中国の「ウルトラ富裕層」ってどんな人?インバウンド戦略のカギとは

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インバウンドで重要なキーワードである「高付加価値」。オーバーツーリズムなどが問題となる中、同じ旅行者数でもより多くの利益が生まれる高付加価値旅行者は、これからの観光において注目しておきたい存在です。

しかし、インバウンド富裕層の嗜好やライフスタイルは想像しづらいことから、「何をすれば良いかわからない」と頭を抱える事業者の方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、ツアーやイベント企画など中国富裕層に関するコンサルティングを行うmingle株式会社 代表取締役 小林智樹氏にお話を伺い、富裕層の中でも特に注目されることが多い「中国人の富裕層」の実態を掘り下げます。

▲mingle株式会社 代表取締役 小林智樹氏:mingle株式会社提供
▲mingle株式会社 代表取締役 小林智樹氏:mingle株式会社提供

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なぜ富裕層が重要なターゲットに?

富裕層とは、どういった属性の人を指すのでしょうか。

今回取材したmingleでは、ターゲットとなる富裕層を年収で分類しており、その中でも一番上のランクを「ウルトラ富裕層」と定義しています。

また観光庁は「高付加価値旅行者」について、「着地消費額100万円以上/人」、つまり現地での宿泊、飲食、体験、買い物などで100万円以上を使う旅行者と定義しています。

Technavioが発表した「Luxury Travel Market Forecast 2024-2028」によると、世界の富裕層旅行市場は2023〜2028年の期間で年平均成長率7.31%で拡大し、2028年には5,787億ドル(約86兆8,000億円)*に成長すると予測されています。

富裕層市場は「消費単価が高い」「市場が大きく成長が見込まれる」ことから、今後大きな経済効果が期待できるといえます。

またそれ以外の点でも、富裕層に認められたブランドや流行したトレンドは大衆層にとって憧れとなることから、富裕層は社会全体の消費スタイルにも影響を与える存在といえます。

これらの理由により、富裕層は重要なターゲットとして注目されているのです。

*1ドル=150円で訪日ラボ換算

関連記事:注目が高まる「高付加価値旅行」とその戦略とは?JNTO「Japan Luxury Showcase」を取材

「日本経済はなぜトップレベルなのか?」学びたい富裕層が参加

訪日ラボはその中でも中国富裕層に着目し、ツアーやイベント企画など中国富裕層に関するコンサルティングを行うmingle株式会社 代表取締役 小林智樹氏にお話を伺いました。

ーー「富裕層」の定義は様々だと思いますが、mingleにおける富裕層の定義を教えてください。

mingleでは年収で分けています。一番上のランクの「ウルトラ富裕層」が年収1億円以上、「富裕層」が年収3,000万以上、「新富裕層」が年収1,000万以上という形です。

基本的には施策のターゲットとなるランクを決めて企画を検討します。

ーーmingleでは中国人の富裕層を招待したツアーを企画されていますが、どういった内容が多いのでしょうか。

mingleは、一般的にイメージされる観光ではなく、「遊学」を主軸にしています。経営者の方などが、日本のビジネスを学ぶツアーのことを指します。

基本は現地の旅行代理店を通じて参加者を募っていて、工場や有名企業の見学、プライベートセミナーの開催など、日本の経営理論を学ぶような内容が多いです。あとは向こうからオファーをいただき、第一次産業について学びたいというリクエストで、漁業や農業の現場を見に全国各地に行ったこともあります。

観光目的の場合も、特に「超富裕層」の方は基本的にスケジュールが決められているツアーには参加しないため、自由度を上げた内容で企画します。

これは余談ですが、事前のアンケートでは「もう高級なところは飽きた!」という声も意外に多く、一般的なチェーン店などにお連れして、日本の生活水準の高さやローカルな文化を知っていただくと、喜ばれることが多いです。

参加される方のニーズや、やりたいことに合わせてカスタマイズしています。

ーー「遊学」という言葉に聞き馴染みがない方も多いと思うのですが、一般的な観光とどう違うのでしょうか。

日本は、桜の季節や夏休み、紅葉などが一般的な観光シーズンだと思いますが、そういった時期を外していらっしゃいます。

また参加費用は、買い物代やコト消費を除いて1名あたり平均80万円程度と、観光目的のツアーより圧倒的に高い傾向です。

ーー高い金額を払っても、日本に学びにきたいという方が多いのですね。

そうですね。中国の方は自分たちの技術に自信を持っていらっしゃいますが、日本の26倍の面積、10倍の人口の国ですので、日本よりも競争が激しい世界で生きています。そのため、常に新しい情報や最新の技術を学ぶ必要があるんです。

経済的にも、中国は不安定な部分があります。一方日本には、創業100年以上の企業が4万社以上あると言われています。日本の製品はクオリティが高く、世界的にも高い評価を得ていますね。

先に発展した日本の経済がなぜ安定しており、トップレベルを維持しているのか。その秘密を学びたいという方が多いです。

あとは、コロナの影響で「近いところに行きたい」というニーズも依然あると思います。

実際に見てみないとわからない…ウルトラ富裕層の実態

ーー富裕層には経営者の方も多いと思うので、学びの感度が高いのは特徴的な傾向だと感じます。他にも、特徴はありますか?

富裕層だけではありませんが、中国人の方は基本的に神経質だと思います。8月に「南海トラフ地震臨時情報」が発表された時も、予想される震源地から離れた北海道の予約を、発表から2時間ほどでキャンセルする方もいらっしゃいました。

取り巻く状況の変化が早く「明日どうなるかわからない」という意識があるので、会社の売上だったり、ご自身の資産に影響するようなことが起こりそうだったら行くのをやめることが多いです。富裕層の方は中国人全体よりそういった傾向はやや低いですが、同じような特性がありますね。

あとは、中国人の方は購買力が高い分キャンセルすることも多く、ネット通販なども返品率が高い傾向があります。「気が変わりやすい」とも言えるので、事業をする際は気をつけたいポイントです。

私たちは、国内の事業者向けにツアーの見学も受け入れています。現場を見てみないと、ウルトラ富裕層がどんな人たちなのかわからないからです。

見学された方は、大体「中国人のお客様を相手にするのは大変だね…」と言いますね(笑)こちらがどれだけ説明しても、そういったリアルな姿はわからないので。

「さっきはここに行きたいって言っていたのに、もう変わったの!?」とか、本当に色んな出来事が起こりますね。私たちも、最初は富裕層の方たちの対応ができるのか不安でしたが、今ではもう慣れました(笑)

事前にそういった知識を持っていれば、実際に施策を行う際のダメージは減ると思いますし、柔軟な対応ができるのではないでしょうか。

言葉が話せなくても、歓迎する気持ちは相手に伝わる

ーーお話を聞いていると、中国人富裕層向けの事業はハードルが高い気がします…。日本の事業者が心がけるべきことはなんでしょうか。

彼らを歓迎しているという姿勢を見せて、挨拶だけではなく、短くてもいいので会話をしてみてほしいですね。中国人の方は「日本人と仲良くなりたい」と思いつつ、壁を作りながら接してる部分があります。

また、握手は必ずしてほしいです。シンプルですが、目を見ながら握手をすると、相手も親近感が湧いてくると思います。

中国語が話せないからと萎縮してしまう人が多いですが、実は私もほとんど話せません。それでも、何とか話そうとする努力と、「あなたのことを歓迎しています」という姿勢によって仲良くなっています。

ーーそうだったんですか…!中国語が話せなくても、熱意があれば相手に伝わるということですね。

あとは、ちょっとした気遣いも大事です。たとえば、ツアー中に旅館に宿泊した際は、宿の方にお願いして、食事の時の箸の置き方を縦に変えてもらいました。(中国では、箸は縦置き)

中国人の方は神経質だというお話をしましたが、地震が不安という方のためにエマージェンシーリストを作ったこともあります。「万が一のとき、あなたをこんなふうに守りますよ」というふうにお伝えしたら、非常に喜ばれました。

「たったそれだけのことで」と思われるかもしれませんが、本当にこれだけのことで彼らの私たちに対する評価が変わるのです。

「特別感」を作り出すことで、Win-Winな関係に

ーー積極的なコミュニケーションと気遣いは、富裕層の方以外でも大切にしたいポイントですね。次に、中国人富裕層の市場で、近年のトレンドがあれば教えてください。

コロナ前は、消費というと高級な食事やショッピングが主流でしたが、今はショッピングが6割ほど減っている印象です。代わりに、体験型の消費が増えていますね。

そのため遊学でも観光でも、参加される方が個人では叶えられないことを提供するのが重要になってきます。具体的には、通常はやっていないことが特別にできたりとか、行列に並ばずに優先的に入れたりとか。

日本はルールが厳格ですので、例えば神社なども、ご祈願を受け付ける時間や入れる区域が決まっていますね。それを通常の時間外で受け付けてもらえる、といった対応ができると良いです。

あとは、通常のツアーでは公開していない部分を特別に見せてもらえるとか。「特別感」をつくることが重要です。

関連記事:「"爆買い"はもう昔の話」 今、中国人が訪日旅行に求めていることは。JNTO北京事務所長 茶谷氏に取材した

ーー今は旅行市場全体で、体験が重視される傾向にありますね。他にも、「特別感」を作るヒントはありますか?

中国人全体がそうですが、写真が好きです。特に日本ではドローンを利用した撮影が難しく、そういった写真や動画が規制の厳しい日本で撮れるのは特別感が出ます。

あとは、「貸切」がポイントです。

例えば温泉中国人の方は、他の人がいるところで裸になることに抵抗がありますし、温泉慣れしていない分文句を言われるのではないかと不安に思います。

そこで、何も気にしないで入れる貸切の温泉温泉付きの個室を選ぶと、非常に喜んでいただけます。

ーー日本はルールに対して平等意識が強い傾向がありますが、そういった特別対応について、施設との交渉はできるものでしょうか。

もちろん法律的な問題があるならNGですが、きちんとお金を払えば、そういった特別な対応を受け入れてくれる施設は多いと思います。

中国はお金を払えば何でもできる、ということが多いので、お客様もちゃんとお支払いしてくださいます。

お客様に喜んでいただき、施設側も利益になる。Win-Winの関係を築くというのは、常に考えていますね。

世界的にも二重価格などの価格設定を行っている国はありますし、日本のルールだけにとらわれず、柔軟に対応することが大事ではないかと思います。

関連記事:訪日客向けの二重価格、69.5%が「賛成」

ーー最後に、これから富裕層向けの対策を行いたい事業者の方に向けて、お伝えしたいことはありますか。

とにかく、現場を見ることが大切だと思います。

たとえば空港に行って中国人の方がどんな行動をして、どんなものを買っているか観察するだけでも、学びが得られてオススメです。

mingleでも実際のツアーの見学をおすすめしていますが、そうやって一番確かな自分の目で、彼らの本質をつかむことが何よりも重要です。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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