【注目の決算解説】小売大手5社の決算に見るインバウンド需要、各社の戦略は

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先日発表された2024年10月の訪日客数は約330万人と月間史上最高を記録、10月時点の年間訪日客数も3,000万人を超え、2024年は史上最高の訪日客数となることがほぼ確実になってきました。右肩上がりで伸びる訪日客数は民間企業の業績にも影響を与えるようになっており、特に2024年に入ってから定期的に訪日インバウンド効果による好業績のニュースが目に入るようになってきています。

そこで今回は、四半期毎に上場企業が公開している決算情報を基に、注目企業の動向を特集していきたいと思います。

なお、日本企業は基本的に3月決算および12月決算が多く、毎四半期の初月末〜2月目の中旬頃までに多くの企業の決算が出揃うため(今回だと2024年10月末頃~2024年11月中旬頃まで)、これから毎四半期の決算が出揃ったタイミングでシリーズ化していくことも視野に入れています。

文/中西恭大(株式会社D2C X

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大手小売企業の免税売上比較

今回は、免税売上を決算で公開している上場企業に焦点を当てて調べていきたいと思います。対象企業は、髙島屋、三越伊勢丹ホールディングス(以下、三越伊勢丹)、J.フロント リテイリング(大丸・松坂屋など。以下、Jフロント)、エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急百貨店・阪神百貨店など。以下、H2O)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(ドン・キホーテなど。以下、PPIH)の小売大手5社です。百貨店とディスカウントストアが対象で主要顧客や販売商品は異なりますが、どの企業も日本有数の小売企業であるため比較対象としています。

まず、2024年7-9月(高島屋・Jフロントは決算月が異なるため、6-8月)の全社売上および免税売上の実績です。

▲各社決算の全社売上・免税売上をもとに作成

棒グラフの左から免税売上が多い企業順に並べており、三越伊勢丹:381億100万円、PPIH:351億円、Jフロント(大丸松坂屋のみ):297億6,500万円、髙島屋:292億円、H2O:290億円の順となっております。全て3か月の合計売上となりますので、平均すると月間100億円程度は免税売上が発生しているということになります。

また、個人的に注目している数字は、全社売上に占める免税売上比率です。三越伊勢丹:12.7%、髙島屋:11.6%、H2O:10.3%と3社の免税売上比率が10%を超えています。免税売上=訪日外国人向けの事業と考えると、1事業で全社売上の10%を超えてくるということになりますので、影響範囲も小さくはないため、力を入れていく事業の一つとして捉えても間違いはないと思われます。

一方、常日頃から感じていることとしては、年間3,000万人以上の訪日外国人が訪れていますが、大手小売業に占める割合としては多くても売上の10%程度であるという現実です。東京や大阪の一部店舗など、局所的にみると免税売上比率が50%を超えてくるような店舗はあると思いますが、全社に占める割合としては多くても10%であり、大半の顧客は日本人が中心であるというのも紛れもない事実です。(積極的に海外展開を行っている企業は除く)そのため、バブルと言える勢いで成長する訪日インバウンド市場においては、投資とリターンのバランスは慎重に検討して判断することも大切です。

▲各社決算の免税売上をもとに作成

上記グラフは、各社の免税売上高を2023年1-3月期からの四半期推移でまとめたグラフとなります。各社2024年4-6月期が最も大きな免税売上となっており(一部企業は3-5月)、三越伊勢丹は四半期で482億円と圧倒的な規模です。日本百貨店協会より先日発表された2024年10月単月の百貨店売上におけるインバウンド売上が507億円となっており、日本全国の百貨店における免税売上高の合計金額が三越伊勢丹1社の四半期売上とほぼ同じであることからも、その規模の大きさがよく分かるかと思います。

▲各社決算の全社売上・免税売上をもとに作成

上記グラフは、各社の免税売上比率を2023年1-3月期からの四半期推移でまとめたグラフとなります。免税比率は業態やビジネスモデル、企業規模によって前提が異なるため、あくまで参考の数値となりますが、2023年1-3月から訪日客の戻りとともに比率は上昇しており、2024年4-6月には三越伊勢丹とH2O(阪急百貨店など)が約15%と非常に高いシェアになっています。

小売各社決算における注目情報

前項までは、免税売上に着目し定量的な比較を行ってきましたが、ここからは各社の決算説明会資料を基に注目すべき事項をピックアップしていきます。

1. 髙島屋

まずは髙島屋の決算説明会資料および質疑応答から注目すべき情報を見てみましょう。

▲2025年2月期 第2四半期(中間期)決算説明会資料より抜粋

▲2025年2月期 第2四半期(中間期)決算説明会 質疑応答要旨より抜粋

▲2025年2月期 第2四半期(中間期)決算説明会 質疑応答要旨より抜粋

髙島屋の決算資料で注目すべきは、来年以降の見通しを下方修正していることです。主な要因としては為替の影響による顧客単価の減少であり、今年7月以降の円高で減速したことから、計画を修正したと考えられます。また、2024年3-8月では免税売上におけるラグジュアリー商品の売上シェアが73%と非常に高いことが明記されており、今後はモノ消費からコト消費へシフトすると予測しています。

2. 三越伊勢丹ホールディングス

次は三越伊勢丹ホールディングス決算説明会資料および質疑応答資料です。訪日客を念頭に海外会員専用アプリをリリースすることを発表しており、その関連情報に要注目です。

▲三越伊勢丹ホールディングス 2025年3月期第2四半期説明会 質疑応答要旨より抜粋
▲三越伊勢丹ホールディングス 2025年3月期第2四半期説明会 質疑応答要旨より抜粋

▲三越伊勢丹ホールディングス 2025年3月期第2四半期決算説明会資料より抜粋

免税売上の計画については特に変更なく期初の計画を変えないことを強調している点と海外顧客向けアプリの導入によって業界標準よりも伸びていくことを明記している点は特筆すべき事項です。特に海外顧客向けアプリについての言及は多く、決算説明会資料を参照すると、5%優待を付帯したゲストカード機能、興味関心に応じたレコメンド機能、パーソナルコミュニケーション機能の3つを搭載したアプリをリリースし、訪日客を中心とした海外顧客を囲い込んでいく施策を2025年春頃にリリース予定とのことです。コロナ前まで訪日客は一見さんの扱いで顧客情報を収集して再来訪を促す動きは見受けられませんでしたが、コロナ明け以降は明らかに各社会員化の動きが活発化しており、2025年は訪日客の会員化およびCRMがキーワードとなりそうです。

3. Jフロントリテイリング(大丸松坂屋など)

次は、大丸松坂屋などを傘下に持つJフロントリテイリングの決算説明会資料および質疑応答資料です。三越伊勢丹同様、訪日客を念頭に海外会員とのCRMについて言及しております。

▲J.フロント リテイリング 2025年2月期 中間期決算説明会資料より抜粋

▲J.フロント リテイリング 2025年2月期 中間期決算説明会資料より抜粋

▲J.フロント リテイリング 2025年2月期 中間期決算説明会 質疑応答要旨より抜粋

Jフロントも三越伊勢丹同様、顧客向けアプリについて言及しており、2024年8月末現在で既に6万人を超える海外在住アプリ会員が存在しているとのことです。また、年明け2025年1月より大丸心斎橋店にて、訪日客向けのCRM基盤を導入し始める予定で、今後の要注目ポイントです。また質疑応答要旨によると、8月の急激な円安により顧客単価が7万円程度まで落ち込んでいましたが(8月中旬~9月初旬頃は1ドル145円-140円台で推移)、150円近くになると顧客単価が10万円程度まで戻るという試算をしています。つまり、5-10円程度の円安で顧客単価に約30%程度の影響を与えるということを質疑応答から読み解くことが出来るというのが重要なポイントです。

4. H2Oリテイリング(阪急百貨店・阪神百貨店など)

次は、阪急百貨店・阪神百貨店などを傘下に持つH2Oリテイリングの2025年3月期第2 四半期決算説明会 質疑応答要旨を見てみましょう。

▲H2Oリテイリング 2025年3月期第2四半期決算説明会 質疑応答要旨より抜粋

▲H2Oリテイリング 2025年3月期第2四半期決算説明会 質疑応答要旨より抜粋

H2Oリテイリングでは、インバウンド売上≒免税売上の8割がラグジュアリーカテゴリであること、コロナ前に主力商品カテゴリだった化粧品が全体の8%程度であることが記載されており、コロナ前との明らかな違いが数値面でも明記されていることが特徴です。また、他百貨店同様会員についても記載があり、海外VIP会員は約2.9万人、その内半分程度が購入実績があり、会員売上はインバウンド売上の約1/4強、顧客単価は通常顧客の1.5倍であることが記載されており、VIP会員からの売上を重要指標として捉えていることが推測できます。

5. PPIH(ドン・キホーテなど)

最後は、ドン・キホーテなどを傘下に持つパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の2025年6月期第1四半期決算説明会資料を見てみましょう。

▲PPIH 2025年6月期第1四半期決算説明会資料より抜粋

PPIHでは、毎四半期ごとに免税売上の国地域別構成比を公開しており、2024年7-9月では、米国とその他エリアが合計で22.9%と全体の1/4近くまでシェアを伸ばしており中国単体よりシェアが高いことが注目です。25年7-9月の免税売上351億円×22.9%=80.4億円、前年同期の免税売上211億円×14.6%=30.8億円なので前年同期比+49.6億円・月額約16.5億円伸びているということになります。免税売上というと、東アジアの3か国が中心と思われがちですが、PPIHでは米国やその他の国がキャリーケースや雑貨小物を購入する動きが数値から見られ一定のシェアを確保していることは非常に注目すべき情報です。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回の5社だけでも重要なトピックがたくさんあり、簡潔にまとめると下記に要約できます。

  • 大手小売企業の免税売上比率は全社売上の10%程度
  • 2025年以降の免税売上見通しはドル円相場次第
  • 免税売上の7-8割はラグジュアリー商品が中心
  • 海外顧客向けアプリの導入・CRM強化
  • 米国およびその他エリアの免税売上も成長市場

上場企業のIR関連資料には多くの貴重な情報が掲載されています。是非、四半期に一度は関連する企業のIR資料に目を通していただき、自社のビジネスに役立てて頂ければと思います。今回は小売企業にフォーカスして記事をまとめましたが、近日中に小売企業以外の上場企業についても記事を書きたいと思います。

著者プロフィール:株式会社D2C X 中西恭大


株式会社D2C X 代表取締役。日本最大級の訪日メディア tsunagujapan.com を運営。海外向けマーケティング事業、越境EC事業(伝統工芸品を世界へ) 、DMC事業(ランドオペレーター事業)を展開。日本の魅力を世界に伝えていきたいという想いと訪日インバウンド産業は人口減少時代の日本を支える基幹産業になると信じて事業に取り組んでおり、地域の魅力を如何にして発掘し創り出し伝えていくかに拘り、観光を中心とした地域産業振興を生業としています。https://www.d2cx.co.jp/promotion_marketing/


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この記事の筆者

中西恭大

中西恭大

株式会社D2C X 代表取締役。日本最大級の訪日メディア tsunagujapan.com を運営。海外向けマーケティング事業、越境EC事業(伝統工芸品を世界へ) 、DMC事業(ランドオペレーター事業)を展開。日本の魅力を世界に伝えていきたいという想いと訪日インバウンド産業は人口減少時代の日本を支える基幹産業になると信じて事業に取り組んでおり、地域の魅力を如何にして発掘し創り出し伝えていくかに拘り、観光を中心とした地域産業振興を生業としています。https://www.d2cx.co.jp/promotion_marketing/

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