅行がしやすい国」というブランドイメージを確立し、拡大するインバウンド需要を支えるためにも、旅行安全マネジメントの確認や見直しが必要です。

関連記事:米国市場のインバウンド動向や需要について、JNTOニューヨーク事務所長 山田氏に取材した

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<参照>

観光庁:旅行業界のための旅行安全マネジメントのすすめ

一般社団法人 日本旅行業協会:ツアーオペレーター品質認証制度

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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